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第二十三話 指名手配2


「移動終了って…此処、何処?」


蒼い空に、カモメが鳴く。海風が髪を揺らした。狭いが白煉瓦で統一された路地には出店が並ぶ。

前行ったミケガサキの市場より店構えが豪華で、高そうな品々が並んでいた。

その狭い路地の先をずっと目で追って行っていたら、おそらく中心都市であろうものがずっと遠くにあり、その先に不似合いな黄金の塔なのかビルなのか良く分からない建物が太陽の光を浴びて輝いている。

その建物の中心には大きな横長の水晶がはめ込んであり、アナウンサーらしき女の人が何かを実況していた。


『フェラ王国の第四地区オルデェアの市場と言ったところか。随分遠くまで飛んだな』


ふーん。此処があの有名なナルシスト王国か。

あぁ、行き交う人々の顔面のクオリティーの高さったらもう。イケメンなんて二次元だけだと思ってたよ。滅べ。皆、滅んでしまえ。


「…皆は?」


さっきから声は聞こえるけど姿が見えない。

『『透明の陣』で姿を隠してるだけだ。すぐ近くに居る。さっさと行くぞ』


ぐいっと袖を引っ張られたまま移動。

にしても、のどかだな。ミケガサキは魔力魂の略奪に忙しいというのに。

魔術に長けているそうだが、『魔力魂』無しでも普通に生活できるだけの魔力を持った国なのか?


「…良いか、絶対に誰とも喋るなよ。此処の住民は関わると色々面倒だ」

直ぐ横からカインの声が聞こえた。

「その直ぐ隣には教官がいるよね?」

「あぁ。良く分かったな」

まぁね。だって、気配が隠れていませんよ。物凄くイライラしてますね?伝わってきます。

カインの声も心無しが上ずっている。


「ニア!」

「ん、何?猫モドキ…って、わっ!!」


前から来た人と派手にぶつかり、双方地面に尻もちをつく。

その拍子に本が腕からすり抜け、相手の足元に落ちた。


「あー、すみません。大丈夫ですか?」


よく見れば、金髪碧眼の子供というか、少年というか。

僕より年下なのは間違いないけど、僕より身長がでかいのが何かムカつくね。縮んでしまえ。じゃなきゃ、四分の一程ください。


「さっきから見ていたが、お前、誰と話しているのだ?」


あれ、こっちの気遣い無視ですか?

もしかして言葉通じてない?

アーユージャパニーズ?ノーノー、アイム、ナルシー!…みたいな?いや、どんな感じか知らんけど。


「いや…独り言ですかね」

「お前、一人か?何しに来た?」


あっ、通じてない。オーケー、分かった。もう知らん。


「人待たせてますんで、さようなら」

「ちょっと、待てって…!」


ちょうど、本の見開きに足が乗っかる。


「あ」


突然立ち止まる僕に、向こうもカイン達も訝しげな顔で見つめている。

そんなことより、おいこら子供。何て事してくれたんだ。

まだ、契約解除して無いんだぞ。そんなことしたら…そんなことしたら…どうなるんだろうね?


予想、後でエライ目に遭う。

結果。胸の傷口が開き、シャツが黒く染まった。…いや、ちょっと待って。空気読んで下さい。


「踏まれたぐらいで…そんな、怒ることないじゃん…」


これが僕の最後の言葉となった。…というのはもちろん、冗談だ。

こんなんで死にたくないよ。と言うか、死にきれない。


「おぉ…!何だ?この本がお前の体なのか?」


僕の人体=本。

人権を無視しした斬人なアイデアだな。せめて感覚神経とかにして。つか、足退けて。

薄れゆく意識の中で、そんなことを考えていた。


****


差し込む白い光。太陽の光にしてはやけに強い。

ぬっ…と何かの影がその光を遮った。


「ニアッ!!」


ガツン。

頭に凄まじい衝撃が走って、思わず跳び起きる。その拍子に何かが落ちた。


「いってぇ…。あっ、猫モドキ。おはよう」

と言っても、姿は見えないのだけれども。気配は感じたので挨拶しておく。

それにしても、此処は一体何処なのだろうか。


辺り一面、白く仄暗い部屋だ。蛍光灯の様なものが白い光を発す。

寝台と言うには中々簡素な造りのベットに寝かされていた。

というか、ベッドというにも疑問を感じるな、この造りは。


とりあえず立ち上がり、先程落ちたものを拾う。白いハンカチの様な絹の布だった。

起き上がった拍子に落ちたということは、顔に被せてあったということだろう。


……考えられることは一つ。

だが、その前にまず感想を。


「扱いが酷過ぎるというか…それ以前に、まだ死んでねぇよ」


おそらく霊安室の様な所なのだろう。病院内なのかどうかは知らないが。

しかし、火葬される前で目覚めて良かった。猫モドキ、ありがとう。


その時ドアが開き、誰かが顔を出す。

残念ながら、顔は分からない。運ばれる途中にでもコンタクトが取れたのだろう。しかし、さっきの少年でないことは確かだ。身長と髪色が違う。


「あっ、生きてる」


第一声がそれだった。

そもそも死んでませんよ。


「皇子ー、生きてましたよー。立ってますー」


しかし、皇子って誰?僕、そんな人に助けてもらっちゃったの?


