第17話【不死の村】
三人がカルスターラを出て数日、 早くも三人はとある村を発見した。
「シュラスさん、 村がありましたよ! 」
「やっと野ざらしのキャンプ生活に終わりが……」
「まぁそれは一時だが……それより……」
村を見つけてはしゃぐルーミを余所にシュラスは何か不穏な表情をしていた。
それを見たエルは何か良からぬ予感を感じていた。
……シュラスさんの表情……あの村……多分……いや、 絶対何かある……
そして三人は村の方へ向かった。
「……シュラスさん……この村……」
「あぁ……二人とも、 俺の側から離れるな……」
村の入り口まで来た所でエルとシュラスは村の様子に不信感を抱いた。
ルーミはというと……
「二人とも早く! もう一週間近くちゃんとした料理を食べていないんですから! 」
『……はぁ……』
危機感の無いルーミを見て二人はため息をつく。
……まぁ……ルーミちゃん……つい最近まではボロボロな街で暮らしてたから外見じゃ何とも思わないのは無理も無いか……
そして三人が村に入ると案の定、 村に人はいるものの、 誰もが普通でない雰囲気だった。
「……この村……呪われてる……? 」
「そのようだな……村人から生気を感じられない……恐らくストレスで精神がやられている……」
しばらく三人が村を歩き回っていると……
「……そこの旅人よ……何用でこの村に……」
「え……」
三人の前に一人の老人が現れた。
ルーミは思わずシュラスの側に寄った。
「……村長か……丁度良かった……」
「村長……さん……? 」
老人は村の村長だった。
しかし村長からも村人と同じく生気を感じられなかった。
「村長、 話をしたい……場所を変えよう」
シュラスがそう言うと村長は黙ったまま家の方へ案内した。
…………
村長の家に着いた三人は早速村長から御馳走が振る舞われた。
こんな料理……いつから……まるで私達がここへ来るのを分かっていたような……
エルは村長の振る舞いに不信感を抱く。
「……さぁ、 腹が減っているでしょう……お食べ下され……」
村長にそう言われるがシュラスは一向に料理に手を付けようとしない。
エルとルーミも同じく警戒していた。
「……見え透いた罠を張るな……不快な……」
そう言うとシュラスは村長の背後に向かって何かを飛ばした。
すると村長の背後から突然二人の男が姿を現し、 倒れた。
一瞬の出来事でエルとルーミには何も見えなかった。
「ッ! ? 何が……起きた……」
「え……シュラスさん何を! ? 」
「安心しろ、 気絶させただけだ……それと……」
そして次にシュラスは村長の目を見た。
村長は大量の冷や汗をかき、 シュラスから視線を逸らした。
シュラスは気にせず話を続ける。
「この村に何が起きた……俺達に毒を盛ろうとしたのにはそれだけの理由があるのだろう……」
やっぱり毒が入ってた……シュラスさんと一緒で良かった……
すると村長は観念した様子で話し始めた。
「……仕方が無かったのだ……この村を存続させるには……こうするしか……」
「……『供物』……か……はぁ……」
シュラスの言葉に村長は静かに頷く。
「……この村は……『不死』の呪いが掛かってしまっている……」
「不死の呪いって……あの禁忌の……! ? 」
それを聞いたエルは驚いた。
『不死の呪い』……それは禁忌の呪術として封印された魔術の一つ……又の名を
『心腐身不朽術』
その名の通り心を代償に寿命を消し、 永遠に生きた体を保つ魔術である。
その危険性は計り知れず……効力が続く内は体に傷が付くことが無ければ老化することが無い代わり、 年月共に時間が過ぎる内に精神を貪られてしまうのだ。
解除する方法は簡単ではあるものの、 解除した瞬間、 経過した時間問わずに体が腐り死に至る。
それに加えて効力は永続的なものではなく、 定期的に供物、 すなわち『人間の身体』をその呪術の核に捧げなくてはならないという。
正に呪われた『不死』を与える魔術なのだ。
エルとルーミもその魔術については知っていたため、 それがどれほど恐ろしいものかはすぐに理解した。
「……つい数か月前……ある女がこの村を訪れ、 村に永遠なる繁栄をもたらすと言ってきたのだ……村の財産であるこの周辺で採れる貴重な薬草を代価として……」
「それでその条件を呑んだ結果がこの様か……愚かな……」
「シュラスさん……」
