表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/23

111 グングニールと酸っぱい果実


 逃げ惑っていた国民たちはすっかりいなくなりました。その場には王都騎士団の面々と王宮の人間だけが残されています。



 ピンク色の馬車から外に出て、わたくしは空を睨みつけます。天からは月が王都へと真っ直ぐに落ちようとしていました。誰かが、どなたかが王都を滅ぼそうとしているようです。月落とし、ムーンフォールという魔法だと思います。



 ……これでは都が押しつぶされてしまいますわ。



 ――わたくしが何とかしなければ。



 王宮で一番魔力のある、わたくしが。



 周囲に呼びかけました。



「騎士団のみなさん! わたくしが魔法で月を押し返します。魔力祈祷のため集まってください!」


「「アイフロディア様!」」


「「お願いします! アイフロディア様!」」



 騎士団の騎兵たちが馬から下ります。わたくしのそばまで歩き、ひざまずきました。歩兵や演奏隊のみなさんも来てくれています。その数、総勢50人以上。



 空を見上げ、わたくしは呪文詠唱をしました。



 大きな風が巻き起こります。



「王国の絆よ。幾許(いくばく)かの血辛(ちから)に耐え忍び(たま)え。其方(そなた)らの悲願は体現と成りて。発動せよ、魔力祈祷魔法陣」



 わたくしの周囲に白い魔法陣が広がりました。



 みなさんの魔力がわたくしの体にドクッと流れ込んで来ます。



 騎士のみなさまが魔力供給への痛みにうめき声を上げました。



「「うっ!」」


「ぐうう」」



 わたくしも体が痛いです。



 ああっ。



 体が熱い!



 燃え盛りそうですわ。



 今は耐えなければ……。



 わたくしはまた、唱えます。



「王宮深くに封印されし孤高(ここう)の槍よ。(はば)む壁を(つらぬ)(たま)え。ラコルーリャの愚女(ぐじょ)、アイフロディアが祈り(ささ)げる。低頭低頭(ていとうていとう)、頭を伏して申し上げる。降臨(こうりん)せよ、グングニール」



 侯爵級無属性魔法、グングニール。



 空中に、大きな大きな白い槍が浮かび上がりました。



 神々しいそのお姿はまるで古の神の持つ巨大武器のようです。



 わたくしは厳かに命じました。



「飛べ」



 槍が月に目がけて射出します。



 グンッ!



 空気を切り裂いて槍が月へと飛び立ち、黄色い円形に突き刺さりました。貫くことは叶いません。しかし矛先が月面に埋まり、球体の落下速度に歯止めがかかりました。



 さあ、宇宙へと月を押し返しましょう。



 わたくしは両手の杖を上に上げて、巨大な槍に魔力を注ぎます。



 頭から、脇から背中から汗が噴き出して、着ている赤い王族服が濡れそぼっていきました。



 ……絶対に王都を守りますわ。



 幼い頃から愛し愛されたこの地を、破壊などさせません。



 わたくしは月面に刺さる槍をただひたすらに睨み続けます。



 ◆◆◆



 くそっ、月に槍が刺さりやがった! そのせいか月の落下速度が遅くなった。



 ジーアスの奴らめ、いじらしい抵抗を見せてくれるもんだ。



「ステータスオープン」



 俺は画面のアイテム欄からクープル液の入った注射器を取り出す。後ろで寝そべって伸びている緑大蛇のメンバーの腕に次々と液体を打って行った。



「「ぐもおおお!」」


「「あひゃー!」」



 はっはあ、こりゃあいいぞう。男たちが素敵な声を上げている。クープルっつうのは快楽を与える他にも、人間の力を何倍にも引き出す効果がある。その代わり、依存性はとんでもなく強いんだけどなぁ。



 これでソラヨミへの魔力供給が格段に上がるはずだ。くはは、絶対に王都を破壊してやる。絶対だ。



 ソラヨミが一度こちらを振り返り、苦しそうな声を上げた。



「パパ! 魔力で体が熱い!」


「あほう、我慢しやがれ」


「そんなこと言っても!」


「いいからお前は魔法に集中しろ。そうだ、チョコレートをやるぞう」


「本当、パパ?」



 ソラヨミの額からは滝のような汗が垂れていた。ずいぶんと体がキツいようだ。



 俺は愛娘のそばまで歩いた。ステータス画面から銀紙に包まれたチョコレートを取り出し、幼い顔の口に放る。



「食え」


「パパ、ありがとう!」



 ソラヨミがむしゃむしゃと食べる。こいつは甘いものに目がない。甘いものが近くにあると、他のことに集中できなくなるほどだ。だからチョコレートを食えば元気百倍のはずである。



 ソラヨミの放つ魔力が高ぶり、大きな風が巻き起こった。



 よーし、これで月の落下スピードが上がったはずだ。俺は空中の黄色い球体に目をこらした。



 槍の抵抗はむなしく、だんだんと月は落下速度を上げている。いよっしゃあ!



 ふと、後ろから誰かの足音が聞こえた。



「「セミヅク様!」」


「おう、やっと来たか」



 俺は唇の端をつり上げて振り返る。



 やってきた緑大蛇ギルドの男三人だった。そのうち一人は、その両腕に背の高い黒髪の少女を抱えていた。気絶させたのか、女は眠っているようだ。



 俺は近づいて、その黒髪をむんずつかむ。顔を見ると、左目が緑色、右目が赤色のオッドアイである。



 よーし、こりゃあマジでいいぞう。



 さて、この後男三人は気絶させて、ソラヨミの魔法の燃料にしてやろう。



 魔法使いの老婆が聞いた話。



 オッドアイの人間っていうのはこの世界アラストリアでも珍しく、冬人夏草(とうじんかそう)という果実人間なんだそうだ。その体からならす実を食べると、食べた者は望むスキルを習得することができるらしい。



 俺の望むスキルは、亡き妻アウラを蘇らせるスキルだ。それが手に入るはずだ!



 俺は緑大蛇ギルドの男に命じた。



「女をそこに置け」


「は、はいっ」



 男が気をつけながら女を地面に下ろす。



 俺はステータス画面からの濃縮されたクープル液の入りの注射器を取り出した。黒髪の女の腕に、慎重に針を打ち液体を流し入れる。



「っぐあぁぁぁっ」



 女がうめき声を上げた。地面に四肢をばたつかせて、苦しそうにもがく。



「あ、ああああああああぁぁ!」



 黒髪の女が絶頂するような声を上げた。くはは、たまげた、こりゃあいいぞう。



 黒髪の女の体に変化が起こった。その額から植物のような芽が出る。芽は急激に成長し、やがて一輪の花となった。林檎ほどの赤い色の実をならす。



 これが俺の望みを叶えてくれる実なのかぁ?



 その赤い実をもぎ取り、口に入れてむしゃむしゃと食す。ひどく酸っぱかった。しかし俺の体に凄まじい魔力が溢れる。興奮する手でステータス画面のスキル欄をチェックした。



 水の精アウラ召喚、という名前のスキルを習得していやがる。アウラというのは俺の妻の名前だ。



 なんじゃこりゃあ? アウラが蘇るんんじゃ無いのか?



 俺は眉にしわを寄せつつも、スキル欄に書かれてある呪文を詠唱した。



 スキルを使ってみることにする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