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第15話 コスプレ撮影会当日


 スタジオ撮影の日曜日がやってきた。


 小宮に指定された、コスプレ用スタジオのある町の駅で待ち合わせをすることになった。


 場所は駅を出てすぐの場所にあるコンビニだ。


 約束の時間に小宮は現れた。


「おまたせ」


 小宮の私服姿は初めて見た。


 茶髪をサイドアップにしていて、大きなヘアアクセをしており、肩だしのブラウスにデニムのショートパンツにヒール付きサンダルという組み合わせだ。


 どちらかというとギャル寄りなファッションでこれまた陸野とは違うタイプである。


 普段とのお出かけの違いはおそらく大きめの旅行用のスーツケースのカートを引いていることだろう。   おそらくそのカートの中に衣装やウィッグといったコスプレ用小物が入っているのだろう。


「ふーん」

「何よ。あたしの服装、なんか変?」

「いや、コスプレイヤーって私服ももっと派手な感じのファッションかと思ったけど割と普通なんだなって」

「そりゃあ私服は普通に決まってるじゃない」

 コスプレイヤーは派手なコスプレの時とオフとはこんなにも違うものなのだと感じた。


「スタジオへの場所はわかってるから、ついてきて」

 小宮に言われるがまま俺はその後ろをついていく。




「ここよ」


 案内された場所の建物の外見は普通のビルだった。


 外観はごく普通の建物でもこの中がきっとスタジオになっているのだろう。


 現に入口の自動ドアの上には大きく英語でスタジオと表記したロゴが輝いている。


 紛れもなく、ロゴがここのビルがスタジオということを示している。


 本格的なコスプレ専門のスタジオなんて初めて来た。


「じゃあ中入るわよ。まずは受付ね」


 自動ドアの入り口から中へ入ってみると、受付カウンターに小宮と同じくカートを引いた若い女性がキャッキャとしゃべりながら並んでいた。


 みんな黒髪や茶髪といった日本人によくある髪色であり、服装も普通の私服であるごく普通の女性達だ。


 コスプレイヤーのスタジオとは利用客に女性が多いのか、女性客が目立つのだ。


 その女性達がこれからコスプレ衣装を着ることで二次元の色とりどりの髪型や衣装といったキャラクターに変身するのだろう。


「まずはここで受付だから」


 俺達はまず受付を済ませることにした。


 初めての利用の会員証を作り、コスプレ利用かカメラマン利用かを選ぶ。


 一日コースでカメラマンの利用料金は二千八百円、結構高いな…。


 コスプレ利用かカメラマン利用かによって料金も違うようだが俺は今回、カメラマンということでカメラマン利用料金を支払った。


 受付が終わると、ロビーで俺達は一旦別れることになった。


 小宮はこれから衣装に着替えねばならない。


「じゃあたし、着替えてくるから更衣室行くね。あんたはロビーで待ってて。着替えるのに時間かかると思うから気長に待っててね」


 コスプレ衣装に着替えるということはただ服を着替えるだけではなく、ウィッグのセットやメイクに時間がかかるという。つまり通常の着替えよりもずっと手間がかかるのだ。


 小宮はカートを引いて更衣室へと姿を消した。


 一人になった俺はロビーにあるソファーで待つことにした。

 ロビーにあった自動販売機で購入したジュースで喉を潤しながらスマホをいじる。


 ふと顔を上げれば更衣室の方面からは続々と派手な色のウィッグをかぶりカラフルなコスプレ衣装に身を包んだコスプレイヤーが出てきた。


「あれは『魔法少女クレセント』のグループか」


 やはりコスプレをするキャラクターは現在放送中の人気アニメなど流行もののキャラが多く、俺も見ているアニメのキャラクターが多かった。


 今出てきた四人組は今期放送中の魔法少女アニメのメインキャラ四人のコスプレをしていた。


 魔法少女らしい色とりどりのドレスのような衣装に派手なウィッグ、さらには小道具であるステッキなどの武器も完璧に作られているのかそれを折り畳んだり携帯できる形にして運んでいた。


 更衣室にロッカーがあるのか衣装を運んだ大きな荷物であるカートはそこに置いて撮影の時には撮影に必要な小道具に財布やスマホといった貴重品が入っている鞄のみを持ち歩くようだ。


 スタジオを利用するのは女性のコスプレイヤーが多めというだけあってやはり扮するキャラクターは女性キャラが多いのかと思えばなかなか男装レイヤーも多く、学園制服の男子高校生キャラのコスプレに男性バトルキャラのコスプレ衣装を身に着けるコスプレイヤー達の姿も見えた。


 更衣室の通路へと入っていくのはごく普通の黒髪や茶髪といった髪色の私服である日本人な客が出てくる時にはまるで二次元から飛び出してきたかのように続々とアニメやゲームのキャラに変身しているのだ。


