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I am Aegis / Origin 2  作者: アジフライ
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第18話【凍てつく炎】

三人がカルスターラを出発してから二週間が経過した頃、 次の目的地まで半分が過ぎた。

しかし……

「……シュラスさん……何かの間違いですかね……? 」

「……ここを越えなければ扉のある場所には辿り着けない……遠回りをしたら倍の時間が掛かる……」

「そうは言っても……これを越えるって……向こうに着く前に凍っちゃいますよ……」

そう話す三人の目の前には天まで聳え立つ巨大な山脈があった。

ルスヴェラート王国の最北端には全てを凍てつかせると言われている山脈があるって事は知っていたけれど……実際見ると圧倒されるなぁ……

その山はルスヴェラート王国と他国の国境として有名な山脈であり、 山全体が氷に覆われており、 山頂付近の形が炎のように見えることから通称『凍てつく炎』と呼ばれている。

危険度もその名に恥じぬほどであり、 山頂にはドラゴンの巣が目撃されている。

「大丈夫なんですか……山頂でもしドラゴンなんかに遭遇したら……」

「この時期はドラゴンの活動は落ち着いている……恐らくほとんどは巣に籠って眠っている」

「この寒さはどうすれば……」

ルーミがそう言うとシュラスは二人に防寒用の魔法が施されている指輪を渡した。

「普通は水中の作業なんかに使うような粗品ではあるが……寒さぐらいなら多少防げるだろう」

「……」

「……」

二人は何となく同じ感覚になった。

まぁ……シュラスさんは自分の魔法で何とかできるだろうし……普段一人だったのを考えると……そうなるよね……

すると不安そうにしている二人を見たシュラスは小さくため息をつき

「……環境適応の魔法だ、 これで大丈夫だろう……ここで時間を食ってる場合じゃないんだ、 行くぞ」

『はい……』

そして三人は山道を進んでいった。

数十分後……

三人は山頂付近で猛吹雪に見舞われていた。

「シュラスさん! これ以上進むのは無理が……! 」

「うぅぅ……二人とも側にいますよねぇ! ? 」

吹雪のせいでエルとルーミは視界が阻まれていた。

ドラゴンどころか魔物もいないけど……この吹雪は魔物以上の障害になる……

するとシュラスは偶然に洞窟を見つけた。

「仕方ない……吹雪が弱まるまであの洞窟で待とう……」

…………

洞窟の中、 三人は焚き木をしながら吹雪が収まるのを待っていた。

「……止みそうにありませんね……」

「あぁ……にしてはおかしい……この威力……上級以上の環境適応魔法が無ければ一瞬で凍ってしまう程だ……指輪の効力だけじゃ駄目だったな……」

「え……それってつまり……山を登る前に魔法を掛けてもらって無かったら私達……」

「今頃氷漬けになっていただろう……」

それを聞いた二人は背筋が凍った。

流石は『凍てつく炎』……尋常じゃない環境……

そんな事を考えながらエルは焚き木の炎を眺めていると……

「……ん……? 」

シュラスが洞窟の奥の方を見た。

それと同時にルーミも短剣を構える。

「え……二人とも……? 」

「……ドラゴンの気配だな……それも上位種とは比にならん……」

「……古龍種……ですか」

シュラスとルーミが感じたのは古龍の気配だった。

古龍、 それは世界で最も高位な龍種族である。

世界には下位種、 上位種、 超位種と、 全ての魔物に種族位が設けられており、 その中でドラゴンの種族は超位種である古龍種というものが存在するのだ。

それを知っていたエルは驚愕する。

「古龍種って……確か世界の半分は滅ぼせる程の力を持つ個体もいるって言われている……! 」

「まぁその位の龍種族なら知能は高い……決して話せぬ相手でも無いだろう……だが……」

「大分怒っていますね……縄張りに入っちゃったみたいです……」

え……それってまずいんじゃ……

嫌な予感を感じているエルを余所にシュラスとルーミは洞窟の奥へ進んでいってしまった。

それをエルは慌てて追いかけた。

しばらく三人が洞窟の奥へと進んでいくと広い空間に出た。

「……温度が急激に下がっている……近い」

「でも……何もいませんね……」

「も、 戻った方がいいんじゃ……」

エルが二人を引き戻そうとした次の瞬間

『この山によそ者とは……何年ぶりじゃ……? 』

空間に老人のような声が響き渡り、 三人の上空から巨大なドラゴンが舞い降りてきた。

ドラゴンの体は氷の結晶のような甲殻に覆われており、 水色の瞳が三人をしっかりと捉えている。

あれが……古龍……

ドラゴンの神々しい姿にエルが圧倒されているとドラゴンは話し掛けてきた。

『貴公らは何者じゃ……ここは人が立ち入る場所ではないのは知っておろう……』

「……俺達はこの山を越えた先にある街に向かいたいだけの旅人だ」

『ここが我が管理する領域と知っての事か……? 』

「勝手に縄張りに入ってしまったのは謝る……あまり時間が無いものでな……」

シュラスは冷静にドラゴンと話し始めた。

するとシュラスの眼を見たドラゴンは態度を変えた。

『……まさか……その眼……! シュラス様! ? 』

「俺を知っているのか……まぁドラゴンには何度か世話になっているしな……」

『貴方の話はよく聞き存じておる……まさかここで会えるとは……光栄の限りだ』

そう言うとドラゴンはシュラスに敬意を表した。

え……このドラゴン……シュラスさんの事を知ってるの?

