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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第四章

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4-5 相談相手

 無人島にやって来た初日、海ではしゃぎ過ぎてくたくたになって疲れていた二人は、夕飯後すぐに共用の居間で全員が集まる前に眠ってしまった。


 ふかふかとした絨毯の上に横たわり、すうすうと寝息を立てているリカルドは、彼がどんなに素晴らしい肩書を持っていようが、年齢相応の若い男性であると思い出させた。


 貴族の血筋や責任ある立場、すべてを脱ぎ捨ててしまえば、ただ憧れだったからと竜騎士になりたかった夢を叶えただけの一人の青年なのだ。


 スイレンは彼から愛を告げられて恋人になった今も、リカルドはすべてを持つ男性だと、そう考えていた。けれど、仲の良い同期の同僚と過ごす素の彼はなんとも無邪気で、より可愛く思えた。


(リカルド様……遊び疲れたのかな。夜は部屋の中でも冷えるだろうし、毛布を持って来た方が良いのかもしれない)


 リカルドのあどけない寝顔をじっと見ていたスイレンは、立ち上がった。自分たちに用意された部屋に戻ろうとしていた時に、振り返った扉に眼鏡を掛けたレオが立っていた。


 その手には、スイレンが取りに行こうとしていた薄い毛布だ。


「あ」


 もしかしたら、自分が居たことで気の利く彼を待たせてしまったのだろうかとスイレンが慌てて謝ろうとした時に、レオは手を上げて笑った。


「君が思う程、僕は待ってないから。気にしないで。風邪なんて、引くことはないと思うけど……まあ、夏風邪は引くかもしれないから。掛けておくかと思って」


 気安い様子で近付いて来た彼は、まず出入口付近で大きく両手を広げて寝ていたエディに毛布を掛けた。そして、スイレンに毛布を差し出して微笑んだ。


「どう? 楽しんでくれてる? 夏季休暇にここに来たのは、新しく買った別荘に長期で来たかった僕の希望だったから」


 先程の夕食時には、洞窟に入り込んだ二人の話ばかりを話していたので、レオはようやくスイレンに聞きたかったことを聞いたようだった。


「はいっ……ご招待頂いて、ありがとうございます。別荘もとっても、素敵ですよね。無人島にあるなんて、とても思えないです」


 無人島にあったレオの別荘は、裕福な貴族のために建てられたと言われてもおかしくないほどの豪華さと広さだった。数を数え切れないほどの部屋も、凝った装飾を施された家具が置かれて美しい。


「うん。喜んで貰えてみたいで、良かったよ。そんな素敵な別荘で熱い夜を過ごすはずの恋人は、そこで転がって寝ているけどね。すまない。まあ、これは僕のせいではないけど」


 彼の真面目そうな外見に似合わない軽い冗談を口にして、レオは肩を竦めた。


「リカルド様。すごく、今日ははしゃいでましたから。あんな風に海で泳げるのも、楽しみだったんだと思います」


「スイレンさんは、泳がなかったの? もし水着がなければ、水に入るための裾の長い沐浴着なら。一応、ここにも用意があるけど」


「あの……用意はして来たんですけど……その」


 リカルドに彼以外の前で水着を着るのを禁止されたと言い難かったスイレンは、顔を赤くした。その様子を見て、レオは眼鏡の奥の目を細めて頷いた。


「うん。それ以上は、何も言わなくて良いよ。わかった……はは。リカルドも、人並みの感情を感じるようになったんだ。あいつは親の決めた婚約者をどうにも好きになれなかったみたいだけど、結婚は彼女とするんだろうと思ってた。幼い頃から、恋愛事については常に達観していたからね。慣れてないんだろう。そのくらいなら、可愛いものだけど……過ぎた嫉妬は、お互いにしんどくなるだろうから。気を付けて」