するとシュラスは席を立った。
「行くぞ二人とも……別の村を当たる……」
それを聞いたエルとルーミは驚愕する。
「え……シュラスさん……! ? 」
「この人達を見捨てるつもりですか! ? 」
それは当然の反応だった。
しかし村長は何も言わない。
「見捨てるも何も……これはこの村の問題だ……俺達は依頼を受けてもいなければ、 村長から助けも求められていない……」
「そんな……村長さんは何も言わないんですか! ? 」
エルはそう言うと村長は横に振り、 エルとルーミに言った。
「お嬢さん方……そのお方の言う事に間違いは無い……元々は繁栄などという甘い理想に目が眩んだ儂らが悪いんだ……」
「……でも……シュラスさんなら何とか……」
ルーミがそう言うとシュラスは
「無理だ……心腐身不朽術の呪いは既に数か月の間で完全に村の人間の心を食い荒らしてしまった……もし代償なしに術を解除したとしても心まで俺でも治せん……」
冷静な様子でそう言い切った。
「……それじゃあ……私達にできる事は……」
「無い……せいぜいこの村が滅ばない事を願うくらいしかできないだろうな」
エルはこの数日で世界の良い物ばかりを見てきていた……しかしここで思い知った。
救えないモノは救えないという事を……
シュラスさんなら何があっても大丈夫だと思ってた……シュラスさんなら何でもできると思ってた……でも……これが……現実……できないものはできない……
エルは突然の無力感に襲われる。
「エルちゃん……大丈夫……? 」
ルーミは心配そうにエルに話し掛ける。
「……そういう事だ……俺達はこれで失礼する……次に会うことがあればこの村が滅んでいない事を願っている」
シュラスは無慈悲にもそう言うと二人を連れて村長の家から出て行った。
家から出ると何人かの村人が家の前で三人を待ち伏せしていたがシュラスの姿を見た村人達は大人しく道を開けた。
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何事も無く村を出て行った三人はしばらく進んだ所で話し始めた。
「……シュラスさん……あの人たち……本当に救えなかったんでしょうか……」
エルは無気力な声でシュラスに言う。
「……あの村は元々貧しい村だったと見える……恐らくあの村長の言っていた女が来る前から病か何かで村は滅びかけていたんだろうな……例えあの時心も身体も代償なしで術を解除したところで状況は何も変わりはしなかった……」
「それでも……目の前で苦しんでいる人達を……見捨てるような真似なんて……」
「……俺は勇者でもなければ誇り高い騎士でもないんだ……お前は俺の事を善く見過ぎだ……」
「……」
そう言われたエルは何も言えなくなってしまった。
こういった事態に慣れているのか、 ルーミはエルよりかは精神的にダメージを受けている様子は無かった。
ルーミは黙ってエルの方に寄り添った。
「……俺を嫌うなら好きにしろ……だが……これが現実だ……誰が悪いとかは言うつもりは無いが、 始めたのはあの村の者達だ……そして彼らは彼ら自身であの運命を選んだ……それだけは理解しておけ……」
「……はい……」
エルは力無く返事をするしかできなかった。
……私にあの状況を解決できる力があれば……私にシュラスさんよりも人を救える力があれば……
エルの中でそんな感情が渦巻いていた……
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夜中、 三人は結局適当な場所で野宿をすることになっていた。
「……エルちゃん、 寝ちゃいましたね……」
昼間の出来事で疲れてしまったエルは先に寝てしまっていた。
そんな時、 ルーミはシュラスと話をした。
「シュラスさん……昼間のあの村ですけど……」
「……俺を責めるなら別に構わんぞ」
「いえ……責めるつもりは無くて……ただ、 あの時のエルちゃん……本当に辛そうだったなぁ……って……」
ルーミの言葉にシュラスは黙り込む。
「私はシュラスさんのあの判断……間違っていなかったと思います……」
「お前らしくないな……苦しむ人間を見捨てる行為を肯定するとは」
「いや、 村長の話を聞いた時点であの村はどっちにしたってもう戻れないのは分かっていましたから……」
