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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十五章:ラムダ=エンシェントの復讐

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第821話:仮初めの救出劇


「やったか……!? ジブリール、反応を!」

「スキャン開始…………対象、完全に沈黙しました」



 ――――俺が放った一撃で心臓を撃ち抜かれ、下水道に巣食っていた怪物は完全に沈黙した。全員を縛り上げていた触手はちからを失って一斉にほどけ、拘束されていたアリステラたちは解放されていく。



「キルマリアちゃん、大丈夫!?」

「ぐぎぎ……全身複雑骨折したわ……」


弊機わたしはノア様の救出を……」


「トネリコ、僕に掴まれ。降りるぞ」

「ありがとう、タウロス……」


「やれやれ、酷い目に遭ったわ……」



 触手から解放されたみんなはドーム状の空間の円周部分に在る足場へと降りていく。キルマリアだけは触手に痛めつけられたのか、ウィルに介助されて寝かされている。

 ジブリールは飛翔して天井に張り付いているノアの救助に向かった。ノアはまだ怪物が倒された事に気が付かず、まだ必死にパイプにしがみついている。よほど必死なのだろうか。



「ノア様、お迎えにあがりましたよ」


「くぅぅ、触手からジブリールの声が聴こえるぅ〜。騙されませんよ私は〜! 私の【付与:磁力エンチャント・マグネット】ならまだ耐えれますぅぅ〜〜!!」


「あの、ノア様……幻聴ではありません。本物です」


「そんな甘い誘惑にこのノアちゃんが引っ掛かるとでも思ってるんですか!? 死んでも此処から離れませんからね〜……あっ、ジブリール?」


「面白いご様子でしたので、バッチリ映像と写真に収めていますよ、ノア様。後で確認しますか?」



 そして、パイプに必死にしがみついていたノアはようやく、そばに近付いてきたジブリールの存在に気が付いたらしい。眼を大きく見開いて、辺りを見回している。

 怪物は倒され、触手たちは汚水へと沈み、周囲にはジブリールをはじめとしたラストアーク騎士団の面々が居る。ここまでくれば、賢いノアなら状況を察せれるだろう。



「ラストアーク騎士団特殊部隊タスクフォースⅩⅠ(イレヴン)六名、ノア様の救出の為に参りました。さぁ、お手を……マスター・ラムダ様が心配されていましたよ」


「タスクフォースⅩⅠ(イレヴン)……ラムダさんが……!」


「まずは皆さんと合流を。そこからは我々の作戦、ノア様が帝都ゲヘナで得た情報を交換したいと考えています。どうかご指示を、ノア=ラストアーク博士」


「あっ、うん……分かったわ」



 差し出された手を取って、ジブリールに抱きかかえられたノアはゆっくりと地面へと降下していく。その様子を、武器の銃口を動かなくなった怪物とトネリコたちに向けつつ、俺は静かに眺めていた。

 随分と疲れているのか、ノアの表情かおには疲労の色が見えている。下水道でのドタバタだけではなく、インペルティ宮殿でも相当な負荷を負っていたのだろう。



「ウィルさん、キルマリアさんの様子は?」

「ちょっと待ってね。キルマリアちゃん、はい腕」


「あ~……ん、かぷっ! ちゅ〜〜……! ぷはぁ……あ~、ウィルみたいなオッサンの血じゃ効率悪いわね〜。やっぱりピチピチの美少女の血じゃないと……」


「せっかく吸わせてあげたのに感想はそれかい?」


「あっ、そんなにムカッとしたような表情かおしないでよ、ウィル。あんたの血でもちゃんと回復できますよ〜、オホホホ……。ちょっとしたら動けるまで回復できるから待ってて〜」


「あいつ……貴重な『光導十二聖座アカシック・ナイツ』の血を……!」


「余計な事は考えるなよ、トネリコ=アルカンシェル、タウロスⅠⅤ(フォー)。ノアを危険な目に合わせた落とし前はつけて貰うからな……!」


「はいはい、ボクたちは抵抗しませんよ」


「私の大切な軍服が……う〜、くさ。へんな粘液のせいで全身ネチョネチョだし……最悪ね。帝都ゲヘナを奪還したら、まずはこの下水道を徹底的に浄化しなければ……」


「それでノア様……あの怪物はなんでしょうか?」


「う〜ん……地下水脈から汲み上げた水の中に怪物の幼体が混じっていて、それが下水道の環境下で肥大化したのかな? う〜……全身ベトベトだし臭いよ〜〜(泣)」



 ノアは怪物の正体を分析しながらも、その場にぐったりとへたり込んでしまっている。もう立っている気力も沸かないのだろう。正直、今すぐにでも俺も彼女の介抱に向かいたい。

 そんな俺の意図を察したのか、ウィルは俺の代わりにトネリコたちの監視を引き受けてくれた。無言で俺に笑みを送り、そのまま顔を少しだけクイッと動かして『ノアちゃんと話をしてきなよ』と伝えるように。



「ノア……迎えに来たよ。遅くなってごめん」

「あっ……ラムダさん……」



 ウィルに促されて、俺はへたり込んでいるノアへと歩いていった。俺の顔を見た途端、ノアは複雑そうな表情をした。きっとスペルビアの素顔を見たからだろう。少し怯えているように見える。



「ノア……俺……」

「ひっ!? いや、来ないで……あっ…………」



 俺が屈んで右手をノアに差し伸ばした瞬間、ノアは俺を拒むように後ろへと後退りした。さっきジブリールには身体を預けていた以上、ノアは明らかに『ラムダ=エンシェント』を拒絶していた。

