第11話 ちょっと昔のアニメ
小宮がノリノリで左手は頭上に掲げ、右手を前に突き出したポーズで台詞を言った。
「我の鉄槌を受けろ! 喰らえ、ファイアーボマー!」
小宮はノリにものった勢いで台詞とポーズを決めた。
俺はそのポーズと台詞を見た瞬間、自分の中でふと過去の記憶を思い出した。
「え……このポーズって」
俺はそのポーズと決め台詞に見覚えがあった。
まるで薔薇の開花のように懐かしい記憶の扉が開く。
それは俺が小学生の時に見たアニメ『サタンフォーチューン』(通称・サタフォ)のヒロインであるユニーの魔法を出す時のポーズと技名だ。
『サタンフォーチューン』は五年前に放送されたアニメでつまり俺の学年の歳だと小学五年生の時に放送していたアニメだ。
異世界に生まれたサタンと呼ばれる魔王がフォーチューンと呼ばれる儀式で勇者たちの動きを見て、勇者たちの行く末を悪役である、魔王側からの戦いを描いたという珍しいアニメだ。
魔王の息子・リゼルとその配下であるヒロイン・ユニーの戦いを描く。
いわゆる、キッズ向けアニメではなくオタク向けという部類に入る深夜放送のアニメなのでまだ深夜放送アニメを視聴する年頃じゃない俺のように放送当時が小学生だった同世代にそのアニメを知っている人はあまりいない。
かといって中学生になってアニメを卒業するかそれとも見続けるかの年齢になってからだとリアルタイムではない数年前に放送していたアニメをわざわざ観る人は少ないのだ。
もちろん、リアルタイム放送じゃなくてもレンタルや配信とかで見る方法がある。
小学生とはいえ深夜アニメを見ていた層だって探せばいるだろう。
しかしこの「サタンフォーチューン」というアニメは深夜アニメにしてはワンクール放送でそこまでヒットせず、特にネット上でも話題に上がらなかったいわゆるマイナーアニメという部類だ。
俺はたまたまリアルタイム放送時に親が録画していたハードディスクレコーダーで観たことで知っていた。
今もそのアニメは配信サイトで視聴することはできるがそれでも放送年数の都合があるので同じ学校でそのアニメを知っている人は少ないだろう。
まさか五年も前に放送したアニメを知っているやつがいるとはと驚いた。
今までそのアニメは放送当時にネットを使っていなかったので話題になっていたかわからないがやはり放送終了後は話題にならなかったことで次第にアニメファンからは忘れられていった作品であり、今まで知り合ったやつらの中でそのアニメを視聴していた人を見たことがない。
しかしそんなマイナーなアニメなのだが俺にとっては今までの人生の中でかなり名作と思えるアニメだった。
人気のメジャーアニメではなく、マイナーなアニメを知ってる人がまさかこの学校にいるとは。
ある意味これはレアな経験だ、まさか同じ学校でクラスメイトである小宮があのアニメを知っているとは。
共通の話題もあることだし、これらならば何か話しかけるチャンスだ。
これは偶然通りかかったふりをして話しかけてみようかな。そう思った矢先、俺にアクシデントが起きた。
俺はしゃがんだ体制から立とうとした瞬間、しゃがんでいたことによる足のしびれで足がもつれ「わっ」と声を上げながら思いっきり転んでしまった。