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第13話 小宮はコスプレイヤー

 朝の通学路で学校の近くを歩いていたた俺はたまたま小宮の姿を見かけて話しかける。


 昨晩もラインで少し話したのでそのノリだった。

「おはよう、小宮」


「うん、おはよう……」


 その表情はだるそうで、少し疲れているようだった。


 メイクで目の下のクマは隠しているようだが、眠そうだ。


「おいおい、どうしたんだよ、疲れてるのか」


「ちょっと最近バイトが忙しくてね、シフト多くてスケジュールきついのよ」


 小宮はメイド喫茶でアルバイトをしているという話なのでおそらくそのバイトがまた大変なのだろう。


 ラインでもたまにバイト先のメイド喫茶の話題が出るのだ。


 メイド喫茶は普通のカフェ等よりもずっと覚えることも多く接客も大変だと聞く。


 俺はふとそれで思い出し、この前のことを聞いてみた。


「この前、なんであんなポーズを取ってたんだ? やっぱりバイトでそういうポーズやるとかそんな仕事もあるわけ?」


「気になる? あんたは数少ないサタフォ仲間だから教えてあげるわ」


 その小宮の表情は眠そうな顔を押し返すほどになぜか自信に満ちていた。


「あたし、実はコスプレイヤーなの」


「こすぷれいやー?」


 俺は今までの知識の中からその単語を探した。


 イベント等でアニメや漫画にゲームといったキャラクターの衣装を着て、撮影をするというそういった界隈があるという。


 『コスチュームプレイ』を略して『コスプレ』

 そしてコスプレをする人のことを『コスプレイヤー』と呼ぶのだという。


「へえ、小宮が? そうなの?」


 そうと言われてもいまいち実感が持てなかった。


 とはいえメイド喫茶でバイトをしているとなれば接客上、キャンペーンやタイアップでコスプレをしてでの接客をする日もあるということをネットで見たことがあるので小宮がそういったことをしているというのも納得がいく。


「結構宅コスとかしていて、その自撮りとかSNSにアップしたりもしてるんだけど」


「どんな感じ?」


「ほら、これがあたしのコスプレ写真」


 小宮はそう言って俺に自分のスマホの画面を見せてきた。


「こ、これが……!」


 ピンク色の髪の毛で、特徴的なツインテール、全体的に紫色の魔女のような衣装でありながら胸元の空いたデザインに大胆に腹を出し、ミニスカートは緑とオレンジのギザギザ模様。


 フリルのついた袖もスカートと同じ模様、足にはニーハイブーツ。


 顔は気合の入ったメイクが施されていてそれがキャラクターとマッチする。


 そこに映っていたのは前にポーズをとっていた「サタンフォーチューン」のユニーというキャラクターだ。


 紛れもなく、まさに二次元から三次元へと飛び出したかのような完璧な「サタンフォーチューン」のユニーがいた。


 ピンク色の髪型から腹や腕を出した小悪魔的なファッションでスカートに特徴的なギザギザの入った模様まで完璧だ。

 そのユニーがアニメ絵ではなくリアルである。


「おお、すげえ。本当にユニーじゃん! え、これ小宮なの!?」


 俺はあまりにもその完璧な再現された写真に感嘆の声を漏らした。


 コスプレをただ衣装を着るものくらいにしかとらえていなかった俺には衝撃的だった。


「そうよ、それがあたし。本気出して着たんだから」


 背景はおそらく小宮の自室と思われる場所でクローゼットやベッドといった家具が並んでいる。


 今まで大型のアニメイベントなどでコスプレイヤーを通りすがりに見ることはあったが、まさか同じ学校の同じクラスという身近な場所にもコスプレイヤーがいたなんて意外である。


「本当にすげえ……。こんな特徴的なキャラクターの衣装、どこに売ってるんだ?マイナーなマイナーなアニメなのにこんな衣装あるなんて……」


「そんなん自作に決まってるでしょ! あたしが布から作ったのよ! 布買ってきて、ミシンで縫って」


「全部手作り!?」


「そう! 凄いでしょ! へっへーんそれがあたしの特技!」


 こんな特徴的なデザインの衣装が自分で作れるというのに驚きだ。


 スカートの特徴的なギザギザ模様に、その袖口にはスカートにも入っているのと同じギザギザの模様がついている。


 こんな細かい模様まで再現できる衣装が自分で作れるというのが驚きだ。


 服は買うもの、という認識しかなかった俺には自作でここまで細かく再現した衣装が作れるということに驚きでしかない。


「あたしは絶対完コス派なの! 中途半端は許せない」


 完コスとは『完全なコスプレ』の略で原作を忠実に再現してキャラクターになりきるコスプレのことだ。


 コスプレイヤーには衣装が可愛いから着たかったので着てみたというものと、ウィッグやメイクもせずにただ衣装を着ただけ、の意味での『着ただけ』というスラングが存在する。


