第十二話 女神降臨!あと義父も
「状況説明求む」
はいはい、田中優真です。えっ、怪我はって?ぴんぴんしてるよ。
前世ミジンコをなめてもらっては困る。
あの後、三日間昏睡状態だったらしいけど。
勇者は倒れるわ、占拠されかけたわ、色々と後の対応が面倒らしく今も二人は対応に追われてます。聞いた話なんだけど、もしかしたら降格させられるかもっていう噂。
そんなことさせるかーと思って、飛び出そうとしたら思わぬ敵に出くわしてしまったのだよ。
「えっ、ですから…」
「ノンノン。いいから降ろせ。そして、何をやってるのですか、陽一郎さん。いつ召喚されました?」
そう、僕の義父。田中陽一郎。
何してんですか、アンタ。とっとと働きに行け。
「陽一郎…?いえ、僕は女神様の僕。オズと申します」
つまりは、こっちの陽一郎さんってことか。
ちっ、こんな奴を寄越すとは…。女神、何者だ。
今どこにいるかというと…。何処だと思う?カンパニー…間違えた、バルコニー。…で合ってる?目覚めたら、お外で日干しになって、ふかふかの椅子に座ってましたよ。どういうこと?正直、僕にも分からない。
観客らしき人達がキャーキャー言ってるのが確認できた。
あー、僕高いところ苦手なのに…。
「で、陽一郎さん。僕は如何すれば良い?」
「オズです。取りあえず、これ、音読して下さい。あっ、音読の意味分かります?」
ウゼッ!我が義父ながら、ウザい!僕はそこまで馬鹿じゃないっ。
と思いたい!この人、腹黒だから嫌なんだよ。母の前ではへらへら惚気てるのに!
「読み終わったら?」
「いいから、さっさと読んで下さい」
はーい。はいはい。良いよ、全棒読みだ。畜生、言いかえせない自分が情けない。
「私、新しい五代目勇者となりました。田中優真です。今回、ランクB…」
ん…?僕ったらやけに饒舌じゃないか。僕の舌の機能なんぞ、とっくの昔に衰えている筈なんだけど。ちなみに中二の時、あまりにも音読が出来ないから国語の成績は1だった。
先生曰く、論外。
案外いつもよりは饒舌だなと思った後のご感想が、『舌、退化しとる。医者行って来い』。先生。舌の退化は、医者で治せるものでしょうか?
「責任につきましては、傭兵所最高責任者であるアンナ・ベルディウスと、カイン・ベリアルに厳重なる処罰として、女神直々の命により処刑となりました」
ん?何だって。僕、今何て言った?
『処刑』。
うーーーーん?
おかしくね?厳重なる処罰の後。まぁ、此処までは良しとしよう。
女神直々の命により、『処刑』。
何故、此処で女神?どっから生えてきた?何故、処刑。
一回のミスは取り返しのつかないものなのでしたか?
全然大丈夫だよねー。追い払ったものねー。問題ないよねー?
