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117 目を覚ませポックル

 ギルディスがやって来た茂みの向こうからもう一つの足音が響いてきた。



「イーフィッフィッフィッフィ! 待て待て待てー! おじさーん、どこ行くのー!?」



 くそったれ、ポックルだ。



 舌打ちをしつつ俺は立ち上がった。剣の鞘に左手を当てる。



 藪の向こうからぬっくりとした図体の男が出て来た。のっぺりとした顔にわし鼻、緑色の鎧。幼馴染みの悪友である。



 周囲に注意を俺は呼びかけた。



「リリア、ギルディスさん、俺の後ろへ!」


「あ、ああ」


「すまん! ナナキくん、頼む」



 二人が後ろに下がる。



 ポックルに歩み寄って俺は言い放った。



「おい、ポックル! 目を覚ませ!」


「どひひー! あれぇ? ナナキじゃないデズガー! どうしてこんなところにいるのー?」



 ポックルは未だに麻薬が体に回っているようで。ラリッておりおかしくなっている。



 突進して襲いかかってきた。



「ナナキちゅーん、俺と、あっそぼー!」


「くそ、こうなったら!」



 実力行使だ。俺は右手に剣を抜いて地面に捨てる。代わりに両手で鞘を持った。



 彼が唱える。



「空七変流、天の川」


「空七変流、月夜舞(つきよまい)



 俺もつぶやいた。



 空が夜になり月が出る。



 俺は呼吸を止めて跳び上がり、連続斬りを繰り出す。今、一呼吸の内に五連撃を打つことができた。



 ポックルの顎、首、脇、腹、太ももに鞘を打ち付ける。



「いっ、痛ででー!」



 天の川は不発だった。



 ぬっくりとした図体の男はたまらず悲鳴を上げて両手で打たれた部位を押さえる。夜が終わり、また空に太陽が昇った。



 今がチャンスだ! 俺は鞘も捨ててポックルに殴りかかる。



「この野郎! 目を覚ませごらー!」


「め、めめめめ!」



 ポックルは訳の分からない単語をつぶやいている。



 俺の右拳が彼の顎に決まる。



 ボフッ!



「ぐわー!」



 ポックルが背中から倒れて行く。俺はその腹に馬乗りになり、両手の拳を彼の顔面に打ち付けた。ボコボコにする。



「ぐわっ! どわっ! ぶわっ! どわっ!」


「ポックル! この野郎! 目を覚ませ! 目を覚ませ!」


「痛い! 痛で! やめろ! やめっ!」


「ふざけんじゃねえ! ふざけんじゃねえ!」 


「わ、わわわわ、分がったから、もう殴るなってえ!」


「この野郎! この野郎! 目を覚ましやがれってんだ! 殺すぞこら!」



 どん、どん、どん、どんどんどんどんっ!



「おい、ナナキ! 分がったっでえ! 分がっだっでえ!」


「この野郎! 麻薬なんか打たれやがって! 目を覚まさねえと! 許さねえぞこら!」



 ドンドンドンドンドンッ!



「ナナキ! 痛いって! 痛え!」


「この野郎! この野郎! この野郎おおお!」


「ナナキ! 顔が痛え! それ以上殴るな! ぶがっ!」


「さっさと目を、覚ましやがれえええっ!」


「どわっ! ごわっ! ぶがっ! ぐわっ!」


「おいもうやめろナナちゃん」



 リリアの声がして、彼女が俺の右腕を掴んだ。何だよ、まだ殴り足りないぞ俺は? ぜーぜーと息をする。気づけばポックルの顔はタコのように真っ赤だった。傷らだけである。



 ちょっと可哀想だった。殴りすぎである。一体誰がやったんだろうな。



 緑色の鎧の男が涙目で訴える。



「おい、ナナキ、もう分かったからどけよお」


「お、おお」



 俺は立ち上がった。ポックルの腹からどいてあげる。鞘と剣を拾った。剣を戻して鞘を腰に装着する。



 ポックルが立ち上がり、近づいてくる。顔がめっちゃ腫れている。ははは、こいつタコみてえ。



「おいナナキー! 一体何がどうなってるんだ? 俺、記憶が全然ないよお」



 どうやらラリっていた時の記憶がポックルは飛んでいるらしい。



 俺は若干頭を下げてため息をついた。



「おいポックル。いまセミヅク師匠が王都に魔法で月を落とそうとしている。止めるぞ」



 こうなったらリベンジである。次こそは師匠に負けないと俺は意気込んだ。というかさっきのはいきなり知らない技を使われたから負けたのであるし。



「ああー。確かそうだったね。分かったよう、じゃあ、二人でやるか?」


「ああ!」


「相手がセミヅク師匠だろうと、俺とナナキが揃えば無敵じゃね?」


「当然だ! ポックル、行くぞ!」


「おうよお!」



 俺たちは右腕を伸ばしてがっしりと叩き合わせた。幼い頃からの最強コンビである。ここにジョウ兄とスウがいれば、もっと頼もしいのではあるのだが。



「おい、あたしも行くぞ!」



 振り返ると、リリアが両手を腰に当てて凜々しい面をしている。



 俺たちは頷いた。



「おう、リリア、お前も来るか?」


「眠り姫のリリアちゅんなら大歓迎だよ!」


「あたぼーよ!」



 彼女が右手の拳を掲げて頷く。



「お、俺は、足を引っ張りそうだから遠慮しておこう」



 ギルディスが両手を胸の前に掲げていた。俺は彼を一瞥して頭を下げる。



「ギルディスさん、一足先に王都へ戻って、テモネ山の現状を王宮に報告してください」


「わ、分かった。三人とも、頼んだぞ。月を止めてくれ」


「分かりました」



 俺は頷く。そしてリリアとポックルに声をかけた。



「二人とも、行こう!」


「おう! 最強トリオでゴーだ!」



 ポックルが唇の端に笑みをたたえる。



 リリアの表情がげんなりとした。



「最強トリオってネーミングセンスは、どうにかならないのか?」


「何を言ってるんだよリリアちゅん、トリオって格好良いじゃん!」


「いや、ダサいだろ」



 リリアが苦笑している。



 俺は先頭を歩き出した。



「トリオでも何でも良い。とりあえず行くぞ!」


「おう!」


「オーケー!」



 三人はまた山を登り出す。



 空を見ると、黄色い球体がすぐ間近まで迫っている。槍が突き刺さっており、月の進行を防いでいるようだ。



 俺たちがセミヅクを倒すまで、落ちなければ良いのだが……。



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