最終章 馬鹿魔王は世界を救う?〜It's happy or badEND?〜
―そこに浮かんでいたものは。そこに浮かんでいたものは、脳だった。人間の脳みそだった。
真っ白な空間に、ひとつ。それは浮かんでいた。
「人間の脳みそが『核』…?第一、何でこんなところに…」
「何でって、影の王…。貴方だって覚えがあるでしょう…。貴方が最初、ミケガサキに召喚された際、ソファーも一緒についてきたでしょう…?あれと同じ原理ですよ…。まぁ、こっちは故意だと思いますが…」
別段大したことないと言わんばかりに平然と言い、フレディは核…もとい脳みそに近付いた。
流石は死霊だけあって、というのも中々失礼な話しだが、見慣れているのだろうか。血や骨は大丈夫でも、臓器…特に脳というのは教科書の簡易図でしか見たことはないので生々しい実物を前にするとやはり吐き気がする。
『召喚』魔術は、実は空間魔術の基礎にあたる。
『召喚』は異世界同士を繋ぐ魔術であり、こちらが指名したものに自動的に照準が合わさり魔法陣が形成、発動する。
稀に、というより術者の魔力の大きさにもよるのだが、僕や女神様のように並外れた魔力の持ち主なら、魔力に余裕があるが故にこの照準というものが結構大雑把になるのだ。
大抵は魔力の消費を抑えるためにピンポイントで陣が形成される。それをサーチライトに例えるなら、僕等の陣は差し詰め灯台の灯光だ。陣が比較的大きいので周りの物まで巻き込んでしまう。
「何故、こんなところにあるのかはいいとして、あれは誰の…?」
アリアさんを見ると、彼女は困ったように肩を竦め首を横に振る。
「神崎直樹…。恐らく、神崎傑の事故死した息子のでしょう…」
「神崎氏の息子の脳であるという保証は何処から?」
僕の問いにフレディは一瞬だけ何か考え込むように目を伏せたが、直ぐさま僕の方に向き直る。
「まず、『核』というものから説明しましょうか…。『核』というと、何かと物体を想像しがちですが、この場合は違います…。
私が神崎傑に与えたのは、この世界を構成する情報を圧縮したもの…。
本来、一つしかないはずの『核』がこちらの世界と向こうの世界にあるということは、彼はそれを複製し、一つを三嘉ヶ崎に、もう一つをこちらに寄越したのでしょう…。二つの『核』が存在するからこそ、互いの情報を共有し、二つの世界の差異を縮めたからこそ『リンクシステム』は成り立った…。
しかし、先程も言ったように『核』は情報ですから、媒体があって初めて機能します…。ゲームソフトを持っていても、肝心の機器がなければ意味がないでしょう…?こちらの世界には、その媒体となる物がありません…。ですが、人間の脳ならその役割を果たすことが可能なのです…」
「けど、脳が死んでるんじゃ意味が…」
「さぁ…、どうなんでしょうね…。しかし、電流に反応して筋肉が動くのと同じような原理で、脳に何らかの電極やチップが埋め込まれていて、それを操作しているのかもしれません…」
フレディ曰く、核に満ちる魔力が脳漿の役割を果たりなど、設置環境としては何ら問題ないらしい。
「問題はその脳を如何にして手に入れるか…。仮に殺人に手を染めたとしても、頭蓋に覆われた脳を素人が取り出すなどと危険な賭けには出ないでしょう…。
しかし、息子のであれば金を積めばそれに目が眩んだ医者が摘出してくれると思いますよ…。確かに、だからといって息子の脳みそを使うというのは狂気の沙汰と言えるでしょうが、それを代用することにより、家族が蘇るなら…。彼に限らず、誰もがそうすると思いますよ…。
願いを叶える為ならば、如何なる手段も犠牲も厭わない…。そういうものじゃありませんか…?」
「フレディの言う通り、きっとそういうものなんだろうね。僕も覚えがない訳じゃない。しかし、確かに理に適ってはいるけど、それだけの理由でこの脳みそが神崎直樹のものというにはちょっと…」
言い淀む僕に、フレディは確かに…と一つ頷く。
「彼女が此処にいることが何よりの証拠ですよ…。お忘れですか、影の王…。神崎傑の願いは何ですか…?」
「家族の蘇生…。現実世界じゃ無理だから、ゲームの世界で――ぁああああっ!」
