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第1話 いつも通りの学校生活



「億斗。今期何を観たー?」


 次々と学校へと登校してくる生徒で教室が騒然となる朝のホームルーム前。


 窓際の席で俺は隣の席の友人・厚見修二と話す。


「今期何を観た?」と言われれば当然それは新シーズンごとに始まる新作アニメのことである。


 もちろん話すのはアニメの話題が多い。


 友人の厚見修二はこの高校で出会い、同じくアニメが好きな仲間として付き合ううちに今では親友と呼べる仲になっていた。



 高校生活も安定してくる一年生の一学期も折り返し地点を迎え、半分が終わろうとしている時期だ。


 俺は入学したばかりの頃はアニメ好きの友達を作ろうとして悪戦苦闘していた。


 高校生にもなれば次第にアニメよりも恋人や彼女などいわゆるリア充になりたい奴も多かったり、進路に向けて本格的に受験勉強に専念する年齢になってくるのでアニメが好きという気が合う友人を探すのは大変だった。


 しかし幸い奇跡的にも修二とはアニメ好きということで意気投合して友人を確保したことで高校生活には不自由ない程度には充実した日常を送っていた。


 そして俺達はこの高校にあったアニメ研究会という部活に入部した。


 名前の通りアニメ好きが集まり、アニメについて語り合うという部活である。


 しかし入部したもののほぼ閑古鳥状態の部活だったので部員は存在するがみんな幽霊部員で活動らしい活動はしていなかった。


 それでも俺と修二は同じクラスメイトで部活仲間ということもあり親しくしていた。


 俺は小学校高学年の頃、周囲が次々とアニメを卒業する中、深夜アニメの面白さにはまっていた。


 それまで観ていた子供向けのアニメと違い、可憐な女キャラ、かっこいい男キャラ、そして大人が見ても面白いストーリーにシリアスなシーンの魅力にはまり、それ以降深夜アニメを観まくるようになった。

 子供心に、小学生がオタク向け深夜アニメにはまることで大人向けなストーリーを楽しむことでちょっとだけ背伸びした気分にもなれていたのである。


 毎シーズン開始ごとに一斉に始まる新番組は全て録画して必ずどれも一話チェックをするし、ガチのアニメクラスタと呼ばれるものだ。


 アニメの話題をメインにしてしまう俺はどうしてもそこから友人の輪を広げることは困難だったのだがこういうのは量より質なのだ。


 友人が多いことよりも、少なくても一緒にいて楽しい人こそが仲間ではないか。


「今期は『夕焼けの見える場所』と『はっぴぃほぉむ』を推してるぜ。『夕焼け』はすっげえ作画が綺麗だし『はぴほむ』はゆるキャラの日常系が見てて楽しい」


「だよなー。俺もそのラインナップ観てるぜ! 配信サイトでも再生数高いしな」


「バトルものなら『ユリークル戦記』とかも真剣に観てるな。原作読んだことないから今度買おうかと思ってる」

「あと、今期は『覇王の行くところ』も面白いぜ!『コールドエンブレム』とかも! 主人公がまさに俺様って感じなんだけど、仲間とのやりとりがいい」


 修二とはこんなたわいもないアニメ語りをよくする。


 こうやって同じ趣味の友人と大好きなアニメについて語れるのは至高の時だ。


 家にいてアニメを観るだけではなく、学校でもアニメの話ができる。


 もはや俺の生活はこういった二次元のサブカルチャー文化で構成されているといっても過言はない。


「でさー、配信サイトで一話チェックしたら宣伝が入って……」


 俺と修二が椅子に座って席で熱く語っているところ、ある女子が登校してきて鞄を持って俺の前の席に座った。

 