 そして、その拒絶は本意ではなかったのか、我に返ったノアは俺に対して申し訳なさそうな表情かおをして、俺から視線をそっと逸らしてしまった。彼女の身に何かあったのは容易に想像できてしまう。



「残念だったね、ラムダ=エンシェント。君が迎えにくるまでの間に、ノアはスペルビアによって徹底的に“恐怖”を植え付けられたんだ。身体にスペルビアの“いたみ”を刻まれ、精神にスペルビアに対する“服従”をね……フフフッ」


「トネリコ……それは言わないで……」


「いいや、言うさ。ラムダ=エンシェント、君の大事なノアはスペルビアに穢されたよ? バル・リベルタスで君がノアから目を離した隙にこのざまさ。はははッ、ははははははッ!!」



 嫌がらせとばかりにトネリコが語る。インペルティ宮殿でノアがスペルビアにされた事を。その事実を明るみにされた瞬間、ノアは後ろめたそうにその場に縮こまってしまった。

 俺が護りたいと思っていたノアは、拐われた間にスペルビアによって耐え難いはずかじめを受けたのだろう。そして、そのトラウマから彼女は俺を本能的に拒絶してしまった。スペルビアと同じ顔をしている俺を。



「ノア……すまない、俺の責任だ! 君を護ると誓ったのに……ごめん、ごめんなさい!!」


「ラムダさん……」



 ノアが酷い目に遭ったには俺の責任だ。だけど、もう彼女の身に起こった事は覆すことはできない。俺にできることはただノアに謝る事だけだった。

 その場に膝をついて、額を地面に擦りつけ、俺はノアに誠心誠意を込めて謝罪の言葉を口にした。その様子をノアは、アリステラたちがただ沈痛な眼差しで見つめている。



「イレヴン、あなたの責任では……」


「けど……俺はバル・リベルタスの戦いでノアを置いて出撃してしまった。ラストアークでノアが拐われた事に気が付けなかった……」


「ラムダさん……それは……」


「待ちなさい、ラムダくん。あの戦いで一番安全だったのは間違いなくラストアークよ。あんたの判断は間違っていない。スペルビアがわたしたちの裏をかいてラストアークへと奇襲を仕掛けたのが原因よ! だからあんたが全部の責任を負う必要はないわ!」


「けど、キルマリアさん……」


「なんでも“他責”はたしかに駄目よ。けどね、なんでも“自責”でも駄目よ。正しく事実を観察なさい。さもないと……また同じ事の繰り返しになるわよ。ノア、あんたも何か言いなさい!」


「私もキルマリアに賛成。ノア、何か言うことは?」


「あの、私……その、ラムダさんが悪いなんて……思ってません。けど……ごめんなさい……まだ、怖くて……スペルビアさんのこと。だから……お願い、少しだけ時間をください。ラムダさん、本当にごめんなさい……」



 アリステラとキルマリアはくちを揃えて俺を擁護してくれた。けれど、それはただの“責任の所在”の話で、ノアが刻まれた“恐怖”への処方箋ではなかった。

 ノアは俯いたまま、俺は悪くないと呟いている。だけど、そんなノアの精一杯の擁護すら、今の俺には冷たく突き刺さる“刺”になっていた。今の俺にはノアに触れる資格は無い。ただ彼女を無意味に怯えさせてしまうだけだ。



「ひとまず、ノア様のメンタルケアは置いておくとしましょう。このような場所では、専門的な知識の無い我々ではどうする事もできません。今はタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)の任務を遂行する事に集中を」


「ジブリール……ああ、そうだな」


「最優先事項であるノア様の救助を完了しました。あとは帝都ゲヘナの“電磁障壁タルタロス”を解除しての住民の解放、アリステラ様の“機神”接続によるアロガンティア帝国軍の指揮系統の奪取ですね。ノア様はどうされますか?」


「つ、ついて行きます……私は足手まといじゃない」



 今の俺ではどうにもする事はできない、きっとノアの“心”の問題なのだから。それを判断したジブリールはタスクフォースⅩⅠ(イレヴン)の次の行動目標を淡々とくちにする。うまく話題を変えてくれたようだ。

 最優先事項だったノアの奪還は成功した。あとは帝都ゲヘナの解放とアロガンティア帝国軍の指揮系統の奪取を目指さねばならない。その為には、やはりインペルティ宮殿に向かう必要がある。



「君たちにも手伝ってもらうよ、トネリコちゃんにタウロス。インペルティ宮殿の内部構造、アロガンティア帝国軍の配置も分かっているだろう?」


「はいはい、行くよ。行きますよ……」


「ウィル、そいつらをしっかり見張っときなさい。インペルティ宮殿への案内は私が再び引き受けるわ。へんな所で時間を喰ったわね……まったく」


「ジブリール……ノアを頼む」


「命令を受諾しました、マイマスター。さぁ、ノア様、お手をどうぞ。ここからは弊機わたし機械天使ティタノマキナジブリールが護衛を務めます」


「ありがとう、ジブリール。ごめんなさい、ラムダさん……」



 倒れていたキルマリアとノアは立ち上がり、タスクフォースⅩⅠ(イレヴン)はトネリコとタウロスⅠⅤ(フォー)加えつつ、再度インペルティ宮殿へと向かって歩き出す。

 まもなく俺たちは敵の本拠地へと乗り込む事になる。そこで待っているのだろう、ノアに消えない“傷”刻み付けた仇敵スペルビアが。ラムダ=エンシェントの“闇”を具現化した存在が。

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