第十一話 小規模領土争い 後編
サブタイトル少し変更しました。
さて、どうしたものか。
僕、格闘技なんて全然無理だし、剣は置いて来ちゃった。
相手がどれくらいの人数とか全然そういう情報無いしな…。
思ったんだけど、いくら裏手にある場所に建ってるとしてもだよ、これだけ目立てば誰か見に来るんじゃないかと思うんだよね。
まだ見に来ないということは、思うほど人数は多くないのかも。
というか、ランクBを狙うこと自体が雑魚の所業なんだよ。
ラスボスなら堂々と主人公の家破壊しに来るぞ。
第三十二番だか何だか知らないけど、たかが三十番代。
多分、大丈夫。十番代が来たら諦めるつもりだったから安心したよ。
「あー、けど、訓練積んでるからな。僕の場合まだ五時間程度。実力の差がなぁ…」
おぉ、良い事閃きましたよ。
馬鹿の一つ覚え。此処で使おうじゃないかっ!
「出でよ、吉田ぁ!」
『何だ、またお前か。何度も召喚するな。こっちだって、こっちなりの用がある。…そして、吉田ではない』
やっぱり、持つべきものは魔王だねっ!
これならあいつ等もイチコロさ。
「…ということで、占拠させられてしまったのだよ」
『自分で何とかしろ。勇者だろ』
「吉田魔王様にはプライドが無いのかっ!?何れは自分が占拠する予定だった場所が他に横取りされたんだぞ?」
すると吉田魔王様は呆れた目で僕を見ると、溜息を吐いた。
あー、その反応ほんとに吉田さんだ。いつも宿題の答え聞きに行くとそんな目で溜息を吐かれたよ。
『私は場所など狙わない。私が狙うは国のみ。そうすれば一気に手に入るだろう?』
あら、ヤダ。
この魔王、何て魔王らしい魔王なのかしらーって魔王だから当たり前か。
「そういや、何で此処狙わないの?残ったのこの国だけなんでしょ?」
『私とて、好きで他国を占拠しているのではない。そうせざるおえないからそうするまで。
お前に言ったところで無駄だかな』
「うん、全く分からん。まぁ、愚痴相手にはなるよ。あっ、最後にノワールは何て言ってた?」
『迎えに来るのなら、次の満月の晩に道が開く。後は好きにしろ』
そう言って吉田魔王様は還って行った。
未来のハイテクロボよりケチだな。
まぁ、いいや。周りに何の気配も感じないし、剣でも取りに行くか。
書庫室から出て、忍び足で物陰からさっき居た練習場を見た。
兵士が二、三人ほど木陰で休んでいた。
うーむ、弛んでるな。
おっ、あそこにあるのは僕の剣。
あー…駄目だ。兵士達が『勇者ごっこ』始め出した。
良い大人が何やってんだ。
仮にも本物の勇者の剣なんだから大切に扱えよ。
僕が物陰からそっと見守っていると、勇者の剣を振り回している兵士の一人が思いっきり剣を地面へ叩きつけた。
バキッ…。
そうですよねー。どんな剣でも、そんな扱いされれば折れますよねー。
「ああああああああっ!!!」
「な、何だっ!?くそっ、まだ残って居やがったか!」
人の剣折っといて、何がくそだ。
そう思っている間に三人の兵士が僕を取り囲んだ。
「何だ、兵士にしては鎧も着てねぇぞ。…死ねぇっ!!」
まだ一回も使ってないのに…。
確かに二日で売却される程の剣だけどさ、一回は使っておきたかったのに…。
「そこに座れっ!!」
僕の感情の高ぶりにより『魔眼』が作用し、三人の兵はその場に正座する。
鳩が豆鉄砲食らったかの様なマヌケ面で。
「人の剣折っといて、何なんだお前らっ!親にそういう教育されなかったのか、馬鹿が!親不孝めっ!お前らが振り回して折った剣は正真正銘本物の勇者の剣なのにっ!
良い大人が勇者ごっこして遊んでんじゃねぇよっ!!どーしてくれるのさ!?お前らのせいで魔王倒せないんですけどっ!?世界、滅ぶんですけど。責任取れんですかぁー?」
倒す気元から無いけど。
何か良い人っぽいんだもの、吉田魔王様。
兵達は完全にうろたえてます。
お説教効果ありなのか、これは。
じゃあ、この勢いで案内頼みましょうか。
「お前らじゃ責任取れないよねー?責任者の所行こうか。穏便に話を進めようじゃないか。
あーあ、どうするんだろう?剣折れちゃったなー。魔王倒せないなー。世界滅んじゃうなー」
そんな感じで、そのまま魔力で作った紐で三人を縛り、案内させている。
こんなんで良いのか、僕。
勇者なら敵をなぎ倒して進むものだけど。
まぁ、剣、折れたけどね。
「こ、此処です…。ごめんなさい、本当にごめんなさい…」
近くの柱に三人を縛り付けて、恐らくは教官室であろう部屋の前まで来た。
奇跡的なのかは知らないが、一人として兵隊に会ってないんだよね。どーしたものか。
「たのもー」
バンッと扉を開ける。
次の瞬間、物凄い数の兵達が武器を突き付けて来ましたよ。
何これ、サプライズ?
