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第十話 小規模領土争い 前編

「ほら、剣持って来てやったぞ」


どうも、田中優真です。久しぶりだね、この下り。

現在、訓練所の木陰で一休み中。お昼のギラギラ太陽が憎いです。


「勇者の素質はどうだ、アンナ?」

「飲み込みは早いな。だが、まだまだ甘いっ!行くぞっ!」

「ちょ、ちょっと待っ……ぎゃあああああ!!」


何でも新しい剣が手に入ったらしく、朝からずっとこんな調子。

背景に、ふはははははという効果音付きの吉田大魔王様が降臨しています。案外、守護霊が同じなのかもね。


つまり、僕は丁度良い試し切り相手なわけで…。まな板の上の魚の気持ちをこれまでかと思うほど味わっていた。


「というか、新しい剣なんて必要無いでしょうがっ!お気に入りの剣への愛着はそんなものだったのか!?浮気者っ」

「あー…、言ってなかったっけ?お前が壊したの、お気に入りの愛着の籠った剣」


なーぜー…?


「ほら、お前。アンナとやり合ったときに剣に一発入れただろ?見事に真っ二つ。まだ説明して無かったが、此処に召喚された人々は身体能力が抜群に上がってる。魔法なんぞ無くても、軽くジャンプしただけで鳥と同じ位上がれるぞ」

「空を自由に跳べるのねー、はい、分かりましたー。いっせいの…」

「上がってるのは身体能力だけで、跳べたは良いが骨だけは何の強化も無いから砕けるぞ?」


そういうことは先に言え。


「剣術より、魔術の方が才はあるかもしれんが、剣術はまだ始めたばかりだからな。秘めた才能があってもおかしくない。…一端、私は城へ戻り報告してくる。一日空けるが、留守は頼んだぞ。しっかりやれよ」


サァァ…と長い金髪をなびかせて教官は消えた。

うわー、カッコいい。姉鬼…間違えた、姉貴って感じ。


「俺はちょっと野暮用があるんで少し外すぞ。素振りでもしとけ。しっかりな。三時間時間程で戻る」


そう言ってカインも消えた。

おぉ…。僕、今、フリーダム。久しぶりの自由。三時間で終わるけど。


さぁーて、寝ようかな。

お説教で寝れずじまいだ。暑いけど、木陰は涼しいし問題無い。


「勇者様っ!」

「ちゃんと、やってますっ!!」

「…大丈夫です。分かってますって。教官達居ませんものね。書庫整理任されたんですけど、人出が足りないうえに、上級生いないし、同期もついて行ってるから、僕達五人だけで…。皆だらけちゃって…仕事が捗らないんです。手伝ってもらえますよね?お休みされてましたものね?…体力は有り余ってますよね…?」


ヤダ、この子怖いっ。最後の間は何!?佐藤、僕何かした!?勇者の弱み握って、何が楽しいんだっ!?まだ一睡もしてねーよっ。


「まだ休んでないんですけど…」

「さっさと働いて下さい。ほら、皆待ってますよ」


僕に拒否権というものは存在しないらしく、背中を押されて、書庫に着く。

金箔なのか本物の金なのかは知ったところではないが、とにかく金色の豪華な建物が建っていた。

何、この校舎に不似合いな書庫は。城か?

風紀委員ー、校外の風紀が乱れております。直ちに取り壊しお願いします。


「これ全部…?」

「はい。勇者様担当です」

「僕一人で、全部?」

「人出不足なんで…お願いします。この箱の中の本をこのリストに書いてある本か確かめて並べて置いて下さい。教官、此処よくご利用なさるんで少しでも位置が違うと怒られますよ。一週間全員の掃除洗濯を全てやらねばなりません」


何処のクラスの苛めですか、それは。後に集団リンチと呼ばれますよ、本当に。


だって、二階とかあるんだけど。量が半端ないんだけど。何故、螺旋階段があるのか理解不能なんだけど。


「それじゃあ、頑張って下さい。僕達、図書室に居ますから。終わったら声かけて下さいね」


さわやかな笑顔を浮かべ佐藤はぺこりと頭を下げる。パタンッと扉が閉まった。

困ったな…。教官愛用の書庫じゃ、作業終わって無かったらかなり怒られそうだ。寝るのはお預けということで、まぁ、ぼちぼち頑張ろう。


****


「佐藤、勇者様は、何だってー?」


伊東の問いに、佐藤は読んでいた漫画から目を離す。


「ん、サボろうとしてたし、事情知らないから任せておいた。終わったら来るって」

「えー、駄目だよ。皆でやる約束だよ」


鈴木が少し困りながら言うと、佐藤は溜息を吐いた。


「なら、行って来い。僕は漫画読んでくつろいでるから」

「むぅ…。勇者様、すみません」


そんな兵士達の思惑に気付くはずも無く、優真は黙々と作業を続けていた。


「あっ、魔法つかえば良いのか。おぉ…、楽だな。これなら直ぐ終わる」


一時間経過…。


「一階、終わった…量多すぎる…。一人でやるとか、無理なんですけど…。あぁ、眠い…」


それから三十分経過…。


「…はっ。寝てた…。よし、あとちょっと…」


またまた三十分経過…。計二時間過ぎた。


「ZZZ……」


完全に爆睡。


ピンポンポンポーン…。

書庫内に取りつけられたスピーカーから放送が入る。


『ゴラァ!!』


「ひぃ…!すみません!寝てません!」


よだれを拭きながら、枕代わりに積み立てた本を慌てて本棚に戻す。

きょろきょろと辺りを見回しても教官の姿は無かった。


『此処、ミケガサキ第二十三区ランクB魔法騎士教育訓練所は、我々、ラグド王国第三十二番騎士団が占拠させてもらった!!何処に隠れているか知らないが、アンナ・ベルディウス!降伏するなら大人しく我々の前に姿を表し、新たに召喚された勇者をこちらに引き渡せっ』


ふーん。教官の本名ってアンナ・ベルディウスって言うんだ。初耳、初耳。にしても、今喋ってんの誰?外出中なんですけど。こういう時って、警察に連絡した方が良いのかな。


『早くしないと、兵達の命が無残に散ることとなるっ!お前の部下みたいだが、図書室で漫画を読みあさるとは弛んでるな!』

「「「「「勇者様、助けてー」」」」」


……おっと。今聞きづて成らないことを聞いたぞ?

図書室で漫画読んでただと?


ピー…ガチャンッ!


魔法でスピーカーを乗っ取る。魔眼って便利だね。つくづくそう思う。これで奴らにも聞こえるだろう。


『あー…あー…マイクテスト、マイクテスト…。聞こえてますかー?お返事どーぞ』

「なっ、誰だお前は!?」


お前がお探しの勇者です。まぁ、とにかく聞こえてるみたいだ。なら良い。


『バァーカ、バァーカッ!!人をパシるからこんな目に遭うんだよ!ざまぁっ!』

「な、ななな…我が王国を愚弄するか!万死に値する!」


いや、違います。君に言ったんじゃないから。何、心当たりあるの?


そういえば、ラグド王国のどうたらとか言ってたな。

確かミケガサキの隣国で、魔軍に一番に領土にされた国らしい。治安が悪く、奴隷商や娼婦が多かったとか。にしても、助けに行かないと怒られるよな。それじゃあ、助けに行くとしますか。僕、一応、勇者だからね。

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