「あの……シュラスさん、 これって……」

「見ての通りだ……」

『いつしか会ってはみたいと思っていた……まさかこのような若人とは……』

「……俺の事はどうだっていい……それよりこの吹雪を止めてくれないか」

「やっぱりこのドラゴンが吹雪を起こしていたんですね……」

するとドラゴンは首を横に振った。

……やっぱり私達が縄張りに入ったことは許せないのか……

そう思ったエルだったがドラゴンが首を横に振った理由は別の事だった。

『済まぬ……この吹雪を止めたいのは山々なのだが……生憎私の力ではどうにもできぬのだ……』

「……石を奪われたのか……」

シュラスがそう言うとドラゴンは頷く。

『詳しく話したいが……この姿では話もしづらかろう』

そう言うとドラゴンは体から光を放ち、 姿を変えた。

ドラゴンは瞬く間に老人の姿になった。

「これでそこの小娘達にも話をしやすいじゃろう……」

「なんていうか……イメージ通りの姿ですね……」

ルーミはそう言うと老人は笑った。

「はっはっは……これでも幾千年も生きておれば老いぼれにもなるわい……さて……」

気を取り直して老人は側にあった氷の塊に座り、 三人に事の顛末を語り出した。

話によれば数週間前、 いつものように山の管理をしていた時、 突然辺りが猛吹雪に襲われたという。

「この山は元より山頂に奉納されている氷樹石のお陰で環境を保ってきた……だから異変が起きて真っ先に山頂に向かった……だが……」

「何者かに盗まれていた……と……」

シュラスがそう言うと老人は静かに頷いた。

するとシュラスは深いため息をつくと老人に背を向けた。

「二人とも、 山頂に向かうぞ……」

「……かたじけない」

「え、 もしかしてこの吹雪の中で犯人を! ? 」

「無理ですよ! だって犯人はもう山から……」

エルがそう言うと老人はそれを否定した。

「それはまず無い……石を山頂から持ち出したとしても降りることは叶わん……この山は既に侵入者を捕らえる結界に覆われておる……」

「え……それってもしかして……」

「……俺は出れたとしてもお前らは出ることができないだろうな……なら穏便にこの事態を収める方法は一つ、 石を取り戻すことだ」

あんな吹雪の中をまた進むのかぁ……嫌だなぁ……でも出られないのはもっと嫌だし……

そう考えたエルは仕方なくシュラスに付いて行くことにした。

しかしルーミは……

「嫌だぁッ! あんな寒い中を進むなんてもう嫌ぁ! ! 」

今までに無い程駄々を捏ね始めた。

あぁ……ルーミちゃんは猫型の獣人族だからね……寒いのは本能的に嫌がっちゃうのか……でもシュラスさんが……

エルはいつもの展開になると思いシュラスの方を見ると

「……はぁ……ならお前はここで俺達の帰りを待て……山の守り神が側にいればまず安全だろう……行くぞ、 エル」

「え……はい……」

あれ……シュラスさん怒らない……

エルはいつもと反応が異なるシュラスを不思議に思いつつもルーミを置いてシュラスと共に洞窟を後にした。

…………

「シュラスさん、 どうしてルーミちゃんは置いて行ったんですか? 」

洞窟の出口に向かう途中、 エルはシュラスに聞いた。

「ルーミは見ての通り猫型の獣人族だ、 猫型の獣人族は寒さに弱い種族だ……ここで無理をさせて遭難なんかさせたら余計面倒だ……だから奴の側に置いてきた」

「そうなんですか……」

シュラスさんってルーミちゃんの事が嫌いだと思ってたけど……何か安心した……

そんな事を考えていると二人は洞窟の外に出た。

外では相変わらず猛吹雪が吹き荒れており、 視界が儘ならない状況だった。

「……どうするんですか? 山頂に向かうって言ってもこの視界じゃ私達まで遭難しちゃいますよ……」

「まぁ見てろ」

するとシュラスは一つのランプを取り出した。

そのランプの中にあるロウソクには紫色の炎が灯されており、 その炎はある一定の方向に向かってなびいていた。

風もないのに炎がなびいてる……

「これは手に取った者が探している物の場所に向かって炎がなびく魔法のロウソクだ……地図でもいいがそれでは吹き飛ばされそうだからな」

