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I am Aegis / Origin 2  作者: アジフライ
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第19話【内に巣食うモノ】

前回、 『凍てつく炎』と呼ばれる山脈を越えるため、 エル達は山を登った。

そこで山頂付近にて猛吹雪に襲われ、 エルとシュラスはルーミを残し、 猛吹雪を抑えるべく山頂へ向かった。

しかしエルはその山頂付近の洞窟にて『逆さ星』の幹部の一人、 ダリアに捕らえられてしまった。

「ダリア……って……もしかして……! 」

ダリアの名を聞いたエルは何かに気付いた。

「あら、 私を知ってるの? 」

「ある人から聞いた事がある……もう何百年も前の事らしいけど……魔物を操って大きな街を滅ぼした魔人がいるって……」

エルがそう言うとダリアはニヤつく。

「その人は物知りねぇ……そうよ、 私は過去に街をいくつか破壊したわ……もう何百年前かしら……あの時の冒険者達の苦痛の叫びが今も蘇ってくるわ……」

「……あなた……何者……? 」

エルが聞くとダリアは煙管をひと吸いし、 答えた。

「私はねぇ……ヴァンパイアとサキュバスの血を継いだ貴族の末裔なの……」

ヴァンパイアとサキュバス……まさか悪魔と吸血鬼の混血だなんて……

するとダリアはエルの目の前に歩み寄りながら話し出した。

「もう何百年とこの姿で生きてきたわぁ……逆さ星に出会う前、 私はただただ街を滅ぼしては徘徊する一種の兵器のようだった……」

そしてダリアはエルの顎を持ち上げ、 エルの頬を一舐めする。

「私ね……元から人が苦しむ姿を見るのが大好きだったの……だから逆さ星に協力することにしたの……」

「ッ……一体何が目的なんですか……! 」

「私の目的は街の破壊……この山の先にある大きな街よ……そのついでに組織が目的としている扉を探しているのよ……」

そう言うとダリアはエルに背を向け、 ドラゴンの大軍を見る。

「このドラゴン達はすぐに洗脳できて助かったわぁ……お陰で計画が狂わずに済む……あとはこの石を破壊すれば……」

そう言いながらダリアは氷のような大きな宝石を手に取る。

「その石! 」

「あらぁ、 もしかしてこれを探してたの? 取り戻せなくて残念ねぇ……」

「え……」

すると次の瞬間、 エルは何かが胸に突き刺さる感覚を覚えた。

エルは自分の胸を見るとそこには……

「フフッ……悪いけどあなたは私達の計画に支障をきたす……だからここで死んでもらうわよ」

「あ……あぁ……」

蜘蛛の足のような尖った真っ黒な物体が地面から突き出し、 エルの心臓を貫いていたのだ。

不思議とエルは痛みを感じなかったが自分の意識が遠のいていくのを感じた。

そしてエルは解放され、 そのまま倒れてしまった。

「……」

「……残念、 もっとあなたの叫びを聞きたかったわぁ……でもあまり長居していると組織の連中に文句言われちゃうからね……」

そう言うとダリアはドラゴンの大軍の方へ行こうとした。

その時……




『私は……何……』




辺りに不気味な声が響き渡る。

その声は間違いなくエルの声だった。

「ッ! ? 」

ダリアは思わずエルの死体の方を見る。

そしてダリアはエルの死体に異変が起きているのを感じた。

死体から冷気のような霧が出てきているのだ。

「……何が……起きて……」

すると次の瞬間、 エルの死体の周辺から凄まじい炎が噴き出し、 ダリアの背後で待機していたドラゴンの大軍を包み込んだ。

「しまっ……た……? 」

ダリアは振り向くとそこにあったのは炎に包まれたドラゴンじゃなかった。

凍っていたのだ。

まるで炎が形を残したまま凍り付いたように固まっていたのだ。

「……何なの……これ」

ダリアは再びエルの方を振り向くと

『私は……私は……! 』

エルは起き上がっていたのだ。

貫かれた心臓部分は氷に覆われており、 完全に塞がっていた。

(馬鹿な……一体何なのこの子は……! ? )