ルーミが言うにはあの村は呪われる以前から貧しく、 収入源である薬草だけでは稼ぐことができず、 時折村を訪れた旅人を殺し、 金目の物を奪っていたと思われるのだそう。
「……流石あんな街に住んでいただけはあるな……よく観察している」
「あの罠……大雑把ではあったけど……何だか手慣れていたので……薬草が収入源と言われた時点で怪しかった……」
「心が腐る内に慎重に行動するという思考が薄れてしまったのだろう……だから罠が雑になってしまった」
あの村は元から救いようが無かったのだ……
「……シュラスさん……この先、 こんな事が続くんでしょうかね……」
「知らん……それは運命のみぞ知る……ただ、 この旅でエルが壊れない事を祈るしかない」
「……その時は私が守ってあげます」
ルーミがそう言うとシュラスは焚き木を見つめたまま黙り込んだ。
すると眠っていたエルが目を覚ました。
「あっ、 起こしちゃった? 」
「ううん、 ただ目が覚めちゃっただけ……」
するとエルはシュラスの方を見る。
相変わらず焚き木を見つめたまま動かないシュラスにエルは側に寄った。
「……シュラスさん……昼は……」
「お前が謝る必要はない……悪かった……もっと他のやり方を考えるべきだった……」
「そんな事……シュラスさんは正しい判断をしただけなんですから……全部救おうなんて甘い考えをしていた私が悪いんです……」
「お前は悪くない……あの村人達もだ……この出来事に罪ある者はいない……全ては……『運命』が示した道だ……」
運命……
エルはシュラスの言う運命について考えた。
運命……これが運命だとしたら……
「……残酷ですね……」
エルは思わず声に出してしまった。
それに対してシュラスは小さく頷いて言った。
「……確かに……この『全て』は……残酷だ……何かを得るには……何かを犠牲にしなければならない……俺は……本当の強さを得る為に……『愛』を……失ったんだ……」
「え……? 」
シュラスさん……まさか……愛人を……
「……エル……絶対に俺のようにはなるな……お前は今のままでいい……誰かを救いたいと思えるお前が正しい……」
誰かを……救いたいと思える私が……正しい……違う……私がしたいのは……思うだけじゃ……
エルは自分の無力さに泣き出しそうになった。
するとシュラスはエルの頭を撫でた。
「……エル……お前は弱くない……力の使い方を知らないだけだ……」
「私は……どうすれば……」
「この旅で学べ……力の使い方を……救うためには何をすればいいのか……」
学べ……か……あの人の事を思い出すなぁ……
エルはシュラスの言葉に過去の記憶が蘇った。
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とある森の中……目の前には木の上で本を読んでいる一人の男がいた……
その男はエルの着ているローブを羽織っており、 顔は見えないが星空のように煌めく黒い髪がフードの中から見える。
男からは何とも言えぬ不思議なオーラが放たれており、 見る者全てを癒すような雰囲気をしていた。
……先生……
その男を見ていたのは幼い頃のエルだった……
するとエルに気付いた男が木の上からふわりと降りてきた。
そして男はエルの頭を撫でながら囁くようにこう言った……
『旅に出て学びなさい……エルよ……そうすれば君を導く者と必ず会える……』
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……先生……私を導く人とは……
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「……エルちゃん……また寝ちゃいましたね……」
エルはシュラスに寄りかかるように再び眠ってしまっていた。
「……もう寝よう……明日も早いんだ……」
「そうですね……」
そしてシュラスとルーミは早々に寝る準備を済ませた。
「……シュラスさん……私思ったんですけど……」
寝る直前にルーミがシュラスにあることを聞いた。
「あの村に呪いを掛けた女って……まさか……」
「……『逆さ星』だろうな……」
それを聞いたルーミは険しい顔つきになった。
そしてルーミは何も言わないまま眠りに着いた。
「……全く……『面倒』……だな……」
シュラスは二人が眠りに着いた後、 夜空を眺めながらそう呟いた……
続く……




