第十六話 絶滅希望種?世界最強の哺乳類~やはり召喚はオプション付き~
「…まぁ、こうなった以上、全国から猛者がお前を探しにやって来るだろうが、まず此処に来る心配はないと言って良い」
「何で?」
昼下がり。魔城の庭でお絵かき中。
いやいや、唯の『召喚』練習だけど。
流石に、吉田魔王様だけ召喚出来ても、折角『召喚』が使えるんだし、もう少し色んなのを『召喚』したいじゃないか。
「お前が知っての通り、この国はオカルト学と科学が発展していた。
かつての戦争では、姿は見えても蜃気楼のように消え、指一本たりともこの国に入らせなかったらしい。しばらくは安全だろ。それにアンナ曰く、女神様はお前が魔王を召喚したことなど全然信用して無いらしいから」
「そりゃ、良かった。それにしても、やっぱり力押しは向いてないみたいなんだよね。魔術の方が良いかも…って、吉田魔王様が言ってた。物凄い剣幕で」
あの日からというもの、着信音に怯えている。
一体何があったんだか…。
というか、世界を統べる魔王がそれでいいのか?
畏怖の対象が、向こうの一般人の脅迫に畏怖を抱いちゃ駄目でしょ。
「お前はそれで良いのか?」
「吉田魔王様直々の頼みだし、良いんじゃないの?…此処でばっくれたら後で大変な事になると思うし。被害はせめてゲームだけに留めたい…。無血開城が一番だよ」
「最後、意味分からんぞ」
「…さて、基本の形式は描いたけど後は如何すればいいの?」
「『召喚』は自分の魔力と相性の良いものが選ばれるが、それでは数に限りがあるだろう?
理由があるらしいが、まだ分かっていないな。だが、それでは困る。だから、その為の陣の構成なんだよ。ちゃんと描かないと、同じものしか『召喚』出来ない。そうだな、まず何を『召喚』したいか思い浮かべろ」
そんなこと急に言われても…。
そうだな、癒しが欲しい。それが無理なら、同じバのつく種族が良いな。
多分、動物なら猫だろう。
根拠?
僕をあまり見くびらないで欲しいな。
こう見えて唯のゲーマーだけど、本だって読む。
何を隠そう、文学少年とはこの僕のことなのだ!…冗談だけど。
何処の世界においても今や王道と呼べるに至る世界最強の生物『猫』。
まぁ、外身は猫。正体は虎とかそれ自体が伝説の生き物っていう設定が最近は多いかな。
ゲーマーとしては、一度はお目にかかりたいものだ。
余談だけどさ、勇者モノとかさ、主人公が悪を倒すゲームって、最後に悪の親玉との対戦になるじゃない。
僕の体験談だけどさ、必ず他のパーティーメンバーが倒さない?
主人公が他の敵倒して、攻撃力の高い、主人公よりちょっとイケメンなキャラが止め刺すよね。
まぁ、操作してるの自分だけど。
別に良いけどさ、一番ありがちなパターンは、魔術師が『召喚』した意外に攻撃力高い召喚獣が親玉倒すやつ。
勇者の意味なくね?
最初からそいつ『召喚』しろよって思うわけだよ。
「だからカイン、絶対に倒すなよ」
「何をだ?」
「この世の悪の親玉」
「それを倒す為の騎士だろう。仕事にならないじゃないか。…で、思い浮かんだのなら描け。多分、それが吉田魔王以外の『召喚』になると思う。お前は『魔眼』持ちだし、召喚以外の陣なら余裕だろ」
ふーん。
それじゃあ、やるとしますか。
さて、吉と出るか凶と出るか。何が出るか。
「『召喚』」
黒い血が一滴、陣に落ちた。白い光が辺りを包む。
「ニア」
「おっ、何だ。田中じゃねぇか」
おおっと!
半分失望したよ!
猫だけど猫じゃない生き物と、昔の馴染みが召喚されたね!
お前、何でランプ持ってんの?
「何だ、慌てん坊で唯の馬鹿不良のサンタさんじゃないか。相変わらず、幼稚園でアルバイト?」
「優真、誰だ?」
カインが真顔で聞いてきた。何だ、いつもの呆れ顔じゃないのか。
「こちら、僕の後輩。岸辺太郎。誕生日は四月。今は確か幼稚園のアルバイトやってて、昔はよく不良やってた」
「ハーフ?」
「いや、髪染めてる。にしても、お前、白髪に赤い紐はないだろ。第一な、白髪に染めるくらいなら爺でも出来る」
「それは老けただけだろ。お前は爺センだから、いつまで経っても彼女出来ないんだよ。バァーカ」
「四年留年してた奴が何を言うか。馬鹿は認めるけど、お前よりはマシだからな。
カイン、さっきからやけに真顔だけどどうしたの。知り合いにでも似てた?」
カインは表情を崩さないまま頷いた。
猫の様な猫じゃない生き物が、ニアと鳴く。
「二つほど、ツッコミたい」
「どうぞ」
「何でどいつもこいつも『召喚』された時に家具が付いて来るんだ?
