第13話【迫り来る者】
カルスターラにて新しい拠点を手に入れたシュラス達は新生活を満喫していた。
「シュラスさん、 今日の夕飯は? 」
「そう慌てるな……もう作ってある……」
エルは新しい家に住み始めてからというものの、 シュラスの作る食事が楽しみになっていた。
シュラスさんって料理が得意じゃないと思ってたけれど……エメさんに引けを取らないくらい美味しい……あっという間に虜になっちゃった……
そしてシュラスはテーブルに出来上がったシチューを出した。
「わぁ……」
「いただきまぁす! 」
「ゆっくり食え……」
「……そういえばシュラスさん、 近頃街のあちこちで何かを探しているようですけど……」
食事の途中、 エルはシュラスにふと質問をした。
三人が新しい家に住み始めて数週間、 シュラスはカルスターラ中で何かを探るように夜中に駆け回っていたのだ。
やっぱりあの仮面の男の事が気になっているのかな……?
するとシュラスは少し間を空けて答えた。
「……お前らは闇の伝説を知っているか……」
シュラスの言葉にルーミは食べながら言った。
「それ知ってまふ! 闇の――」
ルーミが何か言おうとした瞬間、 シュラスはいつものようにルーミに拳骨を入れる。
「口に物を入れながら喋るな……」
「ッ~~! 」
「あ……あはは……それで……闇の伝説とは……ルーミちゃんは何か知っているようですけど……」
気を取り直してシュラスは話を続ける。
「……そこの阿保が言おうとしていたが、 闇の一族……という者たちがこの街で暴れ出そうとしているんだ……」
「『闇の一族』……? 」
何だかいかにもって感じの名前だけど……
「闇の一族というはその殆どが名前を呼んではいけないとされる魔物ばかりだ……奴らは数千年も前に世界各地で勇者の命を継ぐ人間によって封印された……だがそれは永遠ではない……」
「……と言いますと……」
「封印というのは鉄と同じように、 年月が経てば錆び付く……そうなれば奴らを縛り付ける鎖も緩くなる……この意味が分かるか……」
「つまり、 シュラスさんはその封印が解かれる前にその魔物達を倒したいと……? 」
するとシュラスは首を横に振った。
「奴らは滅ぼせない……この世に闇というモノが存在する限り、 奴らは際限なく誕生を繰り返す……」
「じゃあどうしたいんですか? 」
「問題は奴らではない……あの逆さ星の連中だ……奴らは封印の場所、 すなわち魔界への扉の場所を知っている……」
魔界への扉……それなら本で見たことがある……扉の向こうには地獄のような世界が広がっていて、 悪魔達がうじゃうじゃいるっていう……
するとルーミがシチューを食べ尽くし、 話し始めた。
「逆さ星の奴ら、 きっとこの街に闇の一族を放って国を滅ぼそうって魂胆ですよ! 」
「どうだろうな……まぁどちらにせよ近頃この街に奴らの下位種がちらちらと湧き始めている……封印が限界に近付いている証拠だ……それを逆さ星の連中は嗅ぎ付けた……」
「もしかしてシュラスさんが最近街中で何かしてたのって……」
「あぁ……その下位種を潰して回っていたんだ……下位種は上位種とは違って太陽が昇らない夜中のみでしか活動ができないからな……」
そういうこと……だからシュラスさんは夜中に街中を駆け回ってたんだ……初めて出会ったばかりの時も夜中に用事があるって言ってどこかに行ってたのもそれか……
するとルーミが質問した。
「でもシュラスさん、 いつまでも下位種を潰してばっかりじゃ意味がありませんよ? 」
「そうだ……だから考えている、 封印が緩くなっている今……逆さ星の連中は扉を開けようとこの街に忍び込んでくるだろう……」
「じゃあその前に扉の封印を掛け直しちゃえばいいんじゃ? 」
「そんな簡単な話じゃない……封印を掛け直すには一度扉が開かれなくてはならない……でないと扉は完全に破壊され、 魔界への入り口を閉じる手段が無くなる……」
「では……その封印が開かれている間は……」
エルが不安そうに言うとシュラスは黙って頷く。
……だったら街の皆を避難させないと……!
