第16話【始まる旅】
前回、 カルスターラを襲撃した逆さ星の幹部、 べラスティアを止めたシュラス達はその栄誉を称え、 国王から感謝を送られることとなった。
その夜……
「良くぞ参られた、 シュラス殿にその仲間達……吾輩はルスヴェラート王国の王、 ヘルデルム・ガレ―ヴァン・ウィディルムだ……」
王城の玉座の間にてウィディルムがシュラス達を迎えた。
あれがこの国の王様……緊張する……
エルとルーミはかつてない緊張感にガチガチに固まっていた。
「前置きはいいからさっさと終わらせろ……」
シュラスは国王に向かってまるで友人にでも話し掛けるような態度で言った。
その態度を見たエルとルーミは凍り付いた。
「シュラスさん王様に向かって何てことを言うんですか! ? 」
「処刑される……終身刑になる……! 」
慌てる二人を見たウィディルムは大笑いした。
「ハッハッハ! 心配するでない二人とも、 シュラス殿とは親しい仲故、 逆に堅苦しくされてもこちらが困ると言うものだ! 」
それを聞いた二人はホッとする。
ウィディルムは話を続けた。
「さて、 もう分かっているとは思うが……今回の襲撃事件、逆さ星の幹部が関与していた……街の中央区にて昏睡状態の男を天星騎士団が発見し、 確保した後に尋問した」
「……期待させて悪いが……倒したのは俺ではない……」
それを聞いたウィディルムは驚く。
そうか……ウィディルム様はシュラスさんの実力を知っていたから今回の事件を解決したのはシュラスさんだと思ってたのか……
「てっきりシュラス殿かと思っていたのだが……ならばあの怪物を一体誰が……」
ウィディルムがそう言うと同時に部屋に声が響き渡る。
「俺だよ……」
そう言って玉座の間にリンゴをかじりながらジーラが入ってきた。
ジーラさん! ? 留守番してたんじゃ……
するとジーラを見た周りの衛兵はジーラを取り囲む。
「貴様、 何者だ! 」
「おいおいこれは随分な歓迎だなぁ! はははっ! 」
「どこから入ったのか知らんが……捕らえろ! 」
「ちょっ……まっ! 」
エルが兵士達を止めようとするも間に合わず、 衛兵達はジーラに襲い掛かってきた。
次の瞬間、 ジーラは床に拳を撃ち付けた。
すると辺りに衝撃波が発生し、 不快な轟音が響き渡る。
「ぐぁっ! 何だ……この音……! 」
「アバババババ……! ! 」
エルとルーミも衝撃波にやられて泡を吹いている。
シュラスはすかさずウィディルムの周りに結界を張り、 守っていた。
「やり過ぎだ……阿保」
「悪い悪い、 つい高ぶってなぁ……」
そう言うとジーラは指を鳴らした。
すると周囲の状態が元に戻り、 轟音が止んだ。
衛兵たちは状況が理解出来ず、 呆然とした。
「悪かったな人間共、 自己紹介もせずに突っ込んで来ちまった事は謝るぜ」
そう言いながらジーラはウィディルムの前に歩み寄った。
「君は……一体……」
ウィディルムの質問にジーラは不敵な笑みを浮かべながらリンゴをかじる。
「俺はジーラだ……初めましてだなぁ国王サマよぉ……」
「君が……今回の事件を解決したと……? 」
「今ので分かったろ? 俺にはここ一帯をパンチ一発で吹っ飛ばせる力があるんだ……信じられねぇなら実践してやってもいいんだぜ? 」
するとジーラは持っていたリンゴを片手で軽々と握りつぶした。
「……なるほど……シュラス殿自身がこの一件を解決した本人ではないと言っているなら……可能性があるのは君だけか……」
「逆さ星の幹部を倒したのはジーラだ……俺が保証する」
「とか言って、 周りの連中からちやほやされんのが面倒だから手柄を俺に押し付けるって魂胆だろうがよぉ」
そう言いながらジーラはシュラスの胸に指を差した。
そんなやり取りをしているとエルが目を覚ました。
あれ……今何が……さっき凄い音がした瞬間から記憶が無い……
エルが混乱しているのを余所にシュラス達は話を進める。
「まぁそういう事だ……その他諸々の手続きは任せるぞ……これ以上ここにいるのは御免だ」
「う……うむ……」
そしてシュラスは気絶したままのルーミを担ぎ上げるとエルも連れて玉座の間を後にした。
残されたジーラをウィディルムの方を見ながら不敵な笑みを浮かべた。
…………
「シュラスさん、 大丈夫なんですか? 」