二つ目は、お前、何をそんなにたくさん『召喚』する必要があった?」
そう言われましても、困るのですよ。
だって、結果論としてそうなっちゃったとしか言いようが無いでしょ。
「猫については言わないんだね」
「にしても、田中。此処何処?俺、停電直しに行かなきゃならないんだけど」
「あっ、そう。じゃ、帰れ」
陣が光る。
何かを岸辺が何か言おうとして、その姿がかき消えた。
ゲーム機大量に持った親父さんが店に来たぞって聞こえた気がするけど、幻聴に違いない。
さて、残るは猫か。いや、猫じゃないけどね。
中々可愛いじゃないか。
黒猫も良いが、白猫も中々だ。美人さんだな。こいつ。
オスかな、メスかな。
「お前、何で角と羽根生えてんの。イッカクにでもなりたかったの?前世はプテラヌドンだったの?」
わしゃわしゃと頭を撫でてやる。案外無抵抗だ。
飼い猫…いや、飼い猫モドキなのか。
真っ白なつやつやの毛並みに、不釣り合いな赤と黄の目。
これが噂のオッドアイってやつか。
背にはファンタジー小説に出て来るような、ドラゴンの羽根白バージョンが生えており、時折ふわふわと浮いている。額には何故かご立派な丁度良い長さの白い角が生えている。
「ユニ・コーン?」
「何故、区切る。それは、プラチニオンの幼竜だな。絶滅したと聞いていたが、まだ生き残りが居たとは…。俺も生で見るのは初めてだ。何でも、古来からこのミケガサキに居たらしく、この国のシンボルマークでもその姿が描かれている。平和の象徴らしい」
僕のところは、白い鳩ですよ。
「へぇ…。案外、大人しいじゃないか。竜のくせに」
幼竜が欠伸する。
こんなのが竜を名乗って良いのか?
ボォォォォ…。
燃えているんでしょうか。
はい、その通り。
「火ぃ吹いたぁー!あちちちっ。何処が平和の象徴だ。めちゃくちゃ好戦的じゃないか!!」
「詳しい事は知らされてないからな。恐らく、大丈夫だろうというのが科学者の見解だ。
だが、別の生物者曰く、プラチニオンは人より知力が高く、好戦的で、絶滅原因は共食いらしいぞ。
かつて、人より秀でていた為、食物連鎖の頂点に君臨し、『人間不味!』ってなったから共食いを始めたらしい。世界最強の生物と言っても過言じゃない」
何処のどいつだ、そんな見解を発表したろくでなしは!?
見た目に騙されてるよ!
こいつは、羊の皮を被った狼だ!
しかも、絶滅した理由は共食いかいっ!
「つーか、最初に発表したの科学者かよ!何故、首を突っ込んだ!?最初から生物学者に任せろよ!」
『私が飼っていたプラチニオンはおっとりしてたからな。大丈夫だと思ったんだ』
いつの間にか吉田魔王様が立っていた。
発表したのアンタか!
「確かに強いんだろうけどさ…。大丈夫なの?けど、可愛いな…。このふかふか感が堪らん…!
こいつ、飼えるの?つーか、何類?」
「飼う気満々だな」
『哺乳類だ。主に肉を喰う。だが、好みはマタタビ酒と、枝豆、燻製、唐揚げ、冷奴など』
まるっきりオヤジじゃねーか。
きゅうううう…と抱きしめる。
次は炎を吐くこともなく、素直にされるがままだ。
猫は気紛れだっていうしな…。猫じゃないけど。
まぁ、可愛いから許す。
『おい、小僧。鮭の燻製よこせ』
「「うわあああああああああっ………!!」」
あっ、ちなみに、叫んだの僕とカインね。
だって、喋ったんだもの。
意外に渋い声だったんだもの。
鮭の燻製要求してきたんだもの。…こいつ、オヤジか。
そのふかふかで可愛らしい容姿に似合わずの声と、要求。
夢をぶち壊してますねー。いろんな意味で、子供マジ泣きだよ。
唯の猫を期待した僕が馬鹿だった。
此処は、普通じゃありえないことがごく普通に起こる世界だ。
伝説の猫とか、実はものスゲー強い虎で済む筈がない。
ファンタジー界における永遠の王道をすっかり忘れていたよ。
竜と囚われの姫君は、絶対要素だ。
この世の神も仏も誰の味方もしない。
だから、皆さま。僕はこの生物の絶滅を希望します。