「作品への愛を表現するならキャラになりきることもするし、衣装だって細部まで作るわ」


 しかもコスプレといった趣味はアニメのキャラが三次元の実在の人間がそのキャラに扮することを嫌悪感抱く者もいる。


 アニメはアニメの絵だからいいのであって、それを三次元の人間が再現なんて気持ち悪い、といった声もあるのだ。


 でもすでにメイド喫茶でバイトしてることはクラスの一部の奴らにはばれているのだからどっちも同じような気がするけど、こんなことを言ったらまた怒られそうな気がするので黙っていることにした。



 もしかして小宮ならコスプレとジャンルは違えどそこそこアニメに詳しいのであればそういった特技を生かして意外と早くアニメ研究会に誘うこともできるのではないのだろうか。


 それならば陸野とは同じクラスということで仲良くなれるのではないだろうか?


 まずは俺が小宮と距離を詰めてスカウトできるようにしなければいけないが。


「でもあたし、その衣装を今まで家でしか着たことない。イベント参加とかしたことなくて。こんなマイナーな過去アニメなんてきっとわかる人もいないだろうし、イベントに行く勇気なんてないから」


「でも、こんなによくできた衣装を持ってるのに、ただ自分が楽しむだけってのももったいない気がするぜ」


 この完成度の高いコスプレをただ自分が楽しむだけではもったいない、俺はそう思った。


「せめてバイト先でこういう特技を生かして自分で衣装作るくらいね。あたし、コス友とかいないし。バイト先の子は趣味は合うけどプライベートまでコスプレレイヤーじゃない」


「そうか。せめてイベント以外でもこういうのを撮影するとかそういう趣味として楽しめる場所があるといいんだけどな」


 家で着るだけであればあくまでも作った人自身が楽しむだけである。


 もちろん小宮にとってはそれで満足なのかもしれないが、それだけでは実に惜しい気がした。


 これだけ完成度の高い趣味ならば他にできることはあるのではないか。


「コスプレイヤーって併せとかスタジオ撮影とかコスプレを個人で楽しむ為の方法ならあるにはあるんだけどね」


「スタジオ撮影?」


 その言葉に俺は頭の中でクエスチョンマークがついた。


 スタジオとは雑誌やテレビの撮影等に使うあのスタジオだろうか?


「そう、コスプレイヤー専門のスタジオで撮影するとかあるのよ。コスプレイヤーには常識よ。すでに背景がセットされているスタジオでシーン再現ができるの。学園ものなら学校の教室みたいなスタジオがあって机が並んでたり、廃墟みたいな場所があるとか」


 俺は聞いたことのない要素にいまいちイメージが浮かばなかった。


 スタジオといえばテレビ番組などを撮影するというああいったテレビスタジオなどをイメージするがコスプレ撮影をメインとしたスタジオがあるなんて知らなかった。

 俺はとことんコスプレの界隈には疎い。


「ほら、こんな感じよ。こうやってアニメのシーン再現ができるの」


 小宮はそう言うとコスプレSNSと呼ばれるコスプレ用のソーシャルネットサービスのページを開いた画面のスマホを見せてきた。


 そこにはたまたま注目度の高い画像としてこの前陸野とコラボカフェに行った『コールドエンブレム』の衣装を着たコスプレイヤーが本当にそのアニメの世界に降り立ったようなSF風の青い宇宙ターミナルのような場所でポーズを決めている写真だった。


「すっげえ、まさに二次元が三次元で再現できてるみてえじゃん。今ってこんなことできるの?」


 コスプレというとただキャラクターの衣装を着て姿を楽しむもの、というイメージしかなかった。


 今まで大型イベントでの通りすがりで見たコスプレイヤーしか知らなかったからだろう。


 しかしこうしてスタジオという場所で撮影すれば、本当にコスプレで一つの作品として完成させた写真を撮ることも可能なのだと知った。


「スタジオ撮影ってのに憧れてるんだ。だけど私、家族にはこの趣味を内緒にしてるし、当然レイヤー友達なんていなかったし、一緒に取ってくれるカメラマンなんていない。誰かカメラマンやってくれる人とかいないかなーって思うけど、ネットで募集するのは怖いし」


 俺はコスプレスタジオでのシーン再現というものに興味を抱いた。


 当然ながらコスプレはコスプレイヤー本人が衣装を着る立場なのであれば自撮り以外ではこういった本格的な撮影をするには他の人の手を借りなければならないのだ。


そこが今の小宮にとってはハードルになっている。


「じゃあ、このスタジオ撮影ってのはコスプレイヤーとカメラマンがいたらできるのか?」


「まあそうね。コスプレ撮影に必要な道具とかはスタジオで貸し出ししてもらえるし、あとはカメラを持参すればできないことはないわ」


 そうしているうちに学校の門が見えてきたので小宮は走って門の中へ入っていった。


 俺はその後ろ姿を見ながら、小宮にも凄い部分はあるのだと、どうにかしてそれを生かせないかと考えた。



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