表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/137

第二十話 魔城侵略


……。

………。


返事はない。

唯の死体の様だ。


「…どうする?連れて行くか?」

「いくら強大な力を持っていたとしても所詮は死体だ。動くはずもない。行くぞ」


****


『結界が破れた…だと?』

「お久しぶりです。父さんに良く似た魔王様」


沢山の兵を引き連れた吉田雪が無邪気に笑う。

『さてと、どうやって入ったのか…そもそも、何故呪いが解けたのか教えてもらえると有り難い』

皮肉げな笑みを浮かべる魔王に対し、吉田雪は優等生の様にすらすらと言う。

「あら、簡単な話です。呪いは『死の夜』にかけられたものではないから。

…結界は、『死の夜』が死んだから。ただ、それだけです」

『目的は…?他の者達はどうするつもりだ』

「心配性なところも本当に嫌になるくらい似てる…。

さぁ…、女神様次第かな?私の知るところじゃない。私は貴方を倒して元の世界に戻る。そのためにいる。目的は…領土争いといったところじゃないですか?あの国は新資源が欲しいだけ。だから貴方、生かしてもらえるんじゃないかと思いますよ?レシピが手に入ったら捨てられるかもだけど」

『そんな事は判りきっている』


ふぅ…と重い溜息をつく。

吉田雪は剣を片手に、近くにあった椅子に座る。


『随分と余裕だな。…その剣、何処で手に入れた?』

「剣ですか?オズさんが預かっててくれました」

吉田雪は静かに、壁の隅に寄り掛かるオズに目配せした。



ふと、この前のやり取りを思い出す。

魔城に騎士の間という鎧を並べてある部屋があるのだが、そこに何故か優真がいた。

挙動不審に辺りを見回し、一番奥の端っこの鎧を見つけると、そっと剣を外す。


『何をやっている?』

「おわっ!あっ、吉田魔王様か…。ビックリした。いやー、ほら、この剣隠した方が良いんじゃないかなと思って…。ほら、僕、魔術専門だからいらないでしょ?木を隠すなら森の中だよ」

よいしょ…と、『勇者の形見』改め、『勇者の剣』を鎧に持たせる優真。


あの時はその考えに至ったことに感心して見落としていたが、あれらの鎧が持っているのは、全てフェンシング用の細い剣。

それに比べ、『勇者の剣』は大剣の様に大きく太い。そして黒い。

いくら隅の方だろうと、誰であろうと一目見れば分かる。


その最大の矛盾を忠告するのをすっかり忘れていた。


『結果がこれか。ふははははっ…死にたい』

「大丈夫ですよ。どの道死にます」


「勇者様、城内の反乱軍を捕らえました!」

ドタドタと数人の兵が駆けあがって来て、ドアを勢い良く開く。

兵士たちに、剣を突き付けられたカイン達がぞろぞろと歩いていた。


「すまん。流石に、この人数は無理だった。後から増兵するみたいだしな」

「この軟弱者がっ!剣さえ折れなければこちらが勝っていたというのに…」


アンナが悔しそうに言う。

一番後ろで、ノワールを抱えたノーイはずっと無言だ。


『ノーイ…、『死の夜(ノワール)』は?』


ノーイは静かに首を振る。

その時、ドアの隙間から猫に似た生物が入って来た。猫モドキだ。

吉田雪がそれに気付き、手招きした。


「変なの。お前、猫じゃないのね。……イタッ!!」


吉田雪の指から血が流れる。

思いっきり猫モドキが噛んだからだ。

フシャァァァァ……!!とそのまま威嚇する。


「このっ!勇者様に何て事を…!」


下っ端であろう兵士の一人が、剣を振るう。

赤い鮮血が飛び散り、猫モドキの身体が壁に当たった。

もし、この光景を優真が見たらどう思うだろうか。ふと、そんなことを考える。


「お前ら、たったそれだけの事で斬るのか?…兵士の屑だな。

そういや、優真は何処だ?姿が見えないぞ。…まさか、この期に及んで部屋で寝てんじゃないだろな」

「優真…?それが、私の次の勇者の名前?彼方たち、見てない?」


吉田雪が兵達に聞く。兵達はお互い顔を見合わせ首を振った。

だが、その中で二人の兵が小さく言う。


「多分、そいつ。部屋で死んでましたよ」

「……は?」


カインが思わず間抜けた声を上げる。


「死んでたんですって…。ベッドの上で、血塗れで」

「せっかく同じ境遇の人に会えると思ったのに…。それにしても、皆さん随分遅いわね。せっかく結界を解いてあげた言うのに」

「そんなことより、何で死んでんだよ!お前らの内の誰かが斬ったとしか言いようがないだろうがっ!」

「どんなに抵抗しようと、一応生かすわ。…けど、指名手配人だから殺されても仕方がないとしか言いようがない。此処は、生ぬるい考えで生き残れるほど優しい世界じゃないのだから。そんなに気になるなら、見てみましょう。その、優真君が死んだかどうかを。…オズさん、お願い」


オズが壁に陣を描く。

その陣が光り出し、壁に優真の部屋を映しだした。

床に散乱した魔法の書の数々。壁には何やらメモ書きのようなものが張ってある。


しかし、どれも真っ黒な血が付いていて。

ベッドシーツは真っ黒に染まっていた。

胸には刺された様な傷跡があった。目は見開かれ、手はベッドからずり落ちている。

その肌色は白く、血が通っていなかった。


「田中…優真君…?」


吉田雪の口からそんな言葉が漏れた。

そういえば、知り合いだと言っていたな。


その時、床に突然、陣が描かれ、女神の声が響いた。

『初めまして、前勇者。仕事が早くて助かるわ。今から、魔城に総攻撃を開始します。

『魔力魂』はあるだけ貰ったし、その国に用は無いわ。もちろん、貴女にも…と言いたい所だけど、まだまだ仕事は尽きないわ。これからも手伝ってもらうわよ。…早く、元の世界に帰りたいものね?

あぁ、それとそこにいる反乱軍とかそうでない兵達は放っておいて。魔力の無駄よ。

そうね、筋書きとしては『勇者と共に魔王を倒しに行った兵達は魔王のあまりの強さに生き残った者は居なかったが、勇者は授けられた力により、見事魔王を倒した』ってところかしら?』

「…そんな、女神様っ!私を捨てるおつもりですか!?」


オズが叫ぶ。

女神はあざ笑うかのように言った。


『今までありがとう、オズ。おかげで上手くいったわ。前勇者は復活したし、もうあなたに用は無いわ。

さようなら』


床に描かれた陣が消え失せ、オズはその場に崩れ落ちる。

それと同時に、吉田雪の足元に移動の魔法陣が描かれた。

そしてその場から姿を消す。


兵達は、唯唖然としていた。


その時である。

「…ノーイ?泣いているの?」


か細い声が聞こえた。

全員が、ノーイの方を見る。

そこには、うっすらと眠たそうにノーイを見るノワールの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