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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第四章

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4-2 空の上

 ヴェリエフェンディ竜騎士団で同期の竜騎士達が一斉に夏季休暇を取ることは、いくつかある彼らの伝統行事のひとつのようだった。


 団員の結婚式でも、彼ら独特な伝統があるようだし、非常に狭き門を乗り越えたはずの選ばれし者の彼らは、人生を楽しむための遊び心も存分に持ち合わせているらしい。


 ヴェリエフェンディ上空を、飛行中に二人の竜騎士と合流したのだが、彼らはリカルドと軽く挨拶した程度で、すぐに遠距離移動のための景色が溶けて見えてしまうほどの竜の高速飛行へと入ってしまった。


 そして、ふわっとした暖かな風が吹いたと思えば、下に見えるのは一面の青だった。きらきらと陽の光を弾く波が美しい水面は、果てなどないような水平線の先も、ずっとずっと続いているだろう。


「っ……うわあっ……」


 海を見るのはこれで二度目になるが、内陸地にあるガヴェアで生まれ育ったスイレンは、やはり変わらぬ感動してしまった。


 いくら、その都市自体が一流の芸術品であると言われているような王都に住んでいたとは言え、こうした壮大な自然の美しさを知ることは、また格別な体験だった。


(本当に、言葉にならないくらいに綺麗……今回はあの海で、泳げるんだよね。楽しみ……)


 海で泳ぐための着替えも用意して持って来たスイレンは、初体験の楽しみを思いドキドキと今から胸が高鳴った。


 自然とスイレンの口から零れて来た感嘆の呟きを耳にした、リカルドは背後で声に出さずに喉で笑ったようだった。


 ワーウィックの手綱を握り抱きしめるような体勢の彼を振り向けば、これからの休暇への楽しみの期待のためか、リカルドの茶色の瞳がいつになく煌めいている。


「また、南国だけど……その反応だと、何も心配なさそうだ」


「どういうことですか?」


 更に首を捻って振り返ったスイレンは、リカルドが言った言葉が掴み切れずに目を瞬かせた。


(何か……心配するようなところ、あったかしら?)


 不思議そうな表情をしているスイレンに、リカルドは微笑んだ。


「いいや。この前の旅行と、行き先が同じような場所になってしまったから。もしかしたら、スイレンは違う場所に行きたかったのかもしれないと、俺が勝手に心配していた。今日はクライヴが居ないから、ワーウィックが一番乗りだな。もう少ししたら、皆来ると思うよ……ああ。けど、ブレンダンとゴトフリーの二人は、勤務の切り替えの最終の班なんだ。だから、あいつらは後で来るよ」


 常に国を守る彼らに決められた休みはなく三交替制で、四班が朝番昼番夜番で一日を繋ぐ。たまに勤務が変わるらしい。一年に一度だけ、班替えがあるらしい。


 こうした夏季休暇のような変則的な勤務の後で班が替わることになれば、誰かが続けて勤務せねばならない事もない。職務上も、必要のある夏季休暇のようだった。


「ブレンダン様は、遅れて来るんですね」


(そういえば……クライヴは、つま問いはどうだったのかしら……いつも、向こうから申し込まれるだけと聞いていたけど)


 氷竜クライヴは相棒の竜騎士ブレンダン共々、異性に大人気のようだ。彼らは整った外見を持つだけではなくて、ただそこに居るだけなのに何故か無性に気になってしまうような、不思議な色気を持っていた。それは、きっと違う誰かが必死になって出そうと思っても、出せない産まれ持った天性のものだ。


「ああ……来たな。スイレン。エディだよ」


 高速移動が終わったばかりの特徴ある空間の歪みのようなものを見つけて、リカルドは言った。エディと呼ばれた短い金髪の竜騎士は、濃茶色の大きな竜に乗って現れた。


「うわ。リカルドの……彼女? これが? 本当に、本物の人間?」


「どういう意味だ」


 大袈裟なくらいに驚いて目を見開いた彼に、リカルドは呆れたようにして言い返した。


「だって、リカルドって、あのイジェマ・パーマーでも不満だったっていう、伝説の理想が高過ぎる男だろ? そんなお前が、ようやく見つけた恋人だ。彼女は、空想の産物でもおかしくない。本当に、そこに存在しているかも疑わしい」