『ひゃあああっ!』
突然、アリアさんを指差して驚く僕に、彼女もそれに驚いて悲鳴をあげる。
「何か懐かしいと思ったら!髪の色とかは違うけど、神崎氏の奥さんだ!」
前にカルマが映し出したホログラムの写真映像。そこに映っていた神崎夫人に違いない。
『いや、その…。私はゼリアの…』
「何故、死んでいる彼女だけが核の一部として此処にいるかは暴論ではありますが、核の意志…あるいは神崎傑の意思となります…」
「ゼリーさんは神崎氏自身をイメージしたんだろうな。なんだよ、もう立派に家族形成してるじゃないか」
「いやいや、子供の扱いぞんざい過ぎるでしょう…。脳ですよ?しかも、もう一人の妹子もいないですし…。まぁ夫婦ですから…、そこら辺は色々と…、考えがあるのかもしれませんけど…」
『せっ、セクハラですっ!』
顔を赤らめ抗議の声を上げるアリアさんをスルーしつつ、話を元に戻す。
「―さて、どうしようか?僕の特殊能力を使って『核』を消せば『リンクシステム』は完全に消滅する。でも、『核』はこの世界の形成と保持を担っている。つまり、この世界の要だ。消滅させれば『リンクシステム』は無くなる。その代わり、この世界も消える」
「どちらを取っても本末転倒ですね…。まぁ、私としてはこのまま滅びるのも一興ですが…。貴方は、どうしたいですか…?」
「―僕は、この世界を存続させたい」
救うことは最早不可能だ。それを僕が不可能にしてしまった。この世界の外見を正しても、内面が空っぽじゃ意味がない。
「だから元に戻す。『核』や『リンクシステム』を利用して。
前は外からの干渉だったし、さっきの女神様の例えじゃないけど中継としての干渉だったから何とかなった。今回は『核』そのものに直に干渉する。それだと当然こっちが容量オーバーになるから掌握には遠く及ばない。
それに『核』に干渉することによって『プログラム化』が発動しないとも限らないし」
「つまり、支配する側が逆に支配される可能性が無きにしもあらず、ということですか…?」
「ざっくり言うとね。寧ろ高い。干渉能力は何にでも干渉出来る代わりに、その逆もまた然りっていうのがデメリットかな。まぁ、それでも事が事である以上、危ない橋を渡るのもこの際…」
「いえ、危ないので止めましょう…」
即刻拒否された。
「信頼ねぇな、僕」
「当たり前です…。何度、貴方が意識を呑まれて暴走したことか…。
石橋を叩いて渡るというように、用心するに越したことはないでしょう…?」
「確かに、急がば回れというからね」
「そんな悠長に構えている時間はありません…。善は急げです…」
善という立場ではないだろうが、要するに、慎重かつ迅速に行動しろということなのだろう。
「一つ、リスクが差ほど無く、相手を確実に掌握させる方法があります…」
「どんな?」
「『影の王』となり、アレを食べてしまいなさい…」
彼から僕自身そう呼ばれているため大変紛らわしいが『影の王』と言うのは、知恵の悪魔の呼称―二つ名である。
主に悪魔がその契約者の身体を乗っ取り、真の姿へと具現する際、その名で呼ばれるのだ。
とはいえ、いくら真の姿といえど、契約者の肉体を借りなければ具現化出来ないのであればその悪魔の力というのはたかが知れていると思うかもしれない。
借りる、という表現が悪いのだろうが、別に具現化するのに『器』が必要なわけでもなく、力がないわけでもない。悪魔が契約者の身体を借りるのは、単に力の制御のためである。
『魔王』が何もせずとも争いの種を撒き散らし発芽させてしまうように、悪魔もまた同様の性質を持つ。
前に『影の王』を出現させた際、世界が白黒になってしまったのもその影響だ。
「肝心の悪魔が出て来れないんだけど?」
フレディに代わって知恵の悪魔の役目を負う大総統も影を通さなければ身体を借りることが出来ない。
―此処はあまりに白く。影がない。まさに聖域そのものだ。神聖で、孤独な世界だ。
「馬鹿ですね…。呼ぶ必要などありませんよ…。今や貴方がそうなのですから…」
「悪魔になった覚えはない」
「悪魔ではなく、知恵の悪魔です…。でなければ貴方を『影の王』と呼ぶわけないでしょう…?