「シュラスさんって……何でも持ってますね……」

そして二人はロウソクの炎がなびく方向に進んでいった。

猛吹雪の中を歩き出して一時間が経過した頃……

二人は山頂付近にあった洞窟に着いた。

ここに石を盗んだ犯人が……

「……行くぞ」

「はい……」

エルは警戒しながらシュラスと共に洞窟の奥へと進んでいった。

洞窟の奥は光が届いていないのか、 先程いた洞窟と違って薄暗かった。

「……気を付けろ……俺達以外に何者かがいる……」

「はい」

シュラスがそう警告した次の瞬間、 二人の周りを覆うように真っ白な霧が洞窟の奥から迫ってきた。

え……この霧って……魔法! ?

霧は瞬く間に二人の周囲を取り巻き、 辺りを白く染めた。

「シュラスさん! 」

「エル、 気を付けろ! 」

そしてお互いに姿が見えなくなった瞬間、 エルは後頭部を何者かに殴打され、 気絶してしまった。

…………

「……う……」

何が……

意識が朦朧とする中、 エルは謎の空間で目が覚めた。

辺りは真っ暗で何も見えなかったが確かに人の気配がする。

「あら……お目覚めかしら? 」

エルが困惑しているとどこからか女の声がした。

すると突然辺りに明かりが灯され、 空間の全貌が顕わになった。

「っ! 誰……」

辺りが見えるようになったと同時にエルの目の前に煙管を吸っている一人の女性が現れた。

その女性は全身に黒いローブを身に纏っており、 不気味な紫の髪に灰色の瞳をしていた。

「フフフ……この紋章を見れば分かるかしら? 」

謎の女性はそう言うと右手にしていた手袋を外し、 手の甲に絵が画れている見覚えのある逆さになっている星のマークを見せた。

「……逆さの星マーク……石を盗んだのは逆さ星だったんですか……」

「そう……あなたのお仲間さんにべラスティアが随分と世話になったみたいねぇ……」

「……仇討ち……ですか? 」

すると女は笑いながら言った。

「まさかぁ! 私も組織の皆もアイツの事を厄介者扱いしてたのよ、 むしろ厄介払いできて清々してるわ」

「じゃあ何が目的で……」

エルがそう言うと女は不敵な笑みを浮かべた。

「決まってるじゃない……ここであなた達を一人でも始末するためよ……この先の街では私の部下たちが頑張って扉を探しているの……だけど扉を見つける前にそれを邪魔されるのはとても困るのよぉ……だから幹部である私が直々にあなた達の足止めをしに来たって訳」

「そんな事……させません! 」

そう言うとエルは立ち上がり、 杖を構えた。

シュラスさんとはどこかではぐれちゃったみたいだけど……私一人でもやってみせる!

「やだぁこわぁい……私こう見えてか弱い乙女なのよぉ? 」

「私を連れ去っておいて何がか弱いですか! 」

すると女は煙管をひと吸いし、 煙を吐くと。

「……いいわよ……始末する前に遊んであげる……」

すると次の瞬間、 女が吐いた煙が生き物のように動き出し、 エルの手足にまとわりついた。

これって……魔物! ?

「フフッ……ただの煙と思って油断したわね……その子は便利よ? 相手の視界も遮ることができるし、 こうして拘束もできちゃうの」

「こ、 こんなの……私の魔法で! 」

そう言ってエルは杖を握り、 魔法を発動させようとした。

しかし……

「……え……そんな……魔法が使えない……」

「馬鹿な子ねぇ……魔法対策ぐらいもう済ませてるわよ」

「でも……それじゃあなたも攻撃手段が……」

すると女は再び不敵な笑みを浮かべる。

「その子を見てまだ分からない? 私の攻撃手段は魔法じゃない……」

そう言うと女は指を鳴らした。

それと同時に女の背後にあった暗闇から不気味な光がいくつも現れた。

その正体は……

「なっ……ドラゴン……! ? 」

山に生息しているドラゴン達だった。

ドラゴン達は女に操られている様子だった。

「そうそう、 自己紹介が遅れたわね……私は逆さの星第二の頂点、 ヒューレンズ・アル・ダリアよ……さぁ……」




「早くあなたの心を奪いたいわぁ……♡」




続く……


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