第16話 スタジオはリアルな二次元
そしてやってきたスタジオはまるでソロアイドルがテレビで歌う時のバックのようなステージ風のフロアだった。
細長いステージには銀色の壁が迫り、天井にはミラーボールが吊り下げられている。
そのステージの真ん中に立ってポーズをとればまるでアイドルのようにソロ写真が撮れるというわけだ。
すでに利用者がいたので順番待ちが発生した。
スタジオ内は大勢のグループが同時に利用しているのでお目当てのスタジオが利用中の時は順番待ちも普通だという。
しばらく待って、ステージスタジオが空いたのでようやく小宮の順番が回ってきた。
「一眼レフの設定はしてあるから、あたしにカメラ向けて、このシャッターボタンを押してくれればOKよ」
小宮は一眼レフの使い方を説明して、カメラをどう構えるか、どう被写体を撮影するかを言った。
「じゃあ、さっそく撮影の準備するから。そうそう、武器も作ったんだ」
小宮はそう言うと、背中に抱えていた筒状の入れ物から何やら棒のようなものを取り出した。
それを組み立てると、紺色の棒の先には丸い宝石のような物がついたアニメの中でユニーが武器として使用する、ロッドが完成したのだ。
「すっげえ、小道具もちゃんと作ってるのか」
「こういう部分も自作するのが基本よ」
そう言ってロッドを手に持つと、より一層ユニーというキャラに近づく。
「それじゃあ撮影始めましょう」
小宮は実にいろんなポーズを決めた。
教えてもらった通りに一眼レフを操作するとモテルに合わせてシャッターを切るとカシャッっというシャッター音が響き、写真を撮ることができた。
撮影開始になるとまずは基本的な正面立ちから、ユニーらしくロッドを前に掲げたポーズ、学校の鏡の前でもやっていた戦闘ポーズなどだ。
背景の銀色の壁がより一層その演出を引き立てる。
表情もしっかりキャラに合わせていて、武器を掲げる時は凛々しい表情でなどバラエティに富んでいる。
小宮のメイクアップされた表情も、かなりいつもより美しさに磨きがかかっているように見える。
(こうやって見ると、小宮ってかなりの美人だよな)
俺はほんのりそう思いながら、様々な角度で撮影した。
まるでこうして撮影しているとアイドルのグラビア撮影か、本当の雑誌モデルの撮影現場にいるような気分にすらなる。
きっとプロのカメラマンがモデルを撮影する時もこういう気持ちなのだろう。
一通りのポーズをとってステージ撮影が終わると、小宮はポーズを決めっぱなしなのと立ちっぱなしで少し疲れたらしく、俺も重いカメラを持って腕が疲れたのでしばし休憩をはさんで次のスタジオへ向かうことになった
「じゃあ、次行きましょう」
「え、もういいのか? しょっぱなからそんなにペース上げて疲れないか?」
「いろんなスタジオあるんだからここでバテてたら一日が終わっちゃうわよ。さあ、次行きましょう」
俺達は荷物をまとめて、そそくさと次のスタジオへ向かった。
ステージスタジオから次のスタジオまで歩いて移動する途中、様々なフロアを通った。
背景なしで撮影できる白に統一されたフロアや、SF的な世界観を再現できる、まるで宇宙船の艦内のようになっている青い壁に管が張り巡らされたスペースもあった。
まるでこのスタジオの建物全体がいろんな世界観や様々な国を再現した場所のように実に様々なスタジオがある。
スタジオはひとつひとつが壁で仕切られているのではなく、大きなフロア一つに壁などの仕切りもなしで背景の違うスタジオが一つのフロアにまるで多次元のように存在する。
学校の教室のように黒板に机が並んだ学園ものに合うスタジオから、中華風のチャイナ系コスプレに合うような中華風なフロアに、和で統一された日本家屋の茶室を再現した和風のスタジオまでフロア移動の合間にあらゆる世界のスタジオが見えるのだ。
「この先にサタンフォーチューンの世界観に合う中世ヨーロッパ風になってるスタジオがあるんだって。そのスタジオに行きましょう」
小宮はフロアマップを見てそこへと足を進める。
俺達がやってきたスタジオはまるで中世ヨーロッパ風の洋館の中を再現したような洋館風のスタジオだった。
「すっげえ、なんか外国に来たみたいだ」
壁は洋館のような紋章が掘られたアンティーク調で、部屋の中央にはよくアニメで金持ちが食事をするシーンに出てくるような長いテーブルの上には燭台や果物に花といったまたその雰囲気を演出する作り物が飾られていて、椅子ももちろんアンティークのようなものだ。
壁には赤いカーテンがかけられており、本当に洋館にありそうな絵画のレプリカが飾られている。その下には火は灯ってないものの暖炉まであるのだ。
さらにテーブルの上には映画などで見るティータイムで使うティーポットやアンティークなカップに、三段トレーに作り物のお菓子のレプリカが乗っている。
まさにスタジオ全体が洋館の一室を丸ごと再現したようなフロアだ。
「こんなセットあるんだ。まるで本当にアニメか映画の世界に入り込んだみてーだなあ」
現代日本に住む庶民ならばこんな洋館風の建物に来ること自体が滅多にない。
日本家屋のダイニングキッチンとは大きく異なり、日本でもここまで本格的に洋館のような家には行ったことがない。
まさに中世ヨーロッパの貴族のお屋敷みたいな場所である。