「ジーラは一見横暴に見えるが悪いやつではない……そう面倒事を起こすような真似はせん……」
「……そう……ですか……」
シュラスさんがそこまで言うジーラさんって……本当に何者なんだろう……
するとシュラスは話題を変える。
「それよりも今起きている面倒事について考えなくてはならない……」
「……」
シュラスの言葉にエルは察する。
今回の逆さ星の襲撃は解決できたけど……まだあの仮面の男以外に幹部はいる……となると今後も私達を狙って襲撃するかもしれないってことか……
しかしそう考えていたエルの予測は外れた。
「今回で奴らの狙いははっきりした……この世界にある封印の扉を開け、 魔神を封印している扉を探している……」
「魔神……? ……私達を狙っているんじゃ……」
私達を狙っての襲撃じゃなかった……? それに魔神って確か……おとぎ話に出てくる邪悪な神様……大昔に勇者でない謎の英雄がどこかに封印したっていう話だったけど……それと今回の件に何の関係が……
シュラスは話を続けた。
「それは無いな……今回あの男が俺達を襲撃したのはあくまで個人的な興味によるものだった……本命はこの街にある封印の扉を開くことだ……現に街に解き放たれた闇の一族達に俺達を襲うように仕向けていなかったのがその証拠と言える……」
「なるほど……ということは……逆さ星は今後他の街も狙うって事じゃないですか! ? 」
「そういうことになるな……」
それを聞いたエルは慌てる。
「早く逆さ星を止めないと! 魔神なんてものが解き放たれたら世界が大混乱ですよ! 」
すると慌てるエルをシュラスが宥める。
「落ち着け、 奴らは魔神を解き放とうとはしているが封印されている正確な場所までは知らない……今回この街の封印の扉を開けたのがそれを証明している」
「でもゆっくりはしていられませんよね? 」
「そうだな、 奴らが魔神を封印している扉を偶然にも次に引き当てない可能性はゼロではない……」
「じゃあ……」
「あぁ……また長旅になる……今度は世界中を回って封印の扉を見つけなくてはならないからな……」
やっぱりシュラスもやる気だ……
こうしてシュラス達は封印の扉を探すべく世界中を旅する事となった。
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数十分後……
拠点に戻ったシュラス達は旅の準備をしていた。
「……そう言えばシュラスさん……魔神って闇の一族とはかけ離れた存在に見えるんですけど、 逆さ星はどうして今回みたいに闇の一族を封印している扉を狙ったんですかね? 」
ついさっき目が覚めたルーミは自分の荷物をまとめながらシュラスに聞いた。
「……お前は闇の一族がどこから生まれたか知っているか? 」
「え……いえ、 そこまでは……」
「答えは簡単だ、 奴らはその魔神から生まれた……つまり数千年前に起こった大戦争の始まりはその魔神が原因だったということ……これが何を意味するか分かるか? 」
隣で聞いていたエルもそれを聞いて察した。
「もしかして……逆さ星が闇の一族を封印する扉を狙っている理由は……」
「そうだ……魔神を封印した物は闇の一族を封印した扉と酷似したものなんだ……だが姿形までは謎……だから奴らは手探り状態でそこら辺の封印の扉を開けて回ろうとしているんだ」
なんて無茶苦茶な……他の犠牲は厭わないという事か……
そんなやり取りをしていると三人の元に突然ジーラが現れた。
「うわっ! ジーラさん、 突然現れないで下さいよ……」
「はっはっはっ! 相変わらず憶病な子娘なことだな! 」
そう言いながらジーラはエルの頭をわしゃわしゃと撫でた。
するとシュラスはジーラの方を見る。
「ほう……これは街を守った英雄騎士じゃないか……」
「まさか騎士にまでされちまうとはなぁ……お前がやたらちやほやされんのが嫌がっていたのがようやく分かったぜ」
「国は危険人物になりかねないお前をできるだけ至近距離で監視しておきたいんだろうよ……玉座の間で騒ぎを起こさなければまだマシな結果になったかもな……」
「かぁ~……本当に面倒くせぇなぁ人間ってのは! 」
「お前が行動を自重すればいい話だ……」
しばらく二人はそんなやり取りをした後、 ジーラはシュラス達が出る旅について聞いた。
