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I am Aegis / Origin 2  作者: アジフライ
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第22話【小さな泥棒猫】

前回、 ルーミが逆さ星の何者かに精神を乗っ取られた事が判明し、 彼女は逆さ星側へと着いてしまった。

そしてシュラスとエルは逆さ星のアジトを探すべく、 カルミスから貰った地図が示すレムレンソアル大陸へと向かう事になった。

「そういえば……私……」

港へ向かう馬車に乗っている時、 エルはふとある心配事が思い浮かんだ。

「レムレンソアルでの言語を全く知らないんでした……」

そう、 エルは多種の言語を扱えないのだ。

軽く説明するとこの世界には大陸、 種族ごとに様々な言語が存在する。

大きく分けて四つ、 一つは現在シュラスとエルのいる大陸『アルドーラ』で使われる『ヒュマイデルテ語』。

これは人間が主に扱う言語であり、 世界で最も使われている言語である。

二つ目は現在二人が向かおうとしている大陸『レムレンソアル』で使われる『クレンレータ語』。

これは亜人、 魔人といった人間以外の種族が主に扱う言語であり、 異種族が多く住む『レムレンソアル』ではこの言語が普通とされている。

そして三つ目、 四つ目は『精霊語』、 『悪魔語』と呼ばれており、 この二つに関しては詳しい文献が世界に殆ど無く、 あまり知名度が高くない。

しかしその中で『悪魔語』は闇の一族が使うとされており、 一部の人々からはこう呼ばれている……




『禁忌の呪語』




そういった感じでレムレンソアル大陸では今までエルが話していた言語が殆ど通じないのだ。

するとシュラスはため息をつく。

「仕方のない奴だ……」

そう呟くとシュラスはエルの額に指を当てる。

「シュラスさん……今……何を……? 」

「お前に知恵の呪文を掛けた……俺が解除しない限りはあらゆる言語を理解できるようにしたぞ……」

「そんな事もできるんですか! ? 」

「魔法に不可能は無い……使う者によって可能性は無限だ……」

……やっぱり凄いなぁ……シュラスさんは……私もいつかシュラスさんみたいな魔法使いになれるかな……

エルはシュラスに更なる憧れを抱いた。

「……港までは遠い……少なく見積もってもあと二日は掛かる……」

「うぅ……そんなに掛かるんですか……」

今シュラス達が向かっている港は世界の三大海港と呼ばれる大きな港街、 『デフィーラルジェ港』である。

そこはレムレンソアル大陸との貿易港の中でも一番重要な港となっており、 多くの珍しい鉱石、 植物、 魔物の素材などといった滅多にお目に掛かる事の出来ないような品々を目にすることができる。

エルはレムレンソアル大陸に向かう前に行くその港町に行くのを密かに楽しみにしている。

「シュラスさん……この前みたいに空間を操って港まで瞬間移動してくれないんですか……? 」

「俺の力は私欲のために使うモノではない……やむを得ない時にしか使わん……」

「こうしている間もルーミちゃんは逆さ星に乗っ取られたままなんですよ? なら少しでも早く着く方がいいじゃないですか」

エルがそう言うとシュラスは少し黙り込み、 しばらくして一つため息を着いた。

「……物は言いよう……か……はぁ……今回だけだぞ……」

するとシュラスは御者に言って途中で降ろしてもらった。

「……側に寄れ……」

「はい! 」

エルはシュラスの側に寄るとシュラスは港町のある方向に視線を向けた。

次の瞬間、 エルの目の前に壁が現れた。

二人はいつの間にか港町前の場所まで移動していたのだ。

え……あ……もう! ?

何が起きたのか理解ができなかったエルは困惑した。

「前は……指を鳴らしたのに……今度はいつの間に……」

「前に指を鳴らしたのはお前達が分かり易いように合図しただけだ……」

「そうだったんですか……指を鳴らさないと凄い唐突でびっくりしちゃいますね……」

「……行くぞ……」

シュラスはどことなく不機嫌そうな雰囲気でそう言うと町の方へ歩いて行った。

……シュラスさん、 ちょっと怒ってる……わがまま言い過ぎたかな……

エルはそんなシュラスを見て気まずい気持ちになりながらもシュラスの後を追うように町へと向かった。

…………

「わぁ……! 」

「俺も初めて来る町だが……中々いい景色だ……」

二人の前に広がっていたのは白いレンガ造りの建物が立ち並ぶ美しい町並みに、 その向こうに広がる宝石箱のように煌めく海の景色だった。

凄い……海ってこんな綺麗だったんだ……

実はエルは海を見るのが初めてなのだ。

「……さっさと船の予約を済ませてしまおう……そこからは観光でもしよう」

「えっ、 いいんですか! ? 」

「瞬間移動はもう使う事は無いからな……それ以外は特に目的も無いし良いだろう」

「あ……はい……」

ちょっと根に持たれてる……

そして二人は船の予約へ向かい、 その後は街で観光をすることにした。

数十分後……

「シュラスさん、 次はあのお店に行きましょうよ! 」

「わかったから落ち着け……」

船の予約を終えた二人は港にある輸入品を売っている市場を見て回っていた。

見たことも無い魔石に植物が沢山……こんなの落ち着けと言う方が無理!