「避難は叶わん……この街の規模を知っているだろう……もし避難が完了したとしても、 取り残された人がいないとは限らんだろう……」
「そんな……」
「細かい判断はこの国に任せる他無い……放っておくも避難をさせるも俺が指示する事ではない……」
そう言うとシュラスは食事を終わらせて席を立ち、 自室へ戻っていった。
ルスヴェラート王国はこの事はもう知っているんだ……一体どうするんだろう……この国は……
エルは悶々とした気持ちになりながらも食事を続けた。
「……まぁ私達じゃどうする事もできない事だし……シュラスさんに委ねるしかないよ……」
ルーミはシチューのおかわりをよそいながらそう言った。
……そうだよね……何かあったとしてもシュラスさんが何とかしてくれるはず……
エルはそう思いながら食事を済ませた。
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その頃……
「ここがカルスターラですか……綺麗な夜景です……」
シュラス達を襲撃した仮面の男が高台からカルスターラを眺めながら呟く。
そして仮面の男は仮面を外した。
その瞳は紫色をしており、 その奥には逆さの星の模様が刻まれていた。
「早く破壊したいですねぇ……民衆の悲痛な叫び声が今にも聞こえてきますよ……」
そう言うと仮面の男は不気味な笑みを浮かべた。
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翌朝、 三人は珍しく依頼は受けずに街を観光することにした。
「……全く……呑気なものだな……観光がしたいなどと……」
「シュラスさんは娯楽というのを知った方がいいんですよ! 」
「そうそう、 シュラスさんは『楽しむ』という感覚を捨てすぎなんですよ! 」
この時シュラスはいつものようにギルドへ向かおうとしていたが、 エルとミーナの説得によりその日は休む事になったのだ。
本当は自分たちが遊びたいだけなんだけど……今はあの仮面の男の事を少し忘れたい……考えると嫌な感じがするし……
「あ、 シュラスさん! あのお店見てみましょうよ! 」
ルーミは目に入った商店に入っていく。
「あ、 ルーミちゃん! 」
「……そう慌てずとも店は逃げん……」
エルとシュラスも後を追う。
…………
三人が入ったのは装飾品を売っている宝石店だった。
「……へぇ……こんな石もあるんですね……」
「こんな石ころを見て何が面白いのか……人間の価値観と言うのは本当に……」
三人はしばらく売られている宝石を眺めていると……
「……ん? 」
エルがシュラスの首に下がっている首飾りに目が留まった。
なんだろう……あの石……蒼龍石とは違う……白い……宝石……?
エルはその白い宝石に気を取られているとシュラスが気付いた。
「……気になるか……これ……」
「あ、 いえ……すみません……あまりに綺麗だったものでつい……」
するとシュラスは首飾りを手に取り、 エルに見せた。
凄い……近くで見ると……不思議な光を放っていて……何ていうか……見てるだけでも癒される……
「……これは形見だ……」
「シュラスさんが愛していたっていう方のですか……? 」
「そうだ……もういない……」
その時エルは察した。
……もしかしたら……シュラスさんが今まで自分から人と関わろうとしなかったのって……
「……シュラスさん……」
「美しいだろう……これを見るたびに彼女を思い出す……お前が目を奪われるのも無理は無い……」
そう言うとシュラスは首飾りを元に戻した。
シュラスさん……やっぱり悲しそう……
その頃、 ルーミは二人が気付かぬ内に別の店に行ってしまっていた。
「……全くあの阿保は……」
「探します? 」
「何かあっても自分で家に帰るだろう……放っておけ……」
そっか……今はもう帰る場所があるから……
そう思いエルはルーミを放っておくことにした。
そして二人は店を後にしようとした瞬間……
「……! 」
シュラスは何かに気付き、 エルの首根っこを引っ張り、 引き寄せた。
次の瞬間、 二人の目の前に巨大な謎の黒い物体が落ちてきた。
「え……何! ? 」
「……こんなに早く……全く気を抜いた側から……」
するとシュラスはエルを引っ張りながら建物の屋根に上った。
そこから見えたのは……
「これって……! 」
「逆さの星の連中の仕業だろうな……」
何体もの黒い体を持った巨人のような魔物が街中を破壊して回っていた。
その姿はあまりにも不気味……目のようなものは見当たらず、 人間のような歯をむき出しにした口だけが顔部分に付いている。
謎の魔物達は手足を変形させ、 剣、 またはハンマーのような形に変え、 街中の建造物を破壊している。
「……エル、 ルーミを探せ……念のために防御魔法をかけておく……」
「え……でもどこにいるのか……」
「あの阿保の事だ……無謀にも倒そうと戦闘をするだろう……その内高台に上がってくるだろう……」
あぁ……あり得る……
そしてエルはシュラスと分かれ、 ルーミを探しに向かった。
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「ルーミちゃん……どこにいるんだろう……」
しばらくエルはルーミを探していると目の前にあの魔物が上空から降りてきた。
「う……」
近くで見るとさらに不気味……シュラスさんは戦うなとは言ってたけど……単に逃げても追ってくるだろうなぁ……
そう思いエルはおもむろにポシェットから何個かの石を取り出した。
それはルーミが使っていた煙を放つ魔石だった。
エルはその石を地面に投げつけ、 大量の煙幕を張ってその場から逃走した。
謎の魔物はエルを見失い、 その隙にエルは逃走した。
こういう時に備えてルーミちゃんから貰っておいて正解だった……
そう、 エルは仮面の男の襲撃の後、 ルーミから大量の魔石を貰っていたのだ。
「早くルーミちゃんを見つけないと……」
エルは引き続き街中を駆け回った。
…………
「さぁ、 我らの出番だ! 」
『うおぉぉぉぉぉ! ! 』
その頃、 カルスターラにある王城では一人の騎士が率いる軍隊が出撃しようとしていた。
続く……