 つややかで美しいストレートな黒髪にバッチリ着こなしたアレンジなしの校則通りの制服、眼鏡のレンズからちらりと見える大きな目は眼鏡越しでも凛としいて美しい。

 校則通りのスカート丈を守っているためかスカートは長めにくるぶしを覆うソックス。


 まさに日本人形のような上品さを醸し出す顔は眼鏡をしなければきっとかなりの美人だろうに、それを眼鏡で覆ってしまっているのが勿体ないと思う美貌だ。


 この女子は学年一の成績トップを維持する陸野未祐だ。


 成績優秀でクールな面影、どこか人を寄せ付けない空気を醸し出しているが教師からの人望は厚い。


 眼鏡をはずせばきっと絶世の美女であろうと思われるが俺はまだ眼鏡をはずした素顔を見たことはない。

 陸野は鞄の中身の教科書や筆記用具を机に移すと、ロッカーに鞄をしまいに行った。


「今日も陸野さんは決まってるな」

 ひゅう、と修二は口笛を鳴らした。


 陸野はその美少女な外見から意外と男子の気を惹いていた。


 しかしその持ち前の真面目さでこのふざけた雰囲気の軽いノリのクラスでは少々浮いていた。


 男子の目には映っても陸野自身は特に異性とは絡むことはなく、いつも真面目なオーラを醸し出している。


 その真面目な空気を嫌がる者もいるのだが成績トップと真面目な態度なこともあり教師からは絶大な信頼を得ていた。だがそこを気に入らないと思う者もいる。


 その独自な美貌から仲良くしたいと思う者は多いのだがどこか本人がなれ合いを嫌う雰囲気があるので近寄りがたい存在だ。


 近寄りがたいといっても俺は席が前後なのでどうしても距離的には近くなるのだが。


 陸野はロッカーに鞄をしまいこむと、席に戻ってきた。


 ふと、陸野と目が合い、俺は笑ってごまかすように「はは……」と手を振った。


 そんな俺の表情を流すように陸野は目をそらした。


「江村くん、厚見くん、好きなアニメの話題で盛り上がりたいのはわかるけどおしゃべりはもう少し小さい声でね。朝は自習したい人だっているんだから」


 その発言にはやや冷ややかな態度を感じられた。そして視線を自分の机に戻すと陸野は参考書を開いて自習を始めた。


「行こうぜ」


 注意されて修二は廊下に出て話そう、と教室を出た。


 せっかく盛り上がっていたところに水を差されたようで、修二は少し不機嫌だった。


「なんで陸野ってちょっと真面目すぎて俺らと世界違うって感じするよなー」


 修二は陸野の美貌には興味があるがその生真面目な部分だけはいただけないようだった。


「まあ、そりゃさすがに成績トップとなれば考え方だって俺らと違うだろうさ。陸野は陸野で真面目な生き方が合ってるんだろう」


「でもよー、生真面目すぎて愛想ないよな。きっとあの眼鏡の下だって美人だろうに、もっとその美貌を生かして人生楽しみたいとかないのかね。やっぱ勉強の方が大事ってスタンスなのかねー」


 修二は陸野のその真面目さが気に入らないようだが俺は少しだけ陸野の気持ちはわかった。


 俺も趣味を文句を言われず楽しむ為には勉強はしっかりして成績を落とさないように、アニメやゲームの趣味を制限されないように勉強にはそこそこ熱意を入れている。


 きっと陸野は俺と違って趣味よりも勉強だとかそっちの方が大事なのだろう。

  

 俺は先ほどの陸野の態度を思い出した。


「ん?」


 そこで俺は立ち止まり、ある疑問にぶつかった。


「なんで陸野、さっき俺らが話している内容がアニメについてだってわかったんだ?」


 俺たちはいつも通り「今期は何見てる?」の会話から始まりアニメのタイトルを上げていたのだがなぜそれらのタイトルを聞いてそれがアニメの話だといえるのだろうか。


 一般人が何かの作品タイトルを聞いてそれがなんのメディアのことかわかるものなのだろうか。羅列したタイトルだけでなんの話をしているかなんてわかるものか?


 小説やドラマや映画などではなく、陸野は確かに「アニメ」と言っていたのだ。


「そうだっけ? さっき言われたことなんていちいち覚えてねえな」

 修二は注意された発言には興味なさそうに次の話題へ移った。



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