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プロローグ

「えっと、もう会社来なくていいよ」


それは突然の出来事だった。

ウォーリンの国、バドの都。

それは、勇者紹介業を営む株式会社ブレイブエージェントでの出来事であった。

俺は業務部に勤めており、連日やってもやらなくてもいいような書類整理や、派遣勇者の個人情報管理を行なっていた。


「いやちょっと待ってくださいよ!

1年半、面倒見ておいて突然のクビですか!?」

「君ィー今まで何を学んできたんだ。

パソコンの操作以外何もできないじゃないか!

情報管理も雑だし、手先も不器用、うちは民営企業。お前のような無能はもう社会に出ない方が社会貢献だよ全く。

今月限りで、雇用契約は切れます。

余ってる有給使い切ってください」


俺は何度も上司に頭を下げた。

「お願いしますお願いします!ボランティア でも良いので、働きたいです!お願いします」

「うちボランティアは、募集してないので」


俺は涙を流しながら会社を後にした。

午後19時、俺は会社近くのビルの屋上にある展望台でドクターペッパーを飲みながら夜景を眺めた。

「はー、何でこんなに辛いんだ。」

夜景を見ながら、人生を振り返っていた。

「こんな人生クソ過ぎるだろ」

ショートピースを胸ポケットから取り出し、ゆっくりと夜景を見下ろしながら吸った。

すると、突然の胸部の痛み。

激しい!呼吸ができない・・・オラは・・・


意識を失った


・・・ここは、どこだ。

「・・・くん」

「イン・・・くん・・・」

「インキャくん!」

はっ!と目覚めた。

どうやら、ここは、会社のようだ。

しかし、見たところ俺が勤務していた会社とは雰囲気が違う。

煌びやかな華麗なお姉さん達が、複数人いる、まるでこの部署は一般職の集まりの如く、女性ばかりだ。


「ハメルク」と、指先に力を込めて、呪文を唱えたが、何も生じない。ここは魔力が使えない世界というのか。

そういえば俺が過去に読んだある書物によると、この世界は2つの世界により構成されている。

意思を待つ鉱石ヴァラダスによって作られた、「ウォーリン」と、「地球」という謎の爆発によって誕生したと言われる世界。

ウォーリンで意識が飛んだ俺は、この地球に飛ばされたという認識で良いのだろうか。


「インキャくん、君少し残業続きで疲れてるんじゃないか?

今日は帰っていいぞ」と少し腹の弛んだ中年の男性に声をかけられる。

俺はウォーリンにいた時も、毎日経済学書と、歴史に関する資料、そして哲学や学問的な書物しか読んだことがないから、こう言った異世界転生と呼ばれるジャンルの本を読んだことがない。

だからこそ、語彙力が足りないし、そもそも異世界転生自体がフィクションだと思い込んでいた。

しかしだ、どの哲学書よりも、今この現状はそういった低俗な書物に記された、現状を前にしてると言っても過言ではない。

ということは、だ。

ここには魔獣もいなければ、アヤカシもいない。つまり平和の象徴と呼べるファンタジーの世界ということだろうか。

「僕は・・・」

少し周りを見渡すと、隣にとある神話に記されているような女神、林いちかがいた。


教会に、女神・林いちかさんと、教祖である戦闘機フォッケウルフTa152の偶像を俺は見たことがある。

教典にその姿が詳細に記されており、林いちかを祀る讃美歌を週末に歌うという習慣が俺にはあった。

「女神・・・様ッ!」

「えっえっ!」

「暗黒川くん、今日は休んだ方がいいのではないか?」

周りが固まっている、私はこの状況をどうにかしなければならない。

だが、私の知能ではこの状況の打開策が見当たらない。

とにかくだ、仕事をしていたはずだ、本来の自分は。

「あ、仕事に・・・戻ります・・・迷惑かけてすみません」

「あ、うん。じゃあ午後までに資料作っておいて」

少し倦怠感を感じるが、俺はパソコンのモニターを眺め、資料を作成する。

取り敢えず、資料作成前に準備したメモ帳とノートに記されたアイディアをベースに資料を作る。


午後15時、資料がある程度出来上がり、印刷して上司に提出した。

「ご、誤字が多くないか?」

「すみません」

「おーい、林さん」

女神が私に近づく。

「暗黒川くんの資料の修正お願いしていい?」

「かしこまりましたー」

「暗黒川くん、体調管理はしっかりね。

今日は、取り敢えず指示があるまで待機してていいよ」

「はい」

そして、定時の18時まで指示がなかった私は、パソコンでWikipediaと呼ばれる百科事典サイトでこの世界の情報を調べ、そして、今まで作成した資料やマニュアルから業務方法を習得した。


定時の18時、俺は自宅に帰ることにした。

家までの帰り道、自宅がどこにあるのかを俺は知らないが、バッグにある携帯端末上に自分の情報がある。

それをもとに自宅に帰ろうとすると、同期の女神・・・いや人間の林いちかさんに声をかけられた。

「暗黒川くん、どうしたの?

まるで人が変わったみたいだけど」

「暗黒川・・・」

個人フォルダ名を見たら「暗黒川 根暗(インキャ)」と名前があった。

ウォーリンでの名前は武中平蔵・ジョージ・ルーク。あだ名はジョン。

だが、ここではインキャという名で呼ばれているらしい。何という、ネーミングセンスだ。

「林さん、僕は・・・」

「ねー、家寄る?私の家近いし」

「林さん、貴殿の家には、歴史書はないだろう・・・」

「えっ」


ドン引き・・・なのか?

わからない、だが、私はこの世界をもっと知りたい。どうやら、ウォーリンで記されていた"地球"と現実の"地球"とでは相違があるらしい。かつて女神と呼ばれた林いちかさんも関わってみると、普通の少女である。

かつて、女神は、信者の1人であるエデンに「死ねよゴキブリ」とか「キモい、死ね」などというありがたい言葉を与え続けた、世界の救世主(メシア)と呼ぶに相応しい存在だという記載があったが、この世界では、大変丁寧な言葉で喋っているし、教典に書かれているようなサディスティックな精神を一切感じない。

つまり、教典に記された林いちかと現実の林いちかさんは、姿形は似ているが別人という説が正しいようだ。


「私の名は、ジョージ。いや、かつて武中平蔵・ジョージ・ルークと呼ばれていた者。

貴殿が申す暗黒川インキャとは別人なのだ。

大変申し訳ないが、どうやら私はこの世界のことをよく知らないし、業務のことさえもわからない。そう、無知である。だが、私は無知であることを知っている、だからこそ私は自宅で勉強せねばなるまい。

だが、女神、いや林さん、目眩を感じるという現実がそこにはある。

つまり、私は体調が少し不良のようで、正直な話、休息を取りたいというのが本音だが、迷惑をかけることに罪悪感を」


「きしょ」

林いちかが冷めた目で私を見つめている。

「じゃあ、私帰るね」


林いちかさんの後ろ姿を見つめる。

それは、女神である林いちかさんをモチーフにした教典「同期ちゃん」に記された美少女を彷彿とさせる。

私は、山手線で自宅へと向かう。

ここは、どこだろう。

とにかくだ、異世界転生をしたのだから、私は世界を知らねばなるまい。


自宅に帰り、私は神に祈りを捧げた。

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