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【書籍3巻発売中】ひとりぼっちの花娘は檻の中の竜騎士に恋願う【コミック3巻発売中】  作者: 待鳥園子
第三章

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3-1 褒め上手

「ええ。とても、良いわ。スイレン。貴女がこのところ、すごく頑張っているから。長年経験のある私が見てもややこしいと思う礼儀作法も、こんなに短期間だというのに……本当に、上達して来たわね」


「……ありがとうございます」


 手放しで褒められたスイレンは正面の席に座っていたクラリスに、照れながら微笑んだ。


 リカルドのたった一人の妹である彼女は、三つ上の兄に本当に良く似ている。燃えるような赤髪に、整った凛とした顔立ち。デュマース家の二人が揃えば血の繋がった兄妹であることが、一目見れば理解してしまえるのだ。


 現在二人が居るデュマース邸の陽の当たる暖かなサンルームは、スイレンがこれから必要な貴族としての礼儀作法を学ぶための専用のテーブルや食器をクラリスが特別に用意してくれていた。


 本日はというとお茶会に呼ばれた時に、他の貴族たちとどう接すれば良いのかを、クラリスから事細かに学んでいたのだ。


 スイレンは週に二回ほど自分が仕事のない日にこうして貴族として生きるための礼儀作法などを学んでいる。兄に代わってデュマース家のほとんどを取り仕切るクラリスは褒め上手で、人をやる気にさせる言い方がとても上手かった。


 口が上手いとはお世辞にも言えないが国の英雄としての名声だけは高い当主の兄より、ヴェリエフェンディの社交界では彼女の方が人脈を作ることが上手かったはずだ。


(クラリス様に褒められると、嬉しい。彼女は似てるだけで……リカルド様じゃないって。ちゃんとわかってるんだけど)


 大好きなリカルドの唯一の近い血縁であるクラリスとこうして仲良くなることが出来て、スイレンは頬を赤くしながら本当に良かったと思った。


 妹に会わせる前に彼はもし二人の間が上手く行かなかったとしても、自分がなんとかするからと言っていたけれど、スイレンはデュマース家の当主であり国防を担う竜騎士のリカルドに、そういった余計な心労をこれ以上は与えたくはなかった。


「ふふ。スイレン……今。お兄様のこと、考えてたでしょう?」


 クラリスは何を考えていたか当てられ無言で顔を赤くしたスイレンを揶揄うように微笑み、先程まで練習用に使っていたお茶を入れ替えるように傍に居た侍従に指示を出した。


「私とお兄様は顔も良く似ているし、持っている色も一緒だもの。そうなってしまうのも、無理はないわ。私だって、兄のおこぼれとは言え、可愛い女の子に好かれて悪い気はしないもの」


「そっ……そんな! そういった意味では……ないです……クラリス様に褒めて頂けて、その。嬉しくて……」


 スイレンは両手を振ってクラリスの言葉を力なく否定したが、人の心の機微に長け敏い彼女には通用しなかった。


「まるでお兄様に、褒めて貰えてるようだった? スイレンは、本当に可愛いわね。あの……いけすかないパーマー家のイジェマなんて、本当に目じゃないわ。お兄様って鈍いと見せ掛けておいて……実は、今まで隠していただけで、異性を見る目だけはあるのかもしれないわね」


 うんうんと一人納得しつつそう頷いたクラリスに、スイレンは首を傾げた。


(イジェマ様は、今ではもう国を出て海を越えて、大陸を旅していると聞いたけど……クラリス様とは、昔から仲が良くなかったと聞くし。やっぱり、そういう意識し合う関係性にあったら、居なくなっても気になってしまうのかな)


 スイレンは、つい最近ひょんなことから知ることが出来たのだが、以前のヴェリエフェンディの社交界の令嬢たちは、パーマー家のイジェマ派とデュマース家のクラリス派という二大勢力に分かれて争っていた時期があったらしい。


 クラリスは大事な兄のリカルドを、貴族が竜騎士になるなんて泥くさいとバカにしていたイジェマが、ずっと前から好きになれなかったはずだ。そして、黙って不遇に耐えるような可愛らしい性格でもない。兄の婚約者を嫌いだということを隠しもしなかったことは、容易に想像出来た。


 それに、イジェマだって自分のことが好きではない妹の居るデュマース家に嫁ぎたくはなかったのだろう。親に決められた婚約者リカルドの代わりになる存在を探して、親を説得し婚約解消を持ち掛けようとしていたらしい。


「……イジェマ様は、なぜ竜騎士が嫌だったんでしょうか?」


 久しぶりに彼女の名前の出た話のついでにと思ったスイレンは、今までどうしても自分の中で納得のいかなかったことをクラリスに聞いてしまった。


 竜を駆る騎士など、空想の世界である物語の中でも珍しい存在だ。世界広しと言えど、守護竜を抱く国はこのヴェリエフェンディのひとつだけだ。だからこそ、上位竜イクエイアスの眷属の竜たちは、特別に竜騎士と契約する機会を与え気に入れば契約を結ぶのだ。


