第9話 コラボカフェは楽しかった
陸野は当たった六種類のコースターを大切そうに鞄にしまい込んだ。
会計を済ませ、店を出る。
値段は割高だったけど、普段とは違う陸野の楽しそうな顔も見れたし、なんだかんだメニューも美味しくてあれだけ食べればお腹もいっぱいだったので満足度は値段以上のものだったように思える。
「楽しかったね」
店を出て、来る時よりもテンションの上がった陸野はスキップをするような軽い足取りで歩いていた。
「コールドエンブレムのタイアップだけに店の中も一面がコルエムだし、グッズも買えたし、フードも美味しくて、大満足」
ランランと歩き出す陸野に、俺は思っていたことを言った。
「なんか、陸野ってやっぱ好きなアニメの話とかするとそこそこ喋れるんだな。Xでもそんな感じだけど。じゃあ学校でもそのノリでオタク友達とか作ればいいのに」
その発言を聞くと、陸野はぴたっと足を止めて真面目モードに突入した。
「私にとって学校は勉強する場所だから。もちろん、友達を作りたいって気持ちもあるけど、できれば学校ではどうしても気を張っちゃって。だから学校ではアニメの話とかしてる江村くんって羨ましいなって思ってた。私にはあんな堂々を話せない」
陸野から見れば俺はそんな風に見えていたのか……と意外な面を見た気がして感じた。
「意外と女子になってお前と気が合う奴いるかもしれないぜ。仲間とか作ればいいのに」
「うーん、でもうち学校は遊ぶ場所じゃなくて勉強しろって親がうるさいし、もちろんそんな友達ができれば学校も楽しくなるんだろなーとは思うけど、なかなか踏み出せないかな」
俺にとって学校でアニメや二次元の話をすることは当たり前でも陸野にとってはそうじゃないのかもしれない。人には人なりのアイデンティティもあるものだ。
なんとなくこれでは部活に入って、とは誘いずらい空気だ。
結局この日はこれ以降学校関連の話題は出さないままお開きになった。
陸野とはこのコラボカフェに行った日以降、学校でもたまに話すようになった。
相川らずXでのやりとりは続けているので、その延長気分でリアルでも絡みやすいのだという。
何はともあれ、これで陸野がそこそこのアニメ好きだということは証明された。
問題はここからどうやってアニメ研究会へ誘い込むかだが。
結局この一件以降進展があったのかなかったのかというとどうなのかはよくわからなかった。