 うんうんと頷いたエディに、リカルドは息をついて言った。


「それは、イジェマの方が、俺に不満だったの間違いだ。けど、スイレンに関しては、俺も人ではなくて花の妖精なのかもしれないと、たまに思うことが確かにあるから。お前の言っていることは、あながち間違いじゃないかもしれない」


 真面目な顔をして頷いたリカルドに、エディはなんとも言えない表情になった。同僚に出来た初めての恋人を揶揄うつもりだったのが、逆に揶揄われた気持ちになっているのかもしれない。


(もう。リカルド様……恥ずかしい)


 初対面の誰かの前で、正体はもしかしたら妖精かもしれないと言われてしまった。その当の本人であるスイレンは顔を伏せて、とても居た堪れない気持ちになっていた。


 リカルドがそう言ってしまうくらいに自分のことを好きでいてくれることは、確かに嬉しい。嬉しいのだがそれをまた第三者に大真面目に説明しているというのも、恥ずかしくて気が引けてしまった。


「……リカルドって、たまに冗談か本気かわからなくて面白いよな」


「……? 別に、冗談を言ったつもりはない」


 リカルドとエディがまたお互いに真面目な表情で、二人が向かい合った時。また空に歪みが広がり、水色の竜に乗った竜騎士が続いて現れた。


「パトリックっ……!」


 それはこの前ワーウィックに頼まれて山の中にまで、スイレンを迎えに来てくれた水色の竜だった。スイレンが自分を呼んだ声が聞こえたのか、パトリックは嬉しそうにキュルキュルと可愛らしく鳴いた。


「おお……本当に、リカルドの彼女だ。すごい……はじめまして」


 黒髪の竜騎士は感慨深く呟いて、軽く頭を下げてくれた。自分も同じように頭を下げて慌てて自己紹介しようとしたスイレンを、リカルドは手を握って止めた。


「スイレン、こっちがナイジェルだよ。とりあえず、これで揃ったな。俺たちは同期は六人だから、後三人居る。けど、家主のレオは先に別荘行ってて、後の二人は後から来るから……」


「そうだな。必要がある訳でもないのに、こんな空の上で長話することもないだろう。別荘に着いてから、ゆっくりと話そう」


 ナイジェルはとりあえず島に行こうというリカルドの意見に同意し、海を見下ろして満足そうに笑った。


「開放感のある南国は、本当に最高だ。たまには旅行でもしないと、仕事仕事で、息が詰まりそうになる」


「そういうことは、酒を飲むだけでは足りないからな。旅行をすれば、気分も切り替わる。南国、本当に最高!」


 そうして、浮かれた様子のエディは竜を駆り下方へと先んじて降りて行ってしまった。大きな翼が風を孕んで、左右に揺れて彼の相棒の竜もこの状況に浮かれて楽しんでいるのがわかってしまった。


(可愛い。当たり前だけど、皆性格が違うのね)


 スイレンの良く知るワーウィックやクライヴなら、決してあんな風には飛ばない。そんなおどけた事もしてしまう明るい性格の竜とお似合いのエディは、リカルドやナイジェルを待つことなく、もう目的の島の位置まで一直線に行ってしまうようだ。


「おいおい。エディ。浮かれすぎ」


「じゃあ俺たちも。もう、降りるか。グレイヴはすぐ近くに居るみたいだ」


 リカルドがそう言えば、ワーウィックはゆっくりと下へと降り始めた。それに続くようにして、パトリックも翼をはためかせてから降り始める。


「ああ。ようやくこの季節が来たな。一年に一度の、楽しみ。俺たちの夏季休暇の、始まりだ」


 降下する力に対抗する風を受けて、スイレンの栗色の髪が勢い良く舞い上がり、竜たちは迷うことなく小さな島へと降りて行った。


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