「あたし、こういう場所でコス撮影するのが夢だったんだ。よくSNSでもフォロワーさんがこういうスタジオで撮影したコス写真アップしたりしてるの見てて憧れてた」
小宮のいう通り、ここはまさにコスプレ撮影にうってつけのスタジオだ。
「じゃあ、あたしがこの椅子に座ってティーカップを持つポーズで撮影しましょう。サタン城の中でのティータイムのひと時みたいなシーン再現で」
「それいいな。確かにユニーならそういうこと日常的にやってそうだもんな」
同じアニメを好きな者同士としてこういう話になると共感ができる。
小宮はさっそくテーブルの奥の椅子に座り、レプリカのティーカップを持った。
俺はそのポーズをカメラに収め、シャッターボタンを押す。
カメラのレンズ越しに見ると、その姿は本当に一枚絵のようだ。
「おお、すげえ。マジでサタフォにありそうなシーンだな」
その姿は優雅でまさにサタンフォーチューンのワンシーンとしてありそうな風景だ。
背景と小宮の衣装が実に合う。
コスプレは絵とはまた違い、こういったスタジオ撮影という形で本編でありそうなシーンを再現することができるのだと感じた。
そこで撮影が終わると、今度は同じフロアにある、一角で撮影することにした。
洋館風のスタジオのあるフロアは同じく中世ヨーロッパをその場所に作りだしたかのようなジオラマが多い。
ヨーロッパの城のテラスあるような柵があって、まるで城のテラスを再現しているジオラマだ。
たまにテーマパーク等で施設の外観がこういったデザインになっているようなあんな感じだ。
ここもまさにアニメのシーン再現をするにはうってつけの場所だ。
「ねえねえ、この柵で外を眺めるような構図にすれば、これもまたサタフォの再現になると思わない」
小宮がそういうと、それは思い当たるシーンがあった。
「ああ、アニメ六話のリゼルの帰りを待つシーンが再現できるな」
サタン城のテラスで外を眺めながら主人公リゼルの帰りを待つユニー、そんな場面が本編内にあったワンシーンだ。きっとそこのことを言っている。
「やっぱあのアニメをよく知ってるあんただからいいわー。ちゃんとバッチリあのアニメのどこのシーンとか当ててくれるわね」
「そりゃあ、俺もあのアニメ、何度も観たし」
「こういうコスプレ撮影はその作品を知ってる人同士だとやっぱり楽しいわね。こうしたらあのシーンが再現できそうじゃない? とか原作のどことかわかるし」
それはまさに同じアニメが好き同士ならではの会話である。
もしも俺がサタンフォーチューンを知らなければまず小宮と一緒にスタジオ撮影をしにくることなんてなかっただろう。
「じゃあまさにユニーの日常シーンを再現できるスタジオあるから、次はそこへ行きましょ」
次に来たのは部屋のすべてがアンティークな家具に囲まれた書斎風なスタジオだった。
まるで絵本の中から飛び出してきたかのような本当にアニメのワンシーンのような場所である。
ロココ調の本棚にアンティーク風な書斎机に椅子が完備されていて、さらに古い振り子時計やランプなどが置かれており、まさにアニメではこういった書斎のシーンがよく出てくる。
小道具も凝っていて羽ペンに地球儀に世界地図や羊皮紙のような書類などといったまさに中世ヨーロッパの書斎を思わせる雰囲気を見事に演出している。
「すげえ、これだけ完璧なセットが揃っていたらまんま映画の中みたいな世界だな」
俺はその作りに感心した。
古い洋画などにもこういった背景が登場する。
ここは本当に映画の撮影にも利用できそうなセットなのだ。
まるでこういったスタジオは本当にその時代へタイムスリップしたような感覚になる。
本の写真や映画で見る背景と違い、直にその場へ足を踏み入れるという行為は三百六十度がその空間に囲まれて、まさにリアルな体験なのだ。
「でしょー。ユニーは勉強もできるキャラだから本を読んでるシーンも多いし、絶対この書斎合うと思ってたのよ」
ユニーはサタン側の頭脳キャラという面もあるので、本を読んだり調べ事をしているシーンも時々アニメ内に登場した。
小宮のフリフリしたゴシック調のコスプレ衣装と、書斎の背景がこれまたばっちり合うのだ。
もちろんこの書斎はスタジオの作り物であって、あくまでも撮影用の用途でしかないのだがそれでも背景にここまで手の込んだセットが作られていると思うとコスプレスタジオとはリアルでまさに二次元を再現する場所だと思った。
「じゃああたしがこの本棚の前で調べ事をするユニーみたいな感じのポーズをとるから、それ撮影して」
そう言うと小宮は書斎の小物である、一冊の本を開く形で立った。
まさにアニメのワンシーンのようだ。
俺はシャッターを押してひたすら撮影をした。
本編のシーン再現になる世界観に合った写真が十分に撮影できたので今度は少し変わった撮影をしようということでまたもやスタジオ内を移動する。
中世ヨーロッパ風なスタジオが続くフロアを抜けると、今度はいろんな場所で撮影したいということでバラエティに富んだフロアに来た。
廃墟風なジオラマや照明が暗いスタジオならばホラー作品や、本編の暗い場所でのシーンなどを再現できるのだ。
このコスプレスタジオ撮影の話は昔、コスプレ撮影会に誘われて実際にカメラマン参加をした時の体験をもとに書きました。コスプレスタジオは色々な世界観を再現した場所が多く、まさにどんなアニメ作品にも合うシチュエーションが撮影できて楽しかった思い出です。