第847話:想いの力
「な……あの女は天空大陸で死んだんじゃ……!?」
「驚いている……無理もない。わたしも驚いている」
――――旗艦アマテラスからの砲撃を受け止めて倒されたかに見えた“黙示録の竜”。だが、爆煙の中からはかつて失われた筈の“竜人”としての少女、シリカ=アルテリオンがその姿を現していた。
シリカ=アルテリオン――――“天空大陸”ルイナ=テグミーネの守護者、アーティファクト“黙示録の竜”が“竜人”として擬態した姿である。とある事情から天空大陸を追われ、囚われの身になっていた時にラムダ=エンシェントを目撃し、彼の従者になる事を選んだ少女である。
「そなた……その姿にはなれん筈では!?」
「ノアから……わたし用に調整してもらった機械天使の素体……貰った。今のわたし……機械天使赫竜従者……スーパー・ドラゴン・エンジェル・メイド……」
「属性が多いのじゃ……」
「けど……これでもう一度、旦那様にお仕えできる……! シリカ=アルテリオン……ラストアーク騎士団の一人として……ラムダ様の居場所を護る“盾”として……戦う」
「まぁ善い……期待しておるぞ、シリカよ」
シリカ=アルテリオンは天空大陸での“第十三使徒”との死闘の末、“竜人”としての擬態を失い、本来の『兵器』としての在り方に戻ってしまった。
しかし、そんな彼女をノアは秘密裏に調整し続け、機械天使の素体に換装するという形でシリカの変身を擬似的に再現する事に成功していたのだ。
「まずは……あの戦艦を沈黙させる。魔力集束……」
「まずい……アマテラス、距離を取るんだ!!」
「“竜の咆哮”……発射」
《――――うおっ!? これは……艦底に被弾! 対地砲の一部が損傷……急いでダメージチェックを!!》
「この……スペルビア様の艦をよくも……!」
復活したシリカは口部に魔力を集束させた“超魔口砲”を発射、電磁障壁の“孔”を通じて旗艦アマテラスの艦底、対地砲へと攻撃を叩き込んだ。
シリカの砲撃を受けて旗艦アマテラスの艦底は爆発で対地砲の一部を損傷、搭乗員たちは突然のダメージへの対応に追われ始めていた。
「ええい、その程度の攻撃で狼狽えるな! たかが“竜人”の砲撃で沈む旗艦アマテラスじゃないんだぞ!! 分かっているのか!?」
《イ、イエス、マイ・ロード……エージェント・ブレイヴ……。しかし、我々ではこの戦艦の性能をフルに引き出すのは……》
「言い訳は結構だ! まだ使える対地砲で動かしてラストアークを引き続き攻撃せよ!! いいか、優秀な兵士なら命令に従え! 弱腰な姿勢など僕が許さん!!」
《イ、イエス、マイ・ロード……!!》
しかし、対地砲の一部を潰されただけでは旗艦アマテラスは止まらず、エージェント・ブレイヴの叱責で艦底の残された対地砲が再び稼働し始めていた。
「ぬぅ……シリカの攻撃ではさすがに怖気付かんか……。すぐにでも旗艦アマテラスを無力化するべきじゃが……さて、どうする?」
「やっほー、お困りかな、グラトニス司令?」
「むっ……アルマゲドンか。何の用じゃ?」
「何の用って……ラストアークの方で面白そうな事をしてるから見に来たんだよ。どうせ僚艦はラストアークには干渉できないし、帝都ゲヘナもマスターとノア様が抑えてくれてるしね〜」
そんな折、戦艦ラストアークの甲板上に現れたのは機械天使アルマゲドンだった。両腕に“鋼鉄巨兵”ネオ・ヘカトンケイルの鉄拳を装備したアルマゲドンは、戦艦ラストアークでの戦闘の気配を嗅ぎつけて姿を現していた。
艦隊戦の形勢もラストアーク騎士団側に傾きつつある。アロガンティア帝国艦隊は戦艦ラストアークの電磁障壁を前に無力化され、帝都ゲヘナもラムダ=エンシェントとノア=ラストアークによって護られている。故にアルマゲドンはグラトニスたちの加勢に来ていたのだった。
「そういう事ならば……アルマゲドンとシリカは旗艦アマテラスに接敵、連中の注意をラストアークから逸らさせるのじゃ! その間に儂等でエージェント共を片付ける」
「オッケー、お安い御用さ」
「分かった……わたしの出番……」
「スペルビアはラムダが必ず倒しおる! 儂等は何としてでもエージェント共と旗艦アマテラスを撃破して、ラムダたちを援護するのじゃ! ここが正念場じゃ、掛かるのじゃーーーーッ!!」
グラトニスは空戦能力に長けたアルマゲドンとシリカに旗艦アマテラスの撹乱を指示、二人は命令を受けるやいなや上空の旗艦アマテラスへと飛翔して突撃を開始していった。
「さぁ~て……じゃあ本丸、撃ち落とそうか……」
「旦那様の敵……撃ち落とす……!」
《こ、これは……電磁障壁を突破し、敵影が旗艦アマテラスに張り付いた!? う、撃ち落とせ! この旗艦アマテラスを絶対に沈めさせるな!!》
「馬鹿が、何をしているんだ、ブリッジ!!」
「無駄じゃ……もうアマテラスからの支援は許さんぞ」
アルマゲドンとシリカは電磁障壁の“孔”を通じて旗艦アマテラスへと接近、旗艦アマテラスの搭乗員たちは艦を直接狙った敵を相手に対空砲を撃って迎撃を開始し始めた。
しかし、それは戦力の余力をアルマゲドンたちに割くという事。対地砲の支援砲撃が無くなった事で、エージェントたち突撃部隊は再び孤立を余儀なくされてしまっていた。
「こ、これでは……」
「そうじゃ、これでそなた等を助ける者はおらんくなった。さぁ覚悟せよ……儂等を侮った“罪”、しかとその身に刻んでくれるわ、クハハハハハ!!」
「い、いいや……僕たちにはまだスペルビア様がいる! スペルビア様がきっと僕たちを助けに来てくれる……だから!! 僕たちはまだ負けていない!!」
それでもエージェントたちには『後退』の二文字は無かった。自分たちにはスペルビアが居る、彼がきっと助けに来てくれると盲信し、エージェントたちは再びグラトニスたちと切り結ぶ姿勢を見せていた。
「そうか……どうしても諦めんか。ならば……完膚なきまでに叩きのめして、そなた等を覚めぬ“悪夢”から解放してやろうではないか!!」
そんなエージェントたちの姿にある種の“痛ましさ”を垣間見て、グラトニスは一瞬だけ切ない表情を見せ、そしてエージェントたちへの哀悼を込めた断罪を宣言した。
グラトニスの宣言に合わせ、ミナヅキたちも再度エージェントたちの元へと駆け出し、エージェントたちもグラトニスたちを迎え撃つように敵意を剥き出しにする。
そして、両陣営は再び激突し――――
「勝つのは僕たちだ、ラストアーク騎士団!!」
「勝つのは儂等じゃ、アロガンティア帝国軍!!」
――――決着の瞬間が近付こうとしているのだった。