「お前がスピーカーの声の主か」
違うって言ったらどうするんだろうね?
恐らく此処のお偉いさんだと思われる中年の男は黒い軍服を着ていた。
目はぎょろりとこちらを見ている。
「まぁ…そうですけど。勇者直々の演説なんてそうそう聞けるものじゃないですよ。良かったですね」
「なっ、こんな馬鹿そうなのが勇者だと…?この世界、終わったな。
まぁ、一応名乗っておこう。ラグド王国第三十二番騎士団副団長ゲシュト・ナジェロだ」
酷くね?何て言うか、勇者というより、僕の扱い酷くね?
しみじみ言うなよ、地味に響くんだからな。
「どうも、田中優真です。
…いやいや、救いたくても、お宅の兵士三名が僕の剣壊しやがりましてね?どうしようかということで…。どう責任を取るんですか、バカヤロー」
「…どうやら何も知らない様だな。まぁ、馬鹿は馬鹿でも勇者だ。洗脳するには丁度良い。ひっ捕えろっ!」
えっ、待とうよ。
タンマ無し?オーケー、分かった。
降参だ。
「さっきから後輩の姿が見えないんだけど。…安否は?」
御報告すると、魔力の縄で縛られて何処かへ連行されてる途中ですね。
先程まで縛られていた三人がドヤ顔で見て来ますよ。
僕が魔眼持ちであることをチクった為、魔眼封じの目隠しまでされてます。
うむ、屈辱だ。
声さえ聞こえないってどういうこと?猿轡されてたって少しは声出すでしょ。
別の部屋に居るのか。…それにしても何の気配も感じない。人が多すぎるせいか?
「ふんっ…まぁ、良いだろう。それにしてもあまりにも手応えが無いな。この兵達は。
やはり、強いのはアンナ・ベルディウスだけか。何故こんな屑兵の集まりに身を置くのか理解出来ん。
…余りも手応えが無さ過ぎてつい苛め過ぎたよ。もう、死んでるか虫の息だろう」
外に出た様で、蒸暑い空気が肌に纏わりつく。
ドゴッ…と何かが蹴られる音がして、続けてうめき声が聞こえた。
「お前っ…」
「身の程を知れ!お前が勇者だろうと何だろうと、剣も魔眼も無ければ唯の屑だ!
お前のその無能さ、いや、存在自体がそもそもの間違いであり、お前の無能さが、招く結果何だよっ」
『アンタなんて、産まなければ良かった』
母の声が聞こえた気がした。
****
「優真君、これからはバーチャルリアルのゲームは禁止だよ。絶対に。
あの時…いや、それに限らずあれをやる時の君の目は、本当に僕は嫌いだから…。
約束だよ、絶対破っちゃ駄目だよ」
陽一郎さんが、空っぽになった部屋を見回して言う。
物足りなく思うのは、昨日まで散乱していたゲーム機やらソフトが無いからだ。
「もし破ったら…?」
「……どうしようね?僕も、分からないよ…。約束できる?」
あの時、父は泣きそうだった。
今なら、何となくだけどあの人が何でそんな約束を言いだしたのか分かる。
そして、何故破った後のことを答えられなかったのかも、分かる。
****
「なっ…、魔眼封じを上回る力を出しただと…?ありえん」
黒い魔力が身体から溢れ出てくる。それは自身を包み、黒い鎧となった。
共鳴してるのかは知らないが、カタカタと折れた剣が魔力によって元に戻り、姿を変える。
そのままゲシュトとかいう奴をぶん殴った。
校門に当たってうめき声をあげている。
「勇者様っ、危ない!」
息も絶え絶えに誰かが叫んだ。
あっ、そういえば、この子達の怪我ないとな。
そう思った時、身体を何かが貫いた。
そのまま蹴りをいれられて、数メートル吹っ飛ぶ。
「その姿、『勇者』というよりは、『魔王』ですね…?
申し遅れました。ラグド王国第三十二番騎団騎士隊長ミハエル・ラグドネスと申します」
何か、増えたー。
というのが率直な感想です。はい。
さっきのよりは品がよさそうだ。けど、何か無理。
「お手合わせ願います」
お引き取り願います。
もう帰れ。何だ、お前ら。暇なのか。
足に力を入れ、そのまま地を蹴った。
剣と剣が金属音を奏でるその前に、誰かが割り込んできて鳩尾を蹴られる。
「ちょっと、待った。誰の許可あって此処に居るんだ?ミハエル・ラグドネス?
…お前も、何やってんだ」
赤髪の騎士、カインの呆れ声が聞こえた様な気がして、兵士達から安堵の声が上がる。
視界にカインがぼんやりと映って、後輩たちに替わった。
「ミケガサキ王国騎士長候補カイン・ベリアル…。勇者様に貴方ですか…。分が悪いですね。
一端、引くとしましょう。さようなら、勇者様。それとも、次期魔王様?…クスッ、冗談ですが。半分ね」
煙幕の様なものが辺りに立ち込める。
緊張の糸が切れたのか、ただ単に魔力が尽きたのか。
僕は意識を手放した。
歯切れの悪い終わりですねー。
すみません。次回から頑張ります。