貴重な輸入品を買える程の金は持っていないものの、 エルはそんな輸入品を見るだけでも幸せだった。

「わぁ……シュラスさん、 これって何と言う鉱石ですか? 」

「……ウルディメントライトだ……レムレンソアルの地下15キロ以上まで掘らないと採れない魔鉱石の一つだな……」

「ウルディメントライト……黒いガラス状の石の中で魔力の流脈が青く煌めいていて……不思議……」

エルがしばらく商品の鉱石に見とれていると……

「……頂き……! 」

突然二人の側に寄ってきた謎の子供がシュラスの腰に掛かっていた剣を盗んでいってしまった。

その子供はボロボロのローブを身に纏っており、 顔は見えなかった。

そしてその子供に気付いたエルは慌てる。

「シュラスさん! 剣! 剣が盗まれちゃいましたよ! 追いかけないんですか! ? 」

「……案ずるな……あの剣には何の価値も無い……とは言え、 あれは俺にとっては重要な代物だ……」

落ち着いた様子でシュラスはそう言うと子供の走っていった方へ歩いていく。

「え……あの……私はどうすれば……」

「エルはそのまま観光を楽しめ……俺はあいつを追う……」

「は……はぁ……」

そしてシュラスは子供が向かっていった方へと歩いて行った。

…………

一方、 町のとある裏路地にて……

「うへへっ……あんな強そうな旅人が持っていた剣だ……絶対貴重な物に違いない……」

シュラスの剣を盗んだ謎の子供は鞘に収まっている剣を眺める。

そして子供は剣を確認しようと鞘から引き抜こうとする。

しかし……

「……! ? ッフギギギ……! ! 」

剣は鞘から抜けなかったのだ。

それどころか力を入れれば入れる程びくともしなくなっていくようだった。

「ぜぇ……ぜぇ……もぉ! なんなんだよこの剣は! 」

抜けない剣に怒り出した子供は剣を地面に叩きつけようとしたその時

「抜けないだろう……当然だ……」

シュラスが背後から声を掛けてきた。

「ッ! ? どうしてここが……! 」

「悪いが剣を返してもらえるか……残念ながらその剣には何も価値はない……」

シュラスがそう言うと子供は不敵な笑みを浮かべる。

「やっぱり貴重な物なんだな! 絶対返してやらねぇからな! 売り払って金にしてやるぜ! 」

そう言って子供は再び逃げ出した。

シュラスは相変わらず慌てる様子も無く子供の後を歩いて追いかける。

そして数十分後……

シュラスと謎の子供は町中を駆け回る程の追いかけっこを繰り広げた。

「チィ……どこまでも追いかけて……どうやって追跡してるんだよ! 」

子供は後方に気を配りながら走っていると

「ッ! 」

「アデッ! 」

正面にいた大柄の男にぶつかってしまった。

その男は背中に剣を背負っており、 琥珀等級の冒険者だった。

男はぶつかってきた子供の胸倉を掴み上げる。

「このガキ……どこ見てんだゴラァ! 」

「うぅ……」

そして男が子供を殴ろうとしたその時……

『ドゴッ! 』

シュラスが目にも留まらぬ速さで男の目の前まで移動し、 男の顎を下から蹴り上げた。

190センチもあろう男の体は宙を舞い、 そのまま地面へと倒れてしまった。

「あ……あんた……一体……」

驚く子供を余所にシュラスは倒れた男の元へ歩み寄る。

「ッ……誰だ! 」

「紅月の夜……これで分かるだろう……」

シュラスの言葉に男は一瞬で全てを察し、 そそくさとその場を退散した。

「紅月の夜……! ? 」

謎の子供もシュラスの二つ名を知っているようだった。

するとシュラスはその場でへたり込む子供に手を差し伸べる。

「大丈夫か……」

「どうして……助けたんだよ……」

次の瞬間、 子供が被っていたローブが突然吹いてきた風によりフードの部分がめくれてしまった。

その子供の素顔は……

「……お前……まさか……」

「ッ……何だよ……この耳が変か? 」

ルーミと瓜二つだったのだ。

しかも子供の正体はエルやルーミよりも幼い少女だった。

するとルーミに似たその少女はフードを被り直す。

「……恩返しなんてしないからな……」

「……分かっている……それよりもそろそろ剣を返してくれないか? 元は俺の所持品だ」

シュラスがそう言うと少女はシュラスに向かって剣を投げ渡した。

「……そんなガラクタ要るかよ……さっさと行けよ……有名な冒険者様が……」