 それに、竜たちは人に対して友好的な大いなる守護をくれる最強の種族のひとつとして、人々には認識されている。そんな竜を自在に駆り国を守るために戦闘する竜騎士を、嫌がる理由がスイレンには何一つ思いつかないのだ。


「さあね。イジェマはあの女にしかわからない、妙な強い拘りを持っていたし……そうよ。嫌なことを思い出したわ。あの女。竜のことを、大きな蜥蜴と呼んでいたのよ。信じられない。お兄様がワーウィックと契約を結ぶことが出来て、家族全員喜んでうちの邸で開いた祝いの席、その時によ。私も、あれにはどうしても我慢出来なかったわ……竜騎士の地位を手にするまでに、死ぬほどの努力を重ねた人の前で、祝うべき結果をこき下ろしたのよ。許し難いわ」


「……大きな蜥蜴。なんだか、ワーウィックが聞けば、怒りそうですね」


 リカルドと契約を交わした竜のワーウィックがその言葉を聞いてしまった時の反応を想像して、スイレンは微笑んだ。


「やだ、スイレン可愛い……この話を聞いて、そこに反応するの? 私があのイジェマをこてんぱんにした話を詳しく聞いて欲しかったんだけど、それは終わったことだしもう良いわ。竜だって、最強の種族のひとつだと言われてはいるけど……竜殺しの一族も存在するから。この世界は大いなる生態系を持つ、残酷な弱肉強食であることは間違いないわね」


「竜殺し……ですか?」


 思わぬ不穏な言葉を聞いたスイレンは、驚きぱちぱちと目を瞬かせた。クラリスは、そんな彼女の様子を微笑ましく見つつ、肩を竦めた。


「ええ。そうよ。竜の素材は、素晴らしい防具に加工することが出来たり、貴重な魔法薬には欠かせない材料だったりするもの。一匹を捕らえれば信じられないほどの、巨額の富を産むわ。なんでも、彼らに代々伝わる秘術で、人の身だとしてもあの竜を捕らえることが出来るそうよ」


「そんな……酷い」


 スイレンは自分の身近に居る竜たち、ワーウィックやクライヴの顔を思い出した。ただ話を聞いただけだというのに、その光景を想像していまい思わず泣きそうになってしまった。


(ワーウィックやクライヴは……大丈夫だよね。怖い)


 思わずぎゅっと両手を強く握りしめたスイレンを落ち着かせるようにして、クラリスは優しく声を掛けた。


「あんなに強い竜たちを、どう出し抜いて……あの一族が、竜を捕まえられるかというのは……確かに、世に知られていないわ。けど、ヴェリエフェンディの竜たちは、イクエイアスの守護の元に居るのよ。彼らに襲われたことがあるって話は、私も一度も聞いたことがないわ。それに、竜殺しの一族が狙うのは、多分群れから逸れた竜でしょうね。群れの中に居る竜を襲えば、彼らだって自分たちがどうなるかわかっているはずよ……だって」


 意味ありげに目線を上げたクラリスに、スイレンははっとして言葉を引き継いだ。


「彼らは、心を通じることが出来るから……?」


「ふふっ。良く出来ました。そうよ。ヴェリエフェンディの竜たちは、数も多い。大きな群れを形成して、この国に定住しているわ。私は話に聞くだけだけど、こうした上位竜をリーダーにした竜の群れは世界にもいくつか存在している。そこの竜が殺されれば、彼らは絶対に許さないでしょうね。それに、リーダーの上位竜も」


「……イクエイアス様が、許さない?」


 スイレンはリカルドを救出するために一度だけ会った事のある、美しい守護竜の姿を思い出した。圧倒的なまでの強い魔力と、そして穏やかで神々しいまでの眩い光。この世界に降臨した神だと誰かに言われても、すぐに信じてしまいそうになるくらい大いなる存在だと感じた。


「そうよ。だから、スイレンが名前を知っているような、竜騎士たちの竜になんて、彼らは絶対に手は出さないわよ。安心して。っていうか、ワーウィックのことならお兄様がどうにかするわよ。そのための、契約でしょう?」


「……ワーウィックが、リカルド様を守るためではないんですか?」


「その逆も、然りよ。誰かに守って貰うだけなんて、誰だって嫌でしょう。竜騎士と契約した竜は、一蓮托生よ。彼らは守り合うべき存在なんだから」


「あの……だから、リカルド様はワーウィックが墜落して怪我した時に、自分が囚われるから手を出すなと庇ったんでしょうか?」


 リカルドがガヴェアに囚われの身となることになってしまった理由は、そんな始まりだったはずだ。


「……その理由は、私にはわからないけど……お互いがお互いを守り合うという、竜騎士はそういう契約だったはずよ。でも、お兄様のことだから、何も考えずにワーウィックが助かるならと、思い付きで言ってしまった可能性あるわね。そういう人なのよ」


 クラリスはそう言って、はーっと大きく息を吐いた。それを見て、スイレンも笑ってしまった。


 ここに居る二人が特別に大事に思っている彼は、それをしたとしても全く不思議ではないからだ。


「ええ。確かに、そういう人……ですね」


 まだまだ陽の高い午後のサンルームに、二人の明るい笑い声が響いた。


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