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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十五章:ラムダ=エンシェントの復讐

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第805話:インペルティ宮殿の亡霊


(今日もラムダさん、迎えに来てくれなかったな……)



 ――――帝都ゲヘナ、インペルティ宮殿、前皇帝カルディアの私室、時刻は深夜。帝都深部で”輝跡書庫レーカ・カーシャ“を見た後、部屋に戻された私は再びスペルビアさんの暴行を受け、そのまま鳥籠に拘束されて夜を迎える羽目になっていた。

 どんなに待てども待ち人は来ず、完全に対策を打たれた私は今の立場に甘んじ、ただ耐え続けるしかなかった。



(朝が来るのが怖い……)



 身体の自由を奪われ、鳥籠に吊るされる形で私は拘束されている。身体を動かすどころか、排泄の自由すら奪われている。自由を奪われ、恐怖を植え付けられる、明らかな洗脳の手口だ。

 それを理屈として理解していても、私はスペルビアという存在に恐怖を抱いてしまっていた。そして、スペルビアさんと同じ存在であるラムダさんにも。



(ラムダさんはそんな事はしない……けど……)



 私の知っている『ラムダ=エンシェント』はスペルビアさんのような卑劣な行為はしない。そうは分かっていてもどうしてもスペルビアさんと重ねてしまう。

 もしかしたら、ラムダさんもスペルビアさんのような堕落をしてしまうかも知れない。未来が“未確定”である以上、その可能性は否定できない。知識と理屈で動く“人形マキナ”である私は、どうしても『極小の可能性』まで考慮してしまう。



(違う……違う、違う、違う……違うはず……)



 ラムダ=エンシェントが『スペルビア』に変貌しない可能性は否定できない。だから私はスペルビアさんにもラムダさんにも恐怖を抱いてしまっていた。



『僕はもう一度だけチャンスをやろう』



 タウロスⅠⅤ(フォー)は私に“道”を示した。しかし、まだ私は彼のような選択をする“勇気”をまだ持っていない。それがどうしようもなく()()()()()()、ラムダさんを心の底から信じ切れなくなった自分が恨めしかった。



「それはそうと……も、漏れそう///」



 このまま朝が来ないでほしい。スペルビアさんにもラムダさんにも会わず、自分の中でしっかりと答えを出したい。それが今の私の心境だ。

 それはそれとしてどうしてもトイレに行きたい。このままスペルビアさんに解放される朝までは待てない。多分、彼が前皇帝の私室に訪れた時、私が閉じ込められた鳥籠の中はアンモニア臭で満たされてしまっているだろう。そんな恥辱は耐えれない、だから早くトイレに行きたいのです。



 そんな事を考えて、身悶えていたら――――


《ふ~ん……困ってる、おねーちゃん?》


 ――――不意に、少女の声が鳥籠に響いた。



 驚いて辺りを見回しても誰も居ない。周囲に広がっているのは灯りの消えた、あるじすら失った豪華な寝室だけだった。

 けれど声はハッキリと聴こえた。幼い少女のような声だ。草木も眠るような時間に、スペルビアさんが掌握したインペルティ宮殿でそのような人物が自由に動けるとは思えない。



(まさか……幽霊? “人形マキナ”に交代する準備を……)



 声はするのに姿は見えず、これは幽霊ゴーストに間違いないと私は判断した。古代文明では幽霊ゴーストの存在はハッキリと否定されたが、女神システムアーカーシャが創ったの世界にはさも当然の権利のように“非科学的”な存在の幽霊が存在する。

 もし、本当に幽霊ゴーストが出現するのなら、出くわした瞬間に私は即座に失禁するだろう。これは『ノア=ラストアーク』の沽券こけんに関わる問題だ。だから私は主人格である“人形マキナ”に主導権を渡し、幽霊ゴーストの回避(と失禁の責任転嫁)を試みようとした。



 その次の瞬間だった――――


《バァ!! オバケだぞ〜〜!!》


 ――――私の前にソレは現れた。



 私の腹部をすり抜けながら現れたのは、ピンク色のドレスを纏った藍色の長髪と紅い瞳をした()()()()幼い少女。驚かせようとしているのか、少女は舌を可愛く出しながら私にひょうきんな表情かおをしている。



「ん……んぎゃーーーーーーッッ!!?」



 オバケだと宣言した以上、少女は幽霊ゴーストなのだろう。私は即座に絶叫し、少し■■した。鳥籠内にけたたましい悲鳴がとどろく。



《ちょっと……うるさいんですけど?》



 するとどうだろうか、少女は耳を塞ぎ、私に対して怪訝な表情を向けてきたのだ。驚かせてきたのはそっちでしょ、と言いたいところだがそれどころではない。

 今すぐに“人形マキナ”に交代し、私を襲う恐怖と失態から逃げなければ。そう思って行動しようとした矢先、少女がため息をついて呆れ顔をしてきた。



《はぁ……オバケじゃないよ。わたしパーノ、パーノ=ユゥ=アロガンティア。アロガンティア帝国のだいさんこーじょ》


「…………んえ!? 第三皇女……!?」


《そ、アロガンティア帝国のこーじょ。つまり偉いの。敵じゃないよ、おねーちゃん》



 そして、少女は自らの名を語った。パーノ=ユゥ=アロガンティア、アロガンティア帝国前皇帝カルディア=ミド=アロガンティアの娘で、帝国の第三皇女。つまりアリステラさんの妹だ。



「けど……第三皇女パーノはたしか……」



 第三皇女パーノの事は知っている。事前にアリステラさんから皇族についてのデータを得ているからだ。そして、第三皇女パーノの末路も。

 スペルビアさんによる帝都ゲヘナ襲撃時、第三皇女パーノは砲撃に巻き込まれて死亡した筈だ。他ならぬアリステラさんがその光景を目撃したのだから。



「やっぱり幽霊……」


《ちがう、わたしが無くしたのは()()()()だけ。()()()()は“機神”に避難させておいた。パーノえらい!》


「精神を……! つまりは意識体……!」


《そう、それ。だからオバケじゃない。これで信じてくれた、おねーちゃん? わたし味方、助けに来た》



 その疑問にパーノを名乗る少女は語る。曰く、肉体を失う直前に精神を肉体から切り離し、あの“機神”に隔離させたらしい。それなら辻褄があう。

 そして、パーノちゃんは私を『助けに来た』らしい。パーノちゃんが指を鳴らした瞬間、私を拘束していた手錠と首輪がひとりでに外れ、鳥籠の扉が開いていく。



《わたしだけじゃ()()()をやっつけれない。だからおねーちゃん協力して。代わりに逃がしてあげる》


「パ、パーノちゃん……」


《殺されたにーさまのかたき、一緒にうってほしい。ついてきて……スペルビアの“弱点”まで連れて行ってあげる……》



 パーノちゃんが願うのはスペルビアさんの打倒だった。その為に私に協力してほしいらしい。もちろん、私に断る意味は無い。ここに居てもスペルビアさんの恐怖に飲まれるだけだ。

 不安と混乱を抱きつつも、私は先導するパーノちゃんの後を追い、インペルティ宮殿の探索へと臨むのだった。パーノちゃんの知る、スペルビアさんの“弱点”を暴く為に。



「先にトイレ行っても良い///」

《はぁ〜……不安になってきた……》

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