第831話:ラストアークの逆襲 −The Last_Ark Strikes Back−
「ラストアークの格納庫に残した筈のウラヌスがどうして帝都ゲヘナに? もしかして……」
――――“天空神機”ユピテルに襲われそうになったアリステラを救出したのは、本来は戦艦ラストアークの格納庫に在る筈のノアの愛機“天空神機”ウラヌスだった。
アリステラの盾になるように着地した“天空神機”ウラヌスは片膝をついて、ノアに腕を差し出している。自らを操る主を迎えるように。
《馬鹿な……帝都ゲヘナは電磁障壁で覆っている筈……。なのにどうやって侵入を……!?》
突如現れた“天空神機”ウラヌスを目の当たりにしたエージェント・スペスは明らかに動揺していた。
帝都ゲヘナは都市そのものを『電磁障壁』で覆って、外部からの侵入を防いでいる。だが、本来は戦艦ラストアークの格納庫に在るはずの“天空神機”ウラヌスが現れた。それは帝都の防衛が突破された事を意味している。
《エ、エージェント・スペス、緊急事態です! 帝都ゲヘナの電磁障壁が消失、同時に国境都市テンタティオ方面より多数の空中戦艦が出現! 虚空を切り裂いていきなり現れました!!》
《なんだと!? まさか……!?》
《空中艦隊を率いている旗艦は……戦艦ラストアーク! ラストアーク騎士団が帝都ゲヘナに迫っています、エージェント・スペス!!》
《だからウラヌスが現れたのか……畜生が!!》
《クハハハハハハーーッ!! 待たせたの、帝都ゲヘナに住む者どもよ! 儂の名はルクスリア=グラトニス、ラストアーク騎士団の総司令じゃ! これより我等は帝都ゲヘナ解放作戦に出る! 目標は……アロガンティア帝国を不正に占拠する偽りの皇帝スペルビアの排除じゃ!!》
そして、エージェント・スペスはアロガンティア帝国軍の司令室からの緊急通信で、いま帝都ゲヘナに起こっている事態を把握した。
“機神”と接続したアリステラの権限によって帝都ゲヘナを覆う『電磁障壁』は解除された。“天空神機”ウラヌスが現れたのは、帝都ゲヘナを覆う鳥籠が消えたからだ。そして、帝都を守る障壁が消えた瞬間、虚数空間に潜んでいた戦艦ラストアーク率いる大艦隊が出現した。
《エージェント・スペス、こちらインペルティ宮殿防衛部隊です! インペルティ宮殿を防衛している一部部隊が離反! 現在我々と交戦中です! 至急増援を送ってください!!》
《なんだと!? どういうこったそれは!?》
《早く増援を、このままでは――》
《“魅了”……さぁ、催眠から目覚めなさい》
《――うっ……わ、私は何を……!?》
《おい、どうした衛兵!? 返事をしやがれ!》
《はぁ~い、エージェントちゃんどうも〜♡ 美しきレディ・キルマリア様よ〜♡ あんたたちが催眠装置で支配していた帝国兵たちはわたしが“魅了”で支配したわ〜♡ うふふ〜》
《テメェ……キルマリア=ルージュか……!!
