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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十五章:ラムダ=エンシェントの復讐

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第822話:最後のエージェント


「お待ちしていました、審問官殿。皇帝陛下が謁見の間でお待ちです。どうぞ中へ……」


「さてさて……どうなる事やら……」



 ――――インペルティ宮殿、謁見の間の前にて。アーカーシャ教団の“審問官インクイジター”リヒター=ヘキサグラムはアロガンティア帝国第十一代皇帝スペルビアとの謁見に臨もうとしていた。

 謁見の間の前に立っていた衛兵にしばしの待機を命じられ、リヒター=ヘキサグラムは巨大な扉の前で笑みを浮かべながらたたずんでいる。



(予定では……そろそろタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)の皆さんがインペルティ宮殿に潜入した頃でしょうか? 宮殿内には大きな混乱は見受けれない……まだ問題は発覚していなさそうですね……)



 リヒター=ヘキサグラムの役割りはラムダたちタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)による帝都ゲヘナ解放、アロガンティア帝国軍指揮系統の奪取を手助けする事だ。その為に彼は教皇ヴェーダ=シャーンティから与えられた皇帝スペルビアとの謁見を利用していた。

 温和な表情と張り付けた笑みで“仮面”を形成し、本心を悟られないようにし、リヒター=ヘキサグラムは神経を張り詰めて周囲へと意識を集中する。



(騒ぎは起こってはいない……しかし、宮殿内を巡回している帝国兵の数はアリステラさんの予想よりも多い。これは……昨夜ジブリールさんが観測した宮殿での騒ぎに関係していそうですね……)



 インペルティ宮殿内に慌ただしい様相ようそうは見受けれない。しかし、宮殿内の至る所を武装した兵士トルーパーたちが徘徊している。リヒター=ヘキサグラムから見れば、明らかに()()()()()だと言わざるをえない。



「あ~、衛兵さん。少しお尋ねしますがぁ……いささかトルーパーの数が多いようにお見受けしますが……なにかトラブルでも発生したんですかね?」


「お答えする義務はありません」


「まぁ……そうなりますよね。失礼、こぉ〜んな安全な空中都市には似つかわしくない重警備でしたので、少々気になってしまいましてね……」



 警備が厳重な理由は昨夜、宮殿内でノア=ラストアーク、トネリコ=アルカンシェル、タウロスⅠⅤ(フォー)が脱走したからだ。ノアたちにまんまと逃げられた帝国軍は威信を賭けて脱走者を探している。

 だが、その事実をリヒター=ヘキサグラムが知るよしもなく、彼はタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)の潜入が露呈したのではないかと内心不安がっていた。



(ここでバレたら私も巻き添えです。頼みますよ、サジタリウスさん……なんとか穏便に事を運んでください。そうでないと私も身体を張る意味がない……)



 リヒター=ヘキサグラムだけではインペルティ宮殿の全容は掴めない。彼はラムダたちタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)()()()()()()()()()()()()()()()行動するしかできない。

 そんな賭けに乗りつつも本心は決して表に出さず、笑顔を張り付けた“建前”の『仮面』を被ったままリヒター=ヘキサグラムは自分の“出番”をただ静かにまった。



 そして、重厚な扉はゆっくりと開かれ――――


「リヒター=ヘキサグラム様、ご入来!」

「ではでは……参るとしましょうかね……」


 ――――遂に皇帝スペルビアとの対峙の時が来た。



 千人ほどを収容できる巨大な謁見の間。リヒター=ヘキサグラムは足下に敷かれたレッドカーペットを踏みしだきながら、奥に見える玉座へとゆっくりと近付いていく。

 祭服キャソックの袖には短剣ダガーを隠している。リヒター=ヘキサグラムはいつでも戦闘に入れるように準備をしていた。相手は“悪”に染まりきった『ラムダ=エンシェント』、何をしてくるか彼でも予想はできなかったからだ。



