白色
「ここはどこだ?ナルンチョスよ、いるか?」
あたりは真っ白で何もない空間だ。違和感を覚えた私は、自分の腹に目を回した。
”傷がない”。
私は自分の現実存在が空虚なものに満ちていることを確認した。ナルンチョス、、、お前はどこにいるんだ。私はお前を探しているんだ、、、どこにいったんだ。相変わらずあたりは真っ白のまま、私は何もできないまま時間を過ごした。時間という概念を忘れてしまうくらい、時間を過ごした気がする。真面目な白色、ふざけた白色、気味の悪い白色、おいしそうな白色。白色にも、多くの種類があることを知った。その時間を、時間として捉えるにはあまりに長すぎた。
私はなぜかお腹が空かなかった、腸が機能していない気もした。私の身体に、水が流れていない気もした。そう、血も流れていない。ふと自分という存在が、私の幻想でないことを確かめようと歩いてみることにした。真っ白な空間を歩くというのは吐きそうになる、足場がわからない、人間の認識能力の弱さを感じる。ぐらぐらと揺れ出す自己の意識、ふとこれは脆くて儚い私の記憶そのものなのではないかという疑いが生まれてきた。私は、連れ戻されたのだ。真っ白な空間という名の、存在に私は巻き込まれたのだ。ここは、宇宙の始まりなのか。いや、ここは一体どこなんだ。歩いてるのかさえ、進んでいるのかさえわからない空間。眩しいとも思わない白い空間。太陽はどこだ、いくら探しても見つからない。
いつのまにか、一五年の歳月が流れていた。私はその間、一度も食事を取らなかった。いや、正確には取ることを忘れていた。いい加減、外に出たくなったがそもそも外があるのかもわからない無の空間だった。触れようとしても、すり抜ける感覚を今まで何度試したのかわからない。確かめようとしても、確かめられない地獄を私はこの空間にやってきて初めて経験した。わからない、その五文字が私の脳裏にずっと刻まれていた。だが、わからないことをそのままで済ましていてもいいのだろうか、と自己を叩き起こすようなそんな感覚だ。私はついに叫んでしまった。
「私は今、本当に生きているのか!?なぁ!!誰かいるんだったら、答えてくれよ!!!」
あたりはしーんとしていて、私の声が反響することもなく吸い込まれていく。その直後、私に一つ憶測が生まれた。ここは、ネブリカコの海の中なのではないか?と。海であれば、反響どころか波として伝わっていくだろう、そしてなんといってもネブリカコの海の色は白色だと聞いたことがあった。ネブリカコは、伝説上の海、オーシャンだった。私は一度も行ったことがなかった、ナルンチョスと行くつもりだった。だが、そのナルンチョスも今や、どこに行ってしまったのか、生きているのかも確かめられない。私は、絶望した。コーヒーが飲みたくなった、角砂糖を5つほど入れたあのあたたかいコーヒーを。