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赤シート

作者: すいとう。

 学校。女生徒の談笑。

 窓ガラスが木枠に深く収まっている。

 そこには置き去りにされた滑らかな赤。もともとは英単語帳にでも挟まっていたのだろうか。持ち主を示すわけでもなく、そこに佇んでいた。

 木目の上にあるそれに哀愁を感じ、つい手に取る。

 流れるように視界をそれで覆う。これはもはや癖であった。

 赤い窓を通して中庭を覗く。

 葉には墨汁が混ぜられ、空は異世界のもののようだった。

 面白いくらいに変色して見える草木や空に胸を高鳴らせ、さらに目線を泳がす。

 ベンチが目に入った。

 たしかこのベンチは焦茶の木材に黒の金具。「どんな変貌を遂げるだろう」。心が躍る。

 しかし、どれだけ赤を覗こうが、色は殆ど変わらない。特に黒は代わり映えがなかった。

 私は落胆する。

 しかし、落胆の溜息と一緒に了知の声が出た。

 気づいてしまったのだ。

 この赤く染まった世界は、私たちが生きる世界と同じであるということに。

 人は須く、自分では認識できない様々な色のシートを目の前に漂わせている。

 そのシートは己の経験や偏見そのものである。それを取って世界を見ることは絶対にできない。

 しかし、「黒」のような絶対的な悪は、誰がどんな色眼鏡を覗こうが同じように見える。

 殺人をはじめとした犯罪の数々はきっと黒なのである。そのため、見ている景色が違うのにも関わらず、多くの人の意見が一致する。「犯人を罰せよ」、と。

 では、「黒でない色」はどう映るだろう。

 そこに「多数の意見」はあるだろうか。

 「正義は人によって違う」と再三叫ばれる。

 悪を「黒」とするならば、きっと正義は「白」だろう。

 正義という「白」は各々のバイアスの被害を受けやすいのだ。それは白いものを赤シートで覗くと、その物体が赤く見えやすいことと同じである。

 次々に合点がいく。私はその事実を知り身を震わせた。

 私は自分以外の人間が見る世界を全く知らないと直感した。

 この事実を認識していないときの私は、「人の気持ちを考えろ」という言葉に殴られたとき、そんなのは綺麗事だ、と吐き捨てるだけだった。この行動の前提には、「同じ世界に生きている」という条件が無意識下に足されていたのだろう。

 確かに人の気持ちを完全に理解することは出来ない。不可能だ。しかし、見ている世界が違うという可能性を考えなければならかったのだ。

 それを念頭に置くと、以前の私のような天邪鬼は少しばかり単純な気がしてしまう。

 「正しい色」を見るためには、他人が見る世界と自分のものとの乖離を意識しなければならない。賢者はきっとそれに気がついてくれる。否、賢者でなくとも気付かねばならない。

 さて、貴方が生きる世界は本当にその色なのだろうか。

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