とはいえ、当たり前ですが契約時はまだそれには至っていません…。前に貴方が『影の王』となった時点で貴方は正式に我々の統率者になったのですよ…」
「しれっと言うな、そんな大事なこと…。よくも騙してくれたな」
「人を欺くのが我々の専売特許ですからね…。ほら、さっさとやりなさい…。聖域を穢すのが我等の性分…。何ら問題ありません…。ちゃんと力の制御してくださいね…」
盗っ人猛々しいとは正しくこのことだろう。フレディに肘で小突かれながら『核』の前に立つ。
しかし、例え知恵の悪魔になることがあらかじめ分かっていても僕は同じ選択をしただろう。
深呼吸を一つ。肩の力を抜く。
『田中優真。貴方は『核』とシステムを用いて元に戻すとおっしゃいましたが、本当に可能なのですか?
いくら『核』が保持・形成を担い、システムを用いても他の国までは…』
「大丈夫、心配ありませんよ…。先程も言っていたでしょう…?あの方は、この世界を存続させると…」
足元に影が生まれる。徐々に後ろへと伸びく。伸びる度に大きく膨らみ、やがて人形を形成した。それは自我を持ったかのように地面から立ち上がる。
そして、両腕で『核』を掬うようにして持つと口を開く。
静かに目を閉じた。涙が一筋、頬を伝って流れ落ちる。
「―ごめん、皆。結局、何も救えなかった」
****
―昔々。一人の馬鹿な勇者が異世界に喚ばれました。
馬鹿な勇者はその異世界がいたく気に入り、世界を救うべく奮起しました。
しかし、戦火は収まるどころか激しさを増していく一方です。
何故なら、その馬鹿な勇者は紆余曲折を経て魔王になることを選んでしまったからです。
馬鹿な魔王がそのことに気付いた時、世界は既に滅びかけていました。
馬鹿な魔王は、大好きだった世界も、そこに暮らす人々も皆、殺してしまったのです。
誰も助けてくれません。当たり前です。自分で招いた結末なのですから。
馬鹿な魔王は、考えに考えて、一つの結論を出しました。
死んだ世界も人々も二度と蘇ることはありません。
だから魔王は、自分の大好きだった世界を『再現』することにしました。
「…魔王は今もその世界でそこに暮らす人々を見守っています。二度と、あのようなことが起こらないように、ずっと…」
炎熱がじりじりと頬を焼く。火の粉が宙を舞い、熱を煽る。
「そんな話を僕に聞かせて、何の得が?」
「さぁ…?でも、最期の言葉くらい何を言ってもいいだろう?」
最期という単語に若き勇者は顔をしかめる。それを隠すように頬を伝い滴り落ちる汗を袖で拭った。
「さて、煙に燻されるのも飽きたし、そろそろ決着をつけようか」
若い勇者は吠えながら剣を両手で掴み、力任せに突っ込んでくる。
嫌な音と感触。刃が肉を貫き、心臓へと達する。熱と痛み、何よりも死が侵食していく。歯を食いしばって悲鳴を飲み込むと、魂が抜けたように呆然と突っ立ている勇者の頭を撫でた。
「殺してくれてありがとう、陽一郎さん」
……………………………………………………………。
「影の王…。いつまで死んでいるつもりですか…」
「生きてるよ。やっぱり、向こうの世界にも影響が出たなと思ってね。何より、陽一郎さんが若かった」
「はいはい…。しかし、悪影響というほどのものではないのですから良いじゃありませんか…」
「時間が巻き戻ってしまった時点で既に悪影響を及ぼしているだろ」
僕の知識と記憶を基に『再現』した世界。ほんの少し三嘉ヶ崎の町並みで、この世界の専売特許ともいえる魔術が失われた世界。皆がいて、田中優真のいない世界。