「ミケガサキの永久の富と名誉、栄光を祈ります」
わーっと観客というか、国民が盛り上がる。
お黙りっというのが僕の感想なのだが、口が開かない。多分、魔術。どっかに、『縫いつけの陣』と『朗読の陣』が描かれているはず。
ミケガサキに富と名誉と栄光ね…。まさに、由香子政権。金に目が無い。
そのままバルコニーを後にし、陽一郎…じゃなくてオズさんに連れられて部屋へ戻る。そういや、最初は喋れたよな。ということは、仕掛けたのは、陽一郎…オズさんということだ。
ということはだね。つまり。
陽一郎さん倒せば、解決。そのまま二人を助けにいける。
一つ、分かったことがある。
この世界は、ミケガサキでパラレルワールドだ。
僕の良く知る人物がいて、魔法が使える。
違う。
確かにミケガサキで、パラレルワールドだけど。
僕の良く知る人達とそっくりだけど、違う。
陽一郎さんは、こんな冷めた人じゃないし、佐藤はあんなキャラじゃない。彼はツンデレだ。
鈴木は確かに癒しキャラだけど、天然具合が比じゃない。山田はあんなに影薄くない。
伊東は…どうなんだろ。ごめん、知らん。案外、合ってるかも。
確かに似てるけど、別人だ。
姿は陽一郎さんだけど、名前が違う。それだけで既に別人だ。…と思う。
きっと、この人が崇拝しているのも同じ人だ。
多分、そうならないことを願うけど、これから待つ結末も多分同じだ。
パラレルワールドだから。
どれ程すれ違おうと、最初から決められてた運命は変えられない。
「オズさん。女神様は優しいですか」
「えっ…そうですね。優しくはありませんが、私はそんな彼女に拾われ、一目惚れしたんです。
どんな扱いだろうと、僕は平気です」
次の満月まで、多分、後四日。
それまでに終わらせられる自信無いけど。
「必ず、捨てられます」
この人を倒せる唯一の方法。打倒精神。惚気には一番有効な手だ。
「な、何を言っているのですか。あなたに何が分かるというのですか。知らないでしょうけど、優しい時だってあるんです…。あんな表情で笑う人が、捨てるなんて有り得ない」
もしかしたら、陽一郎さんはこんな風に思っていたんじゃないだろうか。言葉に出さないだけで、表情に出さないだけで、そう思っていたのではないだろうか。
けど、ごめん。
僕、ちゃんと忠告したから。
怨まないでね、すみません。
「『転移』」
はい、案外あっさり。
最初からそうすればよかったんじゃないかなと思うが、結果オーライ。後ろは振り向かないのが僕のポリシーだ。ポリシーの意味、知らんけど。
しかし、だ。
道が分からんよ。
誰か通りがかってー。陽一郎さん以外ー。
しょうがない。最終手段。
「吉田魔王様はケチだから、ノワールで」
いざ、召喚…と思ったのだが、予想外にカーペットがふかふかで陣が描けない。
ちっ、予防は万全か。
「あれ、優真様?」
「いえ、違いますです、よっ!」
肩トントン、振り向けば…。
「ノワールっ!」
ナイスっ!流石、ノワール!
ドケチは格が違う。マジ、女神。
「どうして、此処に?」
「私、優真様専用の女神ですから!」
それはとても嬉しいんだけど、何故、鎧?中身は空っぽみたいだけど。
等価交換に失敗したの?
…そういえば、カインがノワールの正体は黒い靄だとか何とか。
「中身がないのは、気持ち悪いですか…?」
「ううん。ノワールは黒い靄でも何でも可愛いから大丈夫。で、ノワール女神様。カイン達何処に居るか分かる?」
「まぁ…口が上手ですね。案内は出来ませんが、場所なら。此処をまっすぐ歩くと、広間に出ます。そこを真っ直ぐ行って下さい」
要するに真っ直ぐ行けということか。
「優真様、もし姫君を返してほしくば、それと同じ価値のある器を下さい。そうすれば、直ぐにでも返してあげましょう。…そういえば、優真様はゲームがお好きなんですよね。勇者らしく、カッコよく来て下さいよ…?うふふふ…」
黒い靄となって、ノワールは消えた。
鎧が崩れ落ちる。
しょうがない。この前の二の舞は嫌だからな。
****
「言い訳は聞きませんよ。お二人とも。私はアレを処分しろと言ったのですよ?
だれも、助けろとは言っていません。折角、ラグドの兵を借り、襲わせたのに…。
アレは国の塵。脅威です。馬鹿だとしても。いえ、馬鹿でも。馬鹿だから」
扉の隙間から辺りを窺う。
幸いな事に、広間には誰も居なかった。
というか、馬鹿言いすぎじゃありませんか。お母様。ご乱心ですね。
それじゃあ、行くとしますか。
「たのもー」
『構えっ!』
扉を開けた瞬間、兵達に取り囲まれる。
ちょ、ちょっと…。刺さってる、鎧に当たってるって…。
何だろうね?この光景、前も見たことがあるよ?