第12話 同じアニメが好きなら
ドサッ、という床に身体が叩きつけられる音が響き、これではばっちり小宮に聞こえてしまう。
「誰!?」
小宮は物音に気付き、まるで見られたくないものを見られたかのように顔を真っ赤にしながらズカズカと階段を降りて来る。
そして俺のいた一階に着くと、慌てる俺を見てその顔は羞恥に染まっていた。
「あんた……同じクラスの江村ね!」
やべえ、小宮、めっちゃ怒ってる……。
まるで髪の毛が逆立つ幻すら見えるように小宮は怒っていた、
「い、いやこれは……」
俺はあたふたしながら言い訳を考える。
小宮は階段をぴょん、と降りて俺の傍に近寄る。
「いつからいたの!? まさか今の見てたんじゃないわよね!?」
小宮は一人で楽しんでいたところを覗き見されたということで怒っていた。
「いや、そんな見てないって」
「見たの!? あたしの密かな楽しみ! 誰かに言ったりしたらぶっ殺してやるんだから!」
やはり小宮はどこかとげとげしいオーラがあるだけに口調もきつい。
こんなんだからクラスで孤立してるんじゃないだろうか……。
ポカポカと殴りにかかる小宮の動きを止めたくて俺は必至になって言い訳をした。
「悪かったって、覗くつもりはなかったんだ」
なんとか弁解しようと、俺は謝罪を含めながら言い訳をする。
「やっぱり覗いてたんじゃない! 最悪! こんなとこ男子に見られるなんて!」
しまった、これでは火に油を注ぐだけだ。
小宮のポカポカ殴りはさらに勢いを増す。
俺は先ほどのポーズについて口に出した。
「まさか今になってサタンフォーチューンの技とか見るとは思わなくて、つい見入ってしまったんだ」
「え? さたん……」
俺の発言に、小宮はぴたりと腕の動きを止め、目線を向けた。
どうやらアニメのタイトルを出した部分にひっかかったようだ。
「あんた、あの技なんのことかわかるの?」
小宮は俺の顔を見ながらまじまじとそう質問した。
先ほどの態度とは打って変わって、まるで元ネタを当てられたことに驚いているようだ。
落ち着いた小宮は驚いて腕を元の位置に戻した。
ようやく動きが止まったことで俺はそのことについて言う。
「サタンフォーチューンのユニーの戦闘ポーズだろ? 俺も昔そのアニメ観てたんだ。面白くてあの頃はまってたけど今まで自分以外にあのアニメ観た人に会ったことなかったからついさっきのポーズは気になって」
ついアニメの話になると俺は途端に饒舌になる。
ましてや今までそのアニメの話題すら上がらなかった高校生活で、初めて数年前に観ていた懐かしいアニメの話題ができる相手を見つけたのである。
「この学校でサタンフォーチューン知ってる人に会うなんて思わなかった。だいぶ前のアニメだし。あんまりメジャーなアニメじゃないもの」
小宮はそうつぶやいた。
やはり俺が先ほど思ったように、今まであのアニメを知っている人は同世代ではいないのだ。
俺はアニメの話題ならこっちの得意分野だ! と話を続けた。
「でも俺にはあのアニメ、すっごく面白かったぜ。特徴的な技とかキャラの個性もよかったし、ストーリーも良かったよな。さっきのユニーのポーズも十一話のシーンのポーズってすぐわかったし」
「話がわかるわね、やだ、あんたもしかしてあのアニメ、めっちゃ詳しい方?」
小宮は仲間を見つけた、とばかりにそれはそれは嬉しそうな表情だった。
今まで同じクラスで過ごしていて小宮のこんな表情は見たことなかった。
先ほどの怒っていた時よりも目じりがおっとりとしていて少し赤みが入った表情は年相応の少女そのものだ。
「江村ってもしかして、そういうアニメとかめっちゃ詳しいタイプ?」
小宮と初めて絡んだのでお互いのことをよく知らない俺達はそういった話をしたことがない。
そうなると趣味の話題も当然初めてだ。
「アニメはだいぶ観てるぜ。サタフォも見てたし、最新のアニメから昔のアニメも色々観てるし」
「じゃあ、サタフォもよく見たのね。同じ作画監督の「エリアナインティーン」は!?」
小宮が上げたそれはサタフォと同じキャラクターデザインの作画監督が描いたアニメだ。
サタンフォーチューンと同じ作画でこちらもファンタジー要素が強い。
俺はもちろんそのアニメも観ていた
「もちろん! 知ってるぜ。俺はフィーデルが好きだな」
そのタイトルを知ってる証に俺はそのアニメのキャラクターの名前を出す。
「やっば! ガチじゃん! 同じ学校にそんな人いたなんて、えーとどうしよう」
小宮は少し考えて、スカートからスマホを取り出した。
「ねえ、よかったらあたしとライン交換してくれない? もっとサタフォとか他のアニメについての語り聞かせてよ!」
突然だが俺はこの日から小宮のラインアドレスを交換することになった。
小宮と交流をしたいと思っていた俺にはいい機会だ、と思いその話にのった。
そしてこの日からちょこちょこラインでやり取りをするようになりお互いが知ってるアニメの共通の会話をすることになった。
サタンフォーチューンはアニメの何話が好きだとか、どの技が好きだというそういった雑談なのだ。
小宮にとっては昔から大好きなアニメを周囲に知る人がいなくて寂しい想いをしていたとのことで初
めて同じ学校という身近な場所でサタンフォーチューンを知ってる人に出会えたことが嬉しくてたまらないそうだ。
今まで長年そのアニメについて語れる同士がいなかった分、その十数年を取り返すように小宮はアニメの語りをラインでしてきた。
俺もアニメ好きとして自分が好きなマイナーなアニメを知ってる人に出会えたらその喜びはわかるかもしれない。
とりあえずそんな感じでやりとりが数日間続いた。