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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第三章

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3-14 甘味

「そうなんだ。あまり良い二つ名では、ないよね。だから、俺もワーウィックも、あの時上位竜に偶然に遭遇出来て喜んでいる君には言えなかった。それに、近くに住んでいる訳でもない上位竜のそんな噂話など、普通に暮らしていれば、耳に入ることもない。だから、その一度だけ凌げば良いかと……俺は、思っていたんだが」


 リカルドは表情を曇らせて、この後スイレンに対してどのように説明しようかと悩んでいるようだ。


「……リカルド様」


 南国で青い竜ライデンヴァーガルと会った時にも、思わぬ彼の登場にスイレンは興奮して喜んでいた。


 だから、あの時にそんな彼女の喜びを見てそれに水を差すようなことはしたくないと、心が通じ合うことの出来るリカルドとワーウィックは示し合わせて秘密にすることを決めたのだ。


「ただ一度きりの願いであれば、思いついた時に俺が傍に居れば大丈夫だろうとそう思っていた。彼が何度も君の前に、姿を現わすとなれば、それはまた別だ。あの竜の危険性を、先に警告しておく必要がある」


 リカルドは真剣だ。とても、怖がらせるための冗談を言っているような様子ではなかった。


「けどっ……ライデン様は、とてもそんなことをするような方には……」


 まだライデンヴァーガルと二度しか会ってないスイレンは、彼のことを知っているとは言い難い。けれど、自分の願いを叶えるためにはるばる会いに来てくれて、終始親切だった彼が、誰かからそんな風に呼ばれていると知り表情を曇らせた。


(私は、ライデン様をまだ知らない。だから、その名で呼ばれる理由だって、何もわからない。そんなことは、していないだろうと、言い切ってしまうことも出来ない。でも……私は、きっと)


「私は……ライデン様から、詳しいお話を聞いてみたいです。リカルド様は……もしかしたら、彼に近寄るだけでも危険だと言われるかもしれませんが。ライデン様は私に対して、とても良くしてくださいました。欲しいと言った貴重な鱗だって、与えて貰えました。彼が危険だと判断するのは、その後でも遅くないって……私は、そう思います」


 心を決めたスイレンが彼の目を真っ直ぐに見てそう言えば、リカルドは苦笑してから頷いた。


「スイレンは……うん。俺も、君のそういうところが好きだよ。あの時……ガヴェアでは、悪鬼のように恐れられていた俺に。おはようございますって、普通に朝の挨拶をしてくれたよね。すごく、嬉しかったよ。すぐには信じられなくて、きっとこれは夢の中の出来事なんだと思った」


 すぐ隣に居たリカルドにさりげなく腰に腕を回されて、スイレンはようやくほっとして彼の首に両手を掛けた。


「ふふっ……リカルド様は、あの時何も言いませんでしたよね。私は、凄く勇気を出したのに」


 少し拗ねた様子のスイレンを、彼は軽々と抱き寄せて膝に乗せた。


「うん。敵国で捕らえられて、目の前に可愛い女の子が現れた。これはもう絶対に、罠だと思った」


 リカルドが冗談めかしてそう言ったので、スイレンは思わず笑ってしまった。


(良かった……さっきまで、怒っていたけど。いつものリカルド様)


「だから、あの時、私と喋ってくれなかったんですね」


「うん。君に聞かれたら、なんでも喋ってしまいそうだったし……それに、俺はあの時。自分はもうすぐ死ぬだろうって、思っていたから。好意を抱いてくれている女の子に、不用意なことは言いたくはなかった」


 そう言って、リカルドは顔を近付けて、柔らかな唇に何度か触れるだけのキスをした。


「そういえば……ライデンヴァーガルに、何か言われた?」


「えっと……プリシラさんの解放に必要だった、上位竜の鱗をくれただけです。あ、でも。ワーウィックと同じように、人化の術を使われて……」


「……うん……何となく、わかった。このことは、それ以上言わなくて良い。他には?」


 リカルドは互いの額と額を合わせてから、目を閉じた。


(あと、何か……言ってたかしら……あ。そうだ)