少女は冷たい態度でそう言うとその場から立ち去ろうとする。

しかしシュラスは少女の肩を掴み、 引き留めた。

「何だよ……まだ用かよ……」

「……お前……ルーミという獣人の娘を知っているんじゃないか……? 」

その言葉を聞いた瞬間、 少女は驚いた様子でシュラスの方を振り向く。

「それって……姉ちゃ……姉貴の名前……! どうしてあんたがそれを! 」

「詳しい話は後でする……人を待たせているんでな、 そこまで一緒に来てはくれないか? 」

「……」

少女は少し不審そうな目でシュラスを見ていたが大人しく付いて行くことになった。

…………

その後、 船着き場で待っていたエルは少女を連れたシュラスと合流した。

「あ、 シュラスさん! ……あれ、 その子は? 」

「……」

するとシュラスは少女の被っているフードをめくる。

「ちょっ、 やめろよ! 」

「え……その子……」

ルーミの顔にそっくりな少女を見てエルは驚く。

ルーミちゃんと瓜二つだ……まさか……

エルの予想は的中する。

「……こいつは恐らくルーミの妹だ……そうだろう……」

「……あぁそうだよ……私は姉貴の双子の妹だよ……ていうか何であんたが姉貴の事を――」

次の瞬間、 エルが少女に抱き付いてきた。

「かわいい~! 小さいルーミちゃんみたい! 」

エルは少女の頭を撫でる。

実はエル、 密かな猫好きであり、 たまにルーミが寝ている間に彼女の猫耳を触っていたりもしていたそうな……

抱き付くエルに少女は頬を赤く染めながらエルの事を引きはがそうとする。

「や……やめっ……離れろってば! ///」

そんなやり取りをしている二人にお構いなしにシュラスは少女に言う。

「……とりあえず詳しい話はこの船の中でしたい……どうだ、 一緒に来るか……」

「……」

「俺達と来れば……お前の姉であるルーミにも会える……まぁ、 どうするかは好きにするといい……」

そして少女はしばらく黙り込み、 決意した様子を見せると

「分かったよ……あんたらと一緒に船に乗ってやる……その代わり洗い浚い聞かせてもらうぜ……」

「無論、 そのつもりだ……」

こうしてシュラスとエルはルーミの妹である謎の少女と共に大海原へと出た。

…………

船の客室にて……

シュラスとエルは少女に自身はルーミとはどういった関係なのか、 そして彼女に起こった事、 これからどうしようとしているのか、 全てを話した。

「……なるほどなぁ……あのバカ姉はどこまで人様に迷惑を掛けてるんだか……」

「あ……あはは……」

妹にもそんな風に言われるなんて……ルーミちゃん……

エルはルーミを少し哀れに思った。

「それはそうと話は分かった、 私もあんたらの旅に同行させてくれ」

「それはいいが……お前は今の姉に会う勇気はあるのか……」

「なぁに、 私を舐めてもらっちゃ困るぜ! 私は姉貴よりも根性はあるぜ! あんたらの追っている逆さ星って連中に乗っ取られたバカ姉には喝を入れてやらないと! 」

少女は腕を組みながら胸を張る。

エルは少し心配していたがシュラスは至って冷静な様子で

「……なら止めはしない……」

とだけ言って止めはしなかった。

「そういえば名前聞いてなかったね、 私はエルだよ」

「シュラスだ……」

二人が自己紹介をすると少女はもじもじし始めた。

「ッ……その……私……名前は……その……」

少女は何をためらっているのか名乗ろうとしない。

するとシュラスはため息を着き。

「……嫌なら無理に名乗らなくてもいい……何と呼べばいいかだけ言え」

シュラスの言葉に少女は少し安心した様子を見せた。

そして……

「……『ロウディア』……そう呼んでくれ……」

するとエルはクスッと笑う。

「ロウディア……確か勇者伝説に登場する初代の勇者ですよね」

「なっ、 知ってるのかよ! ///」

少女は頬を赤く染める。

「……まぁいい……しかしその名前では人前で呼びづらい……ディアとでも呼ばせてもらおう」

「も……もうそれでいいよ! ///」

こうしてルーミの妹である謎の少女は仮としてディアと呼ばれることとなった。

……そう言えばルーミちゃん、 妹いたんだ……

続く……


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