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112 虹小僧

 乗馬して大地を駆けていた。



 俺はこれまでにも馬に乗ったことがあった。旅をする際、乗ることもあるだろうなと思って、テテト村にいた時に練習したのである。



 王都の東門から外に出る。騎士団長ギルディスがいてくれたおかげで、門衛は顔パスで通してくれた。



 早く、リリアを助けなければいけない。



 ギルディスは緑大蛇ギルドのアジトの場所を知っているようだった。



「着いて来い!」



 先ほど俺にそう言って、ギルディスが先頭を疾駆する。



 テモネ山の登山口から駆け上がり、真っ直ぐに上を目指した。鬱蒼とした木々そして藪が辺りには生い茂っている。道には枯れ葉がパラパラと落ちており、馬がそれを踏みしめて山道を登って行く。



 それからも馬に揺られながら十分も経っただろうか?



 見えた!



 崖の上にロッジが五つ並列して立っている。



「ここだ!」



 ギルディスが叫んで教えてくれた。俺たちは馬を止めて降り、一つ目のアジトの中へと入っていく。



 中からは変な香りがした。酒ともタバコともつかない刺激臭に、俺は左手を鼻に当てて顔をしかめる。まるで麻薬のような匂いだ。



「よーお! ナナキかっ。イーフィッフィフィッフィ。殺してやるよお!」



 室内には気の狂ったような声で笑うポックルがいた。どうしたんだこいつ!? 様子がおかしい。



「お、おい、ポックル、どうした?」


「くく、あはぁ、あはははははっ! 俺は、俺はもう終わりだあ! そしてお前も、お前も終わりだあ!」



 何を言っているのか分からない。ポックルの顔は青く変色しており快感に酔いしれている。その表情は恍惚としていた。



 ギルディスが断定した。



「クープルを吸ったか」


「クープル!?」



 麻薬のことである。俺は顔から血の気が引いた。まさかポックルのやつ、誰かに麻薬を打たれたのか?



 彼がこちらへと歩いてくる。



「イーフィッフィッフィッフィ、殺しちゃうぞう。ソラヨミちゃんの魔法を止めようとする者は、全員死刑なんデズヨねええええ!」



 ソラヨミとは誰だろう?



 分からないが、ポックルは今からやる気のようだ。俺は剣の柄を左手で触った。こうなったら相手をするしかない。だけど殺したくは無かった。当然である。幼馴染みだからだ。



 ギルディスが俺の右肩に手をぽんと置いた。



「ナナキくん、先に行け。この男の相手は俺がする。先に行って、月を落とそうとしている魔法使いを止めるんだ」


「だ、大丈夫ですか? ギルディスさん。ポックルは、はっきり言って強いですよ?」


「大丈夫だ。俺には王都騎士団流の剣術があるからな」



 そう言ってギルディスは口の端に笑みを浮かべた。抜剣する。ロングソードの刀身がぎらりと光る。



 俺は一瞬考えて返答した。



「ギルディスさん、ポックルを頼みます」


「ああ、行け! 行って止めてきてくれ」


「分かりました!」



 俺は振り返ってロッジを出た。



「イーフィッフィッフィッフィ! そりゃー!」



 背後ではポックルが派手な声を上げている。ギルディスに襲いかかっているようだ。



 アジトから真っ直ぐに崖の上まで俺は走った。


 見えてきた。青いローブの小さな女の子が魔法を唱えている。こいつだ! この少女が月を落とそうとしている。その足下には白い魔法陣が広がっており、陣の上に乗っている者の魔力を吸い取っているようだ。



 少女の後ろには緑色の鎧を着た男が十数人いて、気絶して地面に寝そべっていた。ポックルの部下たちである。なるほどな、少女はこの人間たちを魔法の燃料にしているらしい。



「よお、今度は虹小僧が来たかあ?」



 青いローブの女の子の隣にいる男を見て俺は驚愕した。野獣のような風貌。モンスターのように鋭い双眸。体毛の濃い両腕。顔には無精髭も生やしている。



 俺は立ち止まり、顔をわなわなと震わせた。



「せ、セミヅク師匠?」



 忘れもしない、5歳の頃の剣術の先生がそこにいた。顔つきは若干老けているが、確かに彼は思い出の中の恩人である。



「久しぶりだなぁ、虹小僧。お前、背丈がデカくなったなあ」



 セミヅクは満足そうに笑っている。彼の隣にはもう一人、水の精霊のような全身青色をした女性がいた。



 妙齢であり美しい相貌、重ね着のローブを着ている、とは言っても体も服も水で出来たような青だ。こいつは人間じゃない。



 セミヅクの足下の地面にはリリアがいた。気絶しているのか瞳を閉じて眠っている。軽装鎧は着たままだった。その表情はどうしてかかなり苦しそうである。



「う、うぅぅ……」



 リリアがうめき声をあげている。



 俺は語気を強めて聞いた。



「セミヅク師匠! リリアに何をしたんですか?」



「リリアァ? ああ、この黒髪の女の名前か。へへ、食ってやったぜ。ウマかったぞう。ちょっと酸っぱかったけどなあ」



 食っただと!?



 レイプしたということだろうか。



 ふざけんな、許さないぞ。



 俺は暗い瞳を震わせて尋ねた。



「セミヅク師匠、どうしてこんな事をしているんですか?」


「どうしてか、かぁ? これは復讐だ。俺の妻、アウラを殺したジーアスに対するな」



 ジーアス!? 国王様のことか!



 ……よく分からない。話の全貌を聞いていないからだ。だけどそんな暇はない!



 俺は抜剣し、剣の切っ先を相手に向ける。



「悪いが、邪魔させてもらいます」


「おう! やってみろ虹小僧! アウラ、やれ!」



 虹小僧というのは揶揄(やゆ)である。空の剣術の中でも、初めから俺は虹空を得意だった。セミヅクはそれをからかって呼んでいるのだ。



「アナタハ、ワタシガ、マモリマス」



 水の精がこちらに走ってくる。襲いかかってきた。一体何だ!? この女性のような青い物体は。セミヅクがスキルで生み出しているのだろうか?



「空七変流、虹空」



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