第5話:サイレンの鳴る朝、絆のメロディ
昨日の衝突から一夜明け、あかりは意を決して学校へ向かいます。
仲間との絆、そして迫るライブへの想い。
青春全開の第5話ですが……外の様子が少し変です。
「……あーあ。よく眠れなかったな」
重い瞼をこすりながら、私はベッドから起き上がった。
昨日のレッスンのこと、美姫と言い争ってしまったことが頭から離れなくて、何度も夜中に目が覚めてしまったのだ。
「謝らなきゃ。……みんなにも、美姫にも」
私は鏡の前で両頬をパンと叩き、気合を入れた。
今日は大事な最終調整の日。
リーダーの私が暗い顔をしてちゃダメだ。
制服に着替え、トーストを口にくわえて家を飛び出す。
いつもの通学路。
空は抜けるような青空なのに、どこか空気が重たく淀んでいる気がした。
『ピーポー、ピーポー、ピーポー……』
「……また?」
駅に向かう大通りに出た瞬間、けたたましいサイレン音が耳をつんざいた。
目の前を、赤色灯を回した救急車が猛スピードで走り去っていく。
一台だけじゃない。すぐ後ろから、消防車とパトカーも続いている。
「なんか、すごい数だね……」
信号待ちをしていたおばさんが、不安そうに眉をひそめていた。
「この辺でガス爆発でもあったのかしら? さっきからずっと鳴り止まないのよ」
「怖いですよね。私も昨日からずっとサイレン聞いてる気がします」
私はおばさんに愛想笑いを浮かべつつ、スマホで運行情報をチェックした。
『〇〇線:人身事故の影響で運転見合わせ』
『△△線:線路内人立ち入りのため遅延』
「うわ、電車も止まってるじゃん……」
画面には『遅延』の赤い文字が並んでいる。
最近、人身事故が多い気がする。
みんな疲れてるのかな。
結局、私はバスを使って少し遅れて学校に到着した。
教室に入ると、美姫が窓際の席で外を眺めていた。
「あ、美姫……!」
「あかり……」
気まずい沈黙。
でも、私は逃げずに美姫の元へ歩み寄った。
「昨日はごめん! 私、焦ってて……みんなのこと全然考えてなかった!」
頭を深く下げる。
すると、頭の上にポンと手が乗せられた。
「もう。……謝るのが遅いよ、バカあかり」
顔を上げると、美姫がいつもの優しい笑顔で笑っていた。
「私も言いすぎた。ごめんね。あかりが本気なのは分かってるから」
「美姫ぇ~……!」
私は思わず美姫に抱きついた。
クラスメイトたちが「はいはい、ごちそうさま」と冷やかす声が聞こえる。
ああ、やっぱりこの場所が好きだ。みんなと一緒なら、何でもできる気がする。
「よし! 今日の放課後練習、最高のものにしよう! 明日のライブのために!」
「おう!」
私たちは拳を突き合わせた。
窓の外では、相変わらず救急車のサイレンが遠くで鳴り響いているけれど、今の私たちには『ノイズ』にしか聞こえなかった。
放課後。
レッスンルームの空気は最高だった。
昨日のギスギスした雰囲気は嘘のように消え、みんなの動きも心も一つになっていた。
「ワン、ツー、スリー、ポーズ!」
最後の決めポーズが決まる。
完璧だ。これなら、明日のライブで絶対に一番になれる。
「はぁ、はぁ……! 最高! みんな、今日はもう上がろう!」
「お疲れ様でしたー!」
充実感に満ちた顔で、部員たちが帰っていく。
美姫も汗を拭きながらカバンを持った。
「あかり、一緒に帰る?」
「あ、ごめん。私、日誌書いてから帰るから。先行ってて!」
「りょーかい。あまり無理すんなよー。また寝落ちしたら風邪引くからね?」
「分かってるってば!」
手を振って美姫を見送る。
再び静寂が戻ったレッスンルーム。
私は達成感と心地よい疲労感に包まれながら、パイプ椅子に座り込んだ。
日誌を開く。
『〇月×日 今日は最高の練習ができた。明日は絶対に成功する!』
ペンを走らせる手が重い。
昨日の寝不足と、今日の全力ダンスで、限界が来ていた。
「……ちょっとだけ。5分だけ……」
私は机に突っ伏した。
遠くで聞こえるサイレンの音が、子守唄のように意識を揺らす。
(明日は、どんな衣装を着ようかな……)
(お客さん、いっぱい来てくれるといいな……)
輝かしい未来を夢見ながら、私の意識は暗転した。
それが、平和な世界での『最後の眠り』になるとは知らずに。
仲直りできてよかったね、あかりちゃん!
外では大変なことが起きているみたいですが、彼女たちはまだ知りません。
次回、第6話。
いよいよ『茜色の教室』で目が覚めます。
日常の崩壊、解禁です。




