4-16 忠告(Side Godfrey)
身近な同期二人の中にあった、妙な確執について。夏季休暇で全員で旅行に行くまで、ゴトフリーは全く気が付かなかった。自分自身も久しぶりに彼女が出来たばかりで、そちらに必死で周囲に目を向けれなかったからだ。
恋愛経験の少ないリカルドは、そういう意味で揉まれてない。だから、多分事態の重大さを理解出来ていない。ブレンダンは気持ちを隠すのが上手くゴトフリーの前で至って普通だったので、気が付かなかった。
実年齢より精神年齢高めのナイジェルとレオはこういう事に誰かが口を挟んで良いことはないと理解しているからとりあえず様子見しているだろうし、余計なことをしがちなエディに関しては、その二人から何もするなと厳重注意されているだろう。
だから、これまで気が付かなかった。
「ブレンダンって、リカルドの彼女のこと好きなの?」
夏季休暇から帰ってすぐのある日、城の廊下で偶然会ったブレンダンは、前置きなく直球でそう聞いたゴトフリーに苦笑した。
「……うん。もう、きっぱり断られて振られてるけどね。かと言って、僕の好きな気持ちは、それでは消せないから」
半信半疑だったゴトフリーは、やっぱりそうだったかと大きく溜め息をついた。きっとそうだろうなと思ってはいたものの、ブレンダンの口から直接彼の気持ちを聞くまでは、それは自分の憶測でしかなくはっきりとした事実ではないからだ。
(うわ。マジか。この二人で、泥沼かよ)
リカルドとブレンダンは、誰もが思うほどに特別だ。幼い頃から稀に見る逸材だと注目を浴び、優秀な人材を集めた特殊な騎士学校でも特に目立っていた。だから、ゴトフリーはこの三角関係について、個人的に複雑な思いを抱いてしまう。
二人に取り合われることになる女の子は、きっとこれから大変だろうなと。
「お前……リカルドは、あんな性格だし。ずっと、仲が悪い婚約者が居たし? まだこういう三角関係について、どういうことかわかってないと思うけど。俺なら正直な気持ちを言えば、お前にはアリスの近くをうろついて欲しくない。その上にお前は、彼女への思いを消せてない。有罪だ。俺は、リカルドの肩を持つ」
ゴトフリーの顔は、いつになく真剣だ。
幼い頃から人気があったブレンダンだって、自分が異性からどんな目を向けられるかは理解しているだろう。だとすれば、そんな奴が恋人の傍に居てリカルドが不安に思うようなら、自分は正式に付き合っている方のリカルドの味方になると言いたいのだ。
「はは。わかっている。だから、僕は何も望んでない。君のアリスさんと、同じようにスイレンちゃんにも接している。たまに、近くに居られるだけで良い。それだけで、幸せなんだ」
確かに夏季休暇の間も、ブレンダンはスイレンとアリスを同じように扱っていた。何か変な事を言ったり、したような不穏な動きもない。彼女持ち以外の三人と話したり、まったりと海を見て一人で過ごしたり、ブレンダンはブレンダンなりに夏を楽しんでいたようだった。
「けど、ブレンダン。それだと……お前が、辛いだろう」
ゴトフリーは自慢ではないが、女運が全くないと竜騎士団で散々揶揄われるほどには、これまでに恋愛では傷付いて来た。浮気をした元恋人が、他の男と会っているところを直接目撃したこともある。
形は違うが好きな女性が他の男と寄り添っているところを見て、傷付かない訳がない。ブレンダンはリカルドと仲が良いだけあって、彼女と共に会う機会も多いだろう。
(こんなに身近なら、絶対辛い。ブレンダンはもう他の恋人を見つけて、彼女を早く忘れるべきなのに)
友人たちの今後を思い、ゴトフリーは難しい表情になった。どう考えても関係が拗れそうな予感しか、しないからだ。そして、ブレンダンのただスイレンを好きなだけで良いという、彼の言い分だって尊重されるべきではあるのだ。具体的な行動を起こしていないのなら、彼が誰を想おうがそれは勝手なのだから。
心の中までは、誰にも縛れない。
「ゴトフリー。君に心配を掛けて悪いとは思っている。けど、僕はこの人生の中でやっと、本当に好きになれる人を見つけたんだ。それが、仲の良い友の恋人であることは、もう変えられやしない事実だ。仕方ない。傍にいられたら、それで良いんだ。それ以上は、何も望まないから、これ以上は言わないでくれ」
ブレンダンは柔らかく微笑みながらも、断固たる態度を崩さない。誰かに言われて止まるようなら、そもそもこんなことになっていない。だが、ゴトフリーはそれでも、ブレンダンに対し言いたかった。
他に誰もしないと言うのなら、嫌われたとしても自分がするしかないという友としての忠告だ。
「ブレンダン。俺はお前に傷ついて欲しくない。これからは、傷付くだけになる」
「そんな僕本人が、傷付いても良いと言ったら? ……良いんだ。報われなくても。そういう恋があっても良いよ。この先時間を無駄にしたかどうかは、僕が決めることだ」
「おいおい。重症だな。絶対に、後悔するぞ」
ゴトフリーだって、ブレンダンの想いをもう止められないことはわかっていたが、それでも言ってしまう。信頼し合う大事な友人だからだ。出来れば、心を修復不可能になるほどに、傷付いては欲しくはない。
だが、傍から見た状況から見れば、未来そうなることは確定しているようだった。
「それでも良い。無理に関係を変えようと離れたとしても、どうせ恋焦がれる。離れても傍に居ても、後悔はいずれにしても変わらないだろう。それなら、出来るだけ彼女の傍に居たい」
「……俺なら、とても無理だ。アリスが他の男のものなら、きっと正気では居られない」
「……僕は二人にとっての普通の友人だ。これからも、ずっとそうだ」
「ブレンダン」
「ゴトフリー、心配してくれているのはわかってるよ。ありがとう。けど、もう何も言わないでくれ」
「どうしたら、諦めがつくんだよ」
「さあ……わからない。流石に。結婚したら、そうそうは近付けないだろうけどね」
「お前。自分の幸せは、自分が望まなければ手に入らないぞ」
「要らない。ここまで、悩んだ未の決断だ。僕はもうそれで良いと諦めている。恋の魔物に、頭からまるごと食われた後だ。受け入れるさ」
「ブレンダン……報われない地獄に、自ら堕ちることになる」
「はは。それは……僕が、自分で決めることだ。他の人から見れば、地獄のように見えたとしても、僕にとってはそれは天国なのかもしれない」
「俺は、この件に関してはリカルドの肩を持つ。だけど、お前の友人でもある。何かあったら、いつでも言えよ」
ゴトフリーが難しい表情をして握った拳で肩を小突けば、ブレンダンは明るく笑った。
「ありがとう。ゴトフリー。良い友人の忠告に感謝して、今夜は奢ろうか?」
「止めとく。昨夜呑み過ぎて、頭が痛いから……良い肉なら、食べに行っても良いけど」
今夜は酒を飲みには行かないが、美味しい料理なら別に奢られても良いと言ったゴトフリーに苦笑してブレンダンは頷いた。




