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第4話 あのフォロワーさん

 

 翌日もまたいつも通りの学校生活だ。


 午前の授業が終わり昼休みがやってきた。


 今日は食堂ではなく天気がいいから外で食べようということになり、俺は昼飯を買う為に購買に来た。

 昼休みの購買はいつも混む。


 獣のように飢えた大勢の生徒が押し合うように購買でパンやおにぎりを買うので昼休みの購買はある意味戦場だ。


 学校専属のパン屋が購買スペースに来てトレイに商品を置いて販売する。


 そんな購買スペースを大勢の生徒がぎゅうぎゅう詰めで生徒が並んで商品を購入していくのだ。


「やっべー。ちょっと来るのが遅かったな」


 昼休みも始まってその購買は混んでいてすでに何列もできている。

 俺もその列に並ぶことにした。


 並んだ列で前にいる生徒を見ると黒髪をなびかせ眼鏡をかけている女子、同じクラスの陸野だった。


 いつもは教室で一人で弁当を食べている陸野が今日は購買だなんて珍しい。


 大方今日は弁当を持ってきていないとかそういう理由だろうか。


 そういえば俺はこいつとなんとか話すきっかけを作らなければならないのだ。


 何か話すきっかけもすぐには思いつかず、なんとなく俺は陸野に話しかける。


「よう。陸野が購買なんて珍しいな」

 つかみどころのない話題で陸野に声をかけた。


「今日はお母さんが朝早く出るからお弁当を作る時間なくて。それで今日は購買ですませてって言われて。食堂にしようかとも迷ったけど、勉強しながら食べたいし」


 眼鏡越しに陸野の瞳が見えた。昼休みも勉強とはその真面目さが生きる。


 ふと陸野が手に持っている財布が目に入った。


 黄色のチェック模様の長財布だ。金色のボタンとファスナーがついている。 


 陸野が持っている財布のデザインが昨日ツイッターで見たやつだなあ、と俺は思った。


 よく雑誌なんかで鞄の中身チェックとかを見るとこういうタイプのデザインの財布を持ってる人は多い気がする。

 きっと女子高生に流行っているタイプの財布なのだろう。


 そうしているうちに購買の列はどんどんさばかれていき、ついに俺達がトレイの前に出る順番が回ってきた。


 陸野はあまり購買を利用することに慣れていないのか、じっくりとパンの種類を見ながら商品を選ぶ。

 その横で俺はトレイの中から欲しい商品をさっさと選んだ。

 今日はツナサンドと焼きそばパンの気分なのでその二つを選ぶ。


 同時に並んだ陸野も商品が決まったらしくのそのそとした手つきで財布を出す。


するとその時、陸野は商品を受け取るために財布を肩に挟んでいたが商品を受け取った瞬間財布が肩から滑り落ち、陸野の財布が床に口を開いた状態で落ちて小銭が飛び散る。


「きゃっ、すいません」

 陸野はすぐにしゃがみこみ激込みの中後ろの早くしろ、という威圧が凄い。


「おいおい大丈夫かよ」

 俺はすかさず陸野と一緒にそこにしゃがみこみ、陸野の小銭を拾うのを手伝った


「こっちに百円玉、こっちに十円玉落ちてるぜ」

 幸い今日はそんなに小銭を持っていなかったらしく、落ちた小銭はすぐに全て拾い終わった。


 すると、たまたま見えてしまったのだが落ちていた陸野の財布からはカード入れの部分からカードが数種類飛び出していた。

 どこかの店のショップカードにポイントカードなどだ。


 その中に一つ気になったものが目に入った。


「あれ? これって……」


 コールドエンブレムのユイロがきめ台詞とともにプリントされているカードが入っていた。


 無機質なポイントカードに交じって異彩を放つそのカードに俺は釘付けになってしまった。


 黄色いチェック模様の財布にコールドエンブレムのユイロのカード、昨日Xで見た画像と同じだ!と。


 すると、俺が財布を見つめていることに気づいた陸野はさっと財布を拾う。


 陸野は見られたくないものをここにいる大勢の生徒に見られないようになのかすぐに財布を手に持ち、飛び出したカードを収納した。


「……」


 見てはいけないものを見てしまったようで気まずくなり、沈黙が流れる。


