第十四話 未知との遭遇…?
「教官は分かってたけど、オズさんまでついて来るとは…。国家反逆罪を着せられますよ?」
「私は、監視役です。勘違いしないで下さい」
どうも、田中優真です。
とりあえず、皆で『魔城』にお邪魔しております。
案外、明るいし綺麗だ。というか、普通の城だな。
もっとお化け屋敷的なものを想像というか、期待してたんだけど。
「あっ、おかえりなさ…優真様!?何故、此処に!?」
長い螺旋階段から、少女姿のノワールが降りて来る。
そしてすぐさま、吉田魔王様の後ろへ隠れた。
「大丈夫だよ。ノワールは何でも、何着ても可愛いから。ちょっと色々あってね。とりあえず、暫くお邪魔します」
「むぅぅぅぅ…。それじゃあ意味ないじゃありませんかぁ…」
ぷくーと子供の様に頬を膨らませるノワール。
『というか、前から気になっていたのだが、何故吉田魔王様?』
突っ込むとこそこなのか?
「ん、向こうの魔王様のそっくりさんが吉田って言う人なの。前勇者吉田雪のお父さん」
『ほう…。それはそれで見てみたいな』
「では、陽一郎とは…?」
オズさんがひょこっと会話に入ってきた。
「陽一郎さんは僕の義父。ちなみに母親は由香子さん。今の女神様」
「あ、ありえない。あんな聡明なお方からこんな馬鹿が生まれるなんて…!!」
一発、殴っても良いですか?良いですよね。よし、殴ろう。
「父に似たんじゃないの?知らないけど」
「元の父親はどんな人なんだ?」
カインが興味心身に聞いてきた。
教官も聞き耳立てている。気になるなら素直に言えば良いのに。
「さぁ…?覚えてないな…。僕が三歳くらいに家の金全て持って蒸発したからね。
あの時の母の錯乱ぶりったらもう。挙句の果てには、由香子さんも同じ道を辿るという逆奇跡を起こさせた人としか僕の記憶にはない」
皆が一斉に黙る。
えっ、ホラー要素何処だった?
そんな空白の時間が続き、耐えきれなくなった僕は何かを言おうとした。
すると、何処からかドタバタと走って来る音がする。
「王様…じゃなかった、魔王様!勇者を連れてくるなんてどういう…何か沢山いるな。
失礼ながら、誰が勇者?」
全速力で飛び出してきた灰色のスーツを着た青年が飛び出してきた。
『ノーイ…。まぁ、心配ない。色々あってだな、友人になった』
「一体、何が!?」
ノーイというらしいが、中々のツッコミ役だ。
とりあえず、挙手してみる。
「どうも、僕がゆ…」
「死ねぇっぇぇぇ!!!」
待ってぇぇぇぇぇぇ!話を聞けぇぇぇぇぇ!
錯乱しながら、ノーイはスーツの袖からナイフを取り出して、僕に向かって投げた。
ノワールが飛び出し、全部はたき落とす。
「ノーイ!私の婚約者に何てことするのっ?大丈夫、優真は良い勇者よ」
「あ、貴女まで…。一体何があったというのです…?」
懇願するような目でノーイは二人を見る。
何の悪びれも無く、吉田魔王様は言った。
『『召喚』された。ノーワル込みで』
「前代未聞だっ!何処の勇者が、そんな不可能を可能にするというのですっ?!一体どんなプログラムがインストールされているのですか!?奴には?
きっと、洗脳されたに違いない!おのれ、何て事を…!ミリェニス王国の第一騎士隊長ノーイ、命尽きようと貴様などに負けは…」
『ノーイ。洗脳もされてないし、言っただろう。友人だと。お前は、私に何か不満でもあるのか?
あるなら今すぐに爆死しろ。なければ、客人を応接室へ案内するのだ』
「あああああっ!仕方がない、そこまで王様…いえ、魔王様が言うのなら信じましょう。
だが、ミリェニス王国の名誉にかけてお前らの王国など…げふっ!」
吉田魔王様と、ノワールが二人同時にノーイを殴った。
『こっちだ。行くぞ』
「ノーイ、ぐずぐずしてないで、客人にお茶を出しなさい。優真様に何かしたらタダじゃ済まないからね?」
床でぴくぴくと倒れているノーイをノワールが引きづり、吉田様が応接室へ案内する。
何か楽しそうだな。というか、平和だな。この世界。
こんなのが魔族で良いのか、本当。
僕は微笑ましく見ているが、カイン達は眉をひそめている。
一体何が不満なのかな。
応接室は何となく居心地のいい部屋だった。
由香子様の部屋ほどではないが、嫌みじゃない程度の物々が置いてある。
高価なものだろうと思うが、見る人が見れば価値のあるものと言ったところだろう。
「地味に凄いね、この部屋」
『ほう…価値が分かるか?』
部屋に盆栽と日本刀が置いてある辺り、見る価値のある部屋だと思うよ。
和風にしたいのか、洋風にしたいのか良く分からない部屋だ。
吉田さん、意外に趣味渋いんだよな。骨董品集めとか、盆栽とか、茶道とか、弓道とか、将棋とか…。
きっと、じいちゃんってこんな感じなんだろうなーって思った。
「…ぼちぼちね。で、これからどうするの。というか、どうなるの?」
「さぁな。女神様のことだから、絶対に行動を起こすと思うが…。何をしてくるのか今一な…。
今日は、一端休んで、明日考えよう。空いてる部屋ってあるか?」
『二部屋なら空いてるが…』
その答えに、ノワールが勢いよく手を上げる。
「優真様は、私の部屋ねっ!良いでしょ?お父様」
『仕方がない…。くれぐれも、何事も無くしろよ…?』
吉田様、声低い!
