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公園でのいざこざと俺

作者: 枕流冬耳

かなり前に書いた文です。

俺は自転車を駐輪場に停めて公園に入った。


スマホの通知画面には


『ごめん!今起きた!だいぶ遅れるかも』


と書いてある。俺はため息をつきながら、


『今日どうせ暇だし公園でのんびり待つよ』


と返した。


公園、と言っても広い公園ではない。入口から公園全体が見渡せるし、遊具は滑り台とシーソーと鉄棒だけだ。春らしく草葉は茂っているが、桜のような目立つ木がある訳でも無い。それでもベンチやテーブル、公衆トイレがあるため、待ち合わせ場所として穴場で、俺は友人とよくここで待ち合わせをしている。


日曜の朝であるにもかかわらず、幸い今日は誰もいないようなので、ここでゆっくり過ごすとしよう。


4人がけのテーブル席に腰掛けると、リュックサックを脇に置き、中から読みかけの小説を取り出した。


暖かい日の光が射しと心地よい風の吹くここは、読書に最適だ。草の風に揺られる音に耳を傾けながら、俺は続きから読み始めた。


暖かさのあまり大きな欠伸をした。視界がボーッと薄まっていき、遂には視界に上下から暗幕が降りた。


ーーーーーーーーーー


肩に何かに押されている感触があり、目覚めた。


俺は本を枕に、眠ってしまっていたらしい。徐ろに顔を持ち上げ、キョロキョロと周りを見渡した。


すると、俺のすぐ隣に可愛らしい表情でニコニコしている女の子が居た。


「わぁ!?」


思わず跳ねるように立ち上がり、彼女を見つめながら後ずさった。


「あはは、やっと起きましたねぇ」


見覚えのない子だ。こんな子が知り合いなら多分記憶にあるだろう。俺と同じく高校生くらいだろうが、そうだとしたらこの年齢でこの髪型は中々濃いだろう。ツインテールだ。彼女が可愛く笑顔を作りながら言うには、


「“ともくん”さんですよねぇ?」


………?これは流石に人違いだろう。


「は?誰すか?多分人違いじゃないすか」


「………え!?あ、あぅ、え、あ、すいません!人違いでした!」


彼女はしばし硬直した後に急に赤面し、あたふたし出した。慌てて立ち上がり彼女は去ろうとする。この公園は狭いゆえにどこに行っても気まずい。公園の出口に向かおうとしている。


が、彼女も俺と同じく待ち合わせ中だったのだろうし、ここで待ち合わせをしているであろう“ともくん”氏にも悪いと思ったので、


「君待ち合わせ中?だったんすかね?俺も待ち合わせしてるんすけど、良ければ一緒に時間潰してかないすか?」


彼女は足を止め振り返り、


「え?ナンパですか?」


なんだこいつ、と思ったが、確かに今の俺の言葉はナンパにしか思えない。


「違うっすよ、ただ時間潰そ、って感じっす」


気まずい沈黙。彼女はスマホを取りだし画面をしばしば眺めた後、


「あ、お言葉に甘えて………」


恥ずかしそうに俺の居たテーブルに戻ってきた。俺も元の席に戻った。彼女は俺の対面席にそそくさと座った。


「多分歳近いと思うんすけど、いくつすか?俺十七」


「なんかやっぱりナンパっぽくないですか?私も十七ですけど」


「お、タメじゃん!じゃあやっぱりタメ口で、俺涼宮律!」


「えー、ん、ぅ、ん………牛丸京華です…」


やべ、馴れ馴れしくしすぎたか?明らかに引いとるやんけ。


「あ、やっぱ敬語で行きますわ、牛丸?さん」


「あ、いや、タメ口でお願いします!わた、私がコミュ障なだけなんで!」


「はあ」


「……」


「……」


やべー、気まず!