ダリアは慌てて魔物達を召喚し戦闘態勢に入った。

すると突然エル(?)は目を開け、 ダリアの方を見た。

その眼は不気味に輝いており、 片方は何よりも冷たい氷のようで、 もう片方は赤い炎のようだった。

「さっきとはまるで別人……一体何者なの……? 」

『……私は……何者……』

「自分か何者かも分かっていないのね……まぁいいわ……また殺せばいいだけ……」

そう言ってダリアは魔物達をエル(?)に嗾けた。

しかし魔物達はエル(?)の周辺に近付いた瞬間に氷になってしまったのだ。

(氷漬けどころじゃない! ? 近付けば全て氷になってしまうなんて……まさか……)

ダリアはエル(?)の力について何かを知っている様子だった。

しかしそんな事を考える間もなくエル(?)はダリアの方へ近づいてくる。

その気配は凍り付くように冷たく、 内臓を焼かれるような苦痛を感じさせるほどに脅威だった。

「く……来るな! 」

突然凄まじい恐怖を感じたダリアは後ずさりする。

『……私は……無力……』

しかしエル(?)は止まらない。

そしてエル(?)がダリアの目の前まで来た瞬間。

『……もう……全て……どうでもいい……』

エル(?)はそう言いながらダリアの方を指さす。

次の瞬間、 音も無く辺りが炎に包まれ、 瞬く間に凍ってしまった。

ダリアは炎に巻き込まれ、 そのまま氷と同化してしまった。

『……全ては灰となり……全ては凍てつく大地へと還り去る……』

誰もいなくなった空間でエル(?)はそう呟くと目を閉じ、 蹲った。

すると辺りは再び炎に包まれた。

その炎は周りの氷を一瞬にして蒸発させ、 洞窟の外まで溢れ出した。

そして先程と同様に炎は氷に変化し、 全てを凍り付かせた。

完全な氷漬けになってしまった空間の真ん中、 エルは蹲ったまま動かずにいた。

「……」

そこにシュラスが空間に入ってきた。

「……案外目覚めが近いのかもしれない……今回は被害が広がらなくて良かった……と言うべきか……」

そう呟くとシュラスは蹲るエルの前にある氷柱の中から氷樹石を取り出し、 エルを抱えて洞窟を出て行った。

…………

山の頂上……

シュラスは吹雪の中エルを抱えながら氷樹石を運んできた。

頂上には祭壇があり、 シュラスはそこに氷樹石を置いた。

すると瞬く間に氷樹石は木のような形に変形し、 地面に根を生やした。

根を地面に張り巡らせると氷樹石は輝き出し、 波動のようなものを放ち、 辺りの吹雪をかき消した。

「……これで降りれるな」

そしてシュラスはルーミ達が待つ洞窟の方へ向かった。

…………

シュラスが洞窟に着くとルーミが奥から飛び出してきた。

「シュラスさん! 無事だったんですね! 」

「あぁ……さぁ、 早く次の街へ行くぞ」

するとルーミは気絶しているエルに気付いた。

「あれ? エルちゃん、 どうかしたんですか? 」

「……魔力枯渇による気絶だ……心配するな」

そう言うと老人は何かを察したようにシュラスの顔を見た。

「……さぁ、 要件は済んだ……行くぞ」

「え……はい? 」

そしてシュラス達は早々に山を下りる事にした。

去り際、 老人はシュラスに耳打ちで言った。

「……シュラス様……その子娘……やはりあの魂を……」

「……案ずるな……世界の崩壊までとはならぬよう見ておくつもりだ……」

「……頼みましたぞ……これは我らの領域を遥かに超えるものですから……」

そう言うと老人はドラゴンの姿に戻り、 飛び上がった。

『では儂はこれで失礼する……崩れた生態系の修復をしなくてはならぬのでな……』

「あぁ……」

そして三人は次の街へと向かった。

…………

竜の街、 『ジュドルア』……

その街は大昔から凍てつく炎に住む古龍によって救われた歴史が数多く存在する。

街の周りには古龍が築いた結界があり、 魔物の襲撃を防いでいる。

「わぁ……明るい……」

「ここはかなり豊かな街だ……お前の得意とする錬金術に使える薬物も売ってるだろう……」

そう言うとシュラスはルーミに金貨を何枚か渡す。

