第788話:反撃の空
「天空大陸の大艦隊が帝国艦隊を……」
「グロリアス大公が助けに来てくれたのか……!」
――――窮地に立たされていたラストアーク騎士団を救援したのは、グロリアス=バハムート率いる大艦隊であった。
バル・リベルタス空域を大きく包囲するように陣を敷き、三十隻にも及ぶバハムート艦隊はアロガンティア帝国艦隊に向けて一斉に砲撃を開始。突然の増援に帝国軍の陣形は完全に乱されていた。
《聴こえておるか、ラムダ=エンシェント卿》
「グロリアス大公!」
《貴公の危機だと騎士団の特殊工作員から連絡があってな。こうして軍を率いて駆け付けてきた。他ならぬ、天空大陸を救った貴公の恩義に報いる為に》
(特殊工作員? 誰の事だろう……??)
《バル・リベルタス空域の制空権の奪取は我がバハムート艦隊が受け持つ。貴公はアロガンティア帝国艦隊の旗艦を落とすのだ》
「帝国艦隊の旗艦を……!」
グロリアス大公から俺宛に通信が送られる。どうやら彼はラストアーク騎士団の特殊工作員なる、俺の知らない謎の人物の要請を受けて軍を出撃してくれたらしい。
バハムート軍の艦隊は砲撃を続け、空中戦艦から出撃したワイバーンに跨がる竜騎兵たちがバル・リベルタス空域へとなだれ込んでくる。彼等が制空権の奪取を請け負ってくれるようだ。
「敵の旗艦はどの艦か分かりますか、大公?」
《奴等の旗艦は近くにはおらん。帝国軍は街から少し離れた位置に建つ巨塔、“無限螺旋迷宮”の影に旗艦を隠している》
「なっ……なんだって!?」
《儂等の戦艦では接近を試みても距離を離されるか、撃ち合いになるだけだろう。だが貴公の飛空艇なら連中の旗艦に近付くことが出来る筈だ》
グロリアス大公は俺にアロガンティア帝国艦隊の旗艦を落とすように進言してくれた。曰く、帝国軍は旗艦を“無限螺旋迷宮”の影に隠して戦火に巻き込まれないようにしているらしい。
俺の駆る飛空艇フラヴンアースなら離れている帝国軍の旗艦へと接近できる筈だとグロリアス大公は言う。そうなら俺のするべき事は一つだ。
「分かりました。此処は貴方に任せます、グロリアス大公。俺とアリステラで連中の旗艦を叩きます!」
《此方は請け負った。頼むぞ、ラムダ卿》
「はい! ミカエル、ウリエル、アルマゲドン、俺とステラで帝国軍旗艦を叩きに行く! この空域から離脱できるように援護してくれ!」
《了解。自機たちに任せなさい》
「ステラ、一気に加速して敵艦隊を突っ切るぞ!」
「ええ、臨むところよ。いつでも飛ばしなさい」
アルマゲドンたちに援護を頼みつつ、足下のペダルを強く踏み込んで俺は飛空艇フラヴンアースを一気に加速させる。
目的地は“海洋自由都市”バル・リベルタスから数キロメートル離れた位置に建つ“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフト、その裏に隠れた帝国軍旗艦だ。
《ラムダ=エンシェントの戦闘機が加速した……! エージェント・ブレイヴ、そっちにラムダ=エンシェントが向かったわ! 今すぐに『オペレーション・インビジブル』を実行に移しなさい!!》
「イレヴン、帝国軍が私たちの動きに気が付いたわ!」
《第一大隊は火力を飛空艇フラヴンアースへと集中! ラムダ=エンシェントの旗艦接近を妨害しなさい!!》
飛空艇フラヴンアースが“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトに向けて一直線に加速した事で、旗艦の位置が暴かれたとエージェント・ハートは感付いたのだろう。
彼女は帝国軍に作戦の変更を伝えると、俺たちの進路上に控えている艦隊が飛空艇フラヴンアースに向かって一斉に砲撃をしてくるのだった。
《マスターの邪魔はさせないよ!!》
《ウリエル、アルマゲドン、フラヴンアースを覆うように砲撃してラムダたちを守るわよ! 自機の合図に合わせて最大火力をぶっ放しなさい!!》
《了解! やってやろうじゃねぇかッ!!》
迫りくる砲撃を紙一重で回避しつつ飛空艇フラヴンアースは加速し、背後ではアルマゲドンたちが武装に火力を集中させて砲撃を放つ。
《ラムダ、自機たちが撃ったビームの中を飛行しなさい。そうすれば連中の砲撃をかいくぐれるわ!》
「分かった。ありがとう、ミカエル」
《さっさと帝国軍の旗艦を潰して、連中の指揮系統をめちゃくちゃにしてやりなさい! ラファエルの仇、あんたに任せるわ、ラムダ!》
アルマゲドンたちから放たれた極太のビームが飛空艇フラヴンアースを守るように突き進み、行く手を塞ぐ帝国艦隊に直撃する。
戦艦から放たれた砲撃は全てアルマゲドンたちのビームで弾かれ、飛空艇フラヴンアースはビームの中を高速で突き進む。
《艦隊を突っ切ったか……!》
そして、飛空艇フラヴンアースはそのまま帝国艦隊の脇をすり抜け、同時に俺は飛空艇フラヴンアースをさらに加速させて雷雨降り注ぐ雲の中に突入する。
「帝国軍の旗艦に直接乗り込んで艦橋を制圧する。準備しておけよ、ステラ」
「言われずとも準備しているわ……!」
そして、雲の中を突き抜けて再び雲海の上へと飛び出した俺たちは飛空艇フラヴンアースを“無限螺旋迷宮”ユグドラシル・シャフトの背後まで飛ばし、塔の影に隠れていた帝国軍の旗艦を発見した。
高度五千メートルの上空に浮かんでいるのは、全長約1000メートルの赤い大型艦。他の戦艦よりも一回り大きく、側面にはアロガンティア帝を示すグリフォンの紋章が刻まれている。間違いないだろう。
「電磁障壁を張っていない……!」
「準備が間に合ってないんだわ。チャンスよ!」
帝国軍の旗艦は飛空艇フラヴンアースを発見するなり砲撃を開始、激しい弾幕を以って俺たちを妨害し始めた。
だが、帝国軍の旗艦は搭載している筈の電磁障壁を展開してはいなかった。飛空艇フラヴンアースの奇襲に備える時間がなかったのだろう。突入するなら今が絶好の好機だ。
「一気に突入する!!」
ペダルを踏んで最高速度、音速を超える速度まで飛空艇フラヴンアースを加速させ、砲撃の雨を回避しながら帝国軍の旗艦へと一気に距離を詰めていく。
「荷電粒子砲“トール”……発射ッ!!」
そして、距離があと僅かまで迫った瞬間に飛空艇フラヴンアースの機首から荷電粒子砲を放って旗艦の格納庫と思しき部分を砲撃。
荷電粒子砲を受けた装甲は激しいダメージを負って損傷。分厚い装甲には僅かな切れ目が入っていた。
「光量子圧縮弾“バルドル”……発射!!」
さらに、装甲に付いた傷を目掛けて爆弾を三発撃ち出して攻撃。激しい爆発と共に旗艦の格納庫に、飛空艇フラヴンアースが突入できそうな程の大きな穴をこじ開ける事に成功するのだった。
「行くぞ、ステラ! 敵旗艦に突入する!!」
そして、飛空艇フラヴンアースは砲撃をかいくぐり、装甲の側面に空いた穴に一気に突撃。俺とアリステラは敵旗艦へと直接侵入する事に成功するのだった。