 今までコスプレといえばイベントで歩いているコスプレイヤーを見たくらいなのでこうしてコスプレ専用スタジオに来る経験なんてなかった。


 あまり利用客をじろじろ眺めるのも失礼だと思って俺はスマホの画面を見ることに戻った。




 それから約三十分ほどが経過して、ようやく俺に声がかけられた。


「おまたせ。待った?」


 その聞き覚えのある声から小宮だとわかったが、その姿は先ほどとは似ても似つかぬ状態だった。


 スマホで見せてもらったように派手なピンク色の髪型から腹や腕を出した小悪魔的なファッションに特徴的なギザギザ模様のスカートにニーソックス。


 顔もコスプレ用のメイクを施しているためかさっき会った小宮とはまるで別人のように見える。


 マスカラをつけた睫毛は目元をさらにパッチリと際立たせ、ファンデーションで色白の肌をよく再現できている。


 まさしく『サタンフォーチューン』のユニーが立っていた。


 目にはカラーコンタクトを入れていてアニメと同じグリーンの瞳が美しい。


 何から何まで先ほどの小宮とは別人だ。


「すっげえ、生で見るとやっぱ迫力あるなー」


 スマホの画面で見ただけの制止画である写真と生で実際に見るコスプレとでは全然印象が違う。


 写真ではよくわからなかったメイクや衣装の細部へのこだわりが目の前で見ると迫力が違うのだ。


 歩くと揺れるスカートのすそや服の皺なども細かくまさにもしもあのキャラが現実世界にいたらこんな感じだという姿で現れたかのようだ。


「そんなに、凄いかな?」

 俺の褒めた発言に小宮は少々顔を赤らめる。


「ああ、写真で見たのとは何もかも違うぜ。本当のユニーみたいだ」


「当たり前じゃなーい! あたしの衣装の完成度は誰にも譲らないわ」


 自信に満ちた小宮はどこかワクワクしていた。


「じゃあさっそく撮影、行きましょうか」


 そう言って小宮はトートバッグに何やら筒状のものを背中に抱えて、フロントに向かった。


「撮影に必要な道具とかはフロントで借りることもできるけど、今日はあたしが持ってきた一眼レフと三脚を使ってもらうからレフ板を借りていきましょう」


 レフ板とはコスプレ撮影でよく使う、折りたためる薄い鏡状の板だ。それを使って被写体に光を当てることができる。


 俺はイベント会場で何度か実物を見たことがあったので知っていた。


 そして小宮はトートバッグの中から一眼レフカメラの入ったケース取り出した。


「これがあたしの一眼レフよ」


 そしてその一眼レフカメラを今日はカメラマンという重要な役をする俺に手渡した。


 一眼レフは普通のデジカメよりもサイズが大きく、レンズが巨大な分、本体も大きい。


 手の平よりはみ出るほどの大きさで、実際に持ってみるとずっしりと重い。


「高い物なんだから、絶対に落とさないでよ。慎重に扱ってね」


 一眼レフはカメラの中でも相当高額な物である。確か数万円単位はするはずだ。


 普通のデジタルカメラが安いものであれば数千円から約一万円前後で買えるのに対し、一眼レフは数万円規模の値段である。


「高校生が一眼レフって……こんな高い物よく買えたなあ」


「バイト頑張ってお金貯めたのよ。コスプレは衣装作るのもいろんな布とか道具とも必要だから学生レイヤーにとっての資金稼ぎのアルバイトは必須なわけ」


 なるほど、だから普通の飲食店よりも給料の高いメイド喫茶でバイトしているわけか。


 小宮いわく、コスプレが趣味だとメイド喫茶でのアルバイトはコスプレを常にしているようなものだし、同僚もやはりそういった趣味を理解できる人が多いということらしいがおそらくそういった事情もあるのだろう。


「でも俺、そんな高いカメラとか使ったことない。使い方わかるかな」


 デジタルカメラやスマホ撮影なら慣れているが、こういった本格的なカメラを使う機会なんてなかなかない。


「大丈夫。今の一眼レフは自動焦点機能もついてるから普通のデジカメやスマホみたいな感じで撮影すれば充分いい写真が撮れるから。シャッターを押すだけで補正とかも大丈夫よ」


「わかった。あとは本番で教えてくれ」


「じゃあさっそくスタジオに行きましょう。まずは単独写真を撮ってからね」


 フロントにあったフロアマップをもらい、それを見ながら俺達は目的のスタジオへ向かった。


 スタジオ内の通路では他のコスプレイヤーとすれ違ったりもしたので私服の俺の姿はここでは逆に浮いてしまう。そのくらい利用者はコスプレイヤーが多かった。


 一人一人を撮影できるステージ状のスタジオがあるということでまずはそこへ向かうことになった



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