第二話 沈黙の昼休み
数日後の昼休み。
教室には紙の擦れる音と遠いざわめきだけが薄く漂っている。
菜月は窓際の席に座り、ノートを開いた。
指先がわずかに強ばっている。それでもペン先は罫線をなぞり続ける。
凜子が小さく鼻で笑う。
その気配が静かな空気に混ざり、確かに私の胸に触れた。
光も音も、人の心も――ほんの少しずつ、ずれている。
凜子はペンをくるくる回し、ちらりと菜月を見る。
「髪、また明るくなったんだね」
菜月は微笑んで答えた。
「うん」
笑顔の奥に、浅い不安の色が差す。
由加が続ける。
「スカート、ちょっと長くない?」
言い方は軽い。それでも空気は薄く軋む。
菜月は困ったように視線をノートへ落とした。
雅美も、何気ない調子で添える。
「やっぱり目立つね」
教室に、わずかな緊張が走った。
誰も何も言わない。視線だけが、菜月へ集まる。
沈黙の手触りに、私の心がざわつく。
――真帆が浮いていたあの頃。
笑い混じりの小さな棘が、たしかに誰かを外側へ押しやった。
今は、その向きが入れ替わりつつあるだけだ。
教室の中で、見えない線引きが形をとりはじめていた。
菜月は気づいているだろうか。
私は気づきながら、やはり見ているだけだった。
笑いの端に混じる冷たさ。
無言の視線が作る圧。
教室の空気は、ゆっくりと音を立てる。
放課後になるほど、その傾きははっきりしていく。
菜月は少しずつ、確実に、輪の外へ押し出されていった。
それでも私は、ただ見ていた。