《洗脳されていたトルーパーたちはキルマリア=ルージュの“魅了”で正気に戻ったよ。今は僕たちと協力してインペルティ宮殿の制圧にあたっている……残念だったね》
さらにエージェント・スペスは緊急事態を告げられる。インペルティ宮殿を防衛していた帝国兵の一部が皇帝スペルビアに反旗を翻し、スペルビア配下の帝国軍と交戦を始めたのだ。
理由は別行動をしていたタスクフォースⅩⅠの吸血鬼レディ・キルマリアの“魅了”である。魅了による洗脳で帝国兵たちはスペルビアに掛けられた『催眠装置』による催眠を無効化されて正気に戻っていたのだ。
《だが……指揮系統の無い烏合の衆じゃ勝てねぇ……》
《聞きなさい、アロガンティア帝国軍の兵士たちよ、そして帝都ゲヘナに住む全ての臣民よ!! 私の名はディクシア=アル=アロガンティア、アロガンティア帝国第一皇女です!!》
《なっ……ディクシア=アル=アロガンティア!?》
《帝都ゲヘナを覆っていた“鳥籠”は消えた。この国を愛する全ての輩よ、武器を取れ! 玉座を奪い取った偽りの皇帝スペルビアを今こそ打倒するのです!!》
《なっ……市民に武装決起を呼び掛けて……!?》
《案ずるな、あなた達には我等が付いている! 私が、第三皇女パーノ=ユゥ=アロガンティアが! 第二皇女……いいえ、玉座に座るべき真の皇帝、アリステラ=エル=アロガンティアが!! 祖国を愛する勇士たちよ、立ち上がりなさい!!》
《馬鹿な……ありえねぇ! こんな展開聞いてねぇ!》
《戦う意志を持つ者は武器を手に戦場へ! 戦えぬ者、愛する者を護りたい者は帝都ゲヘナからの脱出を目指しなさい! 案ずるな、ラストアーク騎士団は味方です! 彼等が伸ばした救いの手を掴みなさい!!》
《やめろ、やめろ、やめろォォォ!!》
そして、アロガンティア帝国軍の一部離反と同時に、彼等を率いる皇族が立ち上がった。第一皇女ディクシア=アル=アロガンティアだ。
彼女は帝都ゲヘナが解放された事を宣言し、帝都で人質にされたいた市民たちに決起を呼び掛けた。戦う意志を持つ者に武器を取らせ、戦う意志を持てぬ者に帝都からの脱出を促して。
《エージェント・スペス、すでに市街地では住民によるクーデターが勃発しています! ご命令を……ご命令を我々にください! スペルビア様の意志を我等に!!》
《…………ッ!!》
《エージェント・スペス、まだ僕たちは負けちゃいない! 僕たちが存在する限り、スペルビア様は不死身だ! 僕たちの手で護るんだ、スペルビア様の“夢”を……今度こそ!!》
《エージェント・ブレイヴ……》
《エージェント・ブレイヴ、フォックス、ハート、クラウン、アウル、すでに旗艦アマテラスで出撃準備を整えている。ラストアーク騎士団との交戦は予測していた事だろう! さぁ、僕たちも戦うんだ!》
《あぁ、その通りだ! テメェ等は旗艦アマテラスと帝国艦隊を率いてラストアーク騎士団を迎え撃て! オレは帝都ゲヘナの帝国軍を指揮して反乱の鎮圧にあたる! 抜かんなよ……》
《イエス、マイ・ロード!!》
すでに帝都ゲヘナの市街地では武装した市民による反乱が勃発している。だが、それで怖じ気付くエージェントたちではなかった。エージェント・ブレイヴたちは旗艦アマテラスに乗り込み、迫りくるラストアーク艦隊に対して反撃を試みようとしていた。
同時にエージェント・スペスは帝都ゲヘナの暴徒たちの鎮圧を試みようとしていた。“天空神機”ユピテルを操り、エージェント・スペスはノアに狙いを定める。
「アリステラさんはこのまま“機神”との接続を続けてください! “機神”の支配権をスペルビアさんから完全に奪い取ってください!!」
「分かった、ノア! 私が必ずや“機神”を……!」
「エージェント・スペスの相手は私がします! この“天空神機”ウラヌスさえあれば……さぁ、一緒に戦場を舞うわよ、ウラヌス!!」
《ノア=ラストアーク……テメェだけは許さねぇ!》
「ジブリール、アリステラさんを補佐しなさい! 私の代わりにアリステラさんを護って! 私は……ラムダさんの“夢”を護ります!」
「命令受諾……いってらっしゃいませ、ノア様」
差し出されて腕を駆け上がって、ノアは“天空神機”ウラヌスの胸部に在る操縦席へと乗り込む。そして、指揮者を得た“天空神機”ウラヌスは力強く立ち上がり、胸部に備え付けられた炉心から蒼い粒子を放出していく。
《あなたの相手は私です……エージェント・スペス!》
《上等だ……その玩具ごと叩き落としてやんよ!!》
“天空神機”ウラヌスは腰に装備していた“フォトン・サーベル”を抜刀しながら勢いよく飛翔し、対する“天空神機”ユピテルは装備していたライフルの銃口からビーム上の剣を出して応戦を開始する。
アリステラの決死の行動によって帝都ゲヘナは解放され、鳥籠に囚われていた戦士たちは立ち上がった。これよりはラストアーク騎士団とアロガンティア帝国軍による一大決戦の幕開け――――『帝都ゲヘナの戦い』の開始である。




