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ナルンチョスの糞  作者: 望月叶奏
3/6

黄色

 私の名前は、ナルンチョスというらしい。由来は知らないが、私の飼い主が勝手につけた名前だ。はっきり言って、私は犬だ。だが、この勝手気ままな飼い主である相棒に連れ回されることを私は受け入れているし、嫌だというわけでもない。ただ、私には持ち合わせがないため彼に勝手についていっていると言った方が正しいかもしれない。私は、犬なのであるが私は字が読めるし、人間の言葉も理解することができる。だから、相棒が叫んでいるのを聞いていつも心の中で笑っているのさ。いや、正確には心の中で笑い切れていないかもしれない。私は、まさかではあるが吠えているのかもしれない。まあ、だが相棒が見つけたい世界の秘密というのを私も解明したいし、私自身自分のことがよくわからないから波のようにただ歩いては、休んでいるのだ。相棒に初めて会ったのは、二〇九五年十一月一日であった。その時のことは鮮明に覚えている。

 私は、ベルソノカ生まれの純潔な貴公子に育てられた貴族犬だった。だが、ある日私の飼い主マルツキーヤは、私の容貌が醜い、死ね、消えろと罵倒し始めたのだ。自我が覚醒したのであった。彼は、私のことを理解していなかった、ただ自分の遊び相手としてしか見ていなかったのだ。彼は、七歳になったある日私を川岸に捨てた。彼の両親に何も言わずに、私に首輪をつけて川岸の鉄ハイプにその紐をくくりつけて別れ際こう言った。


「今までありがとう。俺様が楽しく過ごせていたのは、キメイラ、お前のおかげだ。だけど、キメイラ、お前は俺様には見合わないよ。自分でもわかるだろ、キメイラ、お前の容姿は醜い。この誇り高きゴヴォルザーテ家にふさわしくない。俺様は、お前の代わりにまた新しい犬を飼うよ。そして、お前のことは忘れるよ。じゃあな、醜いキメイラ、いやドブドックめ。ここでのたれ死んでしまえ。」


 私は、人間の言葉を理解できる。私は、死にたくなった。だが、それは簡単な話だった。鉄ハイプにくくりつけられた首輪の紐、それを垂直に引っ張れば物理的に首が閉まる。だがら、その方法で私は死のうとしていた。初めて、首輪の紐を引っ張った時私は躊躇してしまいまた元の位置に戻った。私は、なんて勇気のない貧弱な犬なのだろう。私は、翌る日も翌る日も死のうと試みては失敗し、また死のうとした。たまに、労働者が川岸を通ったが、その時は気づかれぬように草むらの中に逃げ込んだ。

 反体制派が蔓延るこの川岸あたりは、ガバムマー(超政府)がよく監視にやってくる。というか、常時監視しているのだ。だが、幸いなことに私は犬であった。犬は思想を持ち得ない、と思われている。それは、一般論である。私は、私なりの思想を持ち得ていた。それがバレることは、きっとこれからもない。それは、私が発した言葉は全て鳴き声として人間には認識されるからである。ここを通る労働者は、体にガバムマー対策のためのステルスチップを埋め込んでいる。ガバムマーは、労働者に気づかれぬように人間の目には見えないレーダーを其処彼処に張り巡らしているがその反体制派が独自に開発したステルスチップ(通称・オートメタル)はそのレーダーを瞬時に検知し、労働者の神経に電気を送る。超反射的に、労働者の身体の方向は回転しレーダーを避ける仕組みになっている。ちなみに、そのレーダーに触れたものの身体は重度のやけどを追うのであるがまたこれが厄介で、その跡は死ぬまで消えることがない。労働者ではない、ガバムマー側の人間(通称・ガバミューマン)はそのレーダーに反応することなくこの街のどこを通ってもやけどを負うことはない。そう、この街ベルソノカは反体制派を取り締まるガバムマーと反体制派オートという二項対立的な戦いが戦慄しているのであった。

 ガバムマーの王、ドルベスキー=ナリオコンポテネラ=トルクヨナロンは反体制派全員粛清を掲げて人類選挙で王を勝ち取った野生的な人間で、現在二十九歳と若かった。ガバムマー側の人間が、私が読んだ本に書かれている限りでは推定で五八〇人、反体制派は一九八○人いた。この世界、いいや、この街ベルソノカは人間が世界を支配していた。私たち、犬、または猫などの哺乳類は相手にされていなかった。ただ、貴族のペットとして用いられてきたのであった。私はその中の1人であった。ドブドック、いいや君たちにわかる言葉で言うのならばブルドックという犬に近いのであろう。きっと、私たちドブドックの容姿を褒め称える人間はいないと思う。だが、私たちセカンドジェネレーションは、地球の人類の八○%が二〇四二年に滅びた後に生まれた生物であり、その生き残りであった。私たちには、あの悲劇から難を逃れた優秀な遺伝子を持つ生物の血が流れており、その血は今や普遍的な存在になってしまってはいるがその当時は高値で売買されたらしい。死んでしまった父や母、恋人、先生、魔法使い、研究者、悪魔を蘇らせようと懸命な措置を施したが、その血に適応できる人間は死に至ったものには存在しなかった。その事実が、セカンドジェネレーションの優位性を遥かに裏付けるものであったし、その優位性がこのベルソノカのようなガバムマーと反体制派のコンフリクトを生む原因にもなったのかもしれない。ニ○四二年の悲劇については、あまりにも悲惨なためまた後から君たちに教えることにするよ。それよりもまず、私と相棒が出会ったことについて書かなければならない。


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