何で、そんな笑顔で脅迫するんだ、僕に!
「ななななな、なりませんっ!一国の姫君と、あんな人畜ひど…ぐぎゃっ!」
『良いからお前は戻りなさい』
何処からか生えてきたんですか、ノーイさん。
顔面にパンチを食らったうえに、吉田様に怒られたノーイさんは渋々何処かへ去って行った。
何も無いと良いけど…どうだろうね?
「カイン、さっさと行くぞ」
「ア、アンナ…?俺は応接室で寝るからお前は…」
「良いから行くぞ!ついてこいっ!」
やや困り顔を浮かべるカインをずるずると引っ張って何処かへ去っていく教官。
大丈夫かな、部屋の場所分かるのか?
まぁ、人の心配している場合じゃないのかもしれないけど…。
「じゃあ、そういうことで…。吉田様、トイレって何処?」
『ノワール、案内してやってくれ』
「分かりましたわ。優真様、こちらです」
「あっ、ちょっと待って。携帯置いて行く。電話とか来たらテキトーに出といて」
パタパタと二人が応接室を出た。
丁度、携帯が着信音を鳴らす。
『出た方が、良いのか…?』
「出といてということは、出た方が良いのでしょうね」
残された二人は、携帯をじっと見つめた。
吉田魔王様が携帯を手にとって、困惑した表情でボタンを押す。
ちなみに、ディスプレイに表示された名前は、『吉田さん』。
「もしもし、優真か?」
『おぉ……。向こうの私か…』
静かに感嘆する吉田魔王様。しかし、会話がかみ合ってない。
「…誰だ?」
『生憎、優真はトイレだ』
「…そうか。で、誰だ」
『…名乗る名などない。…で、どうすれば良い?何か用があるのではないか?』
ふと、沈黙が訪れる。
「そうか…だが、直ぐ帰って来るんだろう?大した様じゃないんだが、よーちゃんが話したいらしい」
『ほう。そうか。しばし待て』
「そっちは本当にパラレルワールドなのか?」
『そうと言えばそうだし、違うと言えば異なる』
しばらくした間の後、声が変わった。
恐らく、よーちゃんとかいう人の声だろう。
「もしもし…。優真君のお義父さんです。そっちの吉田さんですか?」
『むっ…。お前が勇者の義父か。確か、陽一郎』
「はい。一、二つお尋ねしたいのですが…。優真君、まさかと思いますけど危ない事とかやってませんよね?」
『…………。危ない事、とは?』
「そうですね…。勇者とかパラレルワールドとか、信じないわけじゃないですけど、例えば『闘犬場』とかに出場したりとか、人を殴って物を破壊したりとか…?…無いですよね?」
軽く、殺気が伝わって来るのは何故だろうかと吉田魔王様は思いをはせる。
『………。』
「あ・り・ま・せ・ん・よ・ね?」
まさか勇者以外の者に脅される日が来ようとは…。
恐るべし、陽一郎。
「無言は肯定と判断しますが…。異論はありますか?
『………いや、あの、何と言うか…』
「優真君に、一つ伝言を頼んでもよろしいでしょうか?」
『何でしょうか』
思わず敬語。
怒らせてはいけないと吉田魔王様は悟りました。
「次、帰った時…部屋は綺麗に片付いていますと、お伝え下さい」
『了解いたしました』
「そして、向こうの吉田さんこと魔王さん。優真君がダークサイドに堕ちる様なことがあれば…ふふっ。続きは、言わずとも知れますよね…?」
『…………』
その時、丁度優真が帰って来た。
『…勇者。お父上からお電話だ』
しかし、手渡された携帯は通話時間を示していた。
吉田魔王様に、何か聞くとかつて見たこと無い冷や汗を浮かべる吉田魔王様の表情が見える。
『お父上から伝言を頼まれたんだが…』
「あれ、何て言ってた?」
『次、帰った時…部屋は綺麗に片付いているらしいぞ?』
「………」
撤回しよう。
由香子政権の比じゃないぞ。
凄いな陽一郎さん。
魔王に恐怖を植えつけたよ。
女神なんて比じゃない。あの人さえやる気を出せば、本気で世界侵略できる。
黙り込む二人を、オズさんは不思議そうな目で見ていた。
未知との遭遇を果たした吉田魔王様。
しばらく着信音に怯える日が続いたという。