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004 二人だけの秘密



 王都に来てから二ヶ月が経った頃のこと、今日は週に一回の休日だった。せっかくなので王都の散歩しながら好きなポエムでも書こう。そう思い、朝食のパンにイチゴジャムを塗っていた時のこと。対面に座っているメイが言った。



「おい、ナナちゃん。今日休みだろ。今日は一日あたしにつき合えよ」


「つき合えって、どこへ行くんだ?」


「えへへ、秘密だ秘密。凄いところへ連れて行ってやる」


「凄いところ?」



 俺は半信半疑で首をかしげた。いつからか、メイは俺のことをナナちゃんと呼ぶようになっていた。



 俺たちの様子を見て何を思ったのか、ハルクは二度頷いた。



「ナナキ、連れて行ってもらいなさい。遊びを覚えることも、人間としての修行じゃぞ?」


「おいメイ。危険なところに行くなよ」



 主人のダリアンが目に力を込めて注意した。



「パパ、大丈夫だって。危険な場所には行かないよ」


「それなら良いけどな」


「あなた、大丈夫ですって。危険なことが起こっても、ナナキちゃんが何とかしてくれるわよ。少年剣士の噂は、もう町じゃ有名になっていますからね」



 恥ずかしくなって、俺は頭の後ろを右手でかいた。そうなのである。俺はいま、一躍有名人だった。大人を次々とたたき伏せる子供ということで、神童と言われている。今回王都に来たのは、将来の魔王退治のために仲間を探しにきたのだと言われていた。噂には尾ひれがついて、一人でに転がっている。



 メイが満足顔を浮かべていた。



「そうそう、ナナちゃんがいれば何が起こっても余裕だよ。じゃあそういうことで、ナナちゃん、メシ食ったら行こうぜ」


「ああ、分かったよ。でも、どこへ連れて行ってくれるんだ?」


「秘密秘密」



 彼女は笑顔を浮かべて人差し指を口元に掲げた。



 朝食後、メイは俺を連れ添って出かけることになった。メイの髪は黒くて長い。いつも赤いカチューシャをしている。それがとても似合っていてチャームポイントだった。瞳ははっきりとした二重であり、天使のような美貌である。これで中身が男っぽくなければパーフェクトなのになと俺はいつも思ってしまう。



 人の往来が多い王都の道を並んで歩きがながら、メイが聞いた。



「ナナちゃんはどうしていつも、茶色いジャケットを着ているんだ?」


「この服か?」


「ああ」


「このジャケットは、師匠からもらった物なんだ」


「師匠って、ハルクさんか?」


「いや、違うよ。セミヅク師匠の方だ」


「方って言われても、あたしには誰か分かんないけど……」


「最初の剣の師匠なんだ。セミヅク師匠は超強いんだ。今ごろ、魔王を倒してるかも」


「ふ、ふーん。とにかく、凄い人からの贈り物なんだな」


「ああ、セミヅク師匠は凄い人なんだ。人を笑わせるのが上手でさ」


「ふーん」



 俺たちは歩いて行く。東の方の城壁に向かっていた。俺は眉をひそめて聞いた。



「おい、メイ。この先に何があるんだ?」


「秘密秘密。いいから、騙されたと思って着いて来いって」


「わ、分かったけど」



 歩きながら、今度は俺が聞いた。



「メイってさ。男っぽいよな。だから話しやすいんだけれど」


「男っぽい? あたしがか?」


「ああ。男勝りで、負けず嫌いで、ぶっきらぼうな口調で、面白いよ」



 メイは赤いカチューシャに両手を当ててその位置を直し、それから返事をした。



「これでもあたしは、女の子っぽく振る舞っているつもりなんだけどな」


「はははっ」


「何だよ。あたしがオトコオンナだって?」


「そんなこと言ってないだろ。ただ、女の子っぽいしゃべり方をすれば、もっとモテるんじゃないかと思ってさ」


「モテるとか興味ねーよ。第一、学校に良い男なんていねーし」


「そうなのか?」


「うん」


「じゃあ俺はどうだ?」


「うはは、お前はチビだからダメだ」


「何だよそれ」


「……いつかあたしより背が高くなったら」


「背が高くなれば良いのか?」


「な、なんでもない! それより、そろそろ着くぞ?」



 メイがその場所に向かっていく。壁に隣接して立っている民家が二つあった。その民家の間に彼女がずかずかと入って行く。そして井戸の奥へと歩いた。壁の根元にヒビが入っており、メイは立ち止まって壁の割れ目へと手を伸ばす。



「ほら! ナナちゃん。ここから外に出られるんだ」


「外に出られるって。それって、いけない事なんじゃないのか?」


「大丈夫大丈夫。あたしの友達たちはみんな、ここから外に出て遊びに行くんだ。大人たちに見つからなければ大丈夫だって」


「ほ、本当か? 大丈夫かなあ」


「何だよ、びびってんのか?」


「び、びびってねえよ。じゃあ。行くか?」


「おう、その調子だぜ!」



 俺たちは二人で協力して壁の破片をどかす。すると子供一人が通り抜けられるような穴が空いた。通り抜けて外に出る。そこには広大な平原があった。モンスターらしき影は今のところ映らなかった。



「こっちだよ」


「あ、ああ」



 メイが歩きだす。俺はまた隣に並んだ。



「ナナちゃん、とっておきの場所に案内してやるからな」


「とっておきの場所って?」


「いいからいいから。っと、その前に、ステータスオープン」



 メイはその水色の画面を出して、アイテム欄からショートソードを出した。なるほど、モンスターが出たら戦わなきゃいけないよな。俺もステータスを出して、鞘に入れられた蒼穹を手にもった。



 山の方へ向かって二人で歩いて行く。途中、モンスターの影が見えても、近くには寄ってこなかった。メイはモンスターを避けて歩いていた。山道に入り、途中、枝分かれしたところを左に曲がり小さな道に入った。近くにスライムの姿が見えた。まあ、スライムは弱い上に凶暴なモンスターでは無いので、危険視することは無いだろうし、無視して大丈夫だろう。



 やがて、川があった。川沿いを少し登った先に泉があった。泉の中には女神像が立っている。メイはそこで立ち止まる。



「ここだ!」


「凄い! 花が咲いてる!」



 泉の周りには六月の色とりどりの花々が生い茂っていた。色は赤、紫、黄色。群生する花々が綺麗である、俺はしばらく見入ってしまい、うっとりとした。メイはそんな俺の様子を見て満足したのか、へへと笑った。そして草原にどっかりと座り込んだ。



「よし、おやつにしよーぜ」


「おやつ? おやつなんて持ってきてるのか?」


「ああ、お前にもやるよ。ステータスオープン」



 メイの隣に俺も座った。メイは画面のアイテム欄から棒のついた黒い飴を取り出した。一本俺に差し出す。



「ほら、飴」


「あ、ありがとう」



 俺はその黒い飴を眺めてみた。黒くてつやつやとしている。試しに口に含んでみた。甘い、だけど苦い! 何だこれは、苦みが強すぎる。俺は目の周りを震わせて聞いた。



「何だこの飴?」


「ウマいだろ? あたし特性のコーヒー飴だ」


「メイ、お前が作ったのか?」


「えへへ。甘苦く作ったからな。そこがウマいんだ」


「苦いって、苦すぎだろ」


「何だって? 苦いのがウマいんじゃねーか? ったく、お子様のナナちゃんには分かんねーかなあ? この大人の味が」


「な、何だと?」


「これが大人の味って奴さ。分からないなら、舐めなくても良いんだぜ?」


「な、舐めるよ。俺は、もう大人なんだ」


「ふーん。背は低いけどな」


「お、男は、これからまだまだ伸びるんだ」


「そりゃあ羨ましい話だ。じゃああたしは女だから、胸がデカくなったりしてな」


「し、知らねーって」


「うはは、照れてるナナちゃん、可愛いーな」


「な、何だよ。からかうなよ」


「あははっ」



 そして二人で苦すぎる飴を舐めた。メイがステータス画面を見せてくれと言うので、俺は表示させる。スキル欄を見て、彼女は眉をひそめた。



「ナナちゃんは、空七変流剣術スキルと、その体術スキルと、あと口笛しか覚えてないな」


「ああ、そうなんだ。空の剣術と体術以外は、口笛しか無くってさ。ダサいスキルだよな本当。だけど職業が遊び人だから、仕方無いんだ」



 メイはスキル欄の口笛の説明文に目を通す。



「ええっと、口笛をピヨロローと吹くと敵を呼び寄せることができる。ピヨリリーと吹くと、近くの敵を挑発することができる、って書いてあるな」


「うん、そうなんだ」


「試しに吹いてみてくれよ」



 そう言ってメイは立ち上がった。俺もつられて地面を立つ。飴は舐め終わっていた。



「馬鹿、モンスターが寄ってくるぞ」


「大丈夫だって。この辺、スライムしかモンスターがいないからさ。お前も来る時見ただろ? 大型モンスターなんていねえって」


「ま、まあ、スライムぐらいなら良いか」


「うんうん」


「でも、油断するなよ。スライムだって、時には反撃してくるんだぞ?」


「分ーかってるよ」


「じゃ、じゃあ」



 俺は口笛をピヨロローと吹いた。右手の方の茂みの向こうから三体のスライムが寄ってくる。そのうち、一匹はメタルスライムだった。肌が鈍色に輝いている。マジか!



 メイが驚いたように目を丸くした。



「嘘!」


「メタルスライムか!」



 その存在はハルクから聞かされていた。ステータスのレベルを上げるためにはモンスターを倒して経験値を手に入れなければいけない。ステータスが上がるたびに身体能力は上昇する。そして、メタルスライムは弱いくせに、普通のスライムの千倍の経験値を持っていると聞いていた。



「ナナちゃん! 倒そう!」


「ああ、逃がすなよ!」



 俺は鞘に入っている蒼穹を構えた。とりあえず、周りの雑魚スライムから片付けてしまおう。抜刀術を繰り出す。



 スパッ スパッ。



 スライムは簡単に一刀両断されて、地面に沈んだ。



 メイが興奮した様子で、メタルスライムに近づいていく。ショートソードを振るった。しかし、その硬い肌に弾き返される。



 カンッ!



「硬っ、くっそこの野郎!」



 メイが剣を思いきり振りかぶる。ダメだ。大きく振りかぶり過ぎである!



 メタルスライムはメイの剣をひらりと躱し、大きく跳ねて彼女の腹に体当たりをかました。



「ぐはっ」


「メイ!」



 俺は助太刀に入り、メイの前に立つ。鈍色に光るスライムを睨み付けた。しかし、あろうことかメタルスライムは逃げようと後ろを向いてダッシュする。もの凄いすばしっこさだ。逃がすものか! 俺は口笛をピヨリリーと吹いた。モンスターを挑発したのである。メタルスライムはまた反転して、こちらへと向かってきた。鈍色のそいつが唱える。



「ファイアーボール!」



 ゴォッ。



「なっ!」



 火球が発射された。俺はびっくりして、メイに覆い被さる。



「キャアッ!」



 二人でその場に転んでファイアーボールを避けた。俺はすぐに立ち上がり、剣を構え直す。くそ、こいつ魔法まで使えるのかよ。



 メイも立ち上がった。



「お、おい、ナナちゃん、倒せるのか?」



「任せろ!」



 メタルスライムがこちらへと向かってくる。



「空七変流、イカヅチ」



 俺は素早い足払いを繰り出す。メタルスライムは空中に跳ねて避けた。その体へ下から上に斬り上げる。空にゴーンッという雷鳴の音がした。空の剣術は空模様を変化させるのだ。



「ピイーッ!」



 メタルスライムが空中で悲鳴を上げる。俺はモンスターを着地させるつもりはもう無かった。上に何度も斬り上げて、鈍色のそいつをお手玉するように斬り続ける、やがてメタルスライムは力尽きて、どろりと空中で溶けてドロドロと地面に落ちた。



「すっげ! ナナちゃん、やったー!」


「何とかなったな!」



 俺とメイは興奮して自分のステータスを出し、レベルをチェックした。お互いのレベルが1上昇していた。やっぱり、メタルスライムは経験値が高い!



「なあ、ナナちゃん! もう一度、口笛吹いてみたらどうだ? メタルスライム来るかもよ?」


「いや、さすがに来ないだろ。メタルスライムはレアだから」


「ふーん、まあ、そりゃあそうか」


「ああ。でも、この辺って、メタルスライムが出やすいのか?」


「いや、初めて見た。だけどナナちゃん、もう一回! もう一回だ」


「わ、分かったよ」



 俺はそれからもピヨロローと口笛を吹いた。敵が寄ってきて、全てが普通のスライムだった。メイはもう一回もう一回と何度も言った。俺は期待に応えて、ピヨロローと口笛を吹く。やはりメタルスライムは現われない。だけど、十五回目の口笛を吹いた時、また一匹のメタルスライムが現われた。



「ナナちゃん! 来たぞ!」


「ああ。絶対逃がさないぞ!」


「なあ、ナナちゃん、モンスターがいる状態で、口笛をピヨロローって吹いたらどうなるんだ?」


「え? それは」



 試してみたことが無いから分からない。俺は実験として口笛をもう一度ピヨロローと吹いた。そしたら驚いたことに、茂みの向こうからもう二匹のメタルスライムが顔を見せた。マジか!



「やっぱり!」



 メイは予想通りの結果だったのか、テンション高く声を上げた。どうやら、敵がいる状態で口笛をピヨロローと吹くと、同じ敵が寄ってくるようだ。それが分かった。っていうか、これって凄いことだ。マジでさ。



「メイ、メタルスライムを狩りまくりだ!」


「ナナちゃん、もっともっともっと呼んでくれ」


「待て、倒しながら少しずつ呼ぼう」



 そして、俺たちは今日、昼ご飯を食べることも忘れてメタルスライムを狩り続けた。時々撃ってくるファイアーボールは避けた。いつしか、メイは目を閉じて戦っていた。彼女が唱える。



「空七変流、狐日和!」



 その技は目をつむることにより、視覚以外の五感を限界まで研ぎ澄ませて、回避に特化する技だった。もちろん回避後にカウンターを撃つのである。空はお天気だというのに、この泉だけ小雨が降ってきていた。狐雨だった。



 メイは生まれつき鼻と耳がとても良い。目をつむっていても匂いと音だけで敵の動きが分かるようだ。そんな彼女には狐日和という技がぴったりである。メタルスライムの攻撃を避けては反撃を繰り出している。その狐日和だけ言えば、彼女は空の剣士として百点満点だった。



 夕方。俺たちのレベルは上がりに上がり、二人ともが10レベルを超えた。普通、大の大人がどれほどモンスターを倒す経験を積んでも、そのレベルは20レベル前後である。それも、騎士や冒険者など、モンスターと戦うことを生業とする人々の話だ。普通のモンスターがいかに強かろうと、手に入る経験値は少ないのだ。だというのに、十才の俺たちのレベルは一日で10を超えてしまった。メタルスライムに出くわす事がどれだけラッキーであるかがお分かりいただけるだろう。



 帰路を歩いている途中、メイはとても嬉しそうに言った。



「ナナちゃん、最高だよ! 毎日泉に来よう」


「毎日って、メイは学校と道場があるだろ」


「あ! そっかぁ。毎日は無理かー」


「うん、仕方無いけど」


「じゃ、じゃあさ。休日は毎回来よう! それでさ、レベルを上げまくってやるんだ! あたし、大人よりも力が強くなれるかも!」



「俺もだ!」



 顔を見合わせてニュフフと二人は笑う。メタルスライム狩りはウマウマだった。ここに来て、俺は初めて遊び人という職業に感謝していた。口笛はマジ神だ。これなら俺は、一年で30レベルになるのも夢ではない。



 ステータスはMID(精神力)とLUC(運)の値の伸びが良く、STR(筋力)など他の値も順調に上がっていた。新しい強いスキルは覚えていないが、これならばステータスで相手を圧倒することができるようになるかもしれない。だとすれば、遊び人という職業は最低ランクながら、最強の職業なのかもしれなかった。



 穴のある外壁にたどり着くと、二人でくぐり抜けてしっかり破片の塊を押し込んだ。俺たちはほっとため息をついて、家路への石畳を歩く。



 メイが「ちょっと待て」と言って立ち止まった。俺も足を止める。彼女がささやくよう言った。



「ナナちゃん、メタルスライムのことは二人だけの秘密だぞ? 家に帰っても、大人たちに言ったりするなよな」


「分かったよ。メイこそ、学校で広めたりするなよ」


「しねーよ。するわけあるか! あたしたちだけの秘密なんだから。約束だぞ?」


「ああ、約束だ」


「じゃあ、指切りげんまん」



 メイが右手の小指を差し出す。



 俺は笑みを浮かべて小指を出し、彼女の指に絡ませた。



「「ゆーびきーりげーんまーん嘘つーいたーら……飲ーます!」」



 二人とも笑顔で指を離した。茜色の夕日が西の城壁に落ちていく。メイが焦ったように身じろぎした。



「やべっ、遅くなったらパパに怒られちまう。ナナちゃん、急ぐぞ!」


「ああ、行こう」



 そして、俺たちは夕日の落ちる方角へと早歩きで歩いたのだった。



 帰宅するとハルクはどこへ行っていたのかを聞いた。町を散策したり、公園で昼食を摂ったりしていたのだと俺はごまかした。メタルスライムのことは二人の絶対の秘密であった。



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