2-12 朝の光
スイレンが、翌朝目を覚ました時。
もう日は高くなっていて、ぐっすりと深く寝入ったままのリカルドに、後ろから抱き込まれたままの状態だった。スイレンは体を捻らせて苦労して、力強い太い腕から逃れることが出来た。
いつも精悍な彼の寝顔を、こうして見るとあどけなくて本当に可愛かった。見ているだけで、心の奥底から愛しさが溢れてくるのだ。
(リカルド様を初めて見たあの時……彼は、遠くに見える檻の中に居た。今はこうしてすぐ近くの隣に居て、あどけない寝顔を見せてくれている。幸せ……)
「リカルド様……好き……」
スイレンは思わず、寝ているリカルドの頬にキスをしてしまった。今朝は、あの時のように彼は起きなかった。
何もかもが遠かった彼をこうして身近に感じるたびに、あの時に勇気を出して良かったと何度だって思うのだ。
寝息を立てているリカルドを見ているこの時に、彼を愛していることを再確認する。
スイレンが時間を忘れて、リカルドの顔を見入っているその間に、ゆっくりと瞼が動いて彼は目を開けた。
「……スイレン。もう、起きてた?」
横になったままのリカルドは、傍で座って自分を見下ろしていたスイレンを見つけ、蕩けそうな笑顔で見つめた。
「起こしちゃったかも……ごめんなさい」
「……いや、もっと起こしてくれたら良かったのに。何も謝ることないよ」
燃えるような赤い髪に寝癖をつけたまま、とても眠そうな目をしているリカルドは上半身を起こし、スイレンを優しく見つめた。
「大丈夫です。でも、私こうして二人で居ることが、すごく……私嬉しくて……」
感極まって涙を落としそうになったスイレンを、抱き寄せてリカルドは頷いた。
「うん。俺も、凄く嬉しいよ。君みたいな可愛い女の子が、自分の恋人なのは今も信じられないな」
ちゅっちゅっと軽く音をさせて、頭に優しいキスを落としていく。リカルドはスイレンの柔らかな栗色の髪を撫でながら、幸せそうに笑った。
「リカルド様が……私の恋人なんですね」
「そうだよ。世界の誰よりも、君を一番に大事に思っている」
二人、笑い合って抱き合った。スイレンの中で今まで生きてきて欠けていた何かが、それがようやくここで、埋められたようなそんな気がした。
スイレンは顔を離すと、少し首を傾げている彼に言った。
「……リカルド様。ご飯を食べに行きましょう。ワーウィックも、もう帰って来ているかも……」
ワーウィックが、昨日竜舎に行く前に言っていたことを思い出したスイレンは、口に手を当てて慌てて言った。
彼は朝には帰ると言っていたから、もう既にこの家に帰ってきているはずだ。
「あいつ。下でイライラしながら、俺達が起きるのを待っているよ。流石に、今部屋に来るのは遠慮をして居るみたいだな。二人で、怒られに行く?」
竜騎士の契約を交わしていて、心の中でも彼と会話することの出来るリカルドは、もうワーウィックと話していたらしい。
壁にある時計を確認すると、もう昼過ぎだった。
朝から何時間か、焦れて待っていた彼を思うとスイレンは申し訳なくなった。
涼しい顔をしたままのリカルドは、スイレンを抱きしめていた腕の力を抜いた。
「早く行きましょう。」
「スイレン……今日はもう、ベッドの中で一緒に過ごさない?」
「リカルド様っ!」
ワーウィックを長く待たせているのにと頬を膨らませたスイレンに、リカルドは笑顔で言った。
「ごめん。冗談だよ。でも、君とこうして居るのが……未だに、本当に信じられなくて」
そうして、お互いに顔を近づけ合って額を重ね合わせ、二人は微笑み合った。