「おい、終わったならとっとと行けよ」


 後ろから購買に並んでいた生徒が邪魔だといわんばかりに押してきたので俺達は購買から離れて廊下を歩いていた。


 相変わらず陸野は黙ったままだ。


 その沈黙がまた気まずいので俺は話題を振った。


「えっと、その……陸野もアニメとか見るんだ?」

 俺は当たり障りない会話として噂で聞いたことも兼ねてその話を振ってみた。


 その財布は長財布にユイロのカードが入っていた。


 しかもそのカードは食玩であるコールドエンブレムウエハースについているおまけである。


 まさに以前陸野がアニメの食玩を買っていたという噂とも一致する。


「それ、コールドエンブレムのユイロだよね。俺もそのアニメ観てるから知ってる。まさか陸野もアニメとか見るんだなって驚き。いつも真面目なイメージあったから」


 俺はついその財布を凝視してしまった。

 陸野は俺の視線に気が付き、財布を隠した。


「何? 財布がどうかした?」


 陸野はそっけなくそう返す。

 このままでは俺が陸野についての噂を知っていたかというのがばれそうで、あえて違う話題を出した。


「いや、俺のXのタイムラインでフォロワーさんにその財布とよく似た財布の画像をアップしてる人がいてさ。中にユイロのカードが入ってるってのも同じだったから似たようなことする人いるんだなって思っただけ」


 俺が言っているのは昨日Xで見た画像のことだ。


 ちょうど陸野と同じような財布に同じくユイロというキャラのカードを入れている。


「江村君、SNSとかやってるんだ」


 俺がXをやっているということがそんなに驚きなのだろうか。


「ああ、まあアニメ関連の情報とか拾えるし。情報集めにはいいなって」


 そのことを聞くと、陸野は突然俺の傍に近寄ってきて俺の腕をつかんだ。


「こっちに来て」


 陸野は俺の腕を購買の喧騒から離れた人のいない階段の隅へと俺を連れてきた。


 話すことがあるのならば普通にさっきの場所でもいいだろうに、なぜわざわざ人がいない場所を選ぶのか。


 陸野の様子が先ほどからおかしなことに俺は疑問だった。


 先ほどから静かだった陸野が急に口を開くとその言葉に驚愕した。


「もしかして、江村くんが「オクタン」さん?」


 俺はその名前を聞いた時「えっ」と声が漏れた。


 陸野は俺がXで使っているユーザーネームを口にしたのだ。


 Xのアカウントはリアルの知人ではこの学校だと修二など俺のアニメ好きを理解しているごく少数の友人にしか教えていない。


 それをなぜ今までまともに話したことすらない陸野が知っているのだろうか。


 まさかどこかからか情報が洩れてこれがリアルバレというものかと俺は焦った。


「え、な、なんでその名前を知ってるんだ?」


 もしかして俺がXに個人が特定するような内容をうっかり書き込んでしまっていたのではないかと。


 日常的にいろいろ画像ポストも結構アップロードしたりしていたので思い当たる節はあったので冷や汗をかいた。


「やっぱり……」


 陸野はそう言うと、制服のスカートのポケットからスマホを取り出した。


「これ、私のアカウントなの」


 陸野がかかげたスマホの画面にはXアカウントのプロフィール画面が表示されていた。


 そのアカウント名は「ノリミ」アイコンは花だ。


「え、このアカウントは……!」


 紛れもない、俺がよくリプを投げるあのノリミさんのプロフィール画面だ。


「江村くんと観てるアニメの趣向がよく似たような人がフォロワーさんにいて、その人なんじゃないかってうっすら思ってて」


 俺は自分のXに常に見ているアニメの感想をポストする。それが学校の教室で友人と話している内容と一致したのだろう。


 俺はよく日常ポストとして結構いろんな画像を投稿していた。


 どうせこんなのリアルで俺を知っている人しかわからないだろう、ということで個人情報を特定できない範囲で学校の帰り道で食べた物などの画像をアップしていた。そこから特定に繋がったようだ。


「じゃあ、「ノリミさん」って陸野だったのかよ!」


 まさかよく交流をしていたフォロワーが同じ学校でしかも同じクラスの陸野だったなんて!


