第1章 インキャ、窓際社員になる
私は翌日も、通常通り勤務しようとするが、指示が一切与えられないまま、ランチタイムとなった。どうやらこの世界"でも"私は無能のようで、指示待ちの間はひたすら過去の業務のマニュアルを読み漁っていた。
社員食堂で、食事をしていると、近くで先輩社員と林さんが楽しそうに食事をしている、その姿を眺めていたが、一切林さんはこちらを振り向かないため、流し込むように昼食の天ぷらそばを頬張り、デスクに戻った。
そして、午後もやはり指示が与えられず、定時を迎え、私の業務は終わった。
本当に何をやらかしたら、こんなことになるのかわからないが、転生してから仕事が与えられなくなったあたり、転生前はそれなりに頼られていたのだろう。
それにしても転生前のインキャは誤字脱字が少なかったのだろう。
インキャのSNSを除くとキモい文章がタイムラインに綴られている。
どうやら、暗黒川根暗という男は、キモくて専門用語をひけらかす頭の悪い凡人だったそうで、周りに対して知識をひけらかす割に、無能だったらしいが、事務的な仕事においては才能があったらしいが、昨日の業務のスピードが著しく遅かった上に誤字脱字が多かったため、信頼を失墜させたのだろう。
いや、そもそも信頼が殆どなかったのだろうか。
とにかく林いちかさんという同僚は、まさち女神である。
私はきゃんきゃんバニーというこの世界にある"エロゲ"のBGMを携帯端末で聞いていた。
骨身に染みる、X68000というパソコンの音源のBGMが・・・、そして自宅への帰り道、ある女に声をかけられる。
「帰り道一緒だったんだ、インキャくん」
「東・リオン・・・さん?」
暇な時間、私は社員名簿を眺めていた。
私に声をかけたのは東リオンという総務の女らしく、褐色肌の女で、明るい性格から周囲から好かれている。
「恐らく方向が違う」
「へーそうなんだ、てか、なんで暗黒川根暗くんって、うちの会社入ったの?」
そんなことを聞かれてもどう答えればいいかわからないが、私は「た、楽しそうだから」と答えた。
東リオンは、「へー」と答え、「じゃあうちこっちだから」と私の自宅と逆方向へと歩いて行った。
東・リオンは私に関心があるのだろうか。私に知る由はないが、東リオンも愛嬌がありまた魅力的な女だが、私の好みの女は、上野千尋である。
とにかく、私は自宅へと帰ろうとすると、何か気配を感じる。
背後に蠢く、実体の知れない存在。
手元には何もない、あるのは、・・・オイルライター。
「やってみるしかないか」
巨大な"そいつ"は、口を大きく開け、俺を喰おうとしたが、リッドを開け、ホイールを回すと、剣のように鋭くとがった炎が見えた。
「バスタードライター!!!!!」
俺は、真っ二つに"そいつ"を切り裂いた。
「なんだったんだあいつは」
こうして、仕事で疲れた俺はシャワーを浴び、玄米茶漬け2合分とたくあんを食べながらドクターペッパーを飲み、そのままベッドで横になり、カールマルクスとエンゲルスの共作の資本論を読み進めた。
少なくともこの生活は悪くないのだが、一方、本当の暗黒川根暗は、どこにいるのだろう。