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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック4巻発売中】  作者: 待鳥園子
第三章

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3-4 花冠

 疲れていたリカルドは夕食の時もブレンダンと竜二人に何かと揶揄われて、少々拗ねた様子で自室へと戻っていった。


 スイレンは浴室を出て髪を生活魔法で乾かしてから今夜はどうしようかと、しばし悩んだ。リカルドは竜騎士団の仕事が忙しく三日間連勤していたし、疲れていた様子だった。だから、今夜は一人で寝かせてあげようかと思ったのだ。


 優しい彼はスイレンが部屋に行けば何も言わずに迎えてくれるし、次の日は仕事で朝早いからと自室で寝たいと言っても何の文句も言ったこともない。


(どうしようかな……顔だけでも、見ようかな……でも、疲れているかもしれないし)


 悩んだ末に、スイレンは立ち上がり、結局隣のリカルドの部屋の扉を叩いた。すぐに彼の声がして、スイレンは扉を開けた。


「リカルド様。あの……ごめんなさい。私もあの時一緒に笑っちゃったんですけど、バカにした訳じゃないんです……なんだか、そんなに眠かったのかなと思うと、可愛くて」


 大きなベッドに座って見ていた書類を置いたリカルドは、夕食時のことを謝りつつ自分へと近付いてくるスイレンを腕を広げて迎えた。


「うん。俺も、ごめん。スイレンとかあいつらに対して、怒っていた訳じゃないんだ。ここのところ疲れてて、苛々しているかも」


 やはり忙しい仕事で疲れているのだと、スイレンは立ったままで彼の腕に抱かれつつ息をついた。リカルドの燃えるような赤い髪は少し癖のある髪質なのだが、どこかへたりとしている錯覚も覚えた。


 お腹の辺りにあるリカルドの頭を撫でれば、彼はスイレンに顔を擦りつけるようにして甘えるような仕草をした。


(リカルド様。やっぱり、凄く疲れてるんだ。いつもなら、あんなことで拗ねたりしないものね)


 ワーウィックに内緒話をされたと知った時の反応も、どこか彼らしくなかった。我慢強いリカルドが、そんな様子を見せるということは、相当疲れているのかもしれない。


「……今、お仕事大変なんですか?」


「そうだな……家でスイレンとゆっくりしたいけど、落ち着くのはまだ遠いかもしれない……」


「そうなんですね」


 まだしっとりと濡れていた赤い髪を乾かして撫でてあげると、リカルドは上目遣いでスイレンを見た。


「……あいつらと内緒の話って、俺には絶対に言えないのか?」


 やはり自分に一番近い存在であるワーウィックとスイレンに何かを内緒にされていることがまだ引っ掛かっているのか、リカルドは不満そうだ。


(リカルド様。拗ねてて可愛い……言ってあげたい。でも、ワーウィックにとっては大事なことだものね)


「ダメです。約束しましたし……あの……多分、そんなに遠くない日に、リカルド様にもワーウィックが言ってくれると思いますよ」


 ワーウィックとプリシラが上手く行けば、きっとリカルドに一番に報告するだろうとスイレンが微笑めば、彼は大きく息をついた。


「すぐなんだろう? 今では、ダメなのか?」


 スイレンがここまで言っているのに食い下がるリカルドは、珍しい。それだけ、仲間外れにされているような気がして不満なのだろう。


(リカルド様……可愛い)


 スイレンが恋する彼が何をしたとしても、ときめいてしまうことには違いないのだが、人の恋路に関わることなのでこれだけは言えないと首を横に振った。


「……スイレン。じゃあ……」


 リカルドがまた言葉を重ねようとしたその時、彼は眉を顰めて嫌な表情になり黙り込んだ。彼とこうして親しくなってから、たまにこういう時があったのでスイレンはすぐにその理由を察した。


(あ。ワーウィックと、話しているんだ。もしかして、呼び出しなのかな……)