 俺がイメージしていたアニメ大好きの「ノリミさん」と陸野はかけ離れている。


 俺はもっとアニメ好きできっときゃぴきゃぴした女子高生なのだろうと想像していたがそれがこのお堅い陸野なのである。


「まさか、同じ学校にフォロワーがいるなんてなあ、世間は狭いというか」


「だね…。私もびっくりした」


 ネット上で知り合った人と実際に会うなんて経験は滅多にない。


 しかもすでにその「ノリミさん」とはXでは何度もやりとりしている。


「なんで俺にアカウントのこと教えてくれたんだ?」


 例えネット上ですでに何度もやりとりをしていたとしてもリアルで近くにそのフォロワーがいたからといってわざわざ正体を明かす理由はない。

 むしろリアルバレしてしまうことで面倒なことになったりする場合だってあるのだ。


「もしも近くにそういう人がいるってわかっていながらも、知らない人のふりしてネット上で接するってなんか嫌じゃない?」


 なるほど、それも一理ある。

 俺とノリミさんは好きなアニメがいくつかかぶっていた分、やりとりもそこそこしていた、


 すでにそのフォロワーのことをリアルで知っていながら今後もネット上では他人のふりをするのも何かおかしな話だ。


 一方はアカウント主のリアルでの正体を知っておきながらネット上ではまるで他人のように接する、それは人によっては気持ちいいものではない。


「でも、それなら納得だな」


 俺は修二から聞いた陸野がアニメ好きかも、という噂が本当なのだと確証を得た。


「納得って何が?」


 ついうっかり口走ってしまったことに陸野にはその修二から聞いた話はしていなかったんだと、焦りわざと違う言い訳をする。


「陸野がカード持ち歩いてるのがってことだよ。アニメが好きで、コールドエンブレムも好きなんだもんな」


 あえて陸野がノリミさんとしてポストしていた話題へと持っていく。


「江村くんもコルエム観てるんだっけ。前、Xで言ってたね」


 さすがはお互いのタイムラインやポストをチェックしていた同士でこういう時に話が分かり合える


「ああ。面白いから漫画も全巻持ってるぜ。いい作品だよな」


「クラスメイトにあの作品を知ってる人がいて嬉しい」


 陸野はその時、表情がいつもの固い表情から少し柔らかな笑みを浮かべていた。

 眼鏡をしていなかったらきっとよく表情が見えただろう。


(こんな陸野の顔、初めてみた……)


 俺はなぜかその表情に一瞬心奪われてしまった。


「なんか江村くんってXのノリとリアルのノリがほとんど同じような感じなのね。いつも学校でも割とあそこでのノリじゃない?」


「まあ、俺にとってはアニメについて詳しいのがステータスですから」


「ちょっとだけ江村くんへのイメージ変わったわ」


 そう言うと、陸野は少しだけ嬉しそうな表情で一言を放った


「これからもよろしくね」

 そう言い残すと稑野は階段を上り、その場から去っていった。


 これから、とはどういう意味だろうか、Xでも今まで通りよろしくという意味だろうか。俺はそんな風にぼんやりと考えた。


 あながちイメージが変わったのは陸野だけではない、俺からの陸野への正体も「ノリミさん」と知ったことで変わったのである。


 しかしこれで陸野のことを少しだけ知った俺は今後陸野とは絡みやすくなるかもしれない。


 今まで学校ではあまり話さなかった相手だがネット上でのやりとりはそこそこ頻繁にしていた相手だ。


 これは陸野と親しくなるチャンスではないだろうか?


 他の女子とも交流させるには俺がまず陸野に近づかなければならない。


 しかしこの日はこれ以降、陸野と話すチャンスは訪れなかった。


まさかのクラスメイトがネット上で親しくしていたフォロワーだったと判明。この先、交流するにはどういう手段になるのでしょう?

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