「あ、牛丸さんは誰と待ち合わせしてるの?“ともくん”さんだっけ?」


「え!」


牛丸さんは口を開けたまま硬直した。


「…えー、えぅ、お友達です」


「おぉ!俺も友達と待ち合わせ中!何すんの?俺達は買い物行く!あ、良ければ一緒に行かない?」


「………え、えーとぉ、ちょ、ちょっとトイレ行くね」


牛丸さんは慌てるように立ち上がり自分の荷物を全て抱えてトイレに駆けて行ってしまった。


あ、やらかしたな、俺。


取り敢えず今の会話における俺の過ちを考えよう。


まず距離感。恐らく人見知りなんだろう。ともくん氏と話しているつもりだった時と俺と話している時とで明らかに話し方が違っていた。それなのにガツガツと馴れ馴れしく話しかけられたらやりにくかったのかもしれない。少なくとも敬語で行くべきだったのではないか。


それに、俺は多分タブーな話題に触れていた。ともくん氏はひょっとしたら元交際相手なのかもしれない。そういった恋愛によるゴタゴタは触れられて気分の良いものではないだろう。


頭を抱えていると、公園の砂利が蹴られる音がする。


頭を抱えた指の間から一瞥すると、禿げた壮年の男がすり足で歩いている。


キョロキョロした後、俺の方に向かってくる。


「あの、君ぃ、あ、えと、お、おん、女の子、うん、女の子、見てない?かな?ツインテールの」


どうやら俺に話しかけてきた。当然俺には思い当たる節がある。だが、彼はどう見ても失礼ながら“ともくん”って見た目ではない。友蔵とか智久とかだろう。お父様だろうな。色恋沙汰に振り回されている我が娘を連れ帰しに来たのではないだろうか?


やはり牛丸さんはそういったトラブルの中にあるのだろう。だがここはお父様に連れて帰らせるのがベストだろう。


「牛丸京華さんですよね?今トイレにいると思いますよ」


「き、君は、京華ちゃんと、どういった、か、か、関係…なのかな?」


娘が多感な時期なのだ、交友関係も気になるのだろう。

だが、当然俺は、


「?俺はたまたまここで会っただけですよ」


「…彼氏?彼氏なの?彼氏だよね?」


みるみるお父様の顔が赤くなっていく。


「いや、そもそもから全然ちが…」


「あ!」


トイレから牛丸さんが駆けてくる。俺は安堵して牛丸さんの方を見る。牛丸さんに弁護してもらおう。いや、そうすると逆に怪しいか?などと考えていると、彼女は最初に俺に見せたのと同じ表情、言い方、角度で、驚くべきことを言う。


「“ともくん”さん、ですよねぇ?」


「ゑ」


俺が固まっているうちに、話は進んでいく。お父様、改めともくんは急に目を細めた笑顔を作った。


「うん、京華ちゃん。僕がともくんだよ」


「ホテルもう取ってあるよ」


「まぁ!楽しみですよぅ」


突然、それまでニコニコしていたともくんは冷たい表情になり、


「ところで、コイツは?彼氏?京華ちゃん浮気してるの?僕がいながら?」


俺の方を指さした。牛丸さんは俺をともくん氏と見間違えていたのに、二人は初対面じゃないのか?


「全然!コレは…えと、不審者ですよぅ!京華はともくんのことしか見てないですよぅ」


「あーあ、おぢさん醒めちゃったよ。お金出すの辞ーめた」


ともくんは足を返すと、出口に向かっていった。


「彼氏持ちのクソ売女が!」


「だから、違いますよぅ!待ってくださいよぉ!」


牛丸さんはその後に続いて縋るように走っていった。


やがて公園にはただ一人俺だけが残された。


「………」


ピロン。リュックサックの中のスマホにメッセージが送られてきた。通知には、


『何処にも居なくない?目立つとこに来てくれる?』


とある。絶対違う公園にいるじゃねぇか。俺は立ち上がりリュックを背負い公園の出口に向かった。


『ごめん、多分違う公園だわ。駅の近くのとこ?』


『あらー、その公園にいるよー、デパートに近いからね』


『じゃあマッハで行くわ』


『りょーかい』


俺は自転車の鍵を外して、自転車を漕ぎ出した。


今日は友人に勧められて初めて化粧品を買いに行くのだ。友人曰く「りっちゃんは可愛いからもっとそれを活かさないと!出来ればロングのりっちゃんも見たいけどなー」との事だ。確かに言動も見た目も男っぽいとよく言われるし、それをまさにいまさっき実感したところだ。俺も可愛くなれるのだろうか?彼女の引き立て役にならないだろうか?


とにかく、俺は友人の待つ公園に向かった。途中で恋人繋ぎをして歩く年の差カップルを追い抜いて。


ご覧いただきありがとうございました。

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