 察しの良いレオは、スイレンがここに持って来た水着についてリカルドに何を言われたかを正確に把握しているようだ。


「あの……リカルド様って、婚約者の方以外には……本当に何も……?」


 スイレンは本当にそのことが、不思議だった。


 イジェマは確かに婚約者だったリカルドのことをあまり好きにはなれなかったようだが、あの彼なら他の女性から言い寄られる機会も多かっただろうと思うのに。


「リカルドは、真面目な性格だからね。君の前でもそうじゃない? それに、貴族の当主となるべく育てられたから、家名に傷が付くことは出来ないと思い込んでいた。放蕩する貴族だって、多いのに。若い頃遊んだってそれほど問題にはならないが、言われたら守らねばならないと思ってるのかな。根から真面目なんだよ」


「……確かに、凄く真面目ですよね。私にも婚約を解消するまではと、何も言わなかったので」


「僕もそれは、本人から聞いたけど……もうすぐ婚約解消が成立するから、待っていて欲しいくらい伝えれば良かったのにとは思った。けど、リカルドは自分の名前が傷つくより、君が何かを言われるのが嫌だと思ったんだろうね。そもそも婚約者との関係が破綻しているという事情を深く知らない人間から見れば、婚約者の居る男性に言い寄って、不当に奪った女性だと言われかねないから」


 確かにリカルドは、あの時に確たる言葉を言わなかったし、敢えてスイレンにも言わせなかった。けれど、すべては自分のためだったのかとスイレンは、レオに言われて初めて気が付いた。


(そうよね。リカルド様は、また私とは違う立場だった。私が彼を好きなことはわかっていたから、きっと大丈夫だろうと、言わなかったし言わせなかったんだ……)


 すべてが解決した後に好きなことは伝わっていると思っていたとリカルドに言われたスイレンは、あの時彼を信じ切れなかった。だから、家を飛び出してしまったのだ。


「……私。そういうことも、あの時わからなくて……迷惑を掛けてしまったので、反省しています」


「はは。君も、相当真面目な性格なんだね。だから、あいつの気持ちをわかってあげられるのかな。リカルドにも僕はたまに言うんだけど、人は迷惑は掛け合って生きるものだよ。物事を推し量る尺度など、一人一人違うんだから、誰かの迷惑は誰かのそよ風程度ということもあるだろう」


 竜騎士団を総動員して行方不明になっていたスイレンを探し回ったあの大騒ぎは、そよ風程度と流せるような騒ぎではなかったように思うのだが、レオが言えばもしかしたらそうではないのかと思える不思議な説得力があった。


「ふふっ……ありがとうございます。今も、心配をかけてあんなに騒がせてしまったことは、後悔していて……なんだか、気持ちが軽くなりました」


 王都上空を竜が低空飛行することは、禁じられている。リカルドはスイレンには何も言わないが、それをわかっていながら、非番の同僚たちに頼み込んでまで、探し回ってくれた。


 きっと、後でなんらかの罰は受けたのだろう。


(あの時、私から何かを聞くようにしていたら? そうしたら、あんな風にはならなかったはず。自分勝手に落ち込んで、聞くのが怖くて。リカルド様に迷惑を掛けてしまった)


 無理に笑顔を作ったようなスイレンを見て、レオは冷静に言った。


「君自身は、あの時迷惑を掛けたと思っているのかもしれないが、僕たちは嬉しかったよ。それほど好きになれる子が、長い時間を共にした幼馴染に見つかったんだと思ってね。パーマー家のあのご令嬢と結婚しても、周囲に羨まれるような美男美女だとしても、お互い冷え切った関係の仮面夫婦で生きていくことになるだろうから。せっかく生きるのなら、楽しく生きたいものだし。何かの犠牲になって生きねばならぬのなら、僕ならその他のすべてを捨てる決断をするだろうが……あいつは、生来背負っているものが多そうだから。少し、可哀想だけどね」