「よく来たな……審問官インクイジター



 玉座には誰かが座っている。頭部を黒いヘルメットで隠し、黒いボディースーツで全身に纏った謎の人物だ。

 玉座の手前にはアロガンティア帝国代十代皇帝カルディアの娘である第一皇女ディクシア=アル=アロガンティアの姿が見える。本来、皇帝スペルビアに反攻するべき人物が大人しく皇帝の前に佇んでいる。それに気が付いたリヒターは警戒心を一気に最大まで引き上げた。



「アーカーシャ教団の異端審問官、リヒター=ヘキサグラム、教皇ヴェーダ=シャーンティの名代みょうだいとして参りました。第十一代皇帝スペルビア様に於いてはご機嫌麗しく……」


「貴様の()()()()()()に付き合う気はないぞ、審問官」


「おやおや……これも“社交辞令”ってやつですよ、スペルビアさん。まさか……その程度の礼儀作法を教わっていない訳でもないでしょう……あなたなら?」


「貴様……スペルビア様を侮辱する気か?」


「いえいえまさか……そんなに怒らないでくださいよ、ディクシア皇女殿下。はぁ……では怒られる前に、早々に本題に入るとしましょうかね……」



 リヒター=ヘキサグラムの十八番おはこである軽快なおしゃべりも皇帝には通じない。ただヘルメット越しになってぐぐもった威圧的な声を響かせて、目の前の教団の“いぬ”に本題を話せとせっついていた。



「スペルビア陛下……現在、貴殿、そしてアロガンティア帝国にはアーカーシャ教団への反旗の疑いが掛けられています。理由はもちろん……お分かりですよね? あなたが教団が“禁忌”として定めた大量虐殺兵器を持ち出し、それをバル・リベルタスに向けて使用したからです」


「…………それがどうした?」


「教皇ヴェーダはアロガンティア帝国に対する“粛清”をご検討なされています。そうなれば大勢の無辜むこの民が被害を被る事になりますよぉ?」


「な、なんですって!? 教皇ヴェーダ様が……」


「貴様の発言を許した覚えはないぞ、ディクシア。黙っておとなしくしていろ……さもなくば昨夜の“失態”の責任をここで取ってもらうぞ?」


「イエス……ユア・マジェスティ……」



 リヒター=ヘキサグラムは静かに語りだす。自分が帝都ゲヘナを訪れた理由を。

 アーカーシャ教団の教皇ヴェーダは先の『バル・リベルタスの戦い』でアロガンティア帝国軍が“核兵器”を用いた事に立腹し、帝国に対する“粛清”を検討していた。リヒター=ヘキサグラムは皇帝スペルビアに最後の弁明を聞き届けるのが役割りだ。



「ふん……今さらアーカーシャ教団も、教皇ヴェーダも恐れる必要は無い。なにせ……()()()ではまだ『アートマン』は目覚めてはいないからな」


「アートマン……? 何を言っているのですか……」


「ふっ……そうか、()()()も知らねぇか。まぁ良い……貴様も所詮は女神アーカーシャに使い捨てにされる“駒”に過ぎんという訳か……」


「どうやら……教団について詳しいようですね」



 リヒター=ヘキサグラムは皇帝スペルビアの正体を知っている。昨夜、ジブリールから情報共有をされたからだ。以前、天空大陸で鉢合わせした時とは違う、彼はスペルビアを並行世界から現れた『ラムダ=エンシェント』の“IF(もしも)”の姿だと理解している。

 故に、理解=ヘキサグラムは困惑していた。それは目の前の人物がリヒター自身も知らない『アートマン』なる名をくちにし、アーカーシャ教団の内情に詳しい素振りを見せたからだ。



(おかしい……なにか()()()がある。本当に彼はラムダ=エンシェントの“別側面アルター・エゴ”なのか? いや……もしかして私はそもそも何かを勘違いして……)