「おぉ。生きてたか!思ったより頑丈に出来てるんだな」

感心しながらひょこっと先程の少年が顔を出した。手にはあの本が握られている。


…世も末というか。教育がしっかりしてないとか。この国終わったなとか。

色々な感想が頭の中で渦巻く。

何はともあれ、いくら原因がこいつでも助けてもらったことに変わりない。


「助けて下さって、ありがとうございます」


日本人っぽく、律儀にお辞儀してみた。

「さて、ノイズ。お茶の用意だ。そろそろおやつの時間だからな」


神様、僕はこの国に嫌われるようなことしたんでしょうか。

さっきから放置されてます。


「分かりました、少々お待ち下さいませ。にしても、これはどうするんですか?」

「ん?もちろん、宮殿に連れて行け。こいつ、中々面白いからな。友人にしてやった」


何処に友達要素がありましたか?つか、何で上から目線なわけ?


「こっちから願い下げだ、バーカ。ジャイアントチャイルドめ。空地でも守ってろ、バーカ」

小声で呟いてみる。どうせ聞こえてないだろ。


「ノイズ、やれ」

「かしこまりましたー」


何をやるのかと思いきや、皇子がノイズとかいう男に僕の本を手渡した。

ノイズが指を鳴らすと、その手から炎が発せられる。


本をその炎の上に…って、あれ?炙り出し?そんなことしても文字は浮かんできませんよー。

…何てボケている余裕はない。あの本が燃えたりなんかしたら傷口が開く程度の事じゃ済まされないぞ。

こんな仕返しをされるとは、ノビ助も真っ青なことだろう。


「猫モドキ、そこにいるなら本こっちに弾いてくれ」

「二アッ!」


猫モドキの声がして、次の瞬間ノイズの手から本が弾かれる様にしてこっちへ飛んで来た。

それを素早くキャッチする。猫モドキも僕の足元にいるようだ。


「『移動の陣』」


『魔眼』を発動させ、何とか脱出。

さらば、ナルシー共。二度と会わないことを願うよ。


****


海の匂い。緩やかな風が髪を揺らす。

どうやら、さっきの市場に戻ってきたようだ。すると猫モドキが何処かへ駆けて行く。

その後を追うと、カジノと思われてもおかしくない酒場に辿りつく。

何と、猫モドキはその豪華な店の中へ入っていくではないか。


「ちょっ、待ってよー」

店の中にはいると、魔族の皆さまがくつろいでいた。

店の隅っこで立っていたカインが僕に気付き駆け寄って来る。


「よく無事だったな。お前がこの国の皇子と接触したときには本当に焦った」

「で、置いて行ったと」

「仕方がないだろう。あんな者と関わったら精神崩壊も考えられる」


奥から吉田魔王様とノーイさんが出て来て、僕の姿を見るなり少し驚いた様な顔をする。

どうやら、皆本気で戻らないものと考えていたらしい。


「あぁ、良かった。無事でしたか。てっきり帰って来ないかと思ってましたよ。

もう少し経てば捜索にでも行こうかと相談してたのですが、手間が省けて良かったです」

「ノワールの調子はどう?というか、教官は?」

「ノワールならしばらく魔城で安静にしているらしい。アンナはノワールと一緒に魔城の守りをするらしい」

呆れ顔で言うカインに、余程この国に来たくなかっただろうなと教官に同情してみた。

『何はともあれ、無事でよかったな。さて、これからどうしたものか…』


その時、大音量でニュース速報が流れた。

おそらく、あのバカでかい水晶からだろう。


『さて、王国第一皇子からの直々の言葉だ。ありがたく思え、愚民共』


「カイン、幻聴が聞こえるよ。僕、少し疲れてるみたい」

「あぁ。お前の気持ちは痛いほど分かる。だが、残念なことに現実だ」


外へ出て、水晶テレビを見ると画面いっぱいにあの皇子の姿が映しだされている。


「わー、コンタクト無くてもよく見えるやー」

「おいおい、正気に戻れ。そして、頑張れ」


つぎに、画面に涎を垂らし、寝ている僕の写真が映し出された。

僕達の動きが一気に固まる。


『この男、ミケガサキ国内では既に指名手配されているらしい』


「どうしよ、カイン。この先が想像できて聞きたくない」

「ドンマイ。捕まっても達者でな」


『先程、この男を我がフェラ王国で見かけた。しかし、いくら同盟を結ぼうとミケガサキの指名手配犯はミケガサキで捕られるべきだ』


「おっ、ちょっと風向きが変わったな」

「無理無理。僕には全てが見えるよ。あは、あはははは」

「駄目だ、完全に壊れた」


『よって、我がフェラ王国でもこの男を国内手配する!見つけた者は直ちに王宮に報告せよ!以上!』


ぽんっ、とカインが肩に手を乗せる。その目は同情に満ちていた。


『…そうだな、出来るだけこの国から去れるよう準備を整えることにしよう』


吉田魔王様も、いつのまにか僕の傍に立ちそう呟く。

その隣でノーイさんも憐れみの目で僕を見ている。


どうやら、僕には指名手配される素質があるようです。


次から女子の出番を増やしたいと思います。


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