 眼鏡中央を押し上げて、そう言ったレオはどこか複雑そうな表情を見せた。


 貴族で英雄と呼ばれている男だとしても、彼にとっては兄弟のように良く知る幼馴染なのだ。色んな呼び名を持つリカルドのことを、ただの一人の人間として見てくれる数少ない友人なのだろう。


「なんだか……良いですね。私には友人と呼べる人が、今まで居たことがなくて……」


 寂しそうにそう言ったスイレンは、自分に彼らのように友人だと言える人が居ないことがどこか恥ずかしかった。


 リカルドの妹のクラリスは、将来的に名実共に家族になる予定なので彼女は純粋な友人とは言えない。ガヴェアに住んでいた頃に不遇の身であったスイレンに対し、周囲は遠巻きにしていて親しくしてくれるような同年代の人は周囲に居なかったからだ。


「僕たちは必要あって、長い時間一緒に居たし……そういう意味では、純粋な友人というより、家族や兄弟に似ている関係だと思う。まあ、友人なんて作りたければ作れば良いし、居なければ居ないで良いよ。むしろ、日々の悩みの種になるような友人など、居ない方が良い。一人の方がマシだ」


「えっと……?」


 今まで人間関係が希薄だったために、彼の言っていることが上手く理解出来なかったスイレンは戸惑ってしまった。そんな彼女の様子に、レオは苦笑して言った。


「一番悲しいのは、お互いに外面のために傍に居る人間を殊更に褒め合うような、ただの上辺だけの付き合いだ。社交が仕事の内の貴族のご令嬢なら割り切れるだろうが、お互いに自分が周囲にどう映るか以外興味なくて、中身のない会話に終始するなんて、僕なら絶対ごめんだけどね」


「中身のない会話……」


 よく分からない状況にぽかんとしたスイレンに、レオはうんと頷いた。


「スイレンさん。これから、もし友人を作るなら、会話を楽しめるような子にしなよ。本当の友人とは、一緒に居て楽しい人のことを言うんだ。若い女の子同士って、ある種特殊な人間関係になるから。そういうことが理解出来るまで、時間がかかる人が多いけど……これは、僕からの、心ばかりの忠告だよ。一緒に居る時間を楽しめれば、自然と友人になる。そうすれば、向こうも大事にしてくれるだろう。大事にしてくれない人とは、早めに縁を切った方が良い。未来にどう転んだとしても、良いことは起こらないから」


 人と関わる経験の浅いスイレンの考えることなど何手も先読みするようなレオは、これから起こるだろうことを言い当てる占い師のようにそう言った。


「レオ様って……もしかして悩み相談とか、しています?」


「はは。しても良いね。友人の彼女からの相談なら、特別に料金はサービスしておくよ……冗談はさておき、リカルドは、僕からするとなんでも知っているに等しいほどの時間を一緒に居るから。もし何かあったら、僕が相談に乗るよ。君たちの関係上相談相手にするなら、ブレンダンは止めておいた方が良いだろうからね」


 リカルドに近い同僚はブレンダンしか知らなかったスイレンは、レオにそう言って貰えて嬉しくなった。


「ふふっ……ありがとうございます。そう言って貰えて、嬉しいです」


「うん。僕に相談に来るのはスイレンさんだけじゃないから、気にせずどんどん来て……あ。噂をしようとしたら、そろそろ遅れてたブレンダンとゴトフリーが来るって。ゴトフリーの彼女も来るから、あの子と話してみると良いよ。そういう偶然の縁で繋がっても、良いと思うよ。話した結果、仲が悪くなっても、僕が責任取ってなんとかするから。安心して気軽に話して来なよ」


 自分の竜と心の中で話したレオは、家の中にも関わらず上を見上げた。


(そっか……リカルド様の、同僚さんの彼女……仲良くなれるかな)


 そういう近い関係上で、スイレンと彼女が仲が悪くなったら周囲が大変そうだ。けど、レオはスイレンがそういう不安を持つだろうことも見越して、先んじて自分が責任を取ると言ってくれたようだった。


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