それが良い方向へ進むのか、悪い方向へ進むのかどうかは神のみぞ知ると言ったところだろうか。
一つ言えること。それは、僕がいようといまいと、そして魔術があろうとなかろうと国は五つに分かれ、前回と同様に領土戦争に明け暮れているということ。
今回の件で蓋が脆くなったことは確かで、それぞれの器の魔力を最小限に抑えても魔獣化する者達は少なからずいる。その大半が子供だ。そして、魔獣化しても彼等には理性がある。この場合、魔獣ではなく魔人なのだろうが、不思議なことに姿は獣だ。
ゲームソフト『勇者撲滅』も相変わらずプレイヤー転送装置として健在だが、その趣旨が以前のような復讐のためではないと信じたい。まぁ、例え同じでも『魔王』が既にいるので叶わない復讐だ。
―歴史は繰り返す。例え、この世界が単なる記憶の再現でなくとも。
代行人なる人物達がいなかろうと、国は些細な諍いから五つに分かれたし、魔術がなかろうと、それに代わる魔獣化可能な者達が現れた。結局、土地が肥えていようが痩せていようが人々は豊かを求め、領土を求め、武器や技術を磨き、今まで通り戦争に明け暮れる。
いくら戦争を阻止しようとそれは一時凌ぎでしかなく、雨漏りのようにまた争いは生まれる。
今に至るまで、変わったことと言えば多少戦死者が減ったことだろうか。
どちらにせよ、また同じ結末を迎える可能性大だ。
全く、救いようのない世界を救おうとしているんだと少し辟易することもある。
いつの日か。『核』も『リンクシステム』も必要ない世界にする。
それはまだまだ実現する日は遠そうだが。
『勇者』が『魔王』を倒せば栄えるという例のシステムを用いて僕の死さえその糧としよう。
僕の役割は、『核』としてこの世界の形成と保持を担い、この世界の理として行く末を見守ること。
そして、来るべき日まで『魔王』として魔を導くことだ。
―いつの日か。僕の代わりとなる勇者がそう遠くない未来に此処に訪れる。
「…ねぇ、フレディ。一つ賭けをしないかい?」「負けたら全裸で世界一周して下さいね…。因みに賭けの取り下げは不戦勝と見なしますが…」
「ははっ!君に話を持ち掛けた二秒前の自分をぶっ殺したい気分だ…」
げんなりと言う僕に、フレディは笑いながら問う。
「…で、何を賭けるんです?」
「そうだなぁ…。この世界が救われるかどうか。それにしよう」
そうですか…と、フレディは感慨深げに呟く。そして意地悪く微笑んだ。
「ではこの賭け、貴方の負けですよ…」
「まさか、また何か仕組んだのか?」
「人聞きの悪い…。まぁ、前科があるから仕方ないのかも知れませんが…。―知りたいですか…?」
素直に頷くと、鼻で笑われた。しかもご丁寧に出し惜しみまでしてくるからクソ腹立たしい。
「もう、救われているからよ。主様によって」
いつの間にかヴァルベルが僕の顔を覗き込むようにして目の前に浮かんでいた。その周りをヘブライ達蝙蝠や、死霊達が飛び交う。
「確かに、今の世の中、万人が幸せになった訳ではありません…。しかし、それこそ高望みというものですよ…。戦死者が出ないだけマシというものです…」
「高望みと言われようが構わない。でも、このままじゃまた同じ末路を辿るかもしれない。もう、あんな思いをするのは僕は二度と御免だ!魔獣で戦場を混乱させて戦争を阻止する。そんな一時凌ぎでしかない行為に何の価値がある?
平和は勝ち取るものではない。そして与えられるものでもない。当たり前のようにそこにあるものだ。少なくとも僕はそう思ってる」
「そうですね…。別に、貴方の主義主張にケチを付けたいというのではありませんよ…?