「この街にあるギルドの隣に宿がある……後にそこで合流しよう……」

「え……てことは……」

「行くならさっさと行け……俺は俺で他に用があるんだ……」

「……わぁーい! 久しぶりのお休みだぁー! 」

そう言いながらルーミは街の奥へと駆けて行った。

「……相変わらずの阿保だな……さて……」

ルーミと分かれたシュラスはエルを背負いながらある場所へ向かった。

しばらく街を歩くとシュラスはとある路地裏に入った。

「……ここに来るのは久しいな……」

そこにはボロボロになった扉があり、 看板にはカルミス魔法図書館と書かれていた。

そしてシュラスは扉を開けると……

「……そろそろ来るかと思ってたわ……シュラス……また厄介なモノを持ち込んだわね……」

扉の前に一人の少女がいた。

琥珀色の長髪に瞳を持ち、 全身に不思議な装飾を纏っている。

「厄介なのは逆さ星だけだ……この娘はまた別の件だ」

「……まぁいいわ……早く来て……」

そう言うと少女はシュラスを暗闇が続く部屋の奥へ案内した。

しばらく暗闇を進んでいくと……

「……相変わらず大きいな」

狭かった路地裏とは裏腹に無限に続いていそうな巨大な図書館があった。

「これでもこの世界に区切ってもまだまだ足りないくらいよ……理は次から次へと生まれるモノだからね……さぁ……早く来て」

そう言うと少女は図書館の奥へと案内する。

図書館の奥には厳重に管理されている一つの扉があった。

「……これか……」

「えぇ……今は逆さ星からは隠している……でも封印が解けるのも時間の問題……」

「……あとは任せろ……こいつを頼む……」

そしてシュラスはエルを少女に引き渡した。

少女はエルの顔を見ると表情を曇らせた。

「……これは……かなり強い力ね……」

「あぁ……さっさと行け……」

シュラスがそう言うと少女はその場から消えた。

「……さて……早めに何とかしてしまおう……幸い今回は逆さ星の連中はここに気付いていない……」

…………




『……私は……何……』

暗い意識の中、 エルは自分に問いかける……




『私は……一体……何なの……』

エルは自分が何なのかを見失っている。




『私が……したいのは……』




『破壊……? 』




…………

「ハッ……! 」

「あ……起きた……」

エルは宿の部屋で目を覚ました。

ここは……私……確か……あの洞窟で……

目の前の状況に理解が追い付かないエルは困惑する。

「落ち着きなさい……状況は追って説明するから……」

「……あなたは……? 」

「……カルミス・モロクノーム……カルミスと呼んで頂戴……」

カルミス……って……あの無限の魔女……! ?

少女の名はカルミス・モロクノーム……大昔に起きた悪魔と人間の戦争時代より生き続けている大魔導士である。

彼女は世界の全ての理を理解し、 様々な魔法を扱える。

その魔法の数は無限と呼ばれるまで多く、 その内『無限の魔女』と称されるようになり、 今や世界の誰もが知っている。

しかし長年生きる為の力を手に入れるために心を売り、 力を得た。

よってその感情は人より薄く、 思考が普通の人間と少しズレているそう。

「どうして……ここは……」

「ここはジュドルア……凍てつく炎のすぐ麓にある街よ……シュラスがあなたを負ぶってここまで連れてきてくれたの」

「……詳しく聞いていいですか……」

そしてエルはカルミスから事の顛末を聞いた。

「……そんな事が……」

「まぁ安心しなさい……あとはシュラスがやってくれる……逆さ星はその内諦めて撤収するわ」

「そう……ですか……」

また……私はシュラスさんの力になれないのか……

エルはそんなことを考えているとカルミスはエルの目を見た。

「……あなた……名前は? 」

「え……エルです……」

するとカルミスは深刻そうな顔つきで話し始めた。

「エル……単刀直入に言うわ……あなたは……」




『神の魂を持っている……』




続く……


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