第10話 二人目の女子
「億斗、最近陸野さんとはそこそこ話したりしてるみたいじゃん」
割と席が近いこともあり、俺と修二とのアニメ議論に時たま陸野も話すようになっていた。
周囲からはあの堅物の陸野さんがアニメの話するなんて……と意外な目で見られるようにもなったようだが、これもある意味目標達成ではある。
「ああ、まあちょっと色々あってな」
細かいことを説明するのは面倒だが、とりあえず陸野がアニメ好きだということはわかった。
「その調子で残り二人ともなんとか交流できるようにしてくれ」
そんなわけで次に部活に誘い込む希望がある女子を教室でチラ見する。
小宮恵子、彼女はいつも教室の隅で一人でスマホをいじっていることが多い。
顔にはばっちりメイクをしているがそのオーラはクラスのギャル集団とも違っていてどこか近寄りがたい。
秋葉原でメイド喫茶のバイトをしている噂もあり、ますます謎の存在だ。
なぜメイド喫茶でアルバイトをする必要があるのだろうか。普通にお金に困っているのならばアルバイトなんていくらでもあるだろうに、あえて秋葉原というオタク店でメイド喫茶というのが謎だ。
小宮となんとか交流してみようと、話しかける機会を探すもなかなかやってこない。
機会がなければ作る、そのスタンスでこうなればこんなことしたくはないがいつも昼休みはどこかへ行ってしまう小宮を少し追いかけてみよう、という作戦に出ることにした。
まるでストーキングしているみたいで気分は悪いが話すきっかけもないクラスメイトに近づくにはまずは本人の行動を知ることも必要だ。
いつも昼休みに小宮はいつもどこかへ行ってしまうのか。その後を追跡してみるのだ。
さりげなく後を追うように、壁に隠れたりしながら小宮に気づかれぬまいと気配を消しながら進む。
昼休みに向かう場所は屋上や食堂に購買や庭といったスポットではなく、あえて旧校舎だった。
小宮が来たのは教室のある校舎とは反対側の旧校舎の西側の隅にある階段に登っていく姿が見えた。
そこは踊り場に大きな鏡があるのが特徴だった。
普段この旧校舎は授業には使われておらず、部活動などの部室をもらえないサークル規模の集団が空き教室を部室として使われることが多い。
正式な部活動の部室ではないのでごく少数の者しかここには来ない。
ましてやこんな空き教室でもない階段の踊り場なんて誰も来ないのだ。
なんでまたこんな場所を好き好んでいるのか、その理由は不明だが、小宮は一人でこういう場所に来ているという新たな情報を知った。
そして俺は階段の下から一階の階段横の倉庫になっている部分から踊り場にいる小宮を影からこっそり見ている。
小宮のミニスカートから覗く足に黒の二―ソックスから太ももがみえる、嫌らしい角度だ、いや今はそんなことを言っている場合ではない。
「ふっふーん」
鼻歌混じりに小宮はいつもの日課といわんばかりに動き出す。
何やら一人で腰をひねらせてポーズをとったり、ピースサインを頭上に持ち上げてたり、少しかがんで 前のめりに胸を寄せるなど、だ。
階段の踊り場にある鏡の前で、小宮は一人ポーズの練習をしていた。
「あいつ、いつもこんなことしてるのか」
普段はどこか絡み辛い印象を受ける女子が一人の時に、こんな可愛らしいことをしている。
ちょっとだけ微笑ましい。
そりゃあこんなことしているところ、誰にも見られたくないだろう。
なぜ小宮がこんなことをしているのか。
思いつくのはやはりメイド喫茶でバイトしているだけあってその店での接客に必要なポーズを練習しているのではないかと思った。
メイド喫茶は普通のカフェよりも客とトークをして盛り上がるといった接客が普通の喫茶店以上にシビアなのである。それならばバイト先の練習をしているとも思えば納得だ。
これはまさに学校では誰にも明かさない秘密として小宮だけの秘密なのである。
そんな秘密をこうしてのぞき見をしているのは非常に申し訳ない気もしたが、これも修二に言われたクラスの為だと言い聞かせた。