 先程、もう既に遠征に向かっただろうブレンダンが、リカルドの班もお呼びが掛かってもおかしくはないとそう言っていたはずだ。


 リカルドと居る時に、ワーウィックが話し掛けて来ることは前にも何度かあった。けれど、こんなにも彼が嫌そうな様子になったのを、スイレンは初めて見た。


 リカルドはスイレンを抱き竦めていた両腕を下ろして、はーっと息をついた。


「……あの、リカルド様?」


「スイレン。ごめん。俺もこれから、すぐに遠征に行くことになった。副団長からの、呼び出しだ。一隊では足りないからと、俺たちも行かねばいけないらしい」


「そうなんですね……気を付けて、行って来てください」


 仕事の呼び出しでは仕方がないとスイレンが微笑むと、リカルドはもう一度彼女の柔らかな身体を抱きしめてからお腹に顔を埋めて呻くようにして言った。


「行きたくない……嫌だ。せっかく、こうして三日振りにスイレンに会えたのに」


「……帰って来たら、一緒にどこか行きましょう」


 それ以外の言葉が見つからなかったスイレンが、またリカルドの赤い髪を優しく撫でれば彼は、はーっと大きく溜め息をついて頷いた。



◇◆◇



「え……? 生花で作った花冠?」


 それを思いもしなかったらしいワーウィックは、スイレンが考えて来たプリシラへの贈り物の提案をぽかんとした顔をして聞いた。


「そうなの。だって、きっと女性なら綺麗な花が嫌いな人は少ないと思うから、アクセサリーと同じように、きっと喜んでくれると思うわ。それに、私が長持ちするように魔法を掛けておけば、長く持つと思うし。もし、喜んでくれたら、またワーウィックが作ってあげたら良いと思うの。記念になるようなずっと手元に置いておける物も良いと思うけど、この時を振り返る時に、きっと良い思い出になるわ」


 彼らが遠征に行っていた間、時間があれば贈り物をどうすれば良いかと考えていたスイレンの熱弁を聞いていたワーウィックとクライヴは、顔を合わせてから笑ってお互いに手を叩いた。


「僕は、スイレンの花冠の案は凄く良いと思う。確かに後に残るような記念になるようなものでも良いけど、それはまた正式に番になってから、プリシラの希望するものを贈ってあげれば良いと思うし……ワーウィック。これでいこう」


「うん……僕も、そう思う。綺麗な花冠はきっと彼女も喜んでくれると思うし、スイレンの言う通りに思い出にきっと残る。ありがとう……スイレン」


 最近、悩んでいる様子を見せていたワーウィックは、やっと明るい表情を見せてくれた。


「あの……彼女は、何色の鱗の持ち主なのかしら? 色の相性もあると思うし、花の大きさも重要だわ。必要な花の種を探すなら、早い方が良いと思うし……」


 生花を売り歩く花娘をしていた経験から、珍しい花の種が手に入り難いことを知っているスイレンは、そうと決まればとにかく花の種類を検討しようと二人に言った。


「プリシラは砂竜だから、薄茶色なんだ。だから、彼女は淡い色よりも、濃い色の方が映えるかもしれない」


 クライヴがそう言えば、スイレンは確かにそうだと頷いた。


(クライヴって、ガーディナー商会にたまに居るせいか、元々なのか、凄く服なんかのセンスが良いのよね……やっぱり。ブレンダン様に、似ているからかな……)


 ブレンダンも実家の仕事柄、流行に敏感だし彼の身に付けているものは良く吟味されたものばかりだ。


「……この前話した時に、赤とかピンクが好きだって言ってた」


 ワーウィックが、そういえばと思い付いたようにして言った。本人からの貴重な情報により、三人は花の種類を相談し合って紙に書いた。


「こんなものかしら。色が強いものだと、南国の花が多めになるわね……けど、合わせた時に、色のバランスがおかしい場合もあるかもしれないから。ブレンダン様に相談して、ガーディナー商会にある種も少し分けて貰いましょうか?」


「……ブレンダンに、理由は言うの?」


 ワーウィックは何故か、リカルドとブレンダンに知られることを酷く嫌がっているようだ。


(リカルド様とブレンダン様が、ワーウィックが好きな竜に告白するのを揶揄うなんて……なんだか、想像もつかないけど……もしかしたら。私の知らない、何かがあるのかしら)


 ワーウィックとクライヴは、三年前に彼らが竜騎士になった時に契約を結んでいるはずだ。当初は彼らもまだ若かっただろうし、今とは全く違う考え方を持っていてもおかしくはない。


「ううん……私が、お友達に花束を作ってあげたいからって、そう言うわ。それで良い?」


 あくまで自分のことで花の種を欲しがっていることにしようと言ったスイレンの言葉に、ワーウィックはほっと安心した様子で頷いた。


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