「……なるほどな……お前らはその魔神サマを封印している扉を探し回る旅に出るという事か……」
「あぁ、 生憎お前は付いて行くことはできないだろうな……何せあの将軍がお前を監視しているみたいだからな……」
「面倒なこったぁ……あんな馬鹿みてぇな威力の魔法を使える癖してデカい剣もぶん回す馬鹿力と来たもんだ……下手に抵抗すればそれこそ面倒になりそうだ……」
「そうだな、 まぁお前はこの国の騎士としてしばらく働いてみるといいさ……人間達の生活も学べて一石二鳥だろう」
「はっ……そんなもん必要ねぇだろうが……」
そう言うとジーラは頭を搔きながら三人の前から立ち去った。
去り際、 ジーラはシュラスの方に背を向けながら呟いた。
「……いつまで……先延ばしにするつもりだ……」
「……」
シュラスは黙り込んでフードで目元を隠した。
……やっぱりこの二人……何か隠してる……
エルは二人の雰囲気に不信感を抱いてきている。
「……まぁ別に俺が決める事じゃねぇがな……勝手にすればいいさ……」
そう言い残しジーラはその場から消えた。
「……必ず終わりは訪れる……その時まで……」
シュラスはそう呟くとそそくさと荷物をまとめたのち、 自室へ戻っていった。
「……ジーラさんが現れてからというものの……シュラスさんの言動や行動に増々不信感が出てきてる気が……」
「そうかな? 久しぶりの友人と再会して少し緊張しているんじゃない? 」
「ルーミちゃんは気楽だなぁ……」
「……まぁジーラっていう人は悪い人ではなさそうだし、 別に気にする必要は無いんじゃない? 」
ルーミにそう言われたエルは悶々とした気持ちになりながらも自身を納得させた。
…………
その頃……
「まさか……あのべラスティアが……我々の中でも一番戦いたくないと言われる程の実力を持ちながら……」
「しかも突然現れた片目の男が一撃で撃沈したそうだ……闇の一族の力を取り込んだ奴をいとも簡単にとはな……」
「どうやらシュラス以外に厄介な存在が現れたようね……」
「だが我々が成す目的は変わらない……魔神の封印を解くのが最優先だ……その後ならどうとでもなろう……」
再び集まっていた男女達が薄暗い部屋の中で話していた。
しかし人数は一人減っており、 そこには四人だけしかいなかった。
「……まぁシュラスとその人物は警戒するとしておきましょう……隙があれば……」
「そうだな……」
そして男女達は解散した。
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早朝……
旅の準備を終えたシュラス達は街を出ようとしていた。
「たまには顔を見せに来てよ、 シュラス! 」
グラスが一人、 三人の見送りをしていた。
「それはこちらの事情による……」
「相変わらずシュラスさんは愛嬌が無いというか……あはは……」
「歩いていくなんて本気なんですか……? 」
馬車での移動は前回のような事態を招きかねないと見込んだシュラスは徒歩で世界中を旅すると決めたのだ。
「さぁ……もう行くぞ……時間の問題だ……」
「あっ、 ま、 待ってください! 」
「シュラスさん置いてかないでぇ! 」
そして三人はカルスターラを出発した。
……考えてみればシュラスさんとこうしてちゃんとした旅に付いて行くのは初めてかぁ……これを機にシュラスさんが見ている世界を知ることができるかも……
初めての大きな旅にエルは心を躍らせる。
「そう言えばシュラスさん、 次の目的地は決まっているんですか? 」
「……ない……旅というのは行き当たりばったりなものだと俺は思っているからな……」
「へぇ、 シュラスさんにしては珍しい考え方ですね……」
「封印の扉の在りかは俺の力で場所は分かる……近い場所から順に見て回る……」
「それで……一番近い場所って……」
ルーミが恐る恐る聞く。
「ここから北に進んで約600キロだ……」
「ひぇぇ……」
「600キロですか……早速長い道のりになりそうですね」
「途中で見つけた村などを経由していくから心配するな……万が一に野宿になってもテントは常備している……」
まぁ……シュラスさんの方が経験豊富だし……付いて行けば何とかなるか……
そんな事を考えながらエルとルーミはシュラスの後を付いて行く。
続く……