しかし、影の王…。これだけは覚えておいて下さい…。確かに、貴方は『リンクシステム』の呪縛を解き、この世界を元の姿に戻すことは出来なかった…。それは仕方のないことです…。まだこのシステムの一部に頼らなければこの世界は安定しません…。そういう意味では、『救う』ことは出来ませんでしたが…、罪を犯した人を正しく導いたり、迷える人の迷いや悩みを取り除いたりする、という点での『救い』なら、貴方は十分に果たしていると我々は思いますよ…」
「そっか。…ありがとう、皆」
―願わくば、今度こそ。
―今度こそ、この世界が救われますように。
……………………………………………………………。
「此処に居られましたか。女神様」
薄暗い洞窟の中、ガチャンガチャンと金属の擦れる音が響き、やがて止まった。
ピチャンッ…と、雫が落ちて洞窟に響く。
「あぁ…!カイン、貴方でしたか!!」
女神様と呼ばれた女性が振り向いて、カインに近寄った。艶やかな黒のウェーブがかかった髪がふわりと揺れる。
「どうしたのです?顔色が悪い。『例の儀式』は失敗してしまったのですか?」
カインは真面目な顔をして尋ねた。女神は力なく首を振る。
「いいえ…!成功しましたわ。あぁ!何て事なのでしょう!」
顔を覆いながら泣く女神に、どう声を掛けて良いか分からず、カインは頭を掻く。
「何をお嘆きになる必要が御座いますか。貴女様はご立派にその大義を務めていらっしゃいます。…今度こそ、争いのない世界にするために――」
そこまで言って、カインは目を瞬く。
「あれ?す、すみません…!女神様に対し、何を分かりきったことのように…!れ、『例の儀式』が成功したならば、さっそく式典の準備を整えましょう。各国の代表を待っています」
「大丈夫、謝る必要はありませんよ、カイン・ベリアル。確かに、各国の代表を待たせるわけにはいきませんね。皆、今日という日を待ち望んでいたのですから」
「は、はぁ…」
カインは何と言えば良いのか分からず、思わず気の抜けた相槌を打ってしまう。
「ですが、私は皆さんのご期待に添うことは出来ないでしょう。そういう意味で、失敗なのです」
「一体、それはどういう…?」
カインの問いに、女神はただ悲しげに微笑んだだけだった。
どう声を掛けて良いか分からず、またカインは困ったように頭を掻く。やがて意を決したように彼女の前にひざまずいた。
「―失礼ながら、女神様。無礼を承知でお話します。我々は皆、顔も名前も分からぬ何者かを待ってします。各国の代表も恐らく同じ思いでしょう。ですが、まだ…。まだ会う訳にはいきません」
「何故ですか?」
首を垂れたまま、カインは言葉を紡ぐ。
「はっ。こうして何の諍いもなく各国の代表が此処に集まったのはひとえに我々も忘れてしまったかの者に会うため。つまり、各国の代表も面識…いや、友好関係にあったからこそでしょう。かの者もまた、平和を望んでいたに他なりません。しかし、このまま何時までもかの者の威光に甘んじる訳にはいかないのです」
「それは、貴方の騎士としての誇り故、ということでしょうか?」
「…いいえ。志を同じくする友に、会わす顔がないだけです。友と呼べるほど、親しい間柄なのかは分かりませんが。
我々は、かの者に頼ることに慣れすぎている。いつかと同じ過ち…末路を辿ろうとしてはいないでしょうか?また、かの者を、人柱に平和を築くことだけはあってはならぬことだと…。
だから、我々が自らの意思で平和を築けた時、ようやく我々は自分を許すことが出来る…何故かは分かりませんが、そう思うです」
戸惑いながらもカインは、そう胸の内を明かした。
それを聞いた女神はそっと彼の肩に手を置き、穏やかに微笑む。
「顔を上げなさい、カイン・ベリアル騎士隊長。私も含めて、かの者に会いたいと思う気持ちは皆同じ。なればこそ、私達は共に手を取り合うべきであると言うのなら、これ以上待たせる訳にはいきません。
今日、新たに召喚された『勇者』も交えて、もう一度話し合う必要があるでしょう。まだ何も解決してはいないのですから」
踵を返し、出口へと足早に向かって行く女神の後ろに控えながらカインは重々しく口を開く。彼にはもう一つ、女神に尋ねたいことがあった。
「―失礼ながら、女神様。貴女は何故、まだこのように『勇者』を召喚しているのですか?」
カツンッとヒールの甲高い音が洞窟に木霊する。
口許に笑みを浮かべたまま女神はカインを見た。
「この世界の恒久なる平和の為に必要な贄だからに決まっているじゃありませんか」
何だか曖昧な終わりになったような…そんな気が。
馬鹿な勇者が異世界で馬鹿をやる話を書こうと思い立ち、気付けば『魔力魂』やら『リンクシステム』やらよく分からない設定の登場、しまいには勇者が魔王になるという暴挙の連続。
タイトルと異なる物語になり、私もびっくりしています。
前置きが長くなりましたが此処までお読み下さった皆様、どうもありがとうございます。最後はこんなですが、少しでも楽しんでいただけたでしょうか?これにて一応完結になります。
どうもありがとうございました。