 リヒター=ヘキサグラムが今まで接した『ラムダ=エンシェント』は傷付き、何度も挫けこそすれど、今ままで一度も絶望に屈した事は無い。

 だが、リヒターが対峙する皇帝スペルビアは違う。彼は何らかの理由で敗北し、別の世界である此方こちらへと逃げて来た存在だ。そもそも、此方の『ラムダ=エンシェント』とは辿()()()()()()()()のである。



「詮索は済んだか、審問官? どうやら……軽薄な態度とは裏腹に思慮深いようだな? 元が木っ端の“暗殺者”だったからか?」


「――――っ!? なぜその事を……!?」


「生憎と……色々と聞かされていてなぁ。お前が教皇ヴェーダに隠している“秘密”ももちろん知っているぞ。過去に囚われた憐れな復讐者……嘘の“仮面”で本心を隠した道化師クラウンよ……」


「…………っ! 誰ですか、あなた……はッ!?」



 そして、目の前の人物が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()くちにした瞬間、リヒター=ヘキサグラムが感じていた“違和感”は疑問から確信に変わった。

 だが、気が付いた時にはすでに遅かった。リヒター=ヘキサグラムが目の前の人物を皇帝スペルビアの影武者だと看破し、袖に隠していた短剣ダガーを取り出そうとした瞬間だった――――謁見の間に乾いた銃声が一発響いた。



「うっ……この私が……こうもあっさりと……!?」



 撃ったのは第一皇女ディクシアだった。彼女は隠し持っていた拳銃を素早く発砲し、リヒターは不運にも腹部を撃ち抜かれてしまった。

 腹部に鈍い激痛が走り、傷口から血が流れはじめ、リヒターは撃たれた衝撃でその場に倒れ込んでしまう。そして、その様子を見た謎の人物は玉座からゆっくりと立ち上がる。



「最初から……入れ替わって……」


「ああ、その通り……バレたなら、もう隠す必要もねぇな。昨日、ノアの奴が逃げやがったからな……スペルビア様はその捜索にあたってんだ。()()の役目はテメェの相手をしてやる事だ。どうだ、驚いたか?」


「な、何者ですか……?」


「オレの名はエージェント・スペス。スペルビア様の唯一の理解者にして、あの御方を導く“残された希望”さ。そういう訳だ……理解できたか、審問官?」


「くっ……最初から……このつもりで……」


「テメェが動いてんだ、どうせラムダ=エンシェントたちも別口でインペルティ宮殿に忍び込もうとしてんだろ? スペルビア様の対策をくぐり抜けて帝都ゲヘナへと潜入した事は褒めてやるが……それもここまでだ」


「ぐっ……弾丸に“毒”を……身体が動か……」


「ディクシア、この男を牢屋にぶち込んどきな。こいつにゃ“人質”の価値がある。ぶち込んだ後、インペルティ宮殿の警備を強化しろ。どっかから“ネズミ”が入り込んでくるぜ」


「イエス、マイ・ロード……エージェント・スペス」



 エージェント・スペスと名乗る新手の将校はリヒター=ヘキサグラムの作戦、自身を囮にしたタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)による潜入作戦を看破していた。

 故に、リヒター=ヘキサグラムは撃たれてしまったのだった。アロガンティア帝国にはアーカーシャ教団を恐れる理由も無く、リヒターと交渉する意味も最初から無かったのだから。



(まさか……私がヘマをするとは……。申し訳ありません、サジタリウスさん……あとは任せます……)



 薄れゆく意識の中で、リヒター=ヘキサグラムはエージェント・スペスが悠然と去っていく様子を、第一皇女ディクシアが此方へと近付いていく光景をぼんやりと眺めるしかできなかった。

 スペルビアによる陰謀はさらに混迷を極めていく。タスクフォースⅩⅠ(イレヴン)を待ち構えるのは“敗北者”たちの怨念。ラムダ=エンシェントの復讐はここからが正念場へと突入していくのだった。

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