「えっと……私の魔法の花は、花魔法で作った花だから、竜にとって甘く感じるという訳ではないと……ライデン様は、そう言われていました」


 すぐ間近に顔があったリカルドが、いきなり目を見開いたのでスイレンは驚いた。


「あ。驚かせてごめん。スイレンの花魔法については、俺も君に言いたいことがあるんだ。上位竜であるエグゼナガルも、スイレンの魔法の花を気に入ったと聞くし、この事がガヴェアに万が一知られたらと思って、花魔法のことを団長へ報告したんだ」


「えっと……団長さんに相談……ですか?」


 リカルドの上司である竜騎士団の団長は、スイレンもこの国に慣れて来て知ったのだが、数々の戦功と信じられない逸話を多く持つ有名な人物だった。彼に相談してまで、解決せねばならない仰々しい何かが自分の花魔法にあるとは思えなくて、スイレンは戸惑ってしまった。


「うん。ガヴェアとか、敵対している国に竜を懐柔出来る方法があると知られれば、どうにも面倒なことが起こりそうだなと思った。けど、スイレンの魔法の花をあいつらが好むのは、どうしても仕方ないことだから。そうなる前に打てる手があれば、打とうと思ったんだ」


「確かに。そうですよね。ワーウィックたちが私に花を欲しがっているところを、誰かに見られれば……そうなっても、おかしくないかもしれないです」


 ワーウィックやクライヴに外で欲しいと言われれば、スイレンは特に気にせず魔法の花を出してあげる。それに、誰かに見られているなど今まで気にしたこともない。


 竜が花魔法で作った魔法の花を欲しがっていると、誰かにその状況を見られれば一目瞭然だろう。


「俺たちは、とりあえず……ガヴェアで以前の君と同じように花を売り歩く少女に声を掛けて、魔法の花を作り出して貰った。それを竜に食べさせてみて、同じことになるのかと実験をすることにした。だが、それを食べた竜は何故か花は甘くはないと言う。スイレンの甘い魔法の花とは、また違うと。それは何故なのかと、俺たちも皆で首を捻っていたんだ。そして、もしかしたら、竜と契約を交わしているという彼らと繋がりのある俺のことを、君が……」


 リカルドはそこで言葉を止めて、スイレンのことをじっと見た。彼の強い光を秘めた瞳は初めて会った時から、いつも変わらなかった。


(リカルド様の瞳は、本当に綺麗……私が彼のことを好きだから、そう見えてしまうのかな)


「もしかして……私が、リカルド様を好きな気持ちが……竜にとっては、甘く感じるということでしょうか」


 顔を赤くさせてスイレンが問えば、リカルドはそんな彼女を見てから優しく微笑んだ。


「うん。竜のことは良くわからないから、不確かだけどね。多分……そうではないかと、今竜騎士団の上層部では推測されているみたいだ。スイレンが俺の事を好きだから。そういった気持ちが、彼らには至上の甘露と言えるほどに甘く感じるようだと」


「なんだか、恥ずかしいですね。私のリカルド様を好きな気持ちが……甘くなっちゃう、原因だなんて……」


 恥ずかしそうに顔を伏せたスイレンに、リカルドは耳元で囁いた。


「いいや。世界で一番好きな女の子が、俺の事をそんなにも好きなんだと思って、それを聞いて嬉しかった。恋する気持ちを竜が甘く感じるなんて、不思議だとは思うけど」


 彼の大きな手がさりげなく自分の胸に届いたので、スイレンはそれを自分の手で押さえて身体を引いた。


「……こんなところで。ダメです」


 ここは家の居間で、今は二人きりとは言え、先程出て行ったワーウィックだっていつ帰って来るかわからない。そんな場所で、彼と何かをするつもりはなかった。


「そうか。じゃあ、俺の部屋に行こう」


「わ。リカルド様。重くないです……?」


「君が重いと思うような人間なら、俺はそもそも竜騎士にはなれていないと思う」


 心配して身を捩ったスイレンに向けて揶揄うような口調でリカルドはそう言って、スイレンを横抱きしてから立ち上がった。


 スイレンだって成人した女性でそれなりの体重があるはずなのに、力がある彼はそれを感じさせない颯爽とした動きで階段を上り始めた。



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