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第十七話 不吉の予兆


おはよう、こんにちは、こんばんは。

どうも田中優真です。


つーか、無理して僕が挨拶しなくても良いと思うんだけど。


…まぁ、挨拶は大事だからね。


取りあえず、今のところ何事もない日々が続いていた…ら良いんだけど。


えっ、何処にも刺客が来た様な描写がないって?


いやいや、居るじゃない。一人だけ。刺客に似た奴がさ。

ナイフを投げつけるこの前変態死した…。まぁ、だれとは言わないけどさ。


朝。天候は曇り。少し風が強い。

現在、魔城地下にて迷子中でこざいます。


いやー、書庫に行きたかったんだけど、案外此処広くてさ。


けど一つ良かったことは、猫モドキのおかげで辛うじて辺りは照らされてるってこと。


プラチニオンってのは、暗い所に行くと、毛が光るみたいで、今もぼうっ…と淡い白の光が辺りを照らしている。


「ニアッ…!」

「ごめんって…。けど本当のことじゃないか」


がぶがぶと容赦無く噛んでくる猫モドキ。


そろそろ名前を考えてやろうじゃないか。猫モドキ。


…これで良いんじゃないか?『猫モドキ』。


「命名、猫モドキだ」


決定だと言わんばかりに、持ち上げてみる。

…何か、がんもどきみたいだと思ったのは僕だけかな。


「フシャァァァ!!」


超威嚇。

だが、猫モドキに臆する様な人間は一人としてこの世にいない!


チカッ…。


猫モドキの赤い目が光る。

ん?もしかして『魔眼』だったりするのかな?


まぁ、ゲームの世界でも召喚獣がそういう機能持ってたって不思議じゃないからね。

結構レベル上げしないと無理だけど。


「…けど、二重構成式なのは何故かな?」

『死ねッ』


うわっ、こういう時だけ喋るの止めて!

身体的にも精神的にも結構キツイから!

僕の心はこれでも繊細だから!


えげつない。由香子様並みにえげつないぞ、この猫モドキ。


全く、何が気に入らないのか。

結構な自信作だぞ、がんもど…いえ、猫モドキ。


段々ややこしくなってきたな。

しかし、この二重構成式。どうやって?

どのゲームでもジョブチェンジしたところで、二重魔法は無理なのに。

いーなー。僕もやってみたいなー。何段までいけるか挑戦したいなー。


「ニア…!」

(人間如きに名など付けられて溜まるか。だが、仕方がない。受け入れようじゃないか)


おぉ…。この陣、猫モドキの言葉が分かる様にしているのか。

翻訳の陣と言ったところかな。


つか、何このツンデレ。

正直、反応に困ります。何、素直に喜ぶべきなの、これ。


「ども、よろしく。あっ。此処かな、書庫は」


目の前に立たずむ鉄の扉。

ギギィィィィ…という音が響き、ゆっくりと扉が開く。


凄いな、一応自動だ。

此処の国は、何故か魔法に頼らないみたいなんだよね。

重い荷物の持ち運びは、二人とか三人とかで行ってるし。

見ていると、どうにも魔法が使えない訳ではないらしいが。


辺りは暗く、視力の悪い僕には何も見えない。

うわー、暗いよ。僕、暗いの苦手。


とりあえず、猫モドキを抱きかかえる。

だが、光が淡すぎてあまり役には立っていないが、無いよりマシだ。


見る限り、何かの実験室の様だ。

所々にフラスコやら、何か良く分からない液体の入ったビーカーが並んでいる。

そして、壁には恐らくは黒魔術であろう陣が描かれていたり、古びた紙に記されていたり…。

壁の一角には棺桶まであるし、標本なのか骸骨で置いてある。


こういうの、本当に無理。

大体、いるんだよ。こういうところに。本物が。


その時。ふと、何かが横切ったような感覚に襲われる。

証拠に、壁に人影が現れて消えた。髪が長かったから女性かな。


あわわわわ…。

無理、こういうのホント無理!

見えない奴らが羨ましいし、恨めしい!


『むっ…。また、お前か。どうしたんだ、こんなところに何か用か?』


お前か、吉田魔王様!

けど、今はありがとう!


「いや、書庫に行きたかったんだけど…。この部屋、何?」

『………研究室』


何、今の間は何!?

何の研究ですか、魔王様!?


「ノワールは?」

『あぁ、体調が優れないらしい…。元から身体が弱いからな』


…身体が弱いも何も、元は霧のようなものじゃないか。


その時、ガタンッ…と棺桶のふたが開く。

そこから白い手が伸びた。


「ああああああ!!ごめんなさい!」

「何ですか、やけに騒々しいと思ったら…。まだ居たのですか、勇者殿」


何だ、ノーイさんか。

いやいや、何も解決して無いんだけど。

何で、そんな所に居るんだい?


「何してるんですか?」

「見たらわかるでしょう。寝てたんですよ。魔族は、光に弱いですからね。私も此処で生活している間に、そういう体質になった様で…」


呑気に欠伸をするノーイさん。

一般的に、それは退化というのですよ。

そのまま永眠すれば良いと思います。


どうやら、彼は朝に弱いということだ。

道理で、ナイフとか投げて来ないと思ったよ。


「しかし、さっきから何を騒いでいるのです…?」

「いや(ワン)OBKが見えたもので…」

『此処は普通に3LDKだ』

「いや、お化けだって…。うわー、マジで帰りたい」


しばし、沈黙。

あれ、何か不味いこと言った?

もしかして、皆お化け嫌いとか?


「ほぅ…。お化けが嫌い、ですか…。なら、この棺桶。蓋を取ったら何が出てくるか分かります…?」

『ノーイ、止めなさい』


にやぁ…と笑いながら、棺桶の蓋を横にずらすノーイさん。

そんなこと言っても、何か嫌な感じがするからパスしたいし、吉田魔王様も止めてるじゃないか。


棺桶の蓋が、誰の力も借りずに横にずれた。

そこにノーイさんの手が添えられているが、彼が動かしたのではないことがはっきりと分かる。


ノーイさんの表情が少しだけ硬くなったし、魔王様の表情が厳しい。

そうだな…。決定打を言うとするなら…雪ちゃんの所で見た様な真っ黒の手が、隙間から見えたってところ、かな…。


その手は、あっという間に僕の目の前まで来た。

吉田魔王様が、腰を浮かす。遅いだろ、今更。


思わず、『魔眼』を発動させる。

部屋全体に、三重の魔法陣が浮かび上がった。


部屋がカメラのフラッシュを浴びたかの様に激しく点滅する。


「ぎゃああああああ!!」


そんな、プライドとかありませんから!

安全第一!命は大事にしよう!

見えたことで、何度危険にさらされたか!!


猫モドキを放って、一目散に部屋を出る。後先考えずに全力疾走。

その姿を、二人と一匹は黙って見ていた。


「…まさか、本当に見えるとは。驚きました…」

『だから、止めろと言っただろ。あれは、馬鹿でも選ばれし勇者なのだから』


溜め息混じりに言う吉田魔王様に同意するように猫モドキが喋る。


「才能はあるようだな。先程、二重魔法陣を見せてやったが、見ただけで三重魔法陣を構成するとは…。見た目より馬鹿では無いらしい」


どこまでも馬鹿にされる主人公。

今は、一体どこにいるのやら。


「しかし、姫がいないと困りますね…。最近は、こいつらも活発になっていますし…。

やはり、姫が弱っているのが原因でしょうか」

『そうだな…。前勇者が目を覚ますのも時間の問題だ。こんな時、何も無いと良いのだが、そう言う訳にもいかないだろうな。この状況は女神にとって好機に他ならない』


ふぅ…と溜息を吐く魔王を余所に、ノーイはじっと儚く白く輝く猫モドキを見つめる。


「まさか、貴方がまだ生きていたとは驚きました…。お久しぶりですね、アインス。

二千年ぶりでしょうか」


ぽりぽりと、白猫は後ろ足で耳を掻く。

その様は、猫そのものだ。あくまで、角と羽根がなければだが。


『今は、猫モドキだ。ノーイというのは、そこの王に付けてもらったのか』

「えぇ。ノーイ・ヌル・フランクリン。良い名でしょう?」


アインス、いや、猫モドキは大して興味が無いという様に棺桶を見ている。

プラチニオンにとって、数字こそが我が名。

誇り高き、神の化身が人に名を貰うなど恥であると、従来の彼なら思っただろう。


『たまには、良いのかもしれないな』

「えぇ。そうせ、直ぐに消えるものですからね。良くも、悪くも…ね。さて、私達は作業に戻ります。

あの馬鹿についてはあなたに任せますよ」


こくりと頷き、猫モドキは鉄の扉をすり抜けて主の元へと去っていく。

天候はいつの間にか悪化し、雷鳴が轟き激しい雨が窓を叩く。

不吉の予兆のように、薄気味悪い甲高い笑い声が研究室に響いた。

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