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114 アウラ

 ――数分前。



 水の精アウラというスキルを俺は唱えてみることにした。ステータス画面を出し、そのスキル欄に書いてある呪文を読む。



 ――禁忌級魔法。



(なんじ)我が妻、アウラよ。宇宙法則を()()げ、許されざる禁忌(きんき)を犯した我を幾許(いくばく)かの愛で寄り添い(たま)え。共に行こう地獄の果てまでも。召喚、水の精アウラ」



 唱えた瞬間、俺の体に大きな大きな魔力負荷がかかる。



 ぐううううぅっ。



 やばい、体が爆発しちまう。



 ――耐えろ!



 ……はぁ、はぁ、はぁ。



 全身の毛の穴から血が噴き出るような痛みがあったんだ。



 目前の地面に水のしずくが降った。水はやがて大きな奔流となり、一人の女性を形作る。その姿は青い水のようであったが、確かに記憶の中にある最愛の妻の美しい顔があった。



 俺は目をみはった。



「アウラ、なのかぁ……?」


「アナタ……」



 彼女が歩いてきて両腕を開く。俺の体を優しく抱きしめてくれた。俺も夢中で抱きしめたんだ。アウラ、アウラよ、本当に蘇ったのか、マジ、なのか……?



「ママ、なの?」



 月落としの魔法に集中をしているソラヨミが振り返った。目に涙を浮かべていた。今にも泣き出しそうな面だ。



 こいつはいま6歳である。アウラが死んだのは二年と少し前のことだ。アウラの顔を娘が覚えているかは怪しかった。だけど――。



 アウラは俺の体から手を離し、娘に近づいてその髪を撫でた。



「ソラヨミ、ヒサシブリ」


「ママー!」



 ソラヨミは覚えていたようだ。喜色満面になり、目尻からしずくをぼろぼろとこぼす。



「馬鹿! ソラヨミ、今は月落としに集中しやがれ!」



 今にもアウラに抱きつきそうな娘を俺は怒鳴りつけた。



「ご、ごめんパパ! 分かった」



 ソラヨミが目尻を指でぬぐって、また月のある空中に顔を向けた。



「アナタ、ソラヨミニハモットヤサシク……」


「あ、ああ、悪いなぁ。感情が高ぶっちまった」



 俺はかぶりを振った。胸が熱い。熱すぎる。どうやらアウラには記憶があるようだ。また会えて本当に良かった。本当にだ……!



 おかしいな、目の奥が熱いんだ。不覚にも涙がこぼれそうだ。愛しいアウラ。大好きなアウラ。懐かしい。また会えるとは思ってもみなかった。もう、絶対に離さないぞう。



 ……さあて、後は王都を破壊するだけである。アウラを殺したジーアスへの復讐劇の始まりだ。



 ふと後ろで足音がした。



 あーん、今度は誰が来やがったんだ?



 振り向くと、見覚えのある茶色いジャケットを着た少年が歩いてくるところだった。俺がプレゼントしたジャケットと似たような色と形の服を着ていた。ふにゃふにゃとした猫っ毛にブルーの瞳。



 やって来たのは俺の一番弟子だった。くはは、傑作だ。仕方無く声をかけてやることにする。右手を胸の前に掲げた。



「よお、今度は虹小僧が来たかあ?」


「せ、セミヅク師匠?」



 ナナキがわなわなと表情を震わせた。



 忘れもしねえ。十年前に空の剣術を教えてやった捨て子のガキだった。



 俺は懐かしくて笑っちまう。



「久しぶりだなぁ、虹小僧。お前、背丈がデカくなったなあ」



 俺の足下にいる黒髪の女が苦しそうにうめき声を上げた。



「う、うぅぅ……」



 ナナキは瞳を尖らせて強い口調で聞いた。



「セミヅク師匠! リリアに何をしたんですか?」


「リリアァ? ああ、この黒髪の女の名前か。へへ、食ってやったぜ。ウマかったぞう。ちょっと酸っぱかったけどなあ」



 リリアのならした実を食うことによって、アウラを蘇らせることが無事に出来た。ああ、良い気分だ。天に昇る気持ちとはこの事だろう。



 ナナキが暗い暗い瞳になり、顔を歪めた。



「セミヅク師匠、どうしてこんな事をしているんですか?」


「どうしてか、かぁ? これは復讐だ。俺の妻、アウラを殺したジーアスに対するな」



 ナナキは少し逡巡して考えているようだった。そして抜剣し、剣の切っ先を俺に向ける。馬鹿が! 弟子が師匠に勝てるとでも思っているのかよ。



「悪いが、邪魔させてもらいます」



 だけどここは一つ、アウラにやらせてみようと思った。最愛の妻であり、強力な魔法スキルであるアウラに。さて、どんな戦いを見せてくれるのだろうか? くはは、楽しみでならん。



「おう! やってみろ虹小僧! アウラ、やれ!」


「アナタハ、ワタシガ、マモリマス」



 アウラが走リ出した。右手を振り上げてナナキに襲いかかる。